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2018年5月11日 (金)

不当な給付内容の変更に関する講習テキスト違反行為事例の疑問

下請法4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)では、
「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
下請事業者の給付の内容を変更させ、
 
又は
 
下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)
 
給付をやり直させること」
が禁止されています。
 
この前段の給付内容の変更について、平成29年11月版の下請法講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,
 
給付の受領前に,
 
3条書面に記載されている委託内容を変更し,
 
当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」
と説明されています。
 
そしてその趣旨としてさらに続けて、
「こうした給付内容の変更ややり直しによって,
 
下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり
 
あるいは下請事業者にとって当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に,
 
親事業者がその費用を負担しないことは,下請事業者の利益を不当に害することとなるものである。」
と説明されています。
 
ですがその違反事例としてp79にあげられている、
「親事業者S社は,貨物の運送を下請事業者に委託しているところ,
 
下請事業者が指定された時刻にS社の物流センターに到着したものの,
 
S社が貨物の積込み準備を終えていなかったために下請事業者が長時間の待機を余儀なくされたにもかかわらず,
 
その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」
というのは、わたしはおかしいと思います。
 
というのは、給付内容の変更というのは、前記引用のとおり、
「それまでに行った作業が無駄になった」
とか、
「追加的な作業が必要となった」
場合に成立すべきものだからです。
 
でも、「長時間の待機」をさせた、というのは、
「作業が無駄になった」
わけでも
「追加的な作業が必要になった」
わけでもありません。
 
たんに、段取りが悪くて待たせていただけです。
 
待たせたことを「追加的な作業」というのは、いくらなんでも広げすぎでしょう。
 
テキストのほかの事例は、すべて発注の取消しか、追加作業をさせたものばかりです。
 
追加作業の事例をならべると、
②「当初の発注から設計・仕様を変更した」
 
③「金型について・・・無償でやりなおしを求めた」
 
④a「追加作業を行わせ・・・た」
 
④c「やり直しをさせ・・・た」
 
④d「仕様を変更した」(以上p77)
 
⑤「やり直しを求めた」
 
⑥a「途中で仕様を変更し・・・た」
 
⑥b「修正を行わせ・・・た」
 
⑦a「委託内容が変更されて追加の作業が発生した」
 
⑦b「撮り直しをさせた」
 
⑦c「動画の品質を上げるための作業を行わせ・・・た」
 
⑦d「発注内容の変更を行った」
 
⑧「作業のやり直しをさせた」
 
⑨a「作業のやり直しをさせた」
 
⑩a「発注内容を変更した」
といった具合です。
 
このように、いずれの場合も何らかの意味での追加作業があるのです。
 
もっと端的に別の切り口でいうと、これらの例では、いずれも成果物が変更されています。
 
講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている委託内容を変更し,当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」 
とされています。
 
これに忠実に、以上の例ではいずれも、3条書面に記載されていたであろう成果物とちがうもの(超えるもの)の納品が命じられているわけです。
 
これは条文上、「給付内容の変更」と書いてあるので、当然のことです。
 
(実はそうすると、発注の取消しは追加作業があったわけではないので、果たして「給付内容の変更」といえるのか疑問がわいてくるのですが、これは長年の運用でそうなっているので、ひとまず措きます。)
 
それに対して、前記引用した「長時間の待機」というのは、まったく異質です。
 
つまり、「長時間の待機」というのは、下請取引で独立の取引対象となるような「追加作業」では、断じてありえません。
 
別の言い方をすれば、待たせただけで、発注内容は何ら変更していないわけです。
 
もちろん、
「3条書面に記載されている委託内容を変更」
ということも、あるはずがありません。
 
というわけで、長時間待たせたことで損害賠償義務が発生することはあるかもしれませんが、下請法違反というのはおかしいと思います。
 
もし「長時間の待機」なんていう、ただ待っているだけのことが、追加の作業だ、というなら、
 
「下請事業者に『損害を負うという作業(?)』を行わせた」
 
といってもいいはずで、そうすると、追加作業だろうがなんだろうが、ぜんぶ下請法違反になってしまいかねません。
 
そうすると、契約上の損害賠償の話がすべて下請法の話になってしまいます。
 
あるいは、納期に受領せず後日の再納入を求めるのは受領拒否と整理されるのが普通ですが、これを、もう1回納入させるという追加作業を行わせたといえば、不当な給付内容の変更にもなってしまいます。
 
(まあ受領拒否は当然違法型の4条1項なので、2項の不当に不利益を負わせる型である不当な給付内容の変更と構成する必要はないのでしょうけれど。ともあれ、2項4号は気を付けないと際限なく広がる可能性があるわけです。)
 
実は前記引用例は平成29年版に追加されたものです。
 
つまり、平成29年版で大きく運用を変えてきた、ということです。
 
(というのはたぶん公取委を買いかぶりすぎで、きっと、あんまり深く考えずに実際にあった指導事例を付け加えただけというのが実態で、意図的な運用変更ではない可能性は大いにありますが。)
 
こういうことが何の事前警告も議論もなしに行われるところが、下請法のおそろしいところです。
 
(ほかにも、少し前から代金減額に別途支払わせるものまで含まれるという大きな運用変更がなされていて、これも大問題なのですが、長くなるのでまた後日論じます。)
 
下請法は勧告という、法的には行政指導でしかない軽い処分であるうえに当事者に争う道がない(たんなる指導なので)、というのが根本的な問題なのですが、そんな中で、こんな大事な運用変更がこっそりなされるというのは、本当にとんでもないことだと思います。
 
ほかにも、ほんとうにひどい運用だなあという事例を見聞きすることはありますが、見聞きするだけでそれだけあるわけですから、きっと誰も知らないところで、従来の運用を外れた運用がなされているのではないかと想像します。
 
(下請法は担当官によってけっこういうことが違っていたりしますし。)
 
というわけで、公取委や中企庁の指導に納得いかないという人は、きちんと専門家に相談した方がいいと思います。
 
そうしないと、やりたい放題にされてしまうでしょう。
 
恣意的な行政の運用に目を光らせるのは、われわれ在野法曹の重要な使命だと考えています。

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