おとり広告告示運用基準では、
「高額な耐久財等について全店舗における販売数量が一括管理されており、全店舗における総販売数量に達するまではいずれの店舗においても取引する場合には、その旨の表示がなされていれば足りる〔おとり広告とはみなさない〕(運用基準第2-2(3))
とされています。
しかし、わたしはこれはおとり広告告示の解釈としておかしいと思います。
これにしたがうと、たとえば冷蔵庫などを他の店舗から取り寄せる体制が整っている場合でも、そのような体制をとっているという事実(「その旨」)を明示しなければならないことになってしまいます。
ですが、在庫の一括管理体制をとっている場合に、そのことをいちいち明示しなければ不当表示になるというのは、あきらかに行き過ぎです。
現にそのような体制がとられているのであれば、消費者には何の不利益もないし、社内でどんな体制をとっているかなんて消費者は関心ないし、ある意味営業秘密でもありうるわけですから、知らせる必要もありません。
もし違いがあるとすれば、冷蔵庫をその日のうちに持って帰りたいという顧客もいるじゃないか、ということかもしれませんが、そんな顧客はかなり少数派のはずです。
運用基準があえて、
「高額な耐久財等」
と例示しているのも、その場で自分が持ち帰ることがあまり考えられない、テレビとか冷蔵庫とか家具のようなものを想定しているのでしょう。
それに、「その日のうちに持って帰りたい客が持って帰れない」から、「おとり広告だ」というのは無茶です。
もし広告で「その日のうちにお持ち帰りできます!」と強調していたのに持ち帰れなかった場合には有利誤認表示になるかもしれませんが、それはおとり広告とは別の話です。
と、実質論をいろいろと述べてみましたが、それだけでは法解釈として心もとないので、おとり広告告示の文言をみてみましょう。
おとり広告告示では、
「一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、
自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う
次の各号の一に掲げる表示
一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示
二 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示
三 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示
四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示」
が、おとり広告であると定義されています。
ぼーっとながめてみただけでも、在庫一括管理している場合は、「取引に応じることができない」(1号)とか、「供給量が著しく限定されている」(2号)とか、「取引の成立を妨げる行為」(4号)とかにはあたらなそうです。
3号の「供給期間」「相手方」「一人当たりの供給量」は、限定列挙なので、在庫一括管理はこれにもあたりようがありません。
というわけで、在庫一括管理に関する前記運用基準の記載は、告示にまったく根拠がありません。
さらに理論的に重要なのは、告示の柱書で、
「自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う」
ということが、おとり広告の要件になっていることです(手段性の要件)。
在庫一括管理の場合に、
「冷蔵庫を買いにきたお客さんに、冷蔵庫をあきらめさせて、テレビを買わせてやろう」
なんて考えているはずはないので、この手段性の要件は満たしません。
というわけで、運用基準を作った人は、告示の条文を読んでいなかったのではないか?と疑われます。
きっと、なんとなく筆が滑っちゃったんでしょうね。
あるいは、手段性の要件を忘れてしまって、その店に在庫が足りない場合がすべておとり広告になる、と勘違いしていたのかもしれません。
景表法関係の運用基準や当局の古い解説には、このような、「条文読んでない」というレベルのものがちらほらみられるので、注意が必要です。
行政というのは、条文を忠実に執行しようというだけではなくて、条文ではグレーなところでも、解釈や運用で(行政効率も含めた意味での)妥当な執行を実現していこうとすることが、ままあるように思われます。
もちろん、それが一概に悪いわけでもないと思います。
ですので、今回取り上げた運用基準も、条文を読んでないのではなくて、わかっていながら確信犯でやった、という可能性も、ないではありません。
でもやっぱり、在庫一括管理していること(店には在庫がないかもしれないこと)を積極的に表示させることで実現される行政目的なんて何もないと思われます。
なので、やっぱり、私は「条文読んでなかった」のではないか、とニラんでいます。