村上『条解』の独占的状態規制に関する記述について
村上他編『条解独占禁止法』p294に、独占的状態の定義に関する2条7項の解説として、
「他方、役務の場合には、『同種の商品』の①国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」
とされていますが、この、
「同種の商品」
というのは、もちろん、
「同種の役務」
の誤記ですね。
2条7項の条文の関連部分を引くと、
「・・・国内において供給された同種の役務の価額(当該役務の提供を受ける者に当該役務に関して課される租税の額に相当する額を控除した額とする。)の政令で定める最近の一年間における合計額が千億円を超える場合・・・」
とされている部分ですね。
なお①②の論理的関係からいうと、「①」の位置も少し変えて、
「他方、役務の場合には、①『同種の役務』の国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」
とするのが、より正確かと思います。
なお、同書の独占的状態規制に関する解説部分はアメリカのAT&T分割訴訟を念頭に書かれているので、そちらの事情を知らない人にはピンとこないかもしれません。
あと、日本の実務向けコンメンタールであることを考えると、公取委のガイドライン(「独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方について」)にひとことは触れてほしいところです。
また、8条の4にもとづく競争回復措置命令に対して不服申し立てがなされたときには、それぞれの判決などの時点(最高裁判決なら最高裁判決の時点)で所定の要件が満たされている必要があると断定されています(p291)。
わたしもそうあるべき、あるいは、そうであってほしいと思いますが、立法論としてはともかく解釈論としてはなかなか難しい問題があるので(通常の排除措置命令の場合には、処分時説が判例通説だと思います。白石『独占禁止法〔第3版〕』p676参照)、ここまで断定するのであれば、もう少し理由を書いていただければよかったのにと思います。
いくら権威ある弘文堂『条解』シリーズとはいえ、この記述だけで意見書に、「判断基準時は判決時だ」と書くのは、ちょっと気が引けます。
(ちなみに白石先生の上記引用部分は、抗告訴訟一般について述べた部分であり(第15章第11節)、その冒頭部分(p655)が、
「公取委による排除措置命令・課徴金納付命令などについては、抗告訴訟が可能である。」
という書き出しから始まることからすれば、「など」に8条の4にもとづく競争回復措置が含まれているのでしょうね。白石先生の本には、こういう細かいところにも凄みを感じます。)
ただ、『条解』も、独占的状態規制について、
「現に、昭和52年の創設以来現在までこの措置を発動することは真剣に検討されたことすらない。」(p292)
と叩き切っているところは、たいへんすがすがしさを感じます。
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