今朝の日経朝刊1面の「アマゾン『協力金』要求」という記事について
「アマゾン『協力金』要求
取引先に販売額の1~5%」
「合理的な根拠があればメーカーに協力金の負担を求めること自体に問題はないが、
取引停止などを条件に支払いを強要すれば独占禁止法違反における優越的地位の乱用に抵触するおそれがある」
しかし、わたしはこれはおかしいと思います。
(ちなみに川村先生とは面識はありませんし、同先生に対して個人的に思うところはなにもございません。日経1面トップなのでほおっておけないという、純粋にそれだけの気持ちです。というわけで、川村先生、やり玉にあげるようで申し訳ないですが、言論の自由に免じてご容赦ください。)
優越的地位の濫用は、独禁法2条9項5号で、
「五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。」
これは一般に、優越的地位と濫用行為の両方が必要だと解されています。
協力金は文言上、ロの「経済上の利益」にあたるとはいえますが、「正常な商慣習に照らして不当」というのは相当ハードルが高く、とりわけ、アマゾンについて報じられているような販売額に応じたものなら、なおさらこれに該当するのはきわめて例外的な場合に限られると思います。
これについての川村弁護士のコメントの、
「合理的な根拠があればメーカーに協力金の負担を求めること自体に問題はない」
「取引停止などを条件に支払いを強要すれば独占禁止法違反における優越的地位の乱用に抵触するおそれがある」
(なお、「取引停止などを条件に支払いを強要」という日本語は、論理的に読むと、「取引停止など」の条件を満たした人に対して「支払いを強要」する、というふうに読めて日本語として少し変なのですが、そこは、取引停止をちらつかせながら強要する、あるいは、支払わないと取引停止にするとおどす(つまり、協力金を支払うことが、取引停止しないことの条件である)、という意味に解釈しておきます。)
商取引の交渉なのですから、最終的に合意に至らなければ、取引停止もありうるのは当然のことです。
取引先にとってまったく合理性のない協力金(たとえばスーパーで値引きセールなどのイベントをするのでそれへの協力金など)なら、濫用、あるいは、「正常な商慣習に照らして不当」といえるでしょうが、販売額に応じた協力金なんて、経済的な実質はたんなる値引き以外の何物でもありません。
それなのに、取引停止をちらつかせたら違法だ、なんていうことはありえません。
もちろん交渉上はいきなり取引停止をちらつかせることはないでしょうし(利益が上がっている商品なら取引を停止すること自体アマゾンにとっても損失なわけですから、するはずがありません)、しないほうがよいですが、それと、優越的地位の濫用は別の話でしょう。
ヤマト運輸が4割もの大幅値上げをして、応じない多くの取引先が取引を切られたという報道がありましたが、そのときに、ヤマト運輸の値上げが優越的地位の濫用だという意見は聞いたことがありません(私が知らないだけかもしれませんが)。
ヤマトの値上げが濫用にならなくて、どうしてアマゾンの協力金が濫用になるのでしょうか?
もしヤマト運輸は日本企業でアマゾンは外国企業だから、という心理がはたらいているとしたら、独禁法を外資たたきに使うどこかの国と変わりません。
もし、「協力金」というネーミングに引きずられて、下請法の代金減額を連想したというなら、それも問題です。
(アマゾンさんも「協力金」というネーミングは印象がよくないので、もし使っているなら、名前は変えた方がいいです。)
もしかしたら「協力金」というネーミングでなかったら、日経の記者の方も、独禁法のコメントを取ろうとすら思わなかったかもしれません。
(日経の記者の方が「協力金」というネーミングをしたのかもしれない、というのは完全な邪推です。)
それくらい、ネーミングというのはおそろしいものがあります。
新聞である以上は、センセーショナルに取り上げるのはしかたないことかもしれませんし、独禁法について触れることも自然なことかもしれません。
もし私がコメントを求められたら、「優越的地位の濫用にはあたらないでしょうね。よっぽどひどい交渉をしたら別ですが」というくらいのコメントをしそうですが、そうしたら記事にはコメントは使われないでしょう(取り上げる意味がないので)。
でも、新聞とはそういうものでしょう。
というわけで、この協力金を独禁法違反だというのは、いくらなんでも行き過ぎです。
下請法の代金減額だって、きちんと額が特定できるような形で協力金を契約書に書き込んで、3条書面で契約書に言及する形で引用しておけば減額にはならない(なるとしたら買いたたきくらい)のであって、でもそんな細かいことを契約書に書くような発注者はほとんどいない(細部まで決めずに融通無碍に使えるところが協力金の良さでもあります)からあれだけたくさん事件になるにすぎません。
優越的地位の濫用なら、事前にきちんと交渉した結果なら、なおさら違反になるはずがありません。
そのときに、最終的には取引停止に至っても何ら問題はありません。
取引停止をちらつかせて交渉するから違法になるのであって、いうことをきかない取引の相手方にはちらつかせることなくいきなり取引を切ればいいのではないか、という意見もあるかもしれませんが、そんな小細工も不要です。
アマゾンもヤマトとおなじように、正々堂々と、「この条件を承諾いただけないなら、取引はお断りします」といえばよいのです。
こんなのが独禁法違反になるなら、独禁法自体が自由な価格競争を阻害しているといわれてもしかたないでしょう。
そして、おそらく公取委も、本件には全く関心は示さないと思います。