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2018年5月

2018年5月28日 (月)

【お知らせ】ジュリスト事例速報に寄稿しました

ジュリストの6月号(1520号)の独禁法事例速報で、
「国際的事業提携がカルテルに発展した域外適用の一事例」
という題名で解説を書かせていただきました。

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ハードディスクドライブ用サスペンションのカルテルに関する2018年2月9日排除措置命令の解説です。
 
最初に有斐閣さんから依頼を受けたときは、なんかカルテルの事件なんて今さら書くような論点ってあるのかなぁと思ったのですが(失礼!)、命令書をじっくり読んでみるとなかなか味のある事件で、勉強になりました。
 
解説でも触れましたが、域外適用については、ブラウン管事件最高裁判決(平成29年12月12日)が
「価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、
 
当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、
 
価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、
 
当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができ」
日本の独禁法を適用できるとの基準を示しましたが、これをそのとおりにあてはめると(本件での結論は当然だと思いますが)、じつにえらいことになるのではないか、という思いがこの排除措置命令を読んでさらに強くなりました。
 
だいたい、最高裁のいう、「市場に我が国が含まれる」って、どういう意味なのか、よくわかりません。
 
たしかウィトゲンシュタインか誰かが、
時間についての哲学者の混乱は、時間の長さの測定を棒の長さの測定と類比的に考えることから生じる
というようなことを言っていたと思いますが、最高裁の判例も、なんだか「市場」というものを場所的な概念ととらえているような、「時間」の概念の混乱を生じさせるのと同じような(もっといえば、それ以上に無用な)混乱を生じさせそうで、理屈を突き詰めないと納得できないわたしなどは、それだけで拒絶反応を示してしまいます。
 
(最高裁は、あえて意図的に、どうにでも柔軟に解釈できる基準を示した、ということなのでしょうけれど。)
 
域外適用についてはいろんな人がいろんなことを言っていますが、私個人としては、国際法の一般論に競争法が引っ張られるのはあまりよくなくて、競争法独自の考え方があるべきだと考えています。
 
以前、『英米法判例百選』を執筆したときにいろいろ調べたのですが、国際法で域外適用を考える場合って、たとえば、
アメリカとメキシコの国境で、アメリカ側からメキシコ側にいる人を射殺した場合、アメリカ法適用できるか
というような例を用いながら議論するんですね。
 
そして通常は、結果はメキシコで発生しているけれど、行為はアメリカで発生しているので、アメリカ法を適用できる、というわけです。
 
でもそんな理論を競争法にそのまま持ち込むのは、わたしはまちがいだと思います。
 
いくら著名な国際法学者でも、競争法のことまで考えて議論しているわけではないでしょうから、競争法では競争法の専門家がきちんと発信しないといけないと思います。
 
(余談ですが、同じく『英米法判例百選』を書いたときに思ったのですが、アメリカが議論の前提としている域外適用って、カナダとかメキシコなんですね。州の間での「州外適用」と、国家間の「域外適用」を同じだと言い切る裁判例もあったり、感覚の違いに驚かされます。)
 
ブラウン管事件の高裁判決あたりまでは、
「競争法の常識は、法律の非常識、なのかなぁ」
と、なんとなく他人事のように考えていましたが、最高裁判決のよくわからない規範や、それをそのまま採用したかのようなサスペンションカルテルをみると、そんなのんきなことは言ってられない、と認識を改めています。
 
と、域外適用についてもいろいろと論ずべきところはあるのですが、サスペンションカルテルの排除措置命令では、事業提携からカルテルにいたるまでの経緯というのが結構詳しめに認定されていて、おもしろかったです。
 
厳密に言えばそういう背景事情は、命令の結論には関係しない「余事記載」なのでしょうけれど、あまり骨と皮だけの命令ではわけがわからないので、公取委にはぜひ、こういう「余事記載」を積極的にするように期待したいです。
 
というわけで、ご興味がある方は、ジュリスト事例速報をご一読いただけるとうれしいです。

2018年5月17日 (木)

フリーテルへの課徴金の算定方法について

倒産したフリーテルが「業界最速」などと不当表示をしていたことに対して、課徴金納付命令が2018年3月23日に出ています
 
その課徴金の算定方法が、同種事案で参考になると思われるので説明しておきます。
 
課徴金導入前、とある研究会で、携帯電話サービスの不当表示について課徴金を課すときに、算定基礎の売上はどれをとるのかなぁと、考えたことがあって、そのときには、「KDDI(株)に対する件(2013年5月21日)」を題材に考えました。
 
この事件は、KDDIが、「au 4G LTE」なる移動体通信サービスを提供するに当たり、あたかも、iPhone 5を使用した場合、2013年3月末日までに全国のほとんどで受信時の最大通信速度が75Mbpsとなるかのように表示していたが、実際には、75Mbpsで利用できるのは人口カバー率14%の地域であった。」という事件だったのですが、では課徴金額の基礎は、 
①不当表示期間中のiPhone 5の全ての通信料収入か、それとも、不当表示期間中に新規契約した加入者からのiPhone 5の通信料収入か、
 
②iPhone 5(端末)の売上も含まれるのか(そもそも端末は「商品」であり、通信サービス(役務)とは別物か) 
という2つの論点がありうるのかなぁ、という発表をしました。
 
そのときの私見は、①については全通信料収入だろう、②については端末は含まれないのだろう、というものでした。
 
条文をよむとそうとしかよめないと考えたからです。
 
でも実質的に考えると、①については、そうすると不当表示前に契約している人への売上にまで課徴金がかかることになり、売上と不当表示との間に因果関係がないのではないか?というのが問題意識でした。
 
理屈の上では、不当表示のために既存の契約者も他社に乗り換えなかった、ということがありえますが、正直、かなり苦しい理屈だと思います。
 
フリーテルの事件も、全通信料収入でした。
 
条文どおりとはいえ、これはけっこうたいへんなことです。
 
たとえば、不当表示前に既存契約者が10万人いて、不当表示中に不当表示をみて1万人が新規に契約した場合、その1万人分に課徴金がかかるのではなく、11万人分にかかる、というわけですから。
 
②の、端末代にはかからない、というのも、不当表示の対象が通信サービスという役務なのだから、条文からいえば通信サービスだけにかかるのだろう、考えました。
 
でも、フリーテル事件をみると、「本件役務」を、
「「FREETEL SIM」と称する移動体通信役務(スマートフォン端末と一体的に供給する場合は、当該スマートフォン端末を含む。」
と定義しているので、端末も含んでますね。
 
研究会での問題意識はまさに、KDDIでiPhone 5を買った人は表示通りの性能が出ると思ったから買ったわけで、もしそうでなかったらドコモやソフトバンクと契約した可能性があるわけで、それなのに端末には課徴金をかけなくていいのか?ということでした。
 
(KDDI事件の当時はSIMフリーのiPhoneは、まだありませんでした。)
 
なので、フリーテル事件では、この論点については、実質的に、端末と通信役務を一体ととらえる運用がなされたことがわかります。
 
あらためて考えてみると、条文上もそのように解することに大きな問題はないように思われますので、この処理が妥当なのかな、と思います。
 
今後は、どこまでが一体的な商品役務なのか、争いがありうるケースも出てくるかもしれません。
 
たとえば、スキューバダイビングスクールで授業料の二重価格表示があった場合に、一緒に売ったダイビングセット(ほかで買うことも可能)も対象になるのか?とかですね。
 
SIMフリーでは端末は自分で調達できるのにフリーテル事件では一体に評価されているので、ダイビングセットも課徴金の対象になる、という意見もあるかもしれません。
 
でも授業料の二重価格表示はダイビングセットの性能とは何の関係もないのだと考えれば、ダイビングセットには課徴金はかからないのでしょう。
 
それに対して携帯電話の場合には、通信速度はサービス(通信網)の性能でもあり、かつ、端末の性能でもある、といえるかもしれません。
 
でもSIMフリーなんだから端末は関係ないじゃないか、と考えれば、ダイビングセットと同じで、端末には課徴金はかけるべきではなかった、というのも一理あるような気もします。
 
なかなか難しいですねcoldsweats01
 
第一印象では、消費者庁の処理が正しいように感じていますが、もうちょっと考えてみたいです。
 
あと、フリーテルの事件では、課徴金対象行為の期間が2016年11月30日から12月22日までの約1か月間で、誤認解消措置をとったのが2017年5月31日です。
 
そのため課徴金対象期間は約6か月間になっています。
 
この事件で措置命令が出たのが2017年4月21日ですから、措置命令が出たのに誤認解消措置まで約1か月かかっていることになります。
 
もし不当表示をやめた(2016年12月22日)のが、消費者庁の調査を受けたためだったとすると、調査を受けてから誤認解消措置まで5カ月もかかっていることになります。
 
そういうわけで、本件では約6か月の課徴金対象期間で約9000万円の課徴金がかかっているので、もし不当表示をやめてすぐ誤認解消措置をやっていれば、9000÷6=1500万円くらいですんだことになります。
 
というわけで、こういう継続的取引の事件で不当表示をしたときには、さっさと誤認解消措置をしないとどんどん課徴金が積みあがっていく、という見本のような事件です。
 
でも考えてみると、継続的取引の場合には、誤認解消措置をとったらそのあとの売上に課徴金がかからないというのも、なんだか釈然としませんね。
 
不当表示につられて契約した人がそのまま契約し続けることもけっこうあるように思われるからです。
 
理屈としては、不当表示でだまされたと思った人は他社に乗り換えるからそれでいいんだ、ということでしょうか。
 
でもそうすると、今問題になっている、2年縛りとかがあると、そう簡単に乗り換えられない、という問題もありそうです。
 
というように、細かく考えていくと、課徴金の算定はこれでいいのか?という疑問がわいてくるのですが、非裁量型課徴金というのは(独禁法でもそうですが)単純に計算できないと制度として回っていかないところがあるので、やむをえないのでしょう。
 
 

2018年5月11日 (金)

不当な給付内容の変更に関する講習テキスト違反行為事例の疑問

下請法4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)では、
「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
下請事業者の給付の内容を変更させ、
 
又は
 
下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)
 
給付をやり直させること」
が禁止されています。
 
この前段の給付内容の変更について、平成29年11月版の下請法講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,
 
給付の受領前に,
 
3条書面に記載されている委託内容を変更し,
 
当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」
と説明されています。
 
そしてその趣旨としてさらに続けて、
「こうした給付内容の変更ややり直しによって,
 
下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり
 
あるいは下請事業者にとって当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に,
 
親事業者がその費用を負担しないことは,下請事業者の利益を不当に害することとなるものである。」
と説明されています。
 
ですがその違反事例としてp79にあげられている、
「親事業者S社は,貨物の運送を下請事業者に委託しているところ,
 
下請事業者が指定された時刻にS社の物流センターに到着したものの,
 
S社が貨物の積込み準備を終えていなかったために下請事業者が長時間の待機を余儀なくされたにもかかわらず,
 
その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」
というのは、わたしはおかしいと思います。
 
というのは、給付内容の変更というのは、前記引用のとおり、
「それまでに行った作業が無駄になった」
とか、
「追加的な作業が必要となった」
場合に成立すべきものだからです。
 
でも、「長時間の待機」をさせた、というのは、
「作業が無駄になった」
わけでも
「追加的な作業が必要になった」
わけでもありません。
 
たんに、段取りが悪くて待たせていただけです。
 
待たせたことを「追加的な作業」というのは、いくらなんでも広げすぎでしょう。
 
テキストのほかの事例は、すべて発注の取消しか、追加作業をさせたものばかりです。
 
追加作業の事例をならべると、
②「当初の発注から設計・仕様を変更した」
 
③「金型について・・・無償でやりなおしを求めた」
 
④a「追加作業を行わせ・・・た」
 
④c「やり直しをさせ・・・た」
 
④d「仕様を変更した」(以上p77)
 
⑤「やり直しを求めた」
 
⑥a「途中で仕様を変更し・・・た」
 
⑥b「修正を行わせ・・・た」
 
⑦a「委託内容が変更されて追加の作業が発生した」
 
⑦b「撮り直しをさせた」
 
⑦c「動画の品質を上げるための作業を行わせ・・・た」
 
⑦d「発注内容の変更を行った」
 
⑧「作業のやり直しをさせた」
 
⑨a「作業のやり直しをさせた」
 
⑩a「発注内容を変更した」
といった具合です。
 
このように、いずれの場合も何らかの意味での追加作業があるのです。
 
もっと端的に別の切り口でいうと、これらの例では、いずれも成果物が変更されています。
 
講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている委託内容を変更し,当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」 
とされています。
 
これに忠実に、以上の例ではいずれも、3条書面に記載されていたであろう成果物とちがうもの(超えるもの)の納品が命じられているわけです。
 
これは条文上、「給付内容の変更」と書いてあるので、当然のことです。
 
(実はそうすると、発注の取消しは追加作業があったわけではないので、果たして「給付内容の変更」といえるのか疑問がわいてくるのですが、これは長年の運用でそうなっているので、ひとまず措きます。)
 
それに対して、前記引用した「長時間の待機」というのは、まったく異質です。
 
つまり、「長時間の待機」というのは、下請取引で独立の取引対象となるような「追加作業」では、断じてありえません。
 
別の言い方をすれば、待たせただけで、発注内容は何ら変更していないわけです。
 
もちろん、
「3条書面に記載されている委託内容を変更」
ということも、あるはずがありません。
 
というわけで、長時間待たせたことで損害賠償義務が発生することはあるかもしれませんが、下請法違反というのはおかしいと思います。
 
もし「長時間の待機」なんていう、ただ待っているだけのことが、追加の作業だ、というなら、
 
「下請事業者に『損害を負うという作業(?)』を行わせた」
 
といってもいいはずで、そうすると、追加作業だろうがなんだろうが、ぜんぶ下請法違反になってしまいかねません。
 
そうすると、契約上の損害賠償の話がすべて下請法の話になってしまいます。
 
あるいは、納期に受領せず後日の再納入を求めるのは受領拒否と整理されるのが普通ですが、これを、もう1回納入させるという追加作業を行わせたといえば、不当な給付内容の変更にもなってしまいます。
 
(まあ受領拒否は当然違法型の4条1項なので、2項の不当に不利益を負わせる型である不当な給付内容の変更と構成する必要はないのでしょうけれど。ともあれ、2項4号は気を付けないと際限なく広がる可能性があるわけです。)
 
実は前記引用例は平成29年版に追加されたものです。
 
つまり、平成29年版で大きく運用を変えてきた、ということです。
 
(というのはたぶん公取委を買いかぶりすぎで、きっと、あんまり深く考えずに実際にあった指導事例を付け加えただけというのが実態で、意図的な運用変更ではない可能性は大いにありますが。)
 
こういうことが何の事前警告も議論もなしに行われるところが、下請法のおそろしいところです。
 
(ほかにも、少し前から代金減額に別途支払わせるものまで含まれるという大きな運用変更がなされていて、これも大問題なのですが、長くなるのでまた後日論じます。)
 
下請法は勧告という、法的には行政指導でしかない軽い処分であるうえに当事者に争う道がない(たんなる指導なので)、というのが根本的な問題なのですが、そんな中で、こんな大事な運用変更がこっそりなされるというのは、本当にとんでもないことだと思います。
 
ほかにも、ほんとうにひどい運用だなあという事例を見聞きすることはありますが、見聞きするだけでそれだけあるわけですから、きっと誰も知らないところで、従来の運用を外れた運用がなされているのではないかと想像します。
 
(下請法は担当官によってけっこういうことが違っていたりしますし。)
 
というわけで、公取委や中企庁の指導に納得いかないという人は、きちんと専門家に相談した方がいいと思います。
 
そうしないと、やりたい放題にされてしまうでしょう。
 
恣意的な行政の運用に目を光らせるのは、われわれ在野法曹の重要な使命だと考えています。

2018年5月 9日 (水)

値引と割引券の関係

値引と割引券はどのような関係にあるのでしょうか。

(なお、議論を簡単にするために、割引券は取引付随性があるもののみ考慮し(なので、新聞広告でクーポン券を提供するようなものは考慮しない)、一定率を割り引く割引券と一定額を割り引く割引券(金額証ともいいます)とは区別しないことにします。)

背景として、平成8(1996)年4月に定義告示運用基準が改正されています。

(くわしくは、深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」公正取引587号40頁をごらんください。)

つまり、改正前の定義告示運用基準では、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額し、又は受け取った代金を割り戻すこと」(6(3)ア)

は景品類の提供に当たらないとされる一方で、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」(6(4)ウ)

は、、景品類の提供に当たるとされていました。

これはどういうことかというと、

「Aの取引に付随して割引券を『提供する行為』と、

Bの取引において割引券を『使用する行為』

を分離して捉え、

後者については景品表示法上の景品類に当たらないが、

前者についてはAの取引に付随した景品類に当たると捉えていた。」

ということだったんだそうです(深町前掲p42)。

つまり、改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(値引きではない)

割引券の使用→いずれの取引に附随する景品類の提供でもない(取引Bの値引き)

という整理だったわけです。

ただし、これは今も同じですが、総付による割引券の提供については、総付告示で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

については、

「景品類に該当する場合であつても、前項の規定〔総付の金額規制〕を適用しない。」(総付規制の適用除外)

とされていました。

これに対して定義告示運用基準の改正は、前述の、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」

は景品類の提供に当たるとの規定(改定前6(4)ウ)が、削除されました。

また併せて、改定後定義告示運用基準で、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、

取引の相手方に対し、

支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)」(6(3)ア

は、

「原則として、

〔景品類にあたらないとされる定義告示1項柱書ただし書の〕「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」

に当たる。」(6(3)柱書)

とされました。(これは現在もほぼ同じです。)

これはつまり、

「この改正により、複数回の取引を条件として対価を減額する場合でも景品規制の対象とならないと整理された」

ということのようです(p42)。

まとめると、運用基準の改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(ただし総付規制の適用除外

という整理だったのが、改正後は、

割引券の提供→取引Aの値引(景品類の提供ではない)

と変わった、ということです。

なので、改正後は、割引券の提供と使用を分ける必要もなく、値引であると整理されました。

以上を踏まえて、現行の割引券に関する規定を検討します。

割引券の提供については総付告示2項3号(価額の2割の制限が適用されない場合の1つ)で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

と言及されており、これを受けて総付運用基準4項では、

「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について

(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。

(2) 「証票」には、

金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と定められています。

では、世の中で普通にある割引券は、どう考えればいいのでしょうか。そもそも景品類に該当するのでしょうか。

ここでの問題意識は、

割引券というのは要するに、それを持っていると値引きが受けられるということであり、たんなる値引と同じなのではないか、

それが、「券」(証票)が発行されるだけで、純粋な「値引」と違うものと評価されるのはおかしいのではないか、

ということです。

この点について、

大元『景品表示法〔第5版〕』(緑本)

のp209では、総付運用基準4の解説として、

「自己の供給する商品または役務の取引において用いられる割引券その他割引を証する証票については、

それが自己との取引に用いられ、

取引通念上妥当と認められる基準に従っているもの

である場合は、

『正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」となり、

そもそも景品類に該当しない(定義告示運用基準6(3)ア・・・)。」

と、オーソドックスな割引券については、定義上そもそも景品類に該当しない(値引なので)、と整理しています。

わたしも、この整理が正しいと思います。

そして、上記引用の緑本p209でも引用されている定義告示運用基準6(3)アでは、

「原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる」

場合の具体例の1つとして、

「ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)

(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、

「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、

「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という例があげられていますので、緑本も、ここで挙げられている例、たとえば、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」

に当たる(複数回取引を条件とする点を除き)と考えてよい、「コート〇〇%引券」を背広購入者に提供するのは、値引に該当し、そもそも景品類には該当しないと考えているものと思われます。

この点も、正しいと思います。

さらに続けて緑本では、自他共通割引券について、

「他方、自己だけでなく他の事業者との取引においても共通して用いることができる割引券等(自他共通割引券等)については、

景品類に該当し得る場合もあるものと考えられるが、

仮に該当する場合場合であっても

自己との取引について値引と同様の効果がもたらされる可能性があることから、それが正常な商慣習に照らして適当と認められるのであれば、総付景品の規制の適用除外とされている」

つまり、自他共通割引券については定義上は景品類に該当しうるけれど、特別に総付景品規制の適用除外にしているんだ、と説明しています。

まとめると、割引券は、

①自社割引券→「値引」に該当する(「景品類」に該当しない)

②自他共通割引券→

A 「値引」に該当するもの(「景品類」に該当しないもの)

 

 

B 「値引」に該当しないもの(「景品類」に該当するもの)

 

があり、

 

A→「景品類」には該当しない(定義告示運用基準6(3))

 

B→総付運用基準4の条件(=自他同額の値引き)をみたせば総付規制が適用されない(総付運用基準4)、

というように整理できます。

とすると、総付告示2項3号の「割引券」には、Aの割引券(「値引」に該当するもの)は、論理的に含まれない(あるいは空振り)ということになります。

具体的には、

①自社割引券→値引(景品規制対象外。総付告示2項3号は空振り)
 
②自他共通割引券
(ア)自他同額のもの→景品類だが総付金額規制適用除外
 
(イ)自他同額でないもの→景品類
③他社割引券→景品類
ということになります。
 
このように、かなりの部分で空振り(①)になるにもかかわらず総付告示の
「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」
については総付金額規制を適用しないという総付告示2項の規定が残された理由については、前記深町p42で、
「この規定〔総付告示2項3号〕を置いておく意味は、
 
指定告示上『正常な商慣習に照らして値引』に該当するとは認められないが、製造な商慣習に照らして提供を認めても価格と品質による競争を阻害しないと認められるもの
 
(自他共通割引券(デパート共通〇〇券のようなもの)
 
 
商品とも引き換えられる可能性のある金額証等)
 
について、総付告示の当該規定〔2項3号〕により提供を認める必要があったためと考えられる。」
と解説されています。
 
つまり、シンプルな割引券は総付告示2項3号を待つまでもなく「値引」なので景品類には該当せず(もちろん、総付規制も適用されない)、総付告示2項3号が必要になるのは自他共通割引券や商品とも引き換えられる可能性のある(つまり、一部減額ではなく)金額証などの場合だ、ということです。

2018年5月 7日 (月)

緑本の資料脱落

いつものように
大元編『景品表示法〔第5版〕』(緑本)
で調べ物をしていて気づいたのですが、なぜか巻末資料に、総付告示(p432)に続けて載っているはずの総付告示運用基準(「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について 」)が載ってませんね。
 
第4版までは載っていたのに、編集のときに漏れてしまったんでしょうか。。。
 
すごく探してしまいましたbearing
 
ちなみに、第5版にも総付告示と懸賞告示と懸賞運用基準は載っています。

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