ABA Spring Meeting 2018
今年ひさしぶりにAmerican Bar AssociationのAntitrust Spring MeetingでワシントンDCに来ており、本日全日程が終了しました。
やはりアメリカに来るといろんな人に会えて楽しいですね。
ランチのときに、FTCの若い女性の職員の方と隣になって話をきいたら、1-800Contactの事件を担当したと聞いて、大いに盛り上がりました。
この事件は、1-800Contactというコンタクトレンズのネット販売業者が競合他社と合意して、検索連動型広告のインターネット検索キーワードの入札で談合した、という事件です。
当事者の反論としては、商号など一定のキーワードを守ることはフリーライドや消費者の混乱を防ぐために必要だ、ということだったのですが、FTCには認められませんでした。
「FTCは、典型的なカルテルばかり扱うDOJよりもinnovativeな事件が多いよね。」というと(本音です)、満足されていました。
それと、この事件を見てから疑問だったのですが、
「日本でAmazonとかのキーワードでGoogleで検索するとほかの会社の広告はでないんだけど、これってAmazonがカルテルしてたり、すごい高い値段でキーワードを買い取ってるのかな?」
という質問すると、
「関連性の低いウェブサイトは表示されないプログラムになっているのよ」
と教えていただきました。なるほど。
そのほかには、今話題のフェイスブックのCEOのザッカーバーグの代理人をしている事務所の話が聞けたり(国会での証言はうまくいったと満足そうでした)、マリンホース事件で個人を代理していた弁護士さんに会えておもしろかったです。
詳しい内容はもちろんここでは控えますが、カルテルなんかするもんじゃないなぁと改めて思いました。
それから、一部では話題なのですが、ビタミンカルテルで中国企業が中国政府に命じられて価格協定をしていた場合に、米国反トラスト法が適用されるのかという争点で近々最高裁で(確か)弁論が開かれるのですが、その中国企業の弁護士さん(アメリカ人)のお話も聞けておもしろかったです(とくに受任の経緯とか、予想される争点とか)。
この事件は米国が国際礼状(comity)をどれくらい重視するのか注目されている事件です。今後も注目していきたいとおもいます。
あとアメリカ人との雑談の話題としてはエンジェルスの大谷選手の話題が「鉄板」でしたね。
アメリカでも大きな話題みたいです。
さて最終日午前はまず、FTCの競争局、消費者保護局、経済局の局長のセッションに出てきました。
とても興味深かったのは、最近は経済局が消費者保護問題を扱うことが増えているということでした。
消費者保護法なんて合理的で客観的な経済学と最も縁遠い法律だと思っていたのですが、そうでもない時代なんですね。
それをはじめとして、FTCでは競争法と消費者保護法の一体的運用がなされていることに強い感銘を受けました。
こういうFTCや、欧州委員会がデータ保護やプライバシーの問題を扱っているのをみるにつけ、日本の公取も消費者庁と一緒になればいいのにと、改めて感じました。
以前は公取が景表法を取り戻すという意味で消費者庁を吸収合併できればいいなと考えていましたが、最近の消費者庁の活躍ぶりや職員数の増加に照らすと、逆に消費者庁が公取を吸収して、オーストラリアの競争消費者委員会(ACCC)のようになる手もあるかもしれません。
さて午前最後はSpring MeetingのハイライトのEnforcers' Roundtableに出てきました。
予想どおりといいますか、欧州委員会のベステアーさんが光ってましたね。
デジタルマーケットで消費者が力を取り戻すこと(power balance)の重要性を訴えており、強い意志を感じました。
インターネットを通じて取引が行われる時代になると、消費者問題も競争法も、インターネットという共通のインフラを通じて考えざるを得ない、ということなのだと理解しました。
ここでも、競争法と消費者保護法の一体的運用の重要性を感じました。
データ保護が欧州であれだけ重視されているのも、そういう背景がきっとあるのでしょうね。
ベステアーさんについては、友人の英国の競争法弁護士は批判していましたが、カリスマ性はあるなぁと感じました。
新聞によると、ベステアーさんはチームにシナモンロール(さすがヨーロッパ、おしゃれですね)を焼いてあげたりするそうです。
きっと部下の心をつかむのもお上手なのでしょう。
そのほかも勉強になることがたくさんあったのであとでゆっくり復習したいと思います。
なおDOJのデルラヒムさんによると、たしかにカルテルの摘発件数は減っているけれどリニエンシーの申請件数は減っていないということなので、そのうち件数は上向くのではないかと思われます。
ほかのセッションでは、Chairs Showcaseで、最近退官したPosner判事の業績を振り返っていたのですが、一人であれだけの業績を残すって(しかも判決を書きながら)すごいなと思います。
でもそのセッションでも触れられていて要注意なのが、ポズナー判事が70年代の若いころに書いたものは2000年ころに書いたもので説が変わっていたりする、ということです。
知り合いの弁護士でポズナー判事が担当した事件を担当した人がいて、地裁ではビジネスを理解しない判事にとんでもない判決を出されて負けたけれど、控訴審のポズナー判事はビジネスをとてもよく理解していてひっくり返してもらった、と言っていました。
頭のよい人はビジネスの飲み込みも早いのでしょうか。
それと、競争法をやっている者の立場からいうと、競争法を学ぶとビジネスの実態も(少なくともずぶずぶの弁護士よりは)よく理解できる、ということもあるかもしれません。
私も通ったNYUのフォックス教授がパネリストの1人でしたが、フォックス教授によると反トラスト法はポズナー判事の業績のほんの一部に過ぎないらしいです。
きっと、競争法の狭い世界にとどまらないところも、広い視野をもつために役立ったんだろうと想像します。
というわけで、すごい人なんだと改めて思いました(ABAで取り上げられるのもめったにないことでしょう)。
良いきっかけですから、ポズナー判事の本や論文を改めて読んでみたいと思います。
久しぶりのDCですが、ずいぶんと変わりましたね。
再開発が進んで街が安全になり、わたしが2001年にサマースクールで来た時には立ち寄りがたかったチャイナタウンのあたりも、夜でも大勢の人が出歩いていて、見違えるようです。
何人かのDCの弁護士さんに聞きましたが、やはり最近の大規模な再開発の影響は大きいみたいです。
その関係か、Shearman SterlingやWeil GotshalやArnold Porterなど、大手事務所のDCオフィスの移転が相次いでいるみたいです。
それから、アメリカ軍がシリアの爆撃を開始したというニュースが流れてきました。
アサド政権が化学兵器を使用したことが確認できたからというのがトランプ大統領の攻撃の理由だそうですが、自国が攻撃されてもいないのに先制攻撃するというのは、60年以上も専守防衛でいる日本の感覚からすると、理解できません。
今ホテルでCNNをつけています。
ブッシュ大統領がイラクを空爆した時もちょうどニューオーリンズを旅行中でホテルでCNNを見ていたなぁと思い出しました。
安倍首相は日本を戦争ができる国にしたいみたいですが、日本はアメリカのようにはなってほしくないなと思います。
(最近、
矢部 宏治 著 『日本はなぜ戦争ができる国になったのか』
という本を読みましたが、前著の、
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
とともに、全国民必読の書(大げさではなく)と思いました。
でも全国民に読ませるのは無理なので、小学校は無理でも、中学校くらいでこの内容を教えたらいいのに、と思います(中学校での前川前次官の講演にまで介入する文科省の態度では到底むりでしょうけれど)。
法律家の身としては、やはり司法というのは大事なんだなぁと、責任の重さを感じました。
司法試験受験時代にさらっと勉強した砂川事件最高裁判決も、最高裁がこんな売国奴のようなことをしたのかと知らされると、控えめに言って同判決は司法の汚点だと思います。
とくに砂川事件について詳しく知りたい方は、
吉田 敏浩ほか著『検証・法治国家崩壊:砂川裁判と日米密約交渉』
がおすすめで、こちらは全法曹必読です。)
トランプべったりの安倍さんのことですから(というか、これは安倍さんに限ったことではなく日本政府はいつもそうですが)、きっと爆撃を支持する声明が政府から出るんでしょうね。
でも今回は少し、考えてからのほうがいいんじゃないでしょうか。
DCから、そんなことを思いました。