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2018年4月

2018年4月14日 (土)

ABA Spring Meeting 2018

今年ひさしぶりにAmerican Bar AssociationのAntitrust Spring MeetingでワシントンDCに来ており、本日全日程が終了しました。
 
やはりアメリカに来るといろんな人に会えて楽しいですね。
 
ランチのときに、FTCの若い女性の職員の方と隣になって話をきいたら、1-800Contactの事件を担当したと聞いて、大いに盛り上がりました。
 
この事件は、1-800Contactというコンタクトレンズのネット販売業者が競合他社と合意して、検索連動型広告のインターネット検索キーワードの入札で談合した、という事件です。
 
当事者の反論としては、商号など一定のキーワードを守ることはフリーライドや消費者の混乱を防ぐために必要だ、ということだったのですが、FTCには認められませんでした。
 
「FTCは、典型的なカルテルばかり扱うDOJよりもinnovativeな事件が多いよね。」というと(本音です)、満足されていました。
 
それと、この事件を見てから疑問だったのですが、
 「日本でAmazonとかのキーワードでGoogleで検索するとほかの会社の広告はでないんだけど、これってAmazonがカルテルしてたり、すごい高い値段でキーワードを買い取ってるのかな?」
という質問すると、
「関連性の低いウェブサイトは表示されないプログラムになっているのよ」
と教えていただきました。なるほど。
 
そのほかには、今話題のフェイスブックのCEOのザッカーバーグの代理人をしている事務所の話が聞けたり(国会での証言はうまくいったと満足そうでした)、マリンホース事件で個人を代理していた弁護士さんに会えておもしろかったです。
 
詳しい内容はもちろんここでは控えますが、カルテルなんかするもんじゃないなぁと改めて思いました。
 
それから、一部では話題なのですが、ビタミンカルテルで中国企業が中国政府に命じられて価格協定をしていた場合に、米国反トラスト法が適用されるのかという争点で近々最高裁で(確か)弁論が開かれるのですが、その中国企業の弁護士さん(アメリカ人)のお話も聞けておもしろかったです(とくに受任の経緯とか、予想される争点とか)。
 
この事件は米国が国際礼状(comity)をどれくらい重視するのか注目されている事件です。今後も注目していきたいとおもいます。
 
あとアメリカ人との雑談の話題としてはエンジェルスの大谷選手の話題が「鉄板」でしたね。
 
アメリカでも大きな話題みたいです。
 
さて最終日午前はまず、FTCの競争局、消費者保護局、経済局の局長のセッションに出てきました。
 
とても興味深かったのは、最近は経済局が消費者保護問題を扱うことが増えているということでした。
 
消費者保護法なんて合理的で客観的な経済学と最も縁遠い法律だと思っていたのですが、そうでもない時代なんですね。
 
それをはじめとして、FTCでは競争法と消費者保護法の一体的運用がなされていることに強い感銘を受けました。
 
こういうFTCや、欧州委員会がデータ保護やプライバシーの問題を扱っているのをみるにつけ、日本の公取も消費者庁と一緒になればいいのにと、改めて感じました。
 
以前は公取が景表法を取り戻すという意味で消費者庁を吸収合併できればいいなと考えていましたが、最近の消費者庁の活躍ぶりや職員数の増加に照らすと、逆に消費者庁が公取を吸収して、オーストラリアの競争消費者委員会(ACCC)のようになる手もあるかもしれません。
 
さて午前最後はSpring MeetingのハイライトのEnforcers' Roundtableに出てきました。
 
予想どおりといいますか、欧州委員会のベステアーさんが光ってましたね。
 
デジタルマーケットで消費者が力を取り戻すこと(power balance)の重要性を訴えており、強い意志を感じました。
 
インターネットを通じて取引が行われる時代になると、消費者問題も競争法も、インターネットという共通のインフラを通じて考えざるを得ない、ということなのだと理解しました。
 
ここでも、競争法と消費者保護法の一体的運用の重要性を感じました。
 
データ保護が欧州であれだけ重視されているのも、そういう背景がきっとあるのでしょうね。
 
ベステアーさんについては、友人の英国の競争法弁護士は批判していましたが、カリスマ性はあるなぁと感じました。
 
新聞によると、ベステアーさんはチームにシナモンロール(さすがヨーロッパ、おしゃれですね)を焼いてあげたりするそうです。
 
きっと部下の心をつかむのもお上手なのでしょう。
 
そのほかも勉強になることがたくさんあったのであとでゆっくり復習したいと思います。
 
なおDOJのデルラヒムさんによると、たしかにカルテルの摘発件数は減っているけれどリニエンシーの申請件数は減っていないということなので、そのうち件数は上向くのではないかと思われます。
 
ほかのセッションでは、Chairs Showcaseで、最近退官したPosner判事の業績を振り返っていたのですが、一人であれだけの業績を残すって(しかも判決を書きながら)すごいなと思います。
 
でもそのセッションでも触れられていて要注意なのが、ポズナー判事が70年代の若いころに書いたものは2000年ころに書いたもので説が変わっていたりする、ということです。
 
知り合いの弁護士でポズナー判事が担当した事件を担当した人がいて、地裁ではビジネスを理解しない判事にとんでもない判決を出されて負けたけれど、控訴審のポズナー判事はビジネスをとてもよく理解していてひっくり返してもらった、と言っていました。
 
頭のよい人はビジネスの飲み込みも早いのでしょうか。
 
それと、競争法をやっている者の立場からいうと、競争法を学ぶとビジネスの実態も(少なくともずぶずぶの弁護士よりは)よく理解できる、ということもあるかもしれません。
 
私も通ったNYUのフォックス教授がパネリストの1人でしたが、フォックス教授によると反トラスト法はポズナー判事の業績のほんの一部に過ぎないらしいです。
 
きっと、競争法の狭い世界にとどまらないところも、広い視野をもつために役立ったんだろうと想像します。
 
というわけで、すごい人なんだと改めて思いました(ABAで取り上げられるのもめったにないことでしょう)。
 
良いきっかけですから、ポズナー判事の本や論文を改めて読んでみたいと思います。
 
久しぶりのDCですが、ずいぶんと変わりましたね。
 
再開発が進んで街が安全になり、わたしが2001年にサマースクールで来た時には立ち寄りがたかったチャイナタウンのあたりも、夜でも大勢の人が出歩いていて、見違えるようです。
 
何人かのDCの弁護士さんに聞きましたが、やはり最近の大規模な再開発の影響は大きいみたいです。
 
その関係か、Shearman SterlingやWeil GotshalやArnold Porterなど、大手事務所のDCオフィスの移転が相次いでいるみたいです。
 
それから、アメリカ軍がシリアの爆撃を開始したというニュースが流れてきました。
 
アサド政権が化学兵器を使用したことが確認できたからというのがトランプ大統領の攻撃の理由だそうですが、自国が攻撃されてもいないのに先制攻撃するというのは、60年以上も専守防衛でいる日本の感覚からすると、理解できません。
 
今ホテルでCNNをつけています。
 
ブッシュ大統領がイラクを空爆した時もちょうどニューオーリンズを旅行中でホテルでCNNを見ていたなぁと思い出しました。
 
安倍首相は日本を戦争ができる国にしたいみたいですが、日本はアメリカのようにはなってほしくないなと思います。
 
(最近、
矢部 宏治 著 『日本はなぜ戦争ができる国になったのか』
という本を読みましたが、前著の、
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
とともに、全国民必読の書(大げさではなく)と思いました。
 
でも全国民に読ませるのは無理なので、小学校は無理でも、中学校くらいでこの内容を教えたらいいのに、と思います(中学校での前川前次官の講演にまで介入する文科省の態度では到底むりでしょうけれど)。
 
法律家の身としては、やはり司法というのは大事なんだなぁと、責任の重さを感じました。
 
司法試験受験時代にさらっと勉強した砂川事件最高裁判決も、最高裁がこんな売国奴のようなことをしたのかと知らされると、控えめに言って同判決は司法の汚点だと思います。
 
とくに砂川事件について詳しく知りたい方は、
吉田 敏浩ほか著『検証・法治国家崩壊:砂川裁判と日米密約交渉』
がおすすめで、こちらは全法曹必読です。)
 
トランプべったりの安倍さんのことですから(というか、これは安倍さんに限ったことではなく日本政府はいつもそうですが)、きっと爆撃を支持する声明が政府から出るんでしょうね。
 
でも今回は少し、考えてからのほうがいいんじゃないでしょうか。
 
DCから、そんなことを思いました。

2018年4月 9日 (月)

ブラウン管事件高裁判決について

独禁法の域外適用が問題になったブラウン管カルテル事件についての東京高裁平成28年4月13日判決〔MT映像ディスプレイ等〕は、
「自由競争秩序の維持は、供給者と需要者の双方が、それぞれ自由な判断により取引交渉をして意思決定をするという過程が、不当な行為により制限されないことが保証されることによって図られるものであり、自由競争秩序の維持を図る上で保護されるべき需要者の属性として重要なのは、意思決定者としての面と解せられる。」
という理屈で、意思決定者が日本国内にいれば日本の独禁法を適用できる、という立場に立っています。
 
この判決には私は反対です。
 
(審決が出るまえ、一時、わたしもブラウン管カルテル事件に関わっていたので、いろんな国の競争法弁護士に、「日本の公取は意思決定をした親会社が日本にあれば日本の独禁法を適用できるという考えらしい」といったら、みんなびっくりしていました。)
 
基本的には、小田切委員(当時)の審決での補足意見の分類にしたがえば、余剰獲得者の所持在地を基準にすべきだと考えています。
 
これら一連のブラウン管事件判決については、細かいことを言い出すときりがないのですが、ひとつ指摘したいのが、法学と経済学の発想のちがいです。
 
だいぶ以前に、このブログの「独禁法と経済学」という記事で書いたのですが、物の値段はどうきまるのかという点について、法律家は、
「価格は当事者の合意で決まる」
という発想なのに対して、経済学者は、
「価格は市場で決まる」
という発想が強いと思います。
 
法学部で法律を勉強すると、売買契約は当事者の合意により成立する、と教えられます。
 
どうして契約に拘束されるのかといえば、神様がそういったからでも王様が決めたからでもなくて、自由な意思でお互いが合意したから拘束されるのだという、近代市民法の私的自治の発想です。
 
これに対して経済学では、価格は利益を最大化しようとする市場参加者の意思決定の結果として決まる、というように考えます。
 
そして経済学でいうところの「意思決定」は、市場の状況を所与の前提として、利益最大化という規準にしたがって行われる、あくまで受け身のものです。
 
このような基本的な発想の違いが、法学と経済学が交錯するいろいろな場面で出てくるのですが、東京高裁判決もまさにそんな場面の一つに思われます。
 
でも競争法において意思決定の自由を究極的な保護法益として説明しようとすると、いろいろ不都合なことが起こります。
 
たとえば、売手間のカルテルによって買手の意思決定の自由が害されたという場合、暗に想定されているのは、カルテルがあると知っていたらそのような購入意思決定はしなかった、ということなのではないでしょうか。
 
でも極端な例として、売手が独禁法違反で摘発されるリスクをものともせず、カルテルをしていることを公言している場合はどうでしょう。
 
そのような場合でも、買手の意思決定の自由が侵害されているといえるのでしょうか?
 
わたしは、そのような場合の買手の被害を意思決定の侵害に求めるのは難しいと思います。
 
言えるとすれば、買手にはカルテルがない状態で決まる価格で商品を購入する権利があるのだという、まさに余剰獲得者としての視点しかないと思います。
 
もう一つ極端な例として、完全競争市場では、需要者は価格について何ら意思決定をする必要すらありません。
 
経済学では、そういう市場が最も望ましいと考えられていたりします。
 
そこには、意思決定の自由という発想はありません。
 
意思決定の自由を重視する東京高裁の立場は、法学部出身の私からすると、いかにも法律家的というか、それだけに、経済学的な発想がぜんぜんないんだなぁと思わざるを得ません。
 
これと正反対にあるのが、法と経済学で著名なポズナー判事のモトローラ事件における法廷意見で、国外に子会社を設立して現地法に従うのであれば競争法についても現地法に従うべきである、として、米国外で完成品に組み立てられて米国外に売られた商流について米国親会社の損害賠償請求を退けています(白石忠志「ブラウン管事件東京高裁3判決の検討」NBL1075号13頁)。
 
さすが、法律と経済学の両方に通じておられるポズナー判事だといわざるをえません。
 
経済学者である小田切委員があえて補足意見を書かれたのも、きっと、経済学的観点から違和感があったからであろうと推測します。
 
まあ、東京高裁の判断が最高裁でも支持されてしまったので、今となってはどうしようもないのですが、私の見るところでは、この問題は高度な哲学的問題でもなんでもなく、たんに、裁判所に「価格は市場で決まる」とか、余剰という経済学的な発想がなかった(経済学に無知であった)がために起こった誤審だったのではないか、と思っています。

2018年4月 6日 (金)

白石説は少数説か?

独禁法を勉強している学生さんと話をしていると、
「白石先生の説は少数説ですから。」
という発言をよく聞きます。
 
文脈としては、「だから司法試験で白石説は取りにくい」というニュアンスなのだと思います。
 
でも実務にいると、白石説が少数説だなんていう感じはぜんぜんしません。
 
実務の実態を、もっともよく表しているのが、白石説だと思いますし、多くの実務家が賛同してくれるのではないかと思っています。
 
この点について、最近出た『独占禁止法講義〔第8版〕』で、白石先生ご自身の言葉で次のように述べられています。 
「当局が『□□』と言っているのだからそれが『実務』だ、それをコピー&ペーストした文献が多いから『通説』だ、と言ってそれを丸暗記したいのか。それとも、実際に通用している規範を知り、その構造を理解したいのか。どちらが必要であるかは、読者それぞれの判断である。」(p10)

Photo

 
この一節を読んだときは、ほんとうに胸がすく思いがしました。
 
まさかご自身にここまでズバリと言っていただけるとは(笑)。
 
まさに、そういうことなのです。
 
今まで、公取の公式文書や、いわゆる「通説」をみて、どうも実務の実態や感覚とちがう、ともやもやしていたときに、白石先生の解説をみて、まさにそのとおりだとすっきりした経験は数え切れません。
 
自分の頭で考えない人は公取の文書のコピペで満足する(というか、自分の言葉で言い換えるのすらこわくてできない)のでしょう。
 
でも、公取の建前と本音がちがうことなんて、日常茶飯事です。 
 
だから、ガイドラインや相談事例のコピペでは、けっして実務の実態には迫れません。
 
そのことを、白石先生ご自身の言葉で言っていただいたので、とてもすっきりしました。
 
同書の旧版での「狭いサークル」論に匹敵する、ヒットでした。
 
たしかに、白石先生の解説で、しっくりこないなぁというところはいくつかあります。
 
優越的地位の濫用は小さな市場の中での独占だといわれると、「でもそんなふうに本気で考えてる人って、たぶんいないよなぁ」と思います。
 
(とはいえ、そういう視点で優越的地位の濫用を眺めて、優越的地位の濫用が違法であることの根拠や違法要件を突き詰めること、別の言い方をすれば、優越的地位の濫用において「無意識に行われていることを言語化する」(同書p10)ことは、とても大事なことだと思います。)
 
再販売価格拘束なんかは、もう少し厳しくアドバイスしないと、実務ではちょっと怖いかなと、個人的には感じています(個人の感想です)。 
 
企業結合の協調行為の説明は、私自身、ややしっくりしていないものがあります。
 
など、一部例外はあるのですが、それらは些細なことであり、実務の姿をありのままに伝えているという意味では、白石説ほど信頼に足りるものはありません。
 
わたしは経済学から独禁法に切り込んでいくほうで、経済学的に説得力のない議論はすぐに見分けられるつもりですが、経済学的な観点からみても一番違和感がないのが白石説です。(たとえば、単独の取引拒絶と共同の取引拒絶の異同。)
 
問題は、公取の「公式見解」のコピペではないので、白石先生の説を読み解くのには、ある程度独禁法をわかっている必要があることです。
 
それさえわかってしまうと、いったい白石説のどこが少数説なのかが、むしろ理解不能です。
(でも、それじゃ「通説」は独禁法を理解していなくても理解できるのかというと、そんなことはぜんぜんなくて、たんに頭を使わずにコピペで用が足りてしまうだけの話だと思います。)
 
というわけで、白石説を少数説だという人をみるにつけ、「こいつ、全然わかってないなぁ」と思ってしまうのです。
 
・・・というようなことが、昨日たまたまある法務部の方との会話で話題に上ったので、今日はこのようなことを書いてみたくなったのです。
 
今年度はじめて、公正取引協会での白石先生のゼミに参加させていただきます。
 
きっといろいろな発見があるだろうと、今からとても楽しみです。

2018年4月 3日 (火)

従業員派遣の要請と偽装請負

優越的地位の濫用の典型例として、スーパーや家電量販店などの小売店が納入業者に対して従業員を派遣させて商品の陳列などをさせる、というものがあります。
 
でもこれって、優越的地位の濫用だけでなく、偽装請負、あるいはより一般的には、労働者派遣法違反にもなりうるので注意が必要です。
 
偽装請負というのは、形式的には請負契約であることを装いつつ(「請負」を偽装しつつ)、実質的には、労働者を派遣する、というものです。
 
スーパーが納入業者に従業員の派遣を要請する例でいえば、形式的には、
スーパー(業務の「発注者」)と納入業者(「請負業者」)との間で「商品陳列請負契約」のようなものを偽装しつつ、
実質的には、
納入業者の従業員をスーパーの指揮監督のもとで陳列業務に従事させる
というようなパターンです。
 
優越的地位の濫用で「商品陳列請負契約書」をわざわざ作ることもないでしょうから、世の中で言う偽装請負のパターンにはあたらないでしょうが、それでも、納入業者がその従業員をスーパーの指揮監督のもとでスーパーの業務に従事させることは、労働者派遣法になります。
 
条文をみてみましょう。
 
労働者派遣法2条1号は、「労働者派遣」を、
「自己〔=納入業者〕の雇用する労働者を、
 
当該雇用関係の下に、
 
かつ、
 
他人〔=スーパー〕の指揮命令を受けて、
 
当該他人〔=スーパー〕のために労働に従事させることをいい、
 
当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」
と定義しています。
 
そして、労働者派遣を業として行うことが「労働者派遣事業」(2条3号)です。
 
「業として」は、反復継続して、という意味なので、有償か無償かは問いません。
 
スーパーが納入業者に従業員の派遣要請をする場合は、無償で要請するから優越的地位の濫用になるわけですが、無償だからと言って派遣業法違反にならないとはいえないわけです。
 
同様に、スーパーが納入業者に従業員の派遣を要請している場合は、通常は1回だけでなく、反復継続していて、それが常態化しているでしょうから、「業として」にあたることが多いと思われます。
 
そして労働者派遣事業を行うには厚生労働大臣の許可を受けなければならず(5条)、この許可を受けずに労働者派遣事業を行ったものは1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(59条2号)
 
そこで問題は、
「他人〔=スーパー〕の指揮命令を受けて」(派遣法2条1号)
にあたるかどうかです。
 
これは究極的には具体的事情に即して判断するしかないですが、一般的に言って、優越的地位の濫用に当たるような派遣要請の場合は、当該納入業者の商品だけでなく、他の納入業者の商品の陳列や、全く別の作業(新装開店の飾りつけとか)もさせているでえしょうから、「他人の指揮命令を受けて」にあたることが多いのではないでしょうか。
 
というのは、そのような、当該納入業者のあずかり知るはずのない作業を、いったい誰の指揮命令に基づいてやっているのかといえば、通常は、スーパーの指揮命令のもとで行っているといわざるをえないと思われるからです。
 
また優越的地位の濫用(独禁法)と労働者派遣法はまったく別の法律ですから、優越的地位が認められない場合でも、労働者派遣の定義にあたりさえすれば、労働者派遣業法違反は成立します。
 
ですから、納入業者のほうが力が強くって、スーパーが困っているので助けてあげる、というような場合だと、「優越的地位」が認められないので優越的地位の濫用は成立しませんが、それでも、派遣業法違反は成立しえます。
 
しかも、優越的地位の濫用の場合は違反の責任を問われるのはスーパーですが、労働者派遣法の場合に責任を問われるのは納入業者の側です。
 
なので納入業者さんも、自分が法律違反をしてしまわないように、気を付けましょう。
 
あるいは、
「派遣をしたいのはやまやまですけど、派遣業法に違反してしまうのでできません」
というように、派遣要請を断る口実にも使えるかもしれません。
 
相談を受ける法務部員の方や弁護士さんも、両方問題になりうるということは意識されておいた方がよいでしょう。

2018年4月 2日 (月)

「積極的販売」と「消極的(受動的)販売」の違いについて

欧州を中心に、「積極的販売」(active sales)、「消極的(受動的)販売」(passive sales)という用語が使われています。
 
日本の流通取引慣行ガイドラインでも、改正で、
「地域外顧客への受動的販売の制限」 
という形で、「受動的販売」という言葉が使われるようになりました。
 
でも、私はこの言葉がきらいです。
 
なぜって、言葉だけみても意味がよくわからないし、分析を曇らせるからです。
 
でも定着している用語なので説明しますと、欧州の垂直制限ガイドライン(51)では、
«Active» sales mean actively approaching individual customers by for instance direct mail, including the sending of unsolicited e-mails, or visits; or actively approaching a specific customer group or customers in a specific territory through advertisement in media, on the internet or other promotions specifically targeted at that customer group or targeted at customers in that territory.
 
Advertisement or promotion that is only attractive for the buyer if it (also) reaches a specific group of customers or customers in a specific territory, is considered active selling to that customer group or customers in that territory.
 
«Passive» sales mean responding to unsolicited requests from individual customers including delivery of goods or services to such customers.
 
General advertising or promotion that reaches customers in other distributors' (exclusive) territories or customer groups but which is a reasonable way to reach customers outside those territories or customer groups, for instance to reach customers in one's own territory, are passive sales.
 
General advertising or promotion is considered a reasonable way to reach such customers if it would be attractive for the buyer to undertake these investments also if they would not reach customers in other distributors' (exclusive) territories or customer groups. 」
と説明されています。
 
要するに、
特定の顧客層にアプローチしたり、特定の顧客層をターゲットにした広告は積極的販売
 
顧客のほうからやってくるのを待つのが消極的販売
ということです。
 
ですがここは、販売店は具体的に何をしていいのか、という観点から整理するほうが明確になってよいと思います。
 
そういう観点からは、一番極端な形で突き詰めれば、
①消極的販売=売買契約の締結のみ
 
②積極的販売=売買契約の締結+販売促進活動
とうように整理できるのではないかと思います。
 
まとめると、
③積極的販売=消極的販売+あらゆる販売促進活動
とも表せます。
 
もう少し厳密にいえば、
①消極的販売=売買契約の締結+α
 
②積極的販売=消極的販売+あらゆる販売促進活動
というかんじでしょうか。
 
そこで、消極的販売としてゆるされるべき「+α」の活動は何かが問題となりますが、たとえば、お店の前に看板を出すのは明らかにOKでしょう。
 
テレビCMも、通常は特定の顧客をターゲットにしていないので、OKでしょう(特定の顧客をターゲットにしたCMなんて、ふつうは採算に合いません)。
 
限界はやはりインターネットの場合です。
 
グーグルを使えば、お客さんのほうから欲しいものを売っているお店を簡単に見つけられるからです。 
 
このような観点から欧州垂直ガイドラインでは、以下の制限は、ハードコア制限である受動的販売の制限にあたる(つまり、やってはいけない制限)としています。
別のテリトリーにいる顧客が、その販売店のウェブサイトを見られないようにすること
 
別のテリトリーにいる顧客がその販売店のウェブサイトにアクセスしようとしたときに、当該別のテリトリー担当とは別の(同じメーカーの)販売店のウェブサイトに自動転送すること
 
クレジットカード情報からテリトリー外の顧客とわかったときには取引をしないようにすること
 
インターネット販売の額を全販売額の一定割合以下に抑えること(なお、インターネット以外での最低販売数量をさだめるのは可)
 
販売店がオンラインで販売することを意図している商品について、オフラインでの販売を意図している商品よりも、販売店の仕入れ額を高くすること
そして、インターネット広告についてガイドライン(53)では、
「 The Commission considers online advertisement specifically addressed to certain customers a form of active selling to these customers.
 
For instance, territory based banners on third party websites are a form of active sales into the territory where these banners are shown.
 
In general, efforts to be found specifically in a certain territory or by a certain customer group is active selling into that territory or to that customer group.
 
For instance, paying a search engine or online advertisement provider to have advertisement displayed specifically to users in a particular territory is active selling into that territory.」
とされています。
 
というわけで、欧州のガイドラインでは、消極的販売の一部として許されるべき「+α」(つまり、この「+α」を禁止することは基本的に許されない)が、具体的に定められていることがわかります。
 
「積極」とか「消極」とかいっても、境目はよくわかりませんし、結局、何ができて何ができないのかを具体的に考えないと実務の指針にはなりません。
 
ちなみに日本の流通取引慣行ガイドラインでは、「地域外顧客への受動的販売の制限」は、
「事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること」
と定義されており、「求めに応じた」という、いかにも受動的っぽい表現になっていますが、これだけではかなりあいまいです。
 
「求めに応じた販売」の範囲内だといえるためには、では販売店はどのようなことまでできるのかが、はっきりしないからです。
 
たとえば、大阪府をテリトリーとする販売店が、
①(大阪府だけのローカル番組というのはないので)関西ローカルのテレビ番組でCMを打つ
 
②関西全般に新聞折込チラシを撒く
という2つの場合を考えると、テレビCMは受動的販売といっていいように思いますが(そうしないとテレビCMが事実上打てなくなる)、チラシは積極的販売といわれそうな気がします。
 
ですがいずれも、「顧客からの求めに応じた」という基準では区別がしにくいように思います(どちらも「求めに応じた」といえそうで、そうすると、どちらも禁止しにくそう)。
 
少なくとも、「求めに応じた」という文言から、欧州のような「特定の需要者層をターゲットにした」という基準を読み取るのは、かなり難しいと思います。
 
それに対して欧州のガイドラインなら、CMを打ったのは大阪限定のローカル番組がないからそうせざるをえなかっただけなので、京都や奈良の需要者をターゲットにしたかったわけではない(なので京都や奈良に積極的販売をしているわけではない)、といえそうな気がします。
 
やっぱり、消極的とか積極的とか、わかりにくい言葉で整理するのでなく(そういう意味では欧州のガイドラインもあまりよくないですが)、何ができて何ができないのか(禁止できない「+α」は何か)を、欧州のガイドラインのように具体的に定めるべきでしょう。
 
日本では欧州よりはるかに垂直的非価格制限の執行が不活発なので、あまり使わないルールの精緻化に力を入れるのは労多くて益少なし、という判断なのかもしれません。
 
あるいは、どうせ執行されないのにガイドラインばかり細かくなると不自由なだけ(あるいはガイドラインと現実の運用がかけ離れてしまう)かもしれないので、今のままでよいのかもしれません。
 
でも、インターネット独自の問題はいろいろあるわけですから、日本でも何らかの基準は示すのが望ましいと思います。

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