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2017年9月

2017年9月28日 (木)

電磁的方法で交付された3条書面の交付時期

下請法の3条書面(発注書)は電磁的方法でも交付できますが、その場合、いつ交付されたことになるのでしょうか。

常識的な感覚からすると、書面で交付するときには物理的に下請事業者に到達した時点(見た時点ではなく)が交付の時点なので、メールで送付した場合には下請事業者がメールを受信した時点(開いた時点ではなく)が交付の時点となりそうですが、実はそれほど単純ではありません。

というのは、

①どこまでやったら3条書面交付義務を果たしたことになるのか、

という問題と、

②いつの時点で交付したことになるのか、

という問題が、密接に関連しながらも微妙にずれているからです。

しかもこの2つの問題のどちらを議論しているのかを意識しないと、ますます議論が混乱します。

(この点についてのポイントを先に言うと、下請法では①だけが問題なのであり、②は問題にする必要がありません。②が一義的に決まるはずという前提のもとで①を論じるから、混乱が生じるのです。)

条文を確認していきましょう。

まず、下請法3条2項では、

「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令〔下請法施行令2条〕で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項

電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるもの

により提供することができる。

この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。 」

とされています。

そして、下請法施行令2条(情報通信の技術を利用する方法) では、

「1   親事業者は、法第三条第二項 の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるところにより、

あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

2   前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。

ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

とされており、3条規則2条では、

「法第三条第二項 の公正取引委員会規則で定める方法は、に掲げる方法とする。

一   電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し

当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

(法第三条第二項 前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

二   磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2   前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3   第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。」

とされています。

電子メールによる交付は3条規則2条1項1号イの、

「イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法」

であることがわかります。

また、同条2項により、その電子メールは、

「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるもの」

でなければならないことが分かります。

同様に、ウェブサイトを閲覧させる方法による提供は3条規則2条1項1号ロにさだめられており、おなじく、出力して書面を作成できなければなりません。

以上を前提に、

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」

では、第1の2「 電子メールによる電磁的記録の提供に係る留意事項」で、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。

また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。

(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,

下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

とされています。((2)は親事業者のウェブサイトを閲覧させる方法です。)

このように、「留意事項」で、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

と明言されているため、下請事業者が自分のパソコン(あるいはサーバー)に保存しなければ交付したことにならないのではないか、それらの記録行為がなされれた時点が3条書面の交付の時点となるのではないか、という疑問が生まれてくるのです。

しかしこの問題は、そもそも3条書面の電磁的方法による交付をみとめることになった大元である、IT書面一括法(「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。2001年4月1日施行)の解釈のほうをみないと、解決できません。

電磁的方法による文書の交付時点の問題については、立案担当者解説である、

久米孝「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)の概要」NBL711号16頁(2001年4月)

に、「書面の交付に代えて行われた書面に記載すべき事項の到達時点のみなし」という節で、

「書面の交付に代えて行なわれた書面に記載すべき事項等の提供については、

書面の交付時点が当該法律上の他の規定において、何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(たとえば割賦販売法四条の三第一項は、書面受領の日から八日以内にいわゆるクーリングオフができる旨を定める)や、

当該書面の提出後、一定の期間内に何らかの措置をとることが義務づけられている場合(たとえば中小企業等協同組合法四七条二項は、書面による請求があった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならない旨を定める)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合を除いて、

明文の規定をおいていない。

これは「書面の交付」において、書面の交付がどの時点でなされたかについて実定法上明示的に規定されていないのと同様で、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる。

と説明されています。

到達時点のみなし規定がない場合には、どの時点で提供義務が尽くされたかはケースバイケースできめる、ということですね。

ちなみに、個別信用購入あっせんについて到達時点のみなし規定である割賦販売法35条の3の22は、

(情報通信の技術を利用する方法)

第三十五条の三の二十二  個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は個別信用購入あつせん業者は、

第三十五条の三の八又は第三十五条の三の九第一項若しくは第三項の規定による書面の交付に代えて、

政令で定めるところにより、

当該購入者又は当該役務の提供を受ける者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。

この場合において、当該個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は当該個別信用購入あつせん業者は、当該書面を交付したものとみなす。

 前項前段に規定する方法(経済産業省令・内閣府令で定める方法を除く。)により第三十五条の三の九第一項又は第三項の規定による書面の交付に代えて行われた当該書面に記載すべき事項の提供は、

購入者又は役務の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該購入者又は当該役務の提供を受ける者に到達したものとみなす。」

と、購入者のファイルへの記録の時点を到達時点とみなすと規定しており、この規定について、

経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版 割賦販売法の解説』

では、

「書面一括法においては、本規定〔35条の3の22第2項〕を設ける必要がある場合を、

・ 書面の交付時点が当該法律上の他の規定において何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(書面受領の日から8日以内にクーリング・オフができる規定等)

・ 当該書面の提出後、一定の期間以内に何らかの措置をとることが義務付けられている場合(書面の提出の日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない規定等)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合のみに限定しており、

したがって、

単に書面不交付について罰則や行政処分の規定があるという場合や、

単に契約締結時までに書面を交付しなければ罰則が適用されるという場合

においては、本規定は措置しないという整理となっている

(よって、クーリングオフが規定されていない割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせんにおいては、本項と同内容の規定は存在しない)。」

と説明されています(p250)。

下請法の3条書面交付は、たんに刑罰が科されるだけなので、みなし規定はない、ということですね。

下請法3条も、当然、このような解釈を前提に解釈されていると考えられます。

公取委側の担当者解説である、

向井他「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項について」公正取引607号53頁(2001年)

では、電子メールにより送信する場合について、

「下請事業者自身がメールサーバーを有している場合もあり得るが、通常の下請事業者の場合は、インターネットプロバイダ等と契約をしたり、親事業者のシステムを利用するなど、当該プロバイダー等のメールサーバーを利用することになるから、電子メールを送信しても、当該メールサーバーに記録されるだけで、下請事業者のファイルに記録されたことにはならない。

したがって、下請事業者が当該メールを受信することにより自らのファイルに記録していなければ、書面の交付に代えて提供したことにはならない。」

と説明されています。

さらに同論文p54では、発注者のウェブサイトを閲覧させる方法について、

「通常、ブラウザソフトによりウェッブのホームページを閲覧させることになるが、この方法は、一時的に情報を〔下請事業者のパソコンの〕メモリーに保存することによりウェッブのホームページを表示させるものである。

他方、ファイルに記録するということは、情報をファイルに固定させ、いつでも当該情報を取り出せるようになっていることが必要であることから、

下請事業者が〔親事業者の〕ホームページを閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録することにはならないので、

別途電子メールで〔通知事項を〕送信するか、ホームページにダウンロード機能を付けるなどの措置が必要となる。」

と解説されています。

専用のウェブサイトを開設しているのにわざわざ別のメールを送る親事業者はあまりいないでしょうから、現実的には、ホームページにダウンロード機能を持たせることが多いと思われます。

そして、IT書面一括法が、到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合(←下請法はこちら)とを分けていることをふまえれば、前述の「留意事項」の、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は・・・

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

としている部分も、受信した時点を交付時点(到達時点)とみなす趣旨ではない、と解さざるをえないと思います。

というのは、IT書面一括法が到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合とをあえて分けているにもかかわらず、みなし規定がないのに一律に特定の時点で到達したとみなされると解釈すことは、IT書面一括法の解釈としてありえないからです。

ところでファイルへの保存が要求されている理由について、向井他p53では、

「下請法は50本の法律を一括して改正する法律により改正されたが、

当該法律において書面の交付によ代えることができる電磁的記録の提供方法として、書面が交付されたと実質的に同視し得るよう、

受信者のファイルに記録することを要件とする統一的な取り扱いが行われたが、

下請法は、下請取引の適正化と下請事業者の保護を目的としており、下請法の目的からも必要な要件であろう。」

と述べられています。

つまり、できるだけ書面と同視できるようにしようという趣旨なのです。

ということは、電磁的方法だからといって書面の場合以上に過重な負担を負わせるものではない、ということが言えると思います。

では、最も典型的な、電子メール(本文でも添付ファイルでも)で3条書面を送るときに、親事業者はどこまでしなければならないのでしょうか。

この点について、

清水規廣「横浜弁護士会独占禁止法研究会編 一問一答 下請法・下請取引<14> - 下請取引基本契約書の締結と電子メールによる受注のチェックポイント」NBL936号(2010年)p98

では、

「・・・下請事業者の電子メールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者が自身のパソコンのファイルに記録して、いつでも出力することにより書面を作成できる状態、つまりいつでもプリントアウトできる状態にしなければならない。

そこで、親事業者としては、電子メールを送信するに当たり「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

受信・開封・保管しなければ下請法3条の書面を交付したことにならないから、

親事業者としては「メールで送ったから開封・ファイルへ保管されたい」旨電話等で連絡し開封確認メッセージをも保存しておく必要があることになる。」

と説明されています。

しかし、わたしはこれは行き過ぎだと思います。

いちばんわかりやすい理由をあげると、3条書面不交付には50万円以下の罰金が科されますが(下請法10条)、開封の確認までしないと刑事罰の対象になるというのは、自己責任の原則からして問題があります。

また、到達時のみなし規定がない場合には、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる

というのがIT書面一括法の立場です。

そして、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する

ということまでしないと「送り手側の努力」として不十分だ、というようなことはとうていいえない、と思います。

もしそんなことを言い出すと、書面で送る場合にも、普通郵便ではだめで、常に配達証明付き書留郵便で送らないといけない、ということになりかねません。

ファックスでも、送信確認(モニターレポート)機能がある機種しか使えないことになります。

もちろん、義務を履行したことの証拠を残すことは実務上望ましいわけで、その意味で、開封確認を要求することは望ましい方法だとは思いますが、証拠を残すのはあくまで立証の問題なのでいくらでも手段はありえます。

しかし開封確認を求めることが実体法上の義務の一部だといわれると、話は変わってきます。

他のやり方では代替できないからです。

しかも上記論文ではIT一括書面法の立法趣旨や到達時のみなし規定のことにはふれず、ただ、3条規則の文言だけを頼りに上記の結論を導いているので、その意味でも説得力に欠けます。

このような解釈上の疑義が生じるのは、IT書面一括法で、到達時のみなし規定を置かない法律についてはどこまでやれば書面交付義務を果たしたことになるのかをあえてあいまいにしているためなのです。

あえてあいまいにしている趣旨を汲まずに、法律や規則の文言だけから杓子定規に結論を導くと、こういう結論になってしまうのだと思います。

たしかに、「留意事項」では、

「書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

といっているのですが、これとても、受信していることが必要といっているだけで、反対にいえば、受信さえしていればそれでいいということです。

受信が必要だということから、論理必然に、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

ということはいえないですし、そのようなことを刑罰の威嚇をもちいて強制する正当性もないと思います。

以上は電子メールの場合ですが、ウェブサイトを閲覧させる方法の場合には「留意事項」ももっと割り切っていて、

「下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

といっているだけです。

つまりこちらの方では、ダウンロード機能を持たせれば足りるということがはっきりしていて、ファイルへ保管したことの確認までは不要であることがあきらかです。

それにもかかわらず電子メールの場合だけ、ファイルへ保管したことの確認まで要するというのは、バランスが悪いと思います。

「留意事項」の、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

というのは、文字どおり、下請事業者が自身のパソコンにデータが記録されていればたりるという意味であって、実際に記録さえされていれば、極端にいえば、親事業者はその証拠すらなくても刑罰を科されることはない、ということでしょう。

検察や公取は下請事業者のパソコンを調べることもできるのですから、親事業者が証拠を持っていなても、交付の事実が「証明」できてしまう、ということは大いにあり得ることだと思います。

2017年9月25日 (月)

村上『条解』の独占的状態規制に関する記述について

村上他編『条解独占禁止法』p294に、独占的状態の定義に関する2条7項の解説として、

「他方、役務の場合には、『同種の商品』の①国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」

とされていますが、この、

「同種の商品

というのは、もちろん、

「同種の役務

の誤記ですね。

2条7項の条文の関連部分を引くと、

「・・・国内において供給された同種の役務の価額(当該役務の提供を受ける者に当該役務に関して課される租税の額に相当する額を控除した額とする。)の政令で定める最近の一年間における合計額が千億円を超える場合・・・」

とされている部分ですね。

なお①②の論理的関係からいうと、「①」の位置も少し変えて、

「他方、役務の場合には、『同種の役務』の国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」

とするのが、より正確かと思います。

なお、同書の独占的状態規制に関する解説部分はアメリカのAT&T分割訴訟を念頭に書かれているので、そちらの事情を知らない人にはピンとこないかもしれません。

あと、日本の実務向けコンメンタールであることを考えると、公取委のガイドライン(「独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方について」)にひとことは触れてほしいところです。

また、8条の4にもとづく競争回復措置命令に対して不服申し立てがなされたときには、それぞれの判決などの時点(最高裁判決なら最高裁判決の時点)で所定の要件が満たされている必要があると断定されています(p291)。

わたしもそうあるべき、あるいは、そうであってほしいと思いますが、立法論としてはともかく解釈論としてはなかなか難しい問題があるので(通常の排除措置命令の場合には、処分時説が判例通説だと思います。白石『独占禁止法〔第3版〕』p676参照)、ここまで断定するのであれば、もう少し理由を書いていただければよかったのにと思います。

いくら権威ある弘文堂『条解』シリーズとはいえ、この記述だけで意見書に、「判断基準時は判決時だ」と書くのは、ちょっと気が引けます。

(ちなみに白石先生の上記引用部分は、抗告訴訟一般について述べた部分であり(第15章第11節)、その冒頭部分(p655)が、

「公取委による排除措置命令・課徴金納付命令などについては、抗告訴訟が可能である。」

という書き出しから始まることからすれば、「など」に8条の4にもとづく競争回復措置が含まれているのでしょうね。白石先生の本には、こういう細かいところにも凄みを感じます。)

ただ、『条解』も、独占的状態規制について、

「現に、昭和52年の創設以来現在までこの措置を発動することは真剣に検討されたことすらない。」(p292)

と叩き切っているところは、たいへんすがすがしさを感じます。

2017年9月12日 (火)

標準化パテントプールガイドラインの目次(と簡単な要約)

標準化パテントプールガイドラインの目次と簡単な要約をメモしておきます。

第1 はじめに

第2 標準化活動

1 標準化活動の態様

2 標準化活動自体に関する独占禁止法の適用

標準化活動に当たって以下のような制限が課されることにより、市場における競争が実質的に制限される、あるいは公正な競争が阻害されるおそれがある場合には独占禁止法上問題となる。

(1) 販売価格等の取決め

(2) 競合規格の排除

相互に競合規格開発を制限又は競合規格製品の開発・生産を禁止(注4)〔少数が非公開で行う実質的な共同研究の場合は認められる場合あり〕

(3) 規格の範囲の不当な拡張

(4) 技術提案等の不当な排除

(5) 標準化活動への参加制限

標準化活動に参加しなければ、策定された規格を採用した製品を開発・生産することが困難となり、製品市場から排除されるおそれがある場合に、合理的な理由なく特定の事業者の参加を制限する(私的独占等)。

3 規格技術に関する特許権の行使と独占禁止法の適用

ライセンス拒絶は基本的に問題ない。

FRAND宣言違反は問題ある可能性。

第3 規格に係る特許についてのパテントプールに関する独占禁止法上の問題点の検討

1 基本的な考え方

(1) 

(2)

複数の競争事業者が、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの事業活動に対して一定の制限を課しても、規格を採用した製品の販売価格販売数量を制限するなど明らかに競争を制限すると認められる場合などを除き、

(1)当該プールの規格に関連する市場に占めるシェアが20%(注9)〔製品市場の売上シェア〕以下の場合、

(2)シェアでは競争に及ぼす影響を適切に判断できない場合は、競争関係にあると認められる規格が他に4以上存在する場合

には、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない(注10)。

(3) (2)の条件が満たされない場合でも直ちに問題となるわけではなく、個別判断。

2 パテントプールの形成に関する独占禁止法上の考え方

(1) パテントプールに含まれる特許の性質

ア 規格で規定される機能及び効用の実現に必須な特許に限られる場合

ライセンス条件が一定に定められても問題なし。

イ 必須特許とはいえない特許が含まれる場合

[1] 代替特許が含まれる場合、パテントプールに含められライセンス条件が一定とされることにより、これらの代替特許間の競争が制限される。(事例1)

 

[2] プール外の代替特許が排除される。(事例2)

 

当該規格の普及の程度、代替的なパテントプールや規格技術の有無などの市場の状況の外、以下の点を勘案。

[1] パテントプールに必須特許以外の特許が含められることに、合理的な必要性又は競争促進効果が認められるか。

[2] 直接ライセンス、選択的ライセンスが可能か

(2) パテントプールへの参加に係る制限

ア パテントプールへの参加の制限

参加に一定の合理的な条件を課すのは問題ない。

パテントプールを通じてライセンスすることを事前に取り決めることは、①対象が必須特許に限られ、かつ、②ほかに当該特許の自由な利用が妨げられない、などの場合は問題ない。

イ パテントプールへの参加者に対する制限

参加者への制限は合理的で、かつ、特定の事業者にのみ不当に差別的な条件を課すものでない限り、問題ない。

ライセンス料の分配方法特許の重要度など様々な要因に基づいて決定しても問題ない。

パテントプール以外でのライセンスを禁止することは、独占禁止法上問題となる「おそれ」あり(私的独占、不当な取引制限等)。(事例3)

(3) パテントプールの運営

パテントプールの運営者に集中するライセンシーの事業活動に関する情報について、参加者やライセンシーがアクセスできないようにすることが望ましい。(事例4)

3 パテントプールを通じたライセンスに関する独占禁止法上の考え方

(1) 異なるライセンス条件の設定

異なるライセンス条件の設定は直ちに独占禁止法上問題となるものではなく、個別に判断される。

合理的な理由なく、特定の事業者にのみ

(1)ライセンスすることを拒絶する

(2)他のライセンシーと比べてライセンス料を著しく高くする

(3)規格の利用範囲を制限するなどの差を設ける

ことは、差別を受ける事業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼす場合には独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、共同の取引拒絶等)。

(2) 研究開発の制限

ア ライセンシーに対して、規格技術又は競合する規格についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、競争が制限されるおそれがある(私的独占、不当な取引制限等)。

イ 少数の者が非公開で規格に係る技術を新たに開発するなど、規格の策定の態様が実質的に共同研究開発と認められる場合には、当該活動に参加する者が相互に規格技術や当該規格と競争関係に立つ規格を開発することを制限したり又は第三者と共同で開発することを制限したりすることが、当該活動を円滑に進める上で合理的に必要な範囲の制限と認められる場合もある(注14)。

しかしながら、このような場合であっても、規格が策定された後に、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの研究開発を制限することには何ら合理的な必要性があるとは認められず、独占禁止法上問題となるおそれがある(事例6)

(注14) 共同研究開発ガイドラインでは、以下は問題なし。

[1] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[2] 共同研究開発のテーマときわめて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[3]共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること。

(3) 規格の改良・応用成果のライセンス義務(グラントバック)

ア グラントバックは、技術市場における競争を制限するおそれ

イ ライセンシーによる改良・応用の成果が必須特許となる場合にライセンシーに対してグラントバックの義務を課すことは、

①必須特許に限り、

②非独占的であり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他の当該プール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例7)

(4) 特許の無効審判請求等への対抗措置(不争義務)

ア ライセンシーに対して不争義務〔特許の有効性を争わない義務〕を課し、違反した場合にはライセンス契約を解除することは、ライセンシーの事業活動に及ぼす影響が大きい。

イ したがって、不争義務を課し違反の場合ライセンス契約を解除する旨を取り決めることは、独占禁止法上問題となるおそれがある(共同の取引拒絶)。

他方、規格に係る特許の有効性について争われた場合に、パテントプールへの参加者のうち無効審判請求を起こされた特許権者のみが、当該特許をパテントプールから外すことなどにより、争いを起こしたライセンシーとの契約を解除することは、ライセンシーがライセンスされた特許の有効性について争う機会を失うとは認めにくいことから、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例8)

(5) 他のライセンシー等への特許権の不行使(非係争義務)

ア ライセンシーに非係争義務〔ライセンシーが有し又は取得することとなる全部又は一部の特許等について他のライセンシーに対して権利行使しない義務〕をを課すことは、技術市場における競争が実質的に制限されるおそれがある。(私的独占、不当な取引制限)

イ 制限の態様が、

①必須特許(注17)に限り

②当該プールに非独占的にライセンスすることを義務付けるものであり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他のプール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例9)

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