同一取引への複数企画による景品提供に関する消費者庁Q&Aの疑問
消費者庁の景品Q&Aの34番に、
「メーカーが、
商品A(1,000円)の購入者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーン
を実施し、同時期に、
小売店が、メーカーが行う懸賞とは別に、
商品Aを必ず含んで、1,500円分以上の商品を購入した者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーン
を実施する場合、提供できる景品の最高額及び総額はどのように算定すればよいでしょうか。
なお、この2つの企画は、それぞれ独自に実施するものであり、共同企画ではありません。」
という設問があります。
この設問自体への回答は問題ないのですが、問題なのはそれに続く、
この設問自体への回答は問題ないのですが、問題なのはそれに続く、
「なお、小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、
購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので、
メーカーの懸賞と小売店の懸賞のそれぞれにおいて提供できる景品類の最高額及び総額は、合算することなく個別に算定して構いません。」
という部分です。
ここで、
(景品提供主体)=(懸賞と総付の別;参加条件1,参加条件2,・・・)
という表記方法にしたがい、それぞれのキャンペーンを式で表すと、仮に小売店が懸賞の条件とする「一定額」をX円とすると、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
(小売店)=(懸賞;X円)
というようにあらわせます。
仮にX円が1500円だとすると、
仮にX円が1500円だとすると、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
(小売店)=(懸賞;1500円)
という具合です。
設問回答の、
設問回答の、
「購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので」
という部分は、
1500円≠商品A・・・①
なので、「同一の取引とは認められない」という論理なのでしょう。
でもこれはおかしいと思います。
それは、じっさいに景品目当ての消費者の立場になってみればわかります。
つまり、前述の、
でもこれはおかしいと思います。
それは、じっさいに景品目当ての消費者の立場になってみればわかります。
つまり、前述の、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
(小売店)=(懸賞;1500円)
というキャンペーンに直面した景品目当ての消費者が考えることは、
「商品Aを買って、あと500円買い物したら、メーカーからも小売店からも景品をもらえるチャンスがあるな」
ということでしょう。
そういう消費者は、あきらかに、メーカーの景品と小売店の景品の両方に誘引されているわけです。
たしかに、「1500円分の購入」と「商品Aの購入」は別の概念なので
そういう消費者は、あきらかに、メーカーの景品と小売店の景品の両方に誘引されているわけです。
たしかに、「1500円分の購入」と「商品Aの購入」は別の概念なので
1500円≠商品A
なのだ、よって「同一の取引とは認められない」というのは、概念の遊びとしてはおもしろいですが、ベン図をかいてみればわかるように、「1500円」と「商品A」には、あきらかに重なる部分があります(消費者庁回答も、「たまたま商品Aが含まれていたとしても」と、重なる部分がありうることは認識しています)。
式で表せば、
式で表せば、
1500円=(商品A〔1000円〕+500円)+1500円(ただし商品A以外)・・・②
でしょう。
そして、②の右辺の第2項(1500円(ただし商品A以外))の部分の顧客はたしかに商品Aに付随するメーカーの景品には誘引されていませんが、第1項の顧客はメーカーの景品に誘引されていることはあきらかです。
さらに上記回答は運用指針にもあきらかに反します。
懸賞運用指針5(2)ウは、
そして、②の右辺の第2項(1500円(ただし商品A以外))の部分の顧客はたしかに商品Aに付随するメーカーの景品には誘引されていませんが、第1項の顧客はメーカーの景品に誘引されていることはあきらかです。
さらに上記回答は運用指針にもあきらかに反します。
懸賞運用指針5(2)ウは、
「(2) 同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。
ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
とさだめています。
これをこのケースにあてはめると、
これをこのケースにあてはめると、
「(2) 同一の取引〔例、商品Aを1個購入〕に附随して二以上の懸賞〔=メーカーの懸賞と小売店の懸賞〕による景品類提供が行われる場合については、次による。
ウ 他の事業者〔=メーカー〕と共同しないで、
その〔=メーカーの〕懸賞の当選者に対して
〔小売店が〕更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、
追加した事業者〔=小売店〕がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
となるでしょう。
というように、小売店が懸賞対象者を商品A購入者にかぎろうがかぎるまいが、現に「商品Aを1個購入」したお客さんに景品を提供することがある以上、現に提供した当該お客さんに対しては、小売店が両企画の景品を提供したことになり、ウの場合に該当することはウの文言から明らかです。
というわけで、このQ&Aの上記回答はまちがいです。
とはいえ、消費者庁がQ&Aで、「同一取引」を狭く解している(合算すべき場合を限定している)わけですから、私も依頼者の方から質問されれば、「まあ消費者庁もこう言っているんだから、いいんじゃないですか」と回答するようにはしています。
そこで消費者庁がどういう見解なのかを整理すると、
というように、小売店が懸賞対象者を商品A購入者にかぎろうがかぎるまいが、現に「商品Aを1個購入」したお客さんに景品を提供することがある以上、現に提供した当該お客さんに対しては、小売店が両企画の景品を提供したことになり、ウの場合に該当することはウの文言から明らかです。
というわけで、このQ&Aの上記回答はまちがいです。
とはいえ、消費者庁がQ&Aで、「同一取引」を狭く解している(合算すべき場合を限定している)わけですから、私も依頼者の方から質問されれば、「まあ消費者庁もこう言っているんだから、いいんじゃないですか」と回答するようにはしています。
そこで消費者庁がどういう見解なのかを整理すると、
「小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、
購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても
同一の取引とは認められない」
といっているわけですから、「たまたま」でない場合、つまり、必然的に商品Aが含まれる場合、あるいはもっと端的に、商品Aの購入を条件(の1つ)にしている場合、ということになるのでしょう。
あるいは、小売店の参加資格者の範囲が、メーカーの参加資格者の範囲と同一か、あるいは、メーカーの参加資格者の範囲に完全に含まれる場合、ともいえます。
式であらわせば、
あるいは、小売店の参加資格者の範囲が、メーカーの参加資格者の範囲と同一か、あるいは、メーカーの参加資格者の範囲に完全に含まれる場合、ともいえます。
式であらわせば、
小売店企画参加資格者⊆メーカー企画参加資格者
(小売店企画参加資格者は、メーカー企画参加資格者の部分集合である)
の場合に合算される、ということです。
先のキャンペーン表記方法にしたがえば、
先のキャンペーン表記方法にしたがえば、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
(小売店)=(懸賞;商品A,条件2,条件3,・・・)
という場合には合算されます。
もう少し一般化すれば、
(最初の事業者)=(懸賞;条件A)
(次の事業者)=(懸賞;条件A,条件B,条件C・・・)
という場合には合算されます。
反対に、消費者庁Q&Aの立場では、両参加資格者が一部だけ重なるにすぎない場合(包摂関係にない場合)や、まったく重ならない場合は、合算されないことになります。
反対に、消費者庁Q&Aの立場では、両参加資格者が一部だけ重なるにすぎない場合(包摂関係にない場合)や、まったく重ならない場合は、合算されないことになります。
やや注意を要するのは、何を「条件A」と表現すべきかは、論理的にきちんと分析する必要があることです。
たとえば、メーカーが1000円以上の購入者に懸賞で景品を提供し、小売店が2000円以上の購入者に懸賞で景品を提供する場合、式で書くと、
(メーカー)=(懸賞;1000円)
(小売店)=(懸賞;2000円)
ですが、小売店企画参加資格である2000円購入者は必然的に1000円購入者でもあるので、この場合は合算されます。
なのでこの式は論理的には、
(メーカー)=(懸賞;1000円)
(小売店)=(懸賞;1000円,(さらに追加で)1000円)
と書くべきことになります。
(余談ですが、こういう議論をしていると、ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』の、数は対象ではない、基底への操作の反復である、という考えが思い出されます。)
そして、運用基準の定めは総付運用基準でもまったくおなじですから、上記Q&Aの見解は、総付同士の場合にもあてはまると考えられます。
以上の検討は、つとに、
加藤ほか編『景品表示法の法律相談』(青林書院)61頁以下(石井崇弁護士執筆部分)
で詳しく分析されているところで、今回の記事はこれに触発されたものです。
この本は雑誌「公正取引」に書評を書かせていただいたのですが、ほんとうに論理的で、景表法の深い理解には欠かせない、おすすめの本です。
この本は雑誌「公正取引」に書評を書かせていただいたのですが、ほんとうに論理的で、景表法の深い理解には欠かせない、おすすめの本です。
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