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2018年3月

2018年3月29日 (木)

パズドラの課徴金について

ガンホーに対して3月28日、課徴金納付命令がでました。気が付いたことをメモします。
 
まず対象役務が、
「特別レアガチャ『魔法石10個!フェス限ヒロインガチャ』
とされています(本件役務)。
 
この「ガチャ」は、モンスターを提供する役務なのだそうです。
 
わたしはパズドラはやったことがないので、いつどういうふうにお金を払うのか命令をみてもわかりませんが、「ガチャ」という名前からすると、ガチャ(くじ)を1回引くごとに課金されるものだと思われます。
 
課徴金対象期間は平成28年11月30日から平成29年2月26日までの約3か月と認定されています。
 
そうすると、課徴金が約5000万円(自主申告による減額がなければ1億円)であることからすると、この3か月の売上は、1億円÷0.03≒33億円となります。
 
1か月に10億円も売上があったんですね。。。
 
それはさておき手続面ではまず、上述のとおり、自主申告による減額が認められていることが注目されます。
 
それから、課徴金の算定方法は、
「本件役務〔本件ガチャ〕の売上額に100分の3を乗じて得た額・・・」
とされているので、本件ガチャの売上額全額が基準になっていることがわかります。
 
そもそもこの不当表示はモンスター13体全部について「究極進化」すると表示していたのに2体しか「究極進化」せず、残りの11体はたんなる「進化」だった、というものでした。
 
なので、ガチャで「究極進化」するモンスターを引き当てた取引の売上については課徴金対象売上から除くという考え方もありそうですが、おそらくそれは結果論だということでそのような考え方はとられておらず、すべての売上が課徴金の対象になっています。
 
法律の解釈としてはそれで正しいと思いますが、課徴金のガイドラインでは、「全品半額セール」で一部にセール対象外のものがあった場合には、実際にセール対象であった商品は課徴金の対象にならないとれている(p12、2(3)想定例②)こととの整合性が、やや気になります。
 
つまり、
全品半額と表示した場合に、半額でなかった商品(例、2万円未満のスーツ)の売上のみが課徴金の対象になる
なら、
全アイテム「究極進化」と表示した場合に、「究極進化」でなかった商品(13体中、11体)のみが課徴金の対象になる
という考えもありえます。
 
おそらく両者が異なるのは、
全品半額セールの場合は、消費者が半額の商品を選べる
のに対して、
全アイテム「究極進化」と表示したガチャの場合、ガチャであるがゆえに消費者が「究極進化」のアイテムを選べない
というのが実質的な理由かな、と想像しますが、やや釈然としないものが残るのもたしかです。
 
ひょっとしたら、むしろ両者を区別する隠れた理由は、
全品半額セールの場合は半額でない(表示違反)ものが、ごく一部にすぎない(とガイドラインはかってに想像している)
のに対して
本件ガチャでは究極進化でない(表示違反の)アイテムがほとんどだった(13体中11体)
ということなのかもしれません。
 
たとえば本件ガチャでもし、13体中12体は究極進化で、1体だけたんなる進化だったら、それでも全体に課徴金がかかったんでしょうか?
 
違反が100体中、1体に過ぎない場合でも、全体に課徴金がかかるのでしょうか?
 
それとも、違反が100体中1体のときは、「著しく優良」とまではいえないとするのでしょうか?
 
と考えると、本件では大半が違反だったから違和感がないものの、もし違反がほんの一部だったら、全体に課徴金をかけるのはかなり違和感があっただろうと思います。
 
(似たような同じ問題は、秋田書店みたに景品の数を間引いた、という事件でも起きるのですが、景品の間引きでは景品と商品の売り上げは直結していないので表示に適合しない売上と適合する売上を区別できないのに対して、本件では、購入対象アイテム自体が表示に適合するかどうかを観念できるので、表示に適合しないアイテムの売上だけに課徴金をかけるという考えに、まだなじみます。)
 
念のため確認しておくと、条文上は、景表法8条1項の、
「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の・・・売上額」
の解釈の問題であり、
本件では本件ガチャが「役務」なのでガチャ全体の売上に課徴金がかかる
のに対して
半額セールでは個々の商品が「商品」なので個々の商品ごとに課徴金がかかるかどうかを判断する
ということなのでしょう。
 
つぎに、課徴金対象期間については、平成28年11月30日から平成29年2月26日となっています。
 
ただ、課徴金対象行為(不当表示)をした期間は平成28年11月30日から平成29年2月20日までと認定されていますので、課徴金対象行為が終わったあとも課徴金対象期間が続いています(平成29年2月21日から26日まで。26日は最後の取引日です)。
 
(なお誤認解消措置が平成29年2月28日にとられています。)
 
つまり、課徴金対象行為をやめた日(2月20日)のあとも、21日から26日までの間、表示違反のガチャを続けていたことになりそうです。
 
理想をいえば、不当表示がわかった時点で13体全部を究極進化に変えればよかったのでしょうけれど、たんなるプログラムとはいえ、わかったからといってただちに究極進化に変えるというのはできなかったのかもしれません。
 
あるいは、不当表示をやめた時点(2月20日)で、同時に販売を中止する(本件ガチャの購入をできなくする)、という手もあったでしょうが、それも間に合わなかったのかもしれません。
 
前述のように誤認解消措置が取られていることからすると、本件ガチャは引き続き(つまり13体中2体のみ究極進化する形で)販売され続けていたのかもしれません。
 
つぎに、前述のとおり本件では消費者庁への自主申告がなされていますが、自主申告の日付はあきらかにされていません。
 
これは、以前このブログでも紹介した三菱と日産に対する課徴金のケースと同じです。
 
自主申告を失格させる場合はともかく、認めるなら日付までは不要ということなのでしょう。
 
つぎに、本件ではガンホーは返金措置を実施していません。
 
返金は義務ではないので別にかまわないのですが、このあたりに企業の姿勢というものが現れると思います。
 
ところでガンホーに対しては、この課徴金の本案について措置命令が平成29年7月19日に出ていますが、この「究極進化」の優良誤認とは別に、同日、セットでお得だと表示していたのにバラで買うのと値段が変わらなかったという有利誤認についても措置命令が出ています。
 
おそらく「究極進化」の件と「セットでお得」の件は、消費者庁は並行して調査していたでしょうから、 「セットでお得」の件に課徴金納付命令が出ていないのは、売上5000万円の裾きりに満たなかったのではないか、と想像されます。
 
表示期間も、商品により最短1日から最長でも15日間と、比較的短いですから、(誤認解消措置をとらなければ最長6ヶ月延長される余地はあるものの)違反対象売り上げが少なかったということはえりえます。
 
というわけで、課徴金納付命令は、上っ面をなめただけでもこれくらいのことはすぐにいえてしまいます。
 
ということは、出す側の消費者庁もそれなりにいろいろ考えないといけなかっただろうし、ガンホーも、表示をやめるのか、商品の販売までやめるのか、自主申告するのか、返金措置はとるのか、など短期間でいろいろ考えないといけなかっただろうと推測されます。
 
双方のご苦労がしのばれます。

2018年3月28日 (水)

体験談のねつ造と不実証広告規制の功罪

ミーロードに対する措置命令(平成29年3月30日)をみていて感じたのですが、不実証広告規制を適用する場合にも、消費者庁はきちんと広告の真偽を調べた方がよいのではないでしょうか。
 
この事件は、いわゆる豊胸効果をうたう「B-UP」というサプリに不実証広告規制が使われたものです。
 
命令に添付された広告の例をみると、たとえばグラビアアイドルの「ももゆいさん(27歳)」の証言として、
「モデルの仕事は不規則で、食事もカロリーの高いお弁当が多いため、デビュー当時と比べて10kg近く太ってしまいました。
 
そこで毎食キャベツときゅうりだけという過酷な食事制限を決行。
 
体重を戻したのですが、ついでに胸も2カップほど縮んでしまい、かえって仕事がなくなっちゃって(泣)
 
そんな時、同じグラビア仕事をしている先輩に薦めてもらったのが『B-UP』。
 
もう無理はしないと心に決め、毎晩の1粒とバストアップ体操を日課にした結果・・・、わずか2ヵ月で元のスタイルに戻すことができました~。」
というコメントが載っています。
 
同様の例として、平成29年9月29日のティーライフ(株)に対する「ダイエットプーアール茶」に関する措置命令でも、
「2年半で-43kg」
とか、
「6ヶ月で-10kg」
とか、
「8ヶ月で-12kg」
とか、お茶を飲んだだけでそんなに痩せるわけないだろうという体験談が並んでいます。
 
(ちなみにティーライフの措置命令では、わざわざ、
「なお、ティーライフは、自社ウェブサイトにおける〔違反の〕表示内容を記載したウェブページにおいて、例えば、『個人の感想であり、実感には個人差がございます。』と記載するなど・・・していたが、当該記載は、一般消費者が〔違反の〕表示から受ける効果に関する認識を打ち消すものではない。」
と、体験談であるとの注記が打消し表示とは認められないと明記しており、消費者庁の強い姿勢が出ていて注目されます。)
 
ですが、これらの体験談はねつ造である可能性が濃厚です。
 
こういう効果は事実としてありえなさそうだ、というのが一つと、私が以前かかわった不当表示の事件で似たような「体験談」を載せた広告があったのですが、消費者庁から「この証言は本当に本人のものか?」といったことは一切聞かれなかったからです。
 
でもそれでいいんでしょうか?
 
たしかに不実証広告規制は消費者庁の労力を省くという点で非常に有益な制度だと思います。
 
でもその陰で、こういうあきらかに虚偽あるいはやらせの「体験談」については、明示的に虚偽あるいはやらせであると認定されることもなくなってしまいます。
 
いちおう措置命令別表1では、これらの体験談も不当表示を構成するものとして(全文ではないもの)掲示はされていますが、それだけでは問題の本質がみえてきません。
 
つまり極論すれば、体験談のねつ造は、仮にその商品に効果があったとしても、それ自体不当表示になりうべきもののはずです。
 
もし体験談がねつ造であることまで措置命令で認定できれば、命じる社告の中にも、「体験談はねつ造でした」という一文を入れさせられるはずです。
 
社告でたんに、
「実際のものよりも著しく優良であることを示すものであり、景品表示法に違反するものでした。」
といわせるだけよりも、
「広告の体験談はねつ造でした」
と認めさせるほうが、消費者にとってインパクトはずっと大きいと思います。
 
調べるのも、事業者にねつ造かを確認すれば多くの場合簡単に片が付くでしょうし、タレントであればタレント本人を呼びつけて「あなたが本当にそういったのか」と聞くこともできるはずであり、そんなに手間はかからないでしょう。
 
そうすることで、タレントも「ありもしない体験談を載せることに同意したら大変なことになる」ということを認識できるのではないでしょうか。
 
もちろん、事業者が体験談をねつ造する抑止力になるでしょう。
 
載っている体験談の全部ではなくても、そのうち一つでもねつ造があれば、それを措置命令で明記する(そして社告でも明示させる)インパクトはとても大きいと思われます。
 
現行の、新聞折込チラシの配布日や配布地域までこまごま認定することに手間をかけるくらいなら、こちらのほうに手間をかける方がずっと費用対効果も高いと思います。
 
消費者庁にはぜひ、ご検討いただければと思います。

2018年3月27日 (火)

「Amazon's Antitrust Paradox」という論文を読んで

日経新聞電子版3月21日の、
という記事で紹介されていて面白そうだったので、
Lina Khan, "Amazon's Antitrust Paradox"
という論文を読んでみました。
 
日経記事で、
「カーン論文の結論は新種の寡占企業であるアマゾンの問題点は、消費者利益(もっといえば価格)だけを尺度とするシカゴ派流の考え方ではとらえきれず、
 
日本流にいえば取引先への「優越的地位の乱用」や電子書籍でみられた廉売行為、さらに隣接分野の企業を併合する垂直統合にも厳しい姿勢で臨むべきだ、というものだ。」
と紹介されていたので、「優越的地位の濫用の解釈になにか役立つかな」というのが一番の関心事だったのですが、その点については残念ながらとくに参考にはなりませんでした(アメリカの論文なので、考えてみれば当たり前ですが)。
 
もちろん日本の優越的地位の濫用について直接同論文が言及することはありえないにしても、弱者保護的な視点が米国反トラスト法上も正当化されるのだという議論が説得的に展開されていれば参考になるかなと思ったのですが、それもさほどではありませんでした。
 
シカゴ学派に対する批判は30年以上前から言われていることに加えて何か新しい視点はありませんでした。
 
不当廉売についても、取戻し(recoupment)の要件(廉売企業が不当廉売で競合他社を退出させたあとに廉売による損失を取り戻せるのでない限り、不当廉売は成立しない、という要件)をプラットフォーム企業に適用することの不当性について説得力をもって論じられていますが、日本ではそもそも取戻しの要件は不要なので、直接参考にはなりません。
 
むしろ同論文で不当廉売の日米差が明らかになる点として、アメリカではloss leading(目玉商品で釣って他の商品で利益を上げること)とpredatory pricing(不当廉売)がかなりはっきり区別されていて、loss leading は違法ではない、という扱いになっていることがわかります。
 
これに対して日本では、米国ならloss leadingに当たりそうな野菜の1円販売とかでも不当廉売になるので、公取が不当廉売を積極的に使おうと思えば、米国よりもかなり簡単に使えることが、この論文を読んでいると強く印象付けられます。
 
以上が日本の独禁法弁護士としての感想ですが、競争法一般の観点から同論文をどのように評価するといえば、やや微妙です。
 
同論文では、シカゴ学派の短期的消費者厚生のみを競争法の目的とする立場を否定し、市場を競争的な構造に保つことなども目的とすべきだと主張されています。
 
しかし、消費者厚生を一切無視しろとは同論文も言っていないわけで、そうすると、
アマゾンの安売りによる消費者厚生のあきらかな改善
と、
将来生じるかもしれないけれど不確実な非競争的市場構造
を天秤にかけなければならないはずです。
 
そうすると、よほど後者の懸念が大きくて確実でない限り、執行当局としては執行はためらわれると思います。
 
日経記事による期待値が大きかったので、そこを乗り越える議論を期待していたのですが、傾聴すべき主張はあるものの、競争法のパラダイムを変えるほどの決定打には欠ける、という印象でした。
 
とはいえ、この論文では新聞記事などを多数引用しながら詳細にアマゾンのビジネスを分析しており、一読の価値は大いにあります。
 
詳細は論文を読んでいただき、簡単なまとめは日経記事を読んでいただくとして、最も印象に残ったのは、アマゾンが数多くのビジネスのゲートキーパーになることで競争がゆがめられる、という主張でした。 
 
要するに、何を買うにもアマゾンのサイトを経由することになることが、アマゾンに絶対的ともいえる競争優位を与える、ということです。
 
リアルの路面店では、八百屋さんと薬屋さんと本屋さんを一つにまとめることにはそれなりの限界があります。
 
地方のイオンモールなどにいくとそれに近いことがありますが、そういうところは中に入ると広すぎて疲れてしまい、品ぞろえは多少劣ってももうちょっとこじんまりしたお店がいいなぁとか感じたりします。
 
ところがインターネットにはそういう限界がありません。
 
業種の広がりも、ほぼ無制限です。
 
しかも小売業だけでなく、独立小売業者へのプラットフォーム提供なども、インターネットではできてしまいます。
 
このように、この論文を読むと、インターネットの世界では、消費者に最も近いところにいる市場(小売業)を支配した事業者が、あらゆる事業を支配しうるんだな、ということがわかります。
 
消費者に近いところにいても、相手にする消費者の数が少なければ競争上たいしたことはないのですが、インターネットだと、対象業種が無制限なだけに、ものすごい数の消費者を相手にすることができるわけです。
 
対象業種が無限定である理由は、インターネットというのが、消費者の目から見て究極的には、
「パソコンの画面を通じて情報を受け取り、パソコンを通じて意思表示をする」
という、とてもシンプルだけれどもきわめて汎用性の高い機能を果たしているからなのでしょう。
 
今の若い人たち(20代以下?)には、インターネットはあたりまえの存在でしょうが、わたしが大学生のころにインターネットというものがはやりだしました。
 
当時はまだグーグルもなく、「アメリカのホワイトハウスの『ホームページ』というものが見られるんだ。すごいなぁ」といったレベルで、情報のやりとりが速くなる(情報の国境がなくなる)というのが、一番の売りだったような気がします。
 
ところが実際には、アマゾンやグーグルやフェイスブックがそうですが、とにかく、消費者が何らかの商品役務を購入するときに自社のサイトを経由してくれることになる(自らがゲートキーパーになる)、ということが競争上圧倒的に重要になることが分かってきたのだと思います。
 
アマゾンのベゾス社長は、それがわかってアマゾンを創業したのですかね。
 
そんな想像をすると、恐ろしい先見の明に背筋が凍る(畏敬を込めて)思いがします。
 
(余談ですが、そんなインターネットの過去と現在から、IOTの現在と未来を考えてみると楽しいかもしれません。)
 
そのほか同論文はeコマース全般の競争分析についてもとてもよくまとまっていて参考になります。
 
たとえばリアル店舗では月曜に安売りをして買った顧客が木曜にも戻ってくるかというとそんな保証はないが、ネット販売なら戻ってくる、というのも、なるほどなぁと思います。
 
というわけで、優越的地位の濫用に理論的根拠が与えられるかも(古い袋に新しい酒を盛れるかも)、という期待は外れましたが、eコマースの競争分析についてはこれほどよくまとまっている文献もないだろうな、と思いました。
 
関係業界では常識かもしれませんが、アマゾンが米国でどういうビジネスをしているのかという点について学んで日本でのアマゾンの動きを予想したい、という人にもおすすめです。

2018年3月19日 (月)

【ご紹介】古川昌平著『エッセンス景品表示法』(商事法務)

大江橋法律事務所に所属し、消費者庁にも勤務された古川先生から、掲題の図書をご寄贈いただきました。

Photo

はしがきにも書いてあるとおり、緑本(大元編著『景品表示法〔第5版〕』を読む前にまず1冊目に景表法を学ぶ書籍としては最適ではないでしょうか。

分量も216頁程度なので、はじめて勉強する方も挫折せずに読みとおせそうです。

厳選された実例を写真を交えながら紹介しており、飽きさせません。

景品規制についても触れられています。

それから、なんとこのブログについてもご紹介いただいています(5頁)coldsweats01

この書籍の品格を落とさないよう、上品な投稿をこころがけたいと思います。。。

2018年3月16日 (金)

アマゾン続報

今朝の日経3面に、
「アマゾン『優越性』どう判断 公取委、独禁法違反で立ち入り」
という記事が出ていて、その中で、
「今回問題となっている協力金は値引き分の補填を求めたもので、昨年11月から取引先へ説明を始めた販売額の1~5%の支払いを求める協力金とは異なる。」
と、はっきり書いてありますね。
 
なんだそういうことかぁと、納得しました。
 
そいういうわけで、「昨年11月から取引先へ説明を始めた販売額の1~5%の支払いを求める協力金」については違反になるわけがないし公取も興味を示さないだろう、というわたしの2月28日の予想はまちがっていなかった、ということになりましたね。
 
ともあれ、昨日の投稿で「独禁法の自殺だ」とかおおげさなことをいったのが的外れ(わたしの勘違い)だったわけで、公取委のみなさんにはもうしわけないことをしました。ごめんなさい。
 
でもこの日経の記事によると今回問題になっている協力金は、
「関係者によると、昨年ごろからセール販売した際、値引きの数%~数十%をメーカー側に要求していたという。」
というものらしいのですが、売上額の、ではなくて、値引き額の、数%~数十%、というのは、ずいぶんと控えめですね。
 
まあ、経済的にはかなり小さな被害でも濫用にはなりうるので(たとえば従業員の派遣なんて日当をきちんと払ってもたいした金額ではないでしょう)、額が小さければ違法にならないということはないのですが、値引きの範囲内の負担なら値引きした分売上が伸びて納入業者にも恩恵がありそうなので(1円納入とはちがう)、そういうのでもだめなのかなと考えると、かなりきびしい判断というか、争う余地もありそうな気がします。
 
ところで見出しでは、
「アマゾン『優越性』どう判断」
とされていますが、どうなんでしょうね。
 
わたしは、優越性は簡単に認められると思います。
 
トイザらス事件では取引依存度が1%未満の納入業者(ユニ・チャームとか)に対してすら、トイザらスは優越していると認定されたので(わたしはこの認定はまちがいだと考えていますが)、公取の運用を前提にするかぎり、アマゾンの優越性を否定するのはむずかしいんじゃないでしょうか。
 
現行の課徴金制度のもとでは個別の取引先ごとにこまかく優越的地位を認定しないといけないので(個別の取引先ごとの取引額が課徴金の算定基礎になるため)、一部の取引先との関係では優越的地位が否定されることはあるかもしれませんが。
 
さらにトイザらス事件では、濫用行為を受け入れた事実から優越的地位を推認しているので、ますます優越的地位の否定はむずかしくなっています。
 
あと細かいところですが、同記事の「Q&A」のところで、匿名の弁護士さんの、
「アマゾン側が、各取引先が自社と取引しなくても困らない立場だったことを立証できない限り、違反が認められる可能性は高い」
というコメントが載っていますが、これだと濫用の要件が飛んでますね(まあ短いコメントなので端折られた可能性はありますが)。
 
そして前述のとおり、今の公取実務では優越的地位を否定するのはかなり難しいです。
 
というわけで本件のポイントは、割引額の数%~数十%程度の値引き要請が濫用といえるかどうか、だと思います。
 
そして実務的な関心は、課徴金の額がどのくらいになるのか、それに対してアマゾンが不服を申し立てるのか、というところに移っていきそうに思います。
 
優越での立入は課徴金導入直後に相次いで審判請求がされたあと、しばらくなくて、今回の件は、昨年8月に大阪ガスに立入が行われたのに次いでの立入です。
 
優越の執行が積極的になってきたことがうかがえます。
 
なおQ&Aのところでわたしのコメントも使っていただきました(たいしたことはいってませんが)。気づいていただけるとうれしいですcoldsweats01

2018年3月15日 (木)

「公取委、アマゾンに立ち入り 不当な「協力金」要求容疑」との報道について

朝日新聞電子版などで、公取委がアマゾンの協力金について立入検査に入ったと報じられています。
 
このブログで2月28日に、こんなの優越的地位の濫用になるわけがないし、公取は興味も示さないだろうと書いたので、その後半部分ははずれました。

でも、もし立入容疑が2月28日の日経記事のようなものだとしたら、つまり、きちんと契約交渉で協力金の支払を求め、それに応じない取引相手方に契約解消を示唆ないし現に解消した、というものなら、それを優越的地位の濫用というのはあまりにひどいですし、これまでの公取の先例の範囲も大きく超えます。
 
朝日新聞の報道では、
「関係者によると、アマゾンは、販売システムの利便性を向上させるなどの名目で協力金を要求していたという。協力金の負担がメーカー側の利益となる範囲内であれば独禁法違反にはならない。一方で、同社では昨年から配送費の高騰などでコストが増えているとされ、こうした負担増をメーカー側に転嫁していれば、違反と判断される可能性がある。」
とされていますが、配送費の負担をメーカー側に転嫁するのが濫用なんて、一般論としては無茶です。
 
詳細がわかりませんが、もしまともなコスト転嫁が濫用だというなら、経済原則に反することがあきらかです。
 
独禁法の自殺とでもいうべきでしょう。
 
はたして立入の容疑が日経新聞の記事の範囲内なのか、それを超えるようなえげつないことが行われていたのかはわかりませんが、なりゆきを注視したいと思います。(少なくとも日経記事の内容は、しごくまっとうな商取引に見えました。)
 
【3月15日午後追記】
 
朝日新聞夕刊では、
「関係者によると、同社は遅くとも数カ月前から、納入元のメーカーに対し、アマゾン側が値引きして売った商品の販売額の一定割合を「協力金」として支払わせていた疑いがある。値引き分をほてんする目的があったとみられる。」
と報じられています。
 
う~ん、もしこれが事実だとすると、典型的な優越的地位の濫用のパターンですね・・・
 
この態様だとおそらく、仕入れ取引時点ではアマゾンによる値引きの有無もきまっておらず、もちろん、値引きした際の協力金の支払についてもきまっていないはずなので、実際に値引き販売をしたあとにアマゾンが納入業者にはじめて協力金の支払を求めた可能性が濃厚だからです。
 
濫用行為の要素のうち、「あらかじめ計算できない不利益を与えた」というものですね。
 
(まあ、取引前に条件を決めていても、
「こんどセールやるんで1円で納入してねheart01
みたいな極端なことをすると濫用になるんですが、アマゾンのケースは売上の数%から10%の協力金ということなので、金額的にはそこまで極端なことではないんでしょう。)

やっぱり朝日新聞の法務担当部門は大事なポイントがよくわかっているなと、いつも感心します。

また新たな報道があったら軌道修正しないといけないかもしれませんが、大事な点であり放置もできないので追加コメントしました。

2018年3月 6日 (火)

【ご紹介】長澤哲也『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』

大江橋法律事務所の長澤先生より
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
をご献本いただきました。

Photo

いわずとしれた、優越・下請法のベストセラーの改訂版です。

このブログでも折にふれて引用させていただいているのですが、この本は本当にすごい本で、いろいろ調べまくってようやく集まる情報量がほんの1頁くらいに凝縮されていたりします。

それだけでなく、理論的に詰めて説得的に論じられており、当局の見解がおかしいところはおかしいと述べられていて、たいへん理解が深まります。

初版はしがきに、この本は著者自身の執務用に作成していた手引きが出発点となったものであると述べられていますが、(手引きから本ができてしまうってどんな手引きなんだと、それ自体おどろきですが)仕事で使うにはやっぱりそういうのが一番役立つんですよね。

「第2版の刊行以降、著者が弁護士として執務する中で自分なりに考えを深めた事項を随所に反映させている。」

とのことなので、今から勉強させていただくのが楽しみです。

2018年3月 5日 (月)

同一取引への複数企画による景品提供に関する消費者庁Q&Aの疑問(続き)

さて前回にひきつづき、消費者庁景品Q&A34番の「なお書」の難点を指摘しておきます。
 
「なお書」は、
「なお、小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので、メーカーの懸賞と小売店の懸賞のそれぞれにおいて提供できる景品類の最高額及び総額は、合算することなく個別に算定して構いません。」
としています。
 
つまり、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
 
(小売店)=(懸賞;X円)
の場合は、景品額は合算しない、としているのです。
 
その理由は上記引用のとおり、
「〔小売店が景品類を提供した購入者の〕購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められない
というものです。
 
これだけでは少しわかりにくいので少しさかのぼると、そもそも景品額が合算される回答①~③の場合は
「同一の取引に付随して2つ以上の懸賞による景品類の提供が行われる場合の景品類の価額の考え方」
なので、 「同一の取引」にあたらない場合には、③の合算の前提を欠く、ということです。
 
この根拠である懸賞運用基準5(2)では、
同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。
 
ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算し
た額の景品類を提供したことになる。
 
イ 他の事業者と共同して行う場合は、別々の企画によるときであっても、それぞれ、共同した事業者がこれらの額を合算した額の景品類を提供したことになる。
 
ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。 」
とされています。
 
つまりQ&A回答なお書は、懸賞運用基準5(2)柱書の
「同一の取引」
というのは、
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
というように、まず「同一」というのを個々の取引が同一かで判断するのではなく、提供者側が提供しようとする対象者群全体をみて判断するのだ、ということです。
 
こういう「同一」の解釈は「同一」をどのように定義しても(=他の言葉で置き換えても)成り立たないので、法律(ではなく運用基準ですが)の文言解釈としてかなり稚拙というかおおらかなのですが、そこは全体として
「同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合
がひとかたまりなのだ、そしてそれ(括弧内)が全体として、
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
場合をさすのだ、と解することも、おおらかな文言解釈なら不可能ではないのかもしれません(それでも私はかなり無理な解釈だと思いますが)。
 
しかしこの解釈は、運用基準5(2)ウの場合はまだ許せますが、アとイの場合にその解釈を貫徹すると、けっこう問題がありそうです。
 
たとえば運用基準5(2)アは、「同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合」には、
「ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算し
た額の景品類を提供したことになる。 」
としているわけですが、ここで「同一の取引」を
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
の場合と解すると、同一の事業者が行う場合でも
第2提供者の懸賞対象者群⊆第1提供者の懸賞対象者群
の場合以外には合算されないことになってしまわざるをえません。
 
(同じ事業者なので、
第2企画の懸賞対象者群⊆第1企画の懸賞対象者群
の場合以外には合算されない、というのが正確でしょうか。)
 
これでは、同じ事業者が、第2企画の対象者を第1企画の対象者と微妙にずらすだけで2つの企画分の景品を提供できてしまいます。
 
たとえばあるスーパーがビール類の購入者を主な対象にした企画をしたいと考えたとき、
(第1企画)=(懸賞;ビールまたは発泡酒購入)
 
(第2企画)=(懸賞;ビールまたは第3のビール購入)
 
(第3企画)=(懸賞;ビールまたはノンアルコールビール購入)
 
(第4企画)=(懸賞;ビールまたはチューハイ購入)
 
(第5企画)=(懸賞;ビールまたはハイボール購入)
 
・・・・
というように、こまかく企画をわけて何重にも景品を提供できてしまいます。
 
Q&A34の「なお書」の理屈からすると、消費者庁はこれもOKというのでしょうか?
 
この例はあまりに恣意的で脱法っぽい、という人でも、
(第1企画)=(懸賞;食品購入)
 
(第2企画)=(懸賞;ハウスカード〔そのスーパーだけで使えるカード〕利用)
という2つの企画ならそれほど違和感はないでしょうし、消費者庁も、ハウスカードをつかって食品を購入した人に2回分の景品を提供できる、と答えるのでしょう。
 
これはQ&A34なお書の理屈が、「同一の取引」(運用基準5(2)柱書)の解釈の問題にしている以上、ア~ウを区別することは論理的に不可能であることから、あきらかです。
 
というわけで前回にひきつづき、私が依頼者から聞かれたら、「まあ消費者庁がそういっているんだからいいんじゃないですか」と回答します。
 
ただそれでも、上のハウスカードのような例はまだいいですが、ビールの例はちょっとためらいますね。
 
では両者の限界がどのへんにあるのかといえば、もともとの消費者庁の理屈がよくわからないため、まったく不明です。

2018年3月 2日 (金)

同一取引への複数企画による景品提供に関する消費者庁Q&Aの疑問

消費者庁の景品Q&Aの34番に、
「メーカーが、
商品A(1,000円)の購入者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーン 
を実施し、同時期に、

小売店が、メーカーが行う懸賞とは別に、
商品Aを必ず含んで、1,500円分以上の商品を購入した者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーン
を実施する場合、提供できる景品の最高額及び総額はどのように算定すればよいでしょうか。

なお、この2つの企画は、それぞれ独自に実施するものであり、共同企画ではありません。」
という設問があります。

この設問自体への回答は問題ないのですが、問題なのはそれに続く、
「なお、小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、

購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので、

メーカーの懸賞と小売店の懸賞のそれぞれにおいて提供できる景品類の最高額及び総額は、合算することなく個別に算定して構いません。」
という部分です。

ここで、
(景品提供主体)=(懸賞と総付の別;参加条件1,参加条件2,・・・)
という表記方法にしたがい、それぞれのキャンペーンを式で表すと、仮に小売店が懸賞の条件とする「一定額」をX円とすると、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)

(小売店)=(懸賞;X円)
というようにあらわせます。

仮にX円が1500円だとすると、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)

(小売店)=(懸賞;1500円)
という具合です。

設問回答の、
「購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても同一の取引とは認められないので」
という部分は、
1500円≠商品A・・・①
なので、「同一の取引とは認められない」という論理なのでしょう。

でもこれはおかしいと思います。

それは、じっさいに景品目当ての消費者の立場になってみればわかります。

つまり、前述の、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)

(小売店)=(懸賞;1500円)
というキャンペーンに直面した景品目当ての消費者が考えることは、
「商品Aを買って、あと500円買い物したら、メーカーからも小売店からも景品をもらえるチャンスがあるな」
ということでしょう。

そういう消費者は、あきらかに、メーカーの景品と小売店の景品の両方に誘引されているわけです。

たしかに、「1500円分の購入」と「商品Aの購入」は別の概念なので
1500円≠商品A
なのだ、よって「同一の取引とは認められない」というのは、概念の遊びとしてはおもしろいですが、ベン図をかいてみればわかるように、「1500円」と「商品A」には、あきらかに重なる部分があります(消費者庁回答も、「たまたま商品Aが含まれていたとしても」と、重なる部分がありうることは認識しています)。
 
式で表せば、
1500円=(商品A〔1000円〕+500円)+1500円(ただし商品A以外)・・・②
でしょう。
 
そして、②の右辺の第2項(1500円(ただし商品A以外))の部分の顧客はたしかに商品Aに付随するメーカーの景品には誘引されていませんが、第1項の顧客はメーカーの景品に誘引されていることはあきらかです。
 
さらに上記回答は運用指針にもあきらかに反します。
 
懸賞運用指針5(2)ウは、
「(2) 同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。
 
ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
とさだめています。
 
これをこのケースにあてはめると、
「(2) 同一の取引〔例、商品Aを1個購入〕に附随して二以上の懸賞〔=メーカーの懸賞と小売店の懸賞〕による景品類提供が行われる場合については、次による。
 
ウ 他の事業者〔=メーカー〕と共同しないで、
 
その〔=メーカーの〕懸賞の当選者に対して
 
〔小売店が〕更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、
 
追加した事業者〔=小売店〕がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
となるでしょう。
 
というように、小売店が懸賞対象者を商品A購入者にかぎろうがかぎるまいが、現に「商品Aを1個購入」したお客さんに景品を提供することがある以上、現に提供した当該お客さんに対しては、小売店が両企画の景品を提供したことになり、ウの場合に該当することはウの文言から明らかです。
 
というわけで、このQ&Aの上記回答はまちがいです。
 
とはいえ、消費者庁がQ&Aで、「同一取引」を狭く解している(合算すべき場合を限定している)わけですから、私も依頼者の方から質問されれば、「まあ消費者庁もこう言っているんだから、いいんじゃないですか」と回答するようにはしています。
 
そこで消費者庁がどういう見解なのかを整理すると、
「小売店が、商品Aの購入を条件とせず商品を一定額以上購入した者を対象に懸賞を行う場合は、
 
購入商品の中にたまたま商品Aが含まれていたとしても
 
同一の取引とは認められない」
といっているわけですから、「たまたま」でない場合、つまり、必然的に商品Aが含まれる場合、あるいはもっと端的に、商品Aの購入を条件(の1つ)にしている場合、ということになるのでしょう。
 
あるいは、小売店の参加資格者の範囲が、メーカーの参加資格者の範囲と同一か、あるいは、メーカーの参加資格者の範囲に完全に含まれる場合、ともいえます。
 
式であらわせば、
小売店企画参加資格者⊆メーカー企画参加資格者
 
(小売店企画参加資格者は、メーカー企画参加資格者の部分集合である)
の場合に合算される、ということです。
 
先のキャンペーン表記方法にしたがえば、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
 
(小売店)=(懸賞;商品A,条件2,条件3,・・・)
という場合には合算されます。
 
もう少し一般化すれば、
(最初の事業者)=(懸賞;条件A)
 
(次の事業者)=(懸賞;条件A,条件B,条件C・・・)
という場合には合算されます。
 
反対に、消費者庁Q&Aの立場では、両参加資格者が一部だけ重なるにすぎない場合(包摂関係にない場合)や、まったく重ならない場合は、合算されないことになります。
 
やや注意を要するのは、何を「条件A」と表現すべきかは、論理的にきちんと分析する必要があることです。
 
たとえば、メーカーが1000円以上の購入者に懸賞で景品を提供し、小売店が2000円以上の購入者に懸賞で景品を提供する場合、式で書くと、
(メーカー)=(懸賞;1000円)
 
(小売店)=(懸賞;2000円)
ですが、小売店企画参加資格である2000円購入者は必然的に1000円購入者でもあるので、この場合は合算されます。
 
なのでこの式は論理的には、
(メーカー)=(懸賞;1000円)
 
(小売店)=(懸賞;1000円,(さらに追加で)1000円)
と書くべきことになります。
 
(余談ですが、こういう議論をしていると、ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』の、数は対象ではない、基底への操作の反復である、という考えが思い出されます。)
 
そして、運用基準の定めは総付運用基準でもまったくおなじですから、上記Q&Aの見解は、総付同士の場合にもあてはまると考えられます。
 
以上の検討は、つとに、
加藤ほか編『景品表示法の法律相談』(青林書院)61頁以下(石井崇弁護士執筆部分)
で詳しく分析されているところで、今回の記事はこれに触発されたものです。
 
この本は雑誌「公正取引」に書評を書かせていただいたのですが、ほんとうに論理的で、景表法の深い理解には欠かせない、おすすめの本です。
 

2018年3月 1日 (木)

他社の懸賞に追加して懸賞で景品を提供する場合

懸賞告示運用基準5(2)では、
「(2) 同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。
 
ア 〔省略。同一事業者が行う場合→合算〕
 
イ 〔省略。複数事業者が共同して行う場合→合算〕
 
ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
とさだめられています。
 
さて、このウは、どのような場合を想定しているのでしょうか。
 
大元編著『景品表示法〔第5版〕』(緑本)p195では、
「例えば、メーカーが商品の購入者に懸賞による景品類(最高額の限度内)を提供しているときに、
 
小売業者が独自にその懸賞の当選者に別途の懸賞による景品類を追加して提供する場合は、
 
小売業者にとって景品類の合算額が最高額の制限を超えないようにしなければならない。」
と解説されています。
 
具体的にはどういうことでしょうか。
 
これについては消費者庁ホームページの景品類Q&Aの34番(メーカーと小売店が同時期に実施する懸賞企画の考え方)に、
「メーカーが、商品A(1,000円)の購入者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーンを実施し、同時期に、
 
小売店が、メーカーが行う懸賞とは別に、商品Aを必ず含んで、1,500円分以上の商品を購入した者を対象に抽選により景品を提供するキャンペーンを実施する場合、
 
提供できる景品の最高額及び総額はどのように算定すればよいでしょうか。
 
なお、この2つの企画は、それぞれ独自に実施するものであり、共同企画ではありません。」
という設問があります。
 
ここで、
(景品提供者)=(懸賞・総付の別;参加条件1,参加条件2,・・・)
というスタイルで2つの懸賞をあらわすと、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
 
(小売店)=(懸賞;商品A〔1000円〕,1500円)
となります。
 
さて、回答は、この事例は運用基準5(2)ウにあたるとしたうえで、
「この場合において、重複当選を制限していないのであれば
 
提供できる景品類の最高額は、
 
メーカーの懸賞では、商品Aの価額〔1000円〕の20倍(2万円)であり、一方、
 
小売店の懸賞では、応募の条件である1,500円の20倍(3万円)からメーカーが提供する景品類の価額を差し引いた価額です
 
(例…メーカーが、最高15,000円の景品類を提供する場合、小売店が提供できる景品類の最高額は、30,000円-15,000円=15,000円となります。)。」
としています。
 
ここで
重複当選を制限していないのであれば
という部分は、運用基準5(2)ウの
その懸賞の当選者に対して更に
の部分に対応しているわけですね。
 
逆に言うと、もし重複当選を禁止するなら、運用基準5(2)ウの、
その懸賞の当選者に対して更に
の要件はみたさないので、運用基準5(2)ウは適用されないわけです。
 
では重複当選を禁止する場合にはどうなるのかといえば、それは当然、それぞれの懸賞企画の限度額いっぱいまで景品を出せると解されます(両方の企画から景品を受け取るひとがいないので、あたりまえです)。
 
ここで注意を要するのは、運用基準5(2)ウが想定しているのは、Q34のように、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
 
(小売店)=(懸賞;商品A〔1000円〕,1500円)
というような場合であって、けっして、
(メーカー)=(懸賞;商品A〔1000円〕)
 
(小売店)=(懸賞;商品A〔1000円〕,メーカー企画当選,1500円)
という場合ではありません。
 
ふつうの日本語で言うと、運用基準5(2)ウは、追加提供する事業者〔=小売店〕が最初の事業者〔=メーカー〕の懸賞の当選者だけに参加資格を与えるものにかぎられない、ということです。
 
もう一度運用基準5(2)ウをみると、
「ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞〔=メーカーの懸賞〕の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
とされており、うっかりすると、メーカーの懸賞の当選者のみにに参加資格をあたえるようなものを想定しているのかなと思ってしまうのですが、注意してよむと、運用基準5(2)ウが言っているのは、
「ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞〔=メーカーの懸賞〕の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
といっているのであり、小売店企画の参加資格をメーカーから景品をもらった人(メーカー当選者)に限ろうが限るまいが、結果的にメーカー当選者に追加で景品をあげるなら(つまり重複当選可能なら)、文言上、
当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した
にあたることはあきらかであり、よって、小売店の企画の参加資格自体がメーカー当選者である必要はないこともあきらかです。
 
もし、小売店がメーカー当選者だけに懸賞参加資格をあたえる場合を想定しているなら、運用基準5(2)ウは、
「(改ウ) 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類の提供を受ける資格を与え、当選者に景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
となっていたはずです。
 
ただ、運用基準5(2)ウにも難点があります。
というのは、この定め方だと、あらかじめ重複当選を禁止していなくても、結果的に重複当選しなければ、結果オーラーで許されてしまうと解されかねないのです。
 
そういう目で運用基準5(2)ウをじーっとながめると、たしかに、
「ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
といっており、これは現に「追加した」場合のことをいっているのであって、結果的に追加しなかった(両方の企画に当選した人はいなかった)場合については触れていない、と読まざるを得ません。
 
もしこういう結果オーライを認めない規定にするなら、
「(改ウ) 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加提供する可能性がある場合は、追加する事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」
とすべきなのでしょう。
 
もちろん現行の運用基準もこのような結果オーラーを認める趣旨ではないと思われますし、前記緑本ものそのような解説になっています。
 
もし、このような抜け穴を意識しながら、それを埋める意図でこういう解説をしているとしたら、なかなかやるなぁ、と思います。
 
ちなみに、1等同士を合計すると限度額をこえるときには重複当選を一切禁止しなければならないわけではなく、たとえばメーカー懸賞1等と小売店懸賞2等を合計しても限度額を超えないなら、メーカー1等当選者に小売店が2等を当選させる(重複当選させる)ことはもちろん可能です。
 
伝統的なクジなら、当たりくじがでたのに「失格」というのは非常に忍びないので、こまかい重複当選の要件設定は現実味が低そうですが、コンピューターのくじなら、失格する場合にははじめから「ハズレ」を出すようにできるので、あんがい現実味があるかもしれません。

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