医療機器と雑貨のちがい
薬機法では、医療機器と、いわゆる健康雑貨の区別がよく問題になります。
ある商品が医療機器に該当するなら承認をえないと製造できないし、広告もできません。
これに対して雑貨ならそのような規制はありません。
そこで医療機器と雑貨のちがいは大きな問題です。
では、薬機法の規制がおよぶ医療機器とは何でしょうか。
薬機法2条4項では、医療機器は、
「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるもの」
と定義されています。
ここでポイントは、医療機器の場合は医薬品とちがって、「政令で定めるもの」という明確な限定があることです。
つまり、いくら医療機器っぽい効果をうたっていても、政令で定めるものにあたらないのであれば、定義上、医療機器には該当するはずがありません。
これに対して医薬品の場合には、たとえば薬機法2条1項2号では、
「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等
(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム
(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)」
というように、基本的に目的で定義される形になっているので、治療目的をうたう健康食品は定義上医薬品に該当してしまうわけです。
ところが前述のように、医療機器の場合には、「目的」も要件にはなっていますが、治療目的があるからといってそれだけで医療機器になるわけではなく、さらに、「政令で定めるもの」に該当する必要があるのです。
この、医療機器と医薬品の定義の構造のちがいは非常に重要で、しばしば誤解されているところです。
たとえばこちらのサイトでは、
「例えば、サポーターのような健康用品において、「着用するだけで、自然と骨格が改善され、筋力もアップします」と広告表記した例で考えてみます。
薬機法上、医療機器とは、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。」と規定されており(法第2条第4項)、上記商品の効能効果を読んでいると、「人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具」に該当するように思えます。「機械器具」ってなんやねんっていう解釈上の問題もありますが、実務的に言うと、もろに該当しています。そのように、薬機法上の「医療機器」に該当するにもかかわらず、広告宣伝を行う際に、「健康雑貨」と標ぼうするだけで、薬機法の広告規制が及ばないとすることは、無承認無許可医療機器の広告を禁止した法の趣旨を没却させることになりかねず、妥当ではありません。要するに、「健康雑貨(または美容器具類)」と標ぼうして広告を行ったとしても、上記定義に照らして、「医療機器」に該当する場合には、法第68条に違反していることになります。十分にご注意ください。※ なお、「医療機器」と「健康雑貨類」との区別基準については、「医薬品」と「食品」との区別のように、通達によって明確な区別基準が示されているわけではありません。」
と説明されています。
しかしこれでは、
「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)」
の部分は説明していますが、
「政令で定めるもの」
の部分の説明はすっぽり落ちています。
そしてここでの「政令」というのは薬機法施行令1条で、同条では、
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「法」という。)第二条第四項の医療機器は、別表第一のとおりとする。」
と規定されており、別表第一をみると医療機器が、「手術台及び治療台」など限定列挙されているのがわかります。
そしてそれぞれの項目の具体的な内容は、昭和36年2月8日薬発第44号別表2に詳しく書かれています。
たとえば、
「八三 医療用物質生成器」
については、
「オゾン治療器、医療用電解水(放射能含有水を含む。)製造装置等医療用物質を生成する器械(その製造した医療用物質の販売を主な目的とする器械類を除く。)をいう。」
といった具合です。
しかし前記サイトの「サポーターのような健康用品」にあたりそうなものは、政令のどこをみても出てきません。
したがって「サポーターのような健康用品」については、医学的な治療効果を標榜しても、定義上、医療機器には該当しないことになります(政令に載ってないので)。
(なお、サポーターに磁石を取り付けたものは、施行令別表第1の81番にいう「磁気治療器」のうちの「家庭用永久磁石磁気治療器」(「薬事法の施行について」昭和三六年二月八日・薬発第四四号)にあたる可能性がありますが、それは磁石をつけているからであって、サポーター(=関節などをsupportするもの)であるかどうかは関係がありません。)
またこちらのサイトでは、
「電動のもみ玉を内蔵したクッションの販売を考えています。医療機器として販売するか、雑貨として販売するか迷っていますが、違いなどあれば教えてください。」
という質問に対して、
「医療機器の該当性は、機器の構造と標榜する効能の2側面から決まります。電動式のもみ玉を使ってマッサージする構造のもので、コリや血行促進を標榜する場合は、クラスⅡの家庭用管理医療機器に該当します。医療機器のクラス分類の考え方はリスクに基づいた分類方法と考えてください。クラスⅠは不具合が生じても人体への影響がほとんどないもの、クラスⅡは影響が軽微なものです。Ⅰは例えば体温計や聴診器ですが、Ⅱは家庭用のマッサージ器などが該当します。人体に埋め込むもの等さらにリスクの高いものはクラスⅢやⅣに区分されます。次は雑貨について考えてみましょう。上述したものと同じような、電動のもみ玉を使った構造のものであっても、コリや血行など医療機器的な効能を標榜しなければ、医療機器には該当せず、雑貨で販売することが可能です。例えば、もみ玉による効果が「リフレッシュする」や「気持ちよくなる」「活き活きする」等の抽象的な変化なら医療機器の効能とはいえません。雑貨の場合は販売に当たって許可などは不要ですが、クラスⅡの医療機器は第2種の医療機器製造販売業許可が必要になります。」
と説明されています。
この説明も、政令への明示的な言及がなく、機器の構造と標ぼうする効能の2点だけから医療機器かどうかが決まるかのように説明しており、字面だけみると誤解をまねきそうな説明ですが、質問の「電動のもみ玉を内蔵したクッション」は政令別表2の
「79 指圧代用器(指圧の原理を応用して治療する器具類)」
に該当しうるという前提なのでしょう。
そうであれば、まあ結論としては間違ってはいないのかな、と思います。
反面、
「医療機器的な効能を標榜しなければ、医療機器には該当せず」
と断言するのは疑問です。
薬機法上、医療機器の定義は治療等目的と政令という2つの要件からなるのであり、目的さえあれば1つめの要件は満たすわけです。
あくまで、医療的な効果の標ぼうは、機器の構造と同じく、治療等目的の判断の一要素である、と考えるべきでしょう。
その意味で、同じ構造の機器でも、治療等目的を標榜すれば医療機器にあたり、標ぼうしなければあたらない、ということはありえるでしょう。
ちなみに、治療等目的があるからといって当然に医療機器にあたるわけではない(政令で列挙されているどれかにあたらないといけない)ということは、厚労省の通達にもあらわれています。
つまり、
「医薬品等の広告について(平成10年3月31日医薬監第60号)」
では、医療機器と雑貨を同一紙面で広告する場合についてですが、
「医薬品等薬事法で規制されるものと、いわゆる雑貨等薬事法で規制されないものを同一紙に掲載する場合であって、雑貨等があたかも医薬品等的な効能効果があるごとく一般消費者に認識させる場合には、薬事法第68条に基づき指導する」
とされています。
もし、雑貨が医療的効果を標ぼうするだけで医療機器に該当するなら、薬機法68条(未承認医薬品等の広告禁止)違反なのですから、「指導する」だけですむわけはなく、「68条違反である」とされたはずです。
そうされなかったのは、ほかでもなく、雑貨について医療的効果を標ぼうするだけでは68条違反にはならないからです。
なので、行政指導も法律と同じくらい大事だという事業者の方は、雑貨について治療等効果を標ぼうするのは控えるべきでしょうし、わたしも雑貨に治療等効果を標ぼうするのは望ましくない(場合によっては景表法違反にもなる)と思いますが、少なくとも薬機法の解釈論としては、政令でまったく指定されていない物(サポーターなど)が治療等効果を標ぼうするだけで医療機器に該当するということはありえません。
ちなみに、広告媒体によっては、治療等効果を標ぼうする雑貨は医療機器に該当するかどうかにかかわらず広告に載せない、という基準を採用しているところもあるようです。
« 【お知らせ】雑誌「公正取引」に執筆しました。 | トップページ | 「打消し表示に関する実態調査報告書」について »
「景表法」カテゴリの記事
- 【お知らせ】『景品表示法対応ガイドブック』の改訂版が出ます。(2024.10.22)
- チョコザップに対する措置命令について(2024.08.30)
- 差止請求の公表に関する消費者契約法施行規則28条の「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」の解釈について(2024.08.24)
コメント
« 【お知らせ】雑誌「公正取引」に執筆しました。 | トップページ | 「打消し表示に関する実態調査報告書」について »
こんにちは。マッサージの箇所が気になりました。雑貨で「モミ玉の動きでマッサージ」「モミ玉の動きで揉む」などの、コリや血行までの効果の説明しない表現も違反になるのでしょうか。
投稿: | 2018年7月26日 (木) 08時48分