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2018年2月

2018年2月28日 (水)

今朝の日経朝刊1面の「アマゾン『協力金』要求」という記事について

今朝の日経朝刊1面トップに、
「アマゾン『協力金』要求 

取引先に販売額の1~5%」 
という記事が出ており、その中で、「企業間の商取引に詳しい牛島総合法律事務所の川村宜志弁護士」のコメントとして、
「合理的な根拠があればメーカーに協力金の負担を求めること自体に問題はないが、

取引停止などを条件に支払いを強要すれば独占禁止法違反における優越的地位の乱用に抵触するおそれがある」
と出ています。

しかし、わたしはこれはおかしいと思います。

(ちなみに川村先生とは面識はありませんし、同先生に対して個人的に思うところはなにもございません。日経1面トップなのでほおっておけないという、純粋にそれだけの気持ちです。というわけで、川村先生、やり玉にあげるようで申し訳ないですが、言論の自由に免じてご容赦ください。)

優越的地位の濫用は、独禁法2条9項5号で、
「五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。」
と定義されています。

これは一般に、優越的地位と濫用行為の両方が必要だと解されています。

協力金は文言上、ロの「経済上の利益」にあたるとはいえますが、「正常な商慣習に照らして不当」というのは相当ハードルが高く、とりわけ、アマゾンについて報じられているような販売額に応じたものなら、なおさらこれに該当するのはきわめて例外的な場合に限られると思います。 

これについての川村弁護士のコメントの、
「合理的な根拠があればメーカーに協力金の負担を求めること自体に問題はない」
という部分からして、さも合理的根拠があることが違法性阻却事由であるかのように読める点で非常に誤解を招くのですが、後半の、
「取引停止などを条件に支払いを強要すれば独占禁止法違反における優越的地位の乱用に抵触するおそれがある」
という部分は、もっと問題です。

(なお、「取引停止などを条件に支払いを強要」という日本語は、論理的に読むと、「取引停止など」の条件を満たした人に対して「支払いを強要」する、というふうに読めて日本語として少し変なのですが、そこは、取引停止をちらつかせながら強要する、あるいは、支払わないと取引停止にするとおどす(つまり、協力金を支払うことが、取引停止しないことの条件である)、という意味に解釈しておきます。)

商取引の交渉なのですから、最終的に合意に至らなければ、取引停止もありうるのは当然のことです。

取引先にとってまったく合理性のない協力金(たとえばスーパーで値引きセールなどのイベントをするのでそれへの協力金など)なら、濫用、あるいは、「正常な商慣習に照らして不当」といえるでしょうが、販売額に応じた協力金なんて、経済的な実質はたんなる値引き以外の何物でもありません。

それなのに、取引停止をちらつかせたら違法だ、なんていうことはありえません。

もちろん交渉上はいきなり取引停止をちらつかせることはないでしょうし(利益が上がっている商品なら取引を停止すること自体アマゾンにとっても損失なわけですから、するはずがありません)、しないほうがよいですが、それと、優越的地位の濫用は別の話でしょう。

ヤマト運輸が4割もの大幅値上げをして、応じない多くの取引先が取引を切られたという報道がありましたが、そのときに、ヤマト運輸の値上げが優越的地位の濫用だという意見は聞いたことがありません(私が知らないだけかもしれませんが)。

ヤマトの値上げが濫用にならなくて、どうしてアマゾンの協力金が濫用になるのでしょうか?

もしヤマト運輸は日本企業でアマゾンは外国企業だから、という心理がはたらいているとしたら、独禁法を外資たたきに使うどこかの国と変わりません。

もし、「協力金」というネーミングに引きずられて、下請法の代金減額を連想したというなら、それも問題です。

(アマゾンさんも「協力金」というネーミングは印象がよくないので、もし使っているなら、名前は変えた方がいいです。)

もしかしたら「協力金」というネーミングでなかったら、日経の記者の方も、独禁法のコメントを取ろうとすら思わなかったかもしれません。

(日経の記者の方が「協力金」というネーミングをしたのかもしれない、というのは完全な邪推です。)

それくらい、ネーミングというのはおそろしいものがあります。

新聞である以上は、センセーショナルに取り上げるのはしかたないことかもしれませんし、独禁法について触れることも自然なことかもしれません。

もし私がコメントを求められたら、「優越的地位の濫用にはあたらないでしょうね。よっぽどひどい交渉をしたら別ですが」というくらいのコメントをしそうですが、そうしたら記事にはコメントは使われないでしょう(取り上げる意味がないので)。

でも、新聞とはそういうものでしょう。

というわけで、この協力金を独禁法違反だというのは、いくらなんでも行き過ぎです。

下請法の代金減額だって、きちんと額が特定できるような形で協力金を契約書に書き込んで、3条書面で契約書に言及する形で引用しておけば減額にはならない(なるとしたら買いたたきくらい)のであって、でもそんな細かいことを契約書に書くような発注者はほとんどいない(細部まで決めずに融通無碍に使えるところが協力金の良さでもあります)からあれだけたくさん事件になるにすぎません。

優越的地位の濫用なら、事前にきちんと交渉した結果なら、なおさら違反になるはずがありません。

そのときに、最終的には取引停止に至っても何ら問題はありません。

取引停止をちらつかせて交渉するから違法になるのであって、いうことをきかない取引の相手方にはちらつかせることなくいきなり取引を切ればいいのではないか、という意見もあるかもしれませんが、そんな小細工も不要です。

アマゾンもヤマトとおなじように、正々堂々と、「この条件を承諾いただけないなら、取引はお断りします」といえばよいのです。

こんなのが独禁法違反になるなら、独禁法自体が自由な価格競争を阻害しているといわれてもしかたないでしょう。

そして、おそらく公取委も、本件には全く関心は示さないと思います。

2018年2月27日 (火)

「人材と競争政策に関する検討会報告書」について

CPRCから2月15日に「人材と競争政策に関する検討会報告書」が出ました
 
当事務所(日比谷総合法律事務所)の多田敏明弁護士がこの検討会の委員をつとめていますが、それはそれとして、率直に感じたところを述べます。
 
まずこの報告書は、今まで独禁法ではあまり注目されてこなかったフリーランスという就労形態に目をつけたところが非常に価値があると思います。
 
わたし個人としては、優越的地位の濫用をあまり活発に運用することは競争を阻害するので反対なのですが、少なくとも、フリーランスの置かれる圧倒的に不利な交渉上の地位を考えると、フリーランスの分野に優越的地位の濫用が適用されるのは、とてもしっくり来ます。
 
実務の実態はむしろ、取引依存度0.5%でも優越的地位にあるとか、トイザらスがユニ・チャームに対して優越しているとか、ほんとうにわけのわからない運用になっているので、それに比べればはるかにまともな運用ができると思います。
 
フリーランスは、欧州の搾取的濫用といえそうなものもけっこうありそうです。
 
というわけで、この報告書で優越的地位の濫用について述べているところは、公取委が(小売店の優越などに人材を割くのをやめて)積極的に取り締まってくれたらよいなあと期待します。
 
問題は、この報告書が競争者の取引妨害についてのべているところです。
 
この報告書は、共同行為の部分以外(つまり単独行為、あるいは不公正な取引方法)は、
①自由競争減殺
 
②競争手段の不公正さ
 
③優越的地位の濫用
に分けているのですが、②の中に取引妨害が何度か出てきます。
 
たとえばp24で、
「・・・役務提供者は発注者と比べて,情報が少なく,また,交渉力も 弱いため,発注者から当該情報が十分に提供されないといった事情から,
 
前記の前提〔役務提供者が役務提供に係る条件に関する 情報を十分把握していること〕が維持されにくい状況にあり,
 
発注者が役務提供者に対して実際と異なる条件を提示して,又は役務提供に係る条件を十分に明らかにせずに取引することで,
 
他の発注者との取引を妨げることとなる場合には,
 
独占禁止法上の問題となり得る」
としている部分です。
 
この部分は何をいっているのかちょっとわかりにくいかもしれませんが、要するに、フリーランスが発注者Aから虚偽またはあいまいな取引条件を提示されるために、発注者Aの競争者(他の潜在的発注者)との取引が妨げられる、といっているのです。
 
 
取引妨害(一般指定14項)は、
「自己〔発注者A〕・・・と国内において競争関係にある他の事業者〔他の発注者〕とその取引の相手方〔フリーランス〕との取引について、
 
契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、
 
その取引を不当に妨害すること。」
という内容で、解釈次第ではまともな競争も違法になりかねず、合理的に限定しようという考えが学説(とおそらく実務も)の主流だと思います。
 
ところが報告書の前記引用部分は、発注者Aが虚偽またはあいまいな発注条件を提示すると、どういう因果の流れ(メカニズム)で、そのフリーランスの人と他の発注者との取引の妨害になるのか、よくわかりません。
 
ひょっとしたら、
本当は専属契約なのに専属契約ではないかのように説明する
とか、
本当は専属契約ではないのにあたかも専属契約であるようにほのめかす
ということが想定されているのかもしれませんが、そんなの、他の発注者の取引を「妨害」したとまでいえるのでしょうか?
 
取引妨害では、妨害にあたることは一応言えて、それが「不当」かどうかで解釈が分かれる、ということが多いように思いますが、このケースはそもそも、「妨害」という要件にすらあたらないような気がします。
 
こんな取引妨害の運用なんて、公取委の審査局の人もびっくりじゃないでしょうか。
 
目のつけどころのよい報告書だけに、この部分だけが残念です。 
 
ところで報告書に、投資インセンティブ確保のための専属契約の必要性について述べている部分があります。
 
14頁の、
「特定の役務提供者に要した人材育成投資費用の回収のために,発注者が 当該役務提供者に対して,移籍や転職といった役務提供者の移動を制限す ることがある。
 
発注者が役務提供者に移動制限を課すことは,発注者の人 材育成投資に対するインセンティブを保持するために必要との議論がある一方,・・・
 
役務提供者が「誰」と「どのような」取引をす るかといった選択の自由を侵害するという側面があり,両者のバランスに ついて留意が必要である」
という部分です。
 
この部分はまったくそのとおり、というか、私見では、選択の自由の侵害をもっと重視すべきだと思います。
 
のん(能年玲奈)のケースが頭に浮かびますが、アイドルは何百人も養成してヒットするのは数名、かもしれません。
 
同じような話は、医薬品で、何万の新薬候補の中で商品化されるのはごく一部、という話があります。
 
医薬品を特許で保護すべきとされる所以です。
 
でも、人間はモノではありません。
 
スポーツ選手もアイドルも、人間なんですから、法的に専属を義務付けるなんて邪道だと思います(程度問題でしょうが)。
 
いつまでも同じチーム、おなじ事務所にいてほしいなら、よい人間関係を築き、満足のできる活躍の場をあたえるべきです。
 
人材のつなぎ止めというのはそうやって行われるべきです。
 
というわけで、いくらめったにヒットしないからといって、投資インセンティブに偏った議論には、私は反対です。
 
(投資インセンティブあるいはフリーライドの議論には一般的に私は懐疑的ですが、この場面では特にそうです。)
 
それに新薬は見つけた製薬会社がえらいのでしょうけれど、スポーツ選手やタレントは本人の素質や努力による部分も大きいはずです。
 
というようなことを、「両者のバランス」などとあたりさわりのないことをいわず、バシッといっていただけたらよかったのに、と思います。
 
 

2018年2月22日 (木)

「打消し表示に関する実態調査報告書」について

消費者庁が昨年7月に出した掲題報告書についてコメントしておきます。
 
この報告書でびっくりしたのは、体験談についての以下の記述です(84頁)。
「今回の調査結果から、実際に商品を摂取した者の体験談を見た一般消費者は「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識を抱き、「個人の感想です。効果には個人差があります」、「個人の感想です。効果を保証するものではありません」といった打消し表示に気付いたとしても、体験談から受ける「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識が変容することはほとんどないと考えられる。
 
また、広告物は一般に商品の効果、性能等を訴求することを目的として用いられており、広告物で商品の効果、性能等を標ぼうしているにもかかわらず、「効果、効能を表すものではありません」等と、あたかも体験談が効果、性能等を示すものではないかのように記載する表示は、商品の効果、性能等を標ぼうしていることと矛盾しており、意味をなしていないと考えられる。
 
このため、例えば、実際には、商品を使用しても効果、性能等を全く得られない者が相当数存在するにもかかわらず、商品の効果、性能等があったという体験談を表示した場合打消し表示が明瞭に記載されていたとしても一般消費者は大体の人が何らかの効果、性能等を得られるという認識を抱くと考えられるので、商品・サービスの内容について実際のもの等よりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上問題となるおそれがある。」
つまり、体験談を見た人は、仮に「個人の感想です」という打消し表示をみても効果があると認識するので、打消し表示には意味がない、不当表示だ、というのです。
 
その根拠として報告書では、打消し表示を見る前と見た後で「『大体の人』が効果が得られると思う」とした人が42.8%から36.6%に変化し、数値としては下がっているが依然としてかなりの人が効果があると認識しているという事実が確認できた、ということをあげています。
 
こういう、実験をして具体的なデータを示されるととても説得力があり、この報告書のハイライトといえるでしょう。
 
わたしはあまり体験談が広告で使われるようなダイエット食品とかを買わないので実感がわかないのですが、たしかに、体験談というのはインパクトが強いんだろうなあという気がします。
 
そうすると、報告書が述べるところはたしかにそのとおりなのですが、体験談がこれだけ世の中に氾濫していることからすると、報告書の立場は注目に値します。
 
もちろん体験談自体がねつ造ややらせであったら不当表示なのは当然で、世の中にはこの手のものが少なくないと想像します。
 
一般消費者のようなふりをして実は役者が演技していた、というのも完全なやらせです。
 
わたしが以前経験した中にも、八百屋さんかなにか(と思われる)人物が顔写真入りの新聞広告で、「効果抜群で驚いています」みたいなコメントをしていたのを、とある役所か広告媒体から問題があると指摘されて、その会社は次の日には別のコメントに差し替えてきた、というのがありました。
 
一日で本人に取材したわけではないので明らかに会社が勝手にコメントを差し替えていたのですが(そうすると、最初にそもそも本当に取材したのかも怪しいもんですが)、世の中の広告なんてしょせんこんなものなんだなあと思いました。
 
個人の体験談なんて、たまたまその人だけに効いたのかどうかもわからないし、その人だって別の理由で効いた(食事や、運動や、プラシーボ効果)のかもしれません。
 
現に医薬品では、
「(5)使用体験談等について 愛用者の感謝状、感謝の言葉等の例示及び「私も使っています。」等使用経験又は体験談的広告は、客観的裏付けとはなりえず、かえって消費者 に対し効能効果等又は安全性について誤解を与えるおそれがあるため以 下の場合を除き行ってはならない。
 
なお、いずれの場合も過度な表現や保証的な表現とならないよう注意すること。
 
①目薬、外皮用剤及び化粧品等の広告で使用感を説明する場合
 
ただし、使用感のみを特に強調する広告は、消費者に当該製品の使用目的を誤らせるおそれがあるため行わないこと。
 
②タレントが単に製品の説明や呈示を行う場合 」
と、体験談を広告で使うことが原則禁止されています(薬生監麻発0929第5号別紙)。 
 
報告書を出すだけでは「言いっぱなし」なので、ぜひ消費者庁には、実際の事件で体験談を取り上げていただきたいところです。
 
ところで、この報告書は、どれくらいの人がふだんから打消し表示を読むかもアンケートで調べていて、それはそれでおもしろいのですが、この点はちょっと視点がずれているように思います。

というのは、広告を目にする人の中にも、まったくその商品に関心のない人もたくさんいるわけで、そういう人が打消し表示まで読まないのはあたりまえだし、不当表示ということでもないと思います。

まずは目を惹いて、興味を持ってもらえたひとに打消し表示を読んでもらえたらいいのであって、一般的に打消し表示を見る人が少ないからといって、それ自体を問題視する必要はないでしょう。

要は、購入する意思決定をするまでの間にきちんと商品の内容や取引条件がわかればいいのであって、広告を見た瞬間に細かいところまですべて理解させるのは無理でしょう。

なので、広告を目にした人や、広告に興味をひかれた人を分母にするのはちょっとずれていて、実際に買った人(と、買おうと思ったけど打消し表示をみてやめた人)を分母にするのが正しいのではないかと思います。

2018年2月21日 (水)

医療機器と雑貨のちがい

薬機法では、医療機器と、いわゆる健康雑貨の区別がよく問題になります。
 
ある商品が医療機器に該当するなら承認をえないと製造できないし、広告もできません。
 
これに対して雑貨ならそのような規制はありません。
 
そこで医療機器と雑貨のちがいは大きな問題です。
 
では、薬機法の規制がおよぶ医療機器とは何でしょうか。
 
薬機法2条4項では、医療機器は、

「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、
 
又は
 
人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと
 
目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、
 
政令で定めるもの」 
と定義されています。
 
ここでポイントは、医療機器の場合は医薬品とちがって、「政令で定めるもの」という明確な限定があることです。
 
つまり、いくら医療機器っぽい効果をうたっていても、政令で定めるものにあたらないのであれば、定義上、医療機器には該当するはずがありません。
 
これに対して医薬品の場合には、たとえば薬機法2条1項2号では、 

「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、
 
機械器具等

(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム

(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)
及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)
でないもの
 
(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)」
というように、基本的に目的で定義される形になっているので、治療目的をうたう健康食品は定義上医薬品に該当してしまうわけです。
 
ところが前述のように、医療機器の場合には、「目的」も要件にはなっていますが、治療目的があるからといってそれだけで医療機器になるわけではなく、さらに、「政令で定めるもの」に該当する必要があるのです。
 
この、医療機器と医薬品の定義の構造のちがいは非常に重要で、しばしば誤解されているところです。
 
たとえばこちらのサイトでは、 

「例えば、サポーターのような健康用品において、「着用するだけで、自然と骨格が改善され、筋力もアップします」と広告表記した例で考えてみます。
 
薬機法上、医療機器とは、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。」と規定されており(法第2条第4項)、上記商品の効能効果を読んでいると、「人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具」に該当するように思えます。「機械器具」ってなんやねんっていう解釈上の問題もありますが、実務的に言うと、もろに該当しています。
 
そのように、薬機法上の「医療機器」に該当するにもかかわらず、広告宣伝を行う際に、「健康雑貨」と標ぼうするだけで、薬機法の広告規制が及ばないとすることは、無承認無許可医療機器の広告を禁止した法の趣旨を没却させることになりかねず、妥当ではありません。
 
要するに、「健康雑貨(または美容器具類)」と標ぼうして広告を行ったとしても、上記定義に照らして、「医療機器」に該当する場合には、法第68条に違反していることになります。十分にご注意ください。
 
※ なお、「医療機器」と「健康雑貨類」との区別基準については、「医薬品」と「食品」との区別のように、通達によって明確な区別基準が示されているわけではありません。」
と説明されています。
 
しかしこれでは、

「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)」
の部分は説明していますが、

「政令で定めるもの」
の部分の説明はすっぽり落ちています。
 
そしてここでの「政令」というのは薬機法施行令1条で、同条では、

「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「法」という。)第二条第四項の医療機器は、別表第一のとおりとする。」
と規定されており、別表第一をみると医療機器が、「手術台及び治療台」など限定列挙されているのがわかります。
 
そしてそれぞれの項目の具体的な内容は、昭和36年2月8日薬発第44号別表2に詳しく書かれています。
 
たとえば、 

「八三 医療用物質生成器」
については、

「オゾン治療器、医療用電解水(放射能含有水を含む。)製造装置医療用物質を生成する器械(その製造した医療用物質の販売を主な目的とする器械類を除く。)をいう。」
といった具合です。
 
しかし前記サイトの「サポーターのような健康用品」にあたりそうなものは、政令のどこをみても出てきません。
 
したがって「サポーターのような健康用品」については、医学的な治療効果を標榜しても、定義上、医療機器には該当しないことになります(政令に載ってないので)。
 
(なお、サポーターに磁石を取り付けたものは、施行令別表第1の81番にいう「磁気治療器」のうちの「家庭用永久磁石磁気治療器」(「薬事法の施行について」昭和三六年二月八日・薬発第四四号)にあたる可能性がありますが、それは磁石をつけているからであって、サポーター(=関節などをsupportするもの)であるかどうかは関係がありません。)
  
またこちらのサイトでは、

「電動のもみ玉を内蔵したクッションの販売を考えています。医療機器として販売するか、雑貨として販売するか迷っていますが、違いなどあれば教えてください。」
という質問に対して、 

「医療機器の該当性は、機器の構造と標榜する効能の2側面から決まります。
 
電動式のもみ玉を使ってマッサージする構造のもので、コリや血行促進を標榜する場合は、クラスⅡの家庭用管理医療機器に該当します。
 
医療機器のクラス分類の考え方はリスクに基づいた分類方法と考えてください。
 
クラスⅠは不具合が生じても人体への影響がほとんどないもの、クラスⅡは影響が軽微なものです。
 
Ⅰは例えば体温計や聴診器ですが、Ⅱは家庭用のマッサージ器などが該当します。
 
人体に埋め込むもの等さらにリスクの高いものはクラスⅢやⅣに区分されます。
 
次は雑貨について考えてみましょう。
 
上述したものと同じような、電動のもみ玉を使った構造のものであっても、コリや血行など医療機器的な効能を標榜しなければ、医療機器には該当せず、雑貨で販売することが可能です。 
 
例えば、もみ玉による効果が「リフレッシュする」や「気持ちよくなる」「活き活きする」等の抽象的な変化なら医療機器の効能とはいえません。
 
雑貨の場合は販売に当たって許可などは不要ですが、クラスⅡの医療機器は第2種の医療機器製造販売業許可が必要になります。」
と説明されています。
 
この説明も、政令への明示的な言及がなく、機器の構造と標ぼうする効能の2点だけから医療機器かどうかが決まるかのように説明しており、字面だけみると誤解をまねきそうな説明ですが、質問の「電動のもみ玉を内蔵したクッション」は政令別表2の

「79 指圧代用器(指圧の原理を応用して治療する器具類)」
に該当しうるという前提なのでしょう。
 
そうであれば、まあ結論としては間違ってはいないのかな、と思います。
 
反面、

「医療機器的な効能を標榜しなければ、医療機器には該当せず」
と断言するのは疑問です。
 
薬機法上、医療機器の定義は治療等目的と政令という2つの要件からなるのであり、目的さえあれば1つめの要件は満たすわけです。
 
あくまで、医療的な効果の標ぼうは、機器の構造と同じく、治療等目的の判断の一要素である、と考えるべきでしょう。
 
その意味で、同じ構造の機器でも、治療等目的を標榜すれば医療機器にあたり、標ぼうしなければあたらない、ということはありえるでしょう。
 
ちなみに、治療等目的があるからといって当然に医療機器にあたるわけではない(政令で列挙されているどれかにあたらないといけない)ということは、厚労省の通達にもあらわれています。
 
つまり、

「医薬品等の広告について(平成10年3月31日医薬監第60号)」
では、医療機器と雑貨を同一紙面で広告する場合についてですが、

「医薬品等薬事法で規制されるものと、いわゆる雑貨等薬事法で規制されないものを同一紙に掲載する場合であって、雑貨等があたかも医薬品等的な効能効果があるごとく一般消費者に認識させる場合には、薬事法第68条に基づき指導する
とされています。
 
もし、雑貨が医療的効果を標ぼうするだけで医療機器に該当するなら、薬機法68条(未承認医薬品等の広告禁止)違反なのですから、「指導する」だけですむわけはなく、「68条違反である」とされたはずです。
 
そうされなかったのは、ほかでもなく、雑貨について医療的効果を標ぼうするだけでは68条違反にはならないからです。 
 
なので、行政指導も法律と同じくらい大事だという事業者の方は、雑貨について治療等効果を標ぼうするのは控えるべきでしょうし、わたしも雑貨に治療等効果を標ぼうするのは望ましくない(場合によっては景表法違反にもなる)と思いますが、少なくとも薬機法の解釈論としては、政令でまったく指定されていない物(サポーターなど)が治療等効果を標ぼうするだけで医療機器に該当するということはありえません。
 
ちなみに、広告媒体によっては、治療等効果を標ぼうする雑貨は医療機器に該当するかどうかにかかわらず広告に載せない、という基準を採用しているところもあるようです。

2018年2月20日 (火)

【お知らせ】雑誌「公正取引」に執筆しました。

「公正取引」2018年2月号(808号)の
 
「特集 公正取引委員会における国際的な取組及び米国・EUにおける競争政策の動向」
 
という特集に、
 
「米国反トラスト法の最近の運用状況」
 
という論文を執筆させていただきました。

Photo_4

こういう、最近の状況をまとめます、というたぐいの原稿はまずトピックを絞り込むのがたいへんで苦労するのですが、最近は欧米の法律事務所が要領よくまとめたものがインターネットでも入手できるので助かります。

たとえば、米国大手事務所のWilson Sonsiniのレポートは、大いに参考にさせていただきました。

正直、ありきたりな「おまとめ」的な記事は性に合わないので、この手の特集に一般的に期待されている客観性(あるいは資料的価値)からすると、トピックの選択にも記述のバランスにもわたしの個性がかなり色濃く反映されていますが、反トラスト法の運用の理解が深まりそうな事件(というより、私の理解が深まった事件)をできるだけ盛り込んだつもりです。

今回執筆のためにいろいろ調べてみて、あらためてアメリカは事件が質、量とも豊富で、たくさんの議論の材料を提供してくれるなぁと実感しました。

それに比べると日本では、たとえば入札に参加しないメーカーの売り上げに課徴金がかかるかとか(防護服の談合事件)、競争法の本質とは何の関係もな議論ばかりで、こんな議論ばかりしてると頭にカビが生えてきそうです

日本も最近はLNGの報告書とか、ビッグデータの報告書とか、バンドルディスカウントの報告書とか、フリーランスの報告書とか、報告書のレベルではいろいろと面白いものがあり、それはそれで実務にかなりのインパクトがあって重要なのですが、なにぶん、正式事件のような高揚感を感じることがありません。

と、いったような問題意識を下敷きに書いているんだなぁと思っていただきながら読んでいただけると、筆者としてはとてもうれしいです。

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