同一取引への複数企画による景品提供に関する消費者庁Q&Aの疑問(続き)
さて前回にひきつづき、消費者庁景品Q&A34番の「なお書」の難点を指摘しておきます。
「なお書」は、
「なお、小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので、メーカーの懸賞と小売店の懸賞のそれぞれにおいて提供できる景品類の最高額及び総額は、合算することなく個別に算定して構いません。」
としています。
つまり、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
(小売店)=(懸賞;X円)
の場合は、景品額は合算しない、としているのです。
その理由は上記引用のとおり、
「〔小売店が景品類を提供した購入者の〕購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められない」
というものです。
これだけでは少しわかりにくいので少しさかのぼると、そもそも景品額が合算される回答①~③の場合は
「同一の取引に付随して2つ以上の懸賞による景品類の提供が行われる場合の景品類の価額の考え方」
なので、 「同一の取引」にあたらない場合には、③の合算の前提を欠く、ということです。
この根拠である懸賞運用基準5(2)では、
「 同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。
ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算し
た額の景品類を提供したことになる。
イ 他の事業者と共同して行う場合は、別々の企画によるときであっても、それぞれ、共同した事業者がこれらの額を合算した額の景品類を提供したことになる。
ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。 」
とされています。
つまりQ&A回答なお書は、懸賞運用基準5(2)柱書の
「同一の取引」
というのは、
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
というように、まず「同一」というのを個々の取引が同一かで判断するのではなく、提供者側が提供しようとする対象者群全体をみて判断するのだ、ということです。
こういう「同一」の解釈は「同一」をどのように定義しても(=他の言葉で置き換えても)成り立たないので、法律(ではなく運用基準ですが)の文言解釈としてかなり稚拙というかおおらかなのですが、そこは全体として
「同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合」
がひとかたまりなのだ、そしてそれ(括弧内)が全体として、
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
の場合をさすのだ、と解することも、おおらかな文言解釈なら不可能ではないのかもしれません(それでも私はかなり無理な解釈だと思いますが)。
しかしこの解釈は、運用基準5(2)ウの場合はまだ許せますが、アとイの場合にその解釈を貫徹すると、けっこう問題がありそうです。
たとえば運用基準5(2)アは、「同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合」には、
「ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算し
た額の景品類を提供したことになる。 」
としているわけですが、ここで「同一の取引」を
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
の場合と解すると、同一の事業者が行う場合でも
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
の場合以外には合算されないことになってしまわざるをえません。
(同じ事業者なので、
第2企画の懸賞対象者群⊆第1企画の懸賞対象者群
の場合以外には合算されない、というのが正確でしょうか。)
これでは、同じ事業者が、第2企画の対象者を第1企画の対象者と微妙にずらすだけで2つの企画分の景品を提供できてしまいます。
たとえばあるスーパーがビール類の購入者を主な対象にした企画をしたいと考えたとき、
(第1企画)=(懸賞;ビールまたは発泡酒購入)
(第2企画)=(懸賞;ビールまたは第3のビール購入)
(第3企画)=(懸賞;ビールまたはノンアルコールビール購入)
(第4企画)=(懸賞;ビールまたはチューハイ購入)
(第5企画)=(懸賞;ビールまたはハイボール購入)
・・・・
というように、こまかく企画をわけて何重にも景品を提供できてしまいます。
Q&A34の「なお書」の理屈からすると、消費者庁はこれもOKというのでしょうか?
この例はあまりに恣意的で脱法っぽい、という人でも、
(第1企画)=(懸賞;食品購入)
(第2企画)=(懸賞;ハウスカード〔そのスーパーだけで使えるカード〕利用)
という2つの企画ならそれほど違和感はないでしょうし、消費者庁も、ハウスカードをつかって食品を購入した人に2回分の景品を提供できる、と答えるのでしょう。
これはQ&A34なお書の理屈が、「同一の取引」(運用基準5(2)柱書)の解釈の問題にしている以上、ア~ウを区別することは論理的に不可能であることから、あきらかです。
というわけで前回にひきつづき、私が依頼者から聞かれたら、「まあ消費者庁がそういっているんだからいいんじゃないですか」と回答します。
ただそれでも、上のハウスカードのような例はまだいいですが、ビールの例はちょっとためらいますね。
では両者の限界がどのへんにあるのかといえば、もともとの消費者庁の理屈がよくわからないため、まったく不明です。
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