村田園万能茶事件と原産国告示
村田園の万能茶に対する措置命令(平成28年3月10日)では、
「日本の山里を思わせる風景のイラストの記載」
が、原材料が国産であるかのように誤解させる表示であるとされて、「そんなものまで不当表示の対象になるのか」と話題になったのですが、こういう、イラストまで「不当表示」にあたるという解釈についてはいろいろと異論もありうるところかと思います。
この点で興味深いのが原産国告示の規定です。
原産国告示1項1号では、国産品について、
「外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示」
が、2項1号では、外国産品について、
「その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの
表示」
が、それぞれ、原産国をまぎらわしくする表示として規定されています。
この規定について、
利部修二編『商品の原産国表示の実務』(1974年商事法務研究会)
のp53では、
「どの国かがすぐわかる地図はこれ〔国名、地名、国旗、紋章等〕に含まれるが、人物、風景の絵などは含まれない。
(公聴会で、これを含めるべきであるとの意見もあったが、明確な判定ができないので、含めないことにした)」
と説明されています。
つまり、風景についても議論はあったけれど、風景はどの国の風景か明確に判定できないので、意図的に告示の対象外にした、ということです。
たしかに、形式的で迅速な執行が肝(きも)である指定告示の場合と、一般の優良誤認表示の場合を同列に論じることはできませんが、当局の考え方も40年以上たつとずいぶん変わるもんだなぁという印象はぬぐえません。
わたしも講演などでは、
「村田園の風景のイラストがどうして『日本の山里』とわかるのか。韓国や中国かもしれないじゃないか」
と半分冗談でいうのですが、原産国告示の制定時には同じような問題意識があったわけですね。
もう少しまじめにいうと、村田園事件では、「阿蘇の大地の恵み」という文字とセットになっているので、(韓国や中国ではなく)日本の風景だという印象をあたえる、ということなのでしょう。
でも、原産国告示の制定過程の議論のほうが、わたしは、実用的な法律論としては据わりがよいと思います。
なので、「どの国かは風景の絵からはわからない」という原産国告示制定時の議論の趣旨は、優良誤認表示の場合にも十分に参酌すべきだと思います。
指定告示と優良誤認の違いという点も、指定告示の場合には「著しく優良と誤認」という要件の立証が不要だ(景表法5条3号は「誤認させるおそれ」でたりるので)とはいえても、そもそも事実と異なる表示なのかどうか(韓国の山里か、日本の山里か)という点は、両者で判断の仕方を変える理由はないように思います。
最近、どうも長年積み上げてきた実務の知恵を杓子定規な論理でひっくり返すことが多いような気がします。
工業製品は純粋美術と同視できるもののみ著作権で保護されるという従来の判例をくつがえした知財高裁のトリップ・トラップ事件判決(平成27年4月14日)が、よい例です。
景表法の分野では、不実証広告規制の条文には商品の効果・効能に関する不当表示にかぎって同規制を用いることができるという明文の限定がないことを理由に、不実証広告規制のガイドラインを超えて、シェアについて不実証広告規制の適用をしたフリーテルへの措置命令(平成29年4月21日)なんかも、そんな例でしょう。
不実証広告規制のほんらいの趣旨は、商品の性能・効果について消費者庁が立証しないといけないとすると多大な費用と時間がかかるので、一般の立証責任の原則の例外として、事業者側に立証責任を転換する、というものであったはずです。
そういう趣旨からすれば、優良誤認全般について立証責任を転換するかのようなフリーテルの措置命令は問題です。
たとえば二重価格表示を摘発するためには、これまでは消費者庁が店頭での価格表示を見張るなどする必要があったわけですが、今後はそのような必要もなく、事業者の側が価格の変動に関する資料を準備しておかないといけないことになります。
(ただこれはあくまで理屈の話であって、事業者がうそをつく可能性を考慮するなら、実務上は、けっきょく消費者庁は店頭で価格の変動を見張っておく必要があるのだということになると思います。
フリーテルの事件でも、実は消費者庁はシェア立証の準備か、すくなくとも明らかなうそを見破れる程度の各社のシェアの調査くらいはしていたのかもしれません。)
ほかにも、法律解釈ではないですが法治国家のあり方に関係する問題として、安倍首相が、
従来の慣例を無視して日弁連推薦の候補者ではない、実質的には学者の弁護士を最高裁判事に任命したり、
安保法制を合憲と解釈させるために、法制実務には素人の外務省出身者(元フランス大使)を内閣法制局長に任命したり、
憲法53条には
「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」
とされているだけで召集期限は定めてないと言い放ってずるずると召集を遅らせたり(ひいては、民進党が山尾志桜里議員のスキャンダルでガタガタになったのをみるや国会召集して冒頭で解散したり)、
とかいうのも、「法律上明文で禁じられていないなら何をやってもいいだろう」という発想があるように思われてなりません。
話がだいぶそれましたが、要するに、法律は文字に書かれていることがすべてではない、ということです。
法律の精神、心というものを忘れてはいけません。
長年積み重ねられてきた実務にはそれなりの合理性があることが多いものです。
英米法の先例拘束性も、そういう人類の知恵でしょう。
なので、長年の実務をくつがえすには、それなりの理由があるべきだと思います。
優良誤認表示の定義には限定はないので風景のイラストも含まれる、というのは、形式論としては正しいですが、私には、原産国告示制定時の議論のほうが、執行の明確性や事業者の表現の自由に対する配慮があり、文字に落とし込めない法律の心をくみ取ろうとしている点で正しいものがあるようにみえます。
少なくとも、イラストを含めるかどうか議論してあえて外すという判断をしたというのは、とても成熟した大人の判断であったと思います。
村田園は本件について係争中のはずですので、いずれ出る裁判所の判断に注目したいと思います。
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