【お知らせ】『ビジネス法務』2月号にAIとカルテルについての記事を寄稿しました
『ビジネス法務』2月号の
「特別企画 AIで変わる法規制」
という特集の中で、
「デジタル・カルテルが問う『合意』要件」
という記事を寄稿させていただきました。
いわゆるデジタル・カルテルについては、世間の耳目を惹くためか、何も目新しい問題がないのにさも目新しいかのように「煽る」感じの論考が一部にみられ、わたしはそういうのが性に合わないので、この記事では、冷静かつ簡潔に、AIとカルテルの問題をまとめてみたつもりです。
ご興味のある方はご一読いただけるとうれしいです。
少しつけ加えさせていただくなら、デジタルカルテルの難しさは、これに対して過剰な規制をすると、むしろ独禁法の目的の正反対の方向に向かってしまいかねないところではないか、と考えています。
(これはなにも「デジタル」なカルテルにかぎりませんが。)
たとえば道路交通法は、単純にいえば、交通事故をなくすのが目的です。
なので、交通違反を取り締まる警察は、ホンネのところでは、自動車なんて運転してほしくないと考えているかもしれません。
警察は、物流の円滑化や国民の移動の便宜をはかることを使命にする役所ではないからです。
なので、交通事故を減らすことと国民の移動の便宜をはかることのバランスをとるという発想がなく、たとえば高速道路の最高速度引き上げにしても、警察が役所としての使命に基づいてやっているというより、政治家なり、国土交通省なり、外からの圧力で行っているのであり、その際の判断基準はあくまで「交通事故が増えないか」ということです。
(以上は説明の便宜のためにかなり単純化していおり、いわば物の譬えのたぐいであることをご了承ください。)
これに対して公正取引委員会の指名は公正かつ自由な競争を確保することです。
それなのに、合意とはいえない協調行動をあまりきびしく取り締まると、かえって企業を委縮させて競争をさまたげてしまい、公取自らの目的に反することになりかねないのです。
というように、本質的に競争当局というのは、目的ははっきりしているけれどそのための最善の策がはっきりしない、というところに、その権限行使の難しさがあるように思われます。
もちろん、他の役所でも、自らの目的のための最適解がはっきりしないことはあるでしょう。
でも、公取のように、たとえその目的が公正かつ自由な競争の確保の一点にかぎられると考えた場合ですら、何をすれば最善なのかわからない(良かれと思ってやったことが、かえって行政目的自体に反することがある)、という問題に頻繁に出くわす役所もめずらしいのではないかと思います。
このように、デジタルカルテルという視点からながめると、公取委というのは、なんといいますか、超然としている(べき?)というか、他の役所のように「省益」というものを観念しにくい役所のように思います。
役所でもロビーストでもそうですが、使命が決まっている(外から与えられている)のって、頭を使わなくていいから楽ですよね。
極論すれば、一つの方向にめいいっぱい振れていけば、あとは、他の利害関係人からの対抗力で、落ち着くところに落ち着く、という態度が許されるからです。
公取はそうはいきません。
あんまり独禁法の規制強化ばかりいっていると、かえって自らの存在意義を否定しかねないからです。
デジタルカルテルの規制も、一つ間違うと、イノベーションを阻害しかねないわけです。
と、いろいろ考えると、競争当局というのもいろいろ大変だなぁ、と思います。
余談が続いたうえにさらに余談ですが、以前読んだ
Jerry Kaplan, Artificial Intelligence
という本に、Artificial Intelligence(人工知能)というのはネーミングが秀逸(あるいは問題の元凶?)だったのであって、もし、
symbolic processing (記号処理)
とか
analytical computing (分析的コンピュータ処理)
とか呼んでたら、今のようなヒートアップした議論にはならなかっただろうし、もし飛行機をArtificial Bird(人工鳥)と呼んでいたら、(人工知能と人間との関係についての議論の混乱と同じように)飛行機と鳥との関係の議論が混乱したかもしれない、ということが書いてあって、なるほどなあと思いました。
言葉が妄想を生むという好例です。
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