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2018年5月17日 (木)

フリーテルへの課徴金の算定方法について

倒産したフリーテルが「業界最速」などと不当表示をしていたことに対して、課徴金納付命令が2018年3月23日に出ています
 
その課徴金の算定方法が、同種事案で参考になると思われるので説明しておきます。
 
課徴金導入前、とある研究会で、携帯電話サービスの不当表示について課徴金を課すときに、算定基礎の売上はどれをとるのかなぁと、考えたことがあって、そのときには、「KDDI(株)に対する件(2013年5月21日)」を題材に考えました。
 
この事件は、KDDIが、「au 4G LTE」なる移動体通信サービスを提供するに当たり、あたかも、iPhone 5を使用した場合、2013年3月末日までに全国のほとんどで受信時の最大通信速度が75Mbpsとなるかのように表示していたが、実際には、75Mbpsで利用できるのは人口カバー率14%の地域であった。」という事件だったのですが、では課徴金額の基礎は、 
①不当表示期間中のiPhone 5の全ての通信料収入か、それとも、不当表示期間中に新規契約した加入者からのiPhone 5の通信料収入か、
 
②iPhone 5(端末)の売上も含まれるのか(そもそも端末は「商品」であり、通信サービス(役務)とは別物か) 
という2つの論点がありうるのかなぁ、という発表をしました。
 
そのときの私見は、①については全通信料収入だろう、②については端末は含まれないのだろう、というものでした。
 
条文をよむとそうとしかよめないと考えたからです。
 
でも実質的に考えると、①については、そうすると不当表示前に契約している人への売上にまで課徴金がかかることになり、売上と不当表示との間に因果関係がないのではないか?というのが問題意識でした。
 
理屈の上では、不当表示のために既存の契約者も他社に乗り換えなかった、ということがありえますが、正直、かなり苦しい理屈だと思います。
 
フリーテルの事件も、全通信料収入でした。
 
条文どおりとはいえ、これはけっこうたいへんなことです。
 
たとえば、不当表示前に既存契約者が10万人いて、不当表示中に不当表示をみて1万人が新規に契約した場合、その1万人分に課徴金がかかるのではなく、11万人分にかかる、というわけですから。
 
②の、端末代にはかからない、というのも、不当表示の対象が通信サービスという役務なのだから、条文からいえば通信サービスだけにかかるのだろう、考えました。
 
でも、フリーテル事件をみると、「本件役務」を、
「「FREETEL SIM」と称する移動体通信役務(スマートフォン端末と一体的に供給する場合は、当該スマートフォン端末を含む。」
と定義しているので、端末も含んでますね。
 
研究会での問題意識はまさに、KDDIでiPhone 5を買った人は表示通りの性能が出ると思ったから買ったわけで、もしそうでなかったらドコモやソフトバンクと契約した可能性があるわけで、それなのに端末には課徴金をかけなくていいのか?ということでした。
 
(KDDI事件の当時はSIMフリーのiPhoneは、まだありませんでした。)
 
なので、フリーテル事件では、この論点については、実質的に、端末と通信役務を一体ととらえる運用がなされたことがわかります。
 
あらためて考えてみると、条文上もそのように解することに大きな問題はないように思われますので、この処理が妥当なのかな、と思います。
 
今後は、どこまでが一体的な商品役務なのか、争いがありうるケースも出てくるかもしれません。
 
たとえば、スキューバダイビングスクールで授業料の二重価格表示があった場合に、一緒に売ったダイビングセット(ほかで買うことも可能)も対象になるのか?とかですね。
 
SIMフリーでは端末は自分で調達できるのにフリーテル事件では一体に評価されているので、ダイビングセットも課徴金の対象になる、という意見もあるかもしれません。
 
でも授業料の二重価格表示はダイビングセットの性能とは何の関係もないのだと考えれば、ダイビングセットには課徴金はかからないのでしょう。
 
それに対して携帯電話の場合には、通信速度はサービス(通信網)の性能でもあり、かつ、端末の性能でもある、といえるかもしれません。
 
でもSIMフリーなんだから端末は関係ないじゃないか、と考えれば、ダイビングセットと同じで、端末には課徴金はかけるべきではなかった、というのも一理あるような気もします。
 
なかなか難しいですね
 
第一印象では、消費者庁の処理が正しいように感じていますが、もうちょっと考えてみたいです。
 
あと、フリーテルの事件では、課徴金対象行為の期間が2016年11月30日から12月22日までの約1か月間で、誤認解消措置をとったのが2017年5月31日です。
 
そのため課徴金対象期間は約6か月間になっています。
 
この事件で措置命令が出たのが2017年4月21日ですから、措置命令が出たのに誤認解消措置まで約1か月かかっていることになります。
 
もし不当表示をやめた(2016年12月22日)のが、消費者庁の調査を受けたためだったとすると、調査を受けてから誤認解消措置まで5カ月もかかっていることになります。
 
そういうわけで、本件では約6か月の課徴金対象期間で約9000万円の課徴金がかかっているので、もし不当表示をやめてすぐ誤認解消措置をやっていれば、9000÷6=1500万円くらいですんだことになります。
 
というわけで、こういう継続的取引の事件で不当表示をしたときには、さっさと誤認解消措置をしないとどんどん課徴金が積みあがっていく、という見本のような事件です。
 
でも考えてみると、継続的取引の場合には、誤認解消措置をとったらそのあとの売上に課徴金がかからないというのも、なんだか釈然としませんね。
 
不当表示につられて契約した人がそのまま契約し続けることもけっこうあるように思われるからです。
 
理屈としては、不当表示でだまされたと思った人は他社に乗り換えるからそれでいいんだ、ということでしょうか。
 
でもそうすると、今問題になっている、2年縛りとかがあると、そう簡単に乗り換えられない、という問題もありそうです。
 
というように、細かく考えていくと、課徴金の算定はこれでいいのか?という疑問がわいてくるのですが、非裁量型課徴金というのは(独禁法でもそうですが)単純に計算できないと制度として回っていかないところがあるので、やむをえないのでしょう。
 
 

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