ボーネルンドに対する措置命令について
おもちゃの輸入業などをおこなうボーネルンドに対して、原産国告示違反で6月23日に措置命令が出ました。
おもちゃのチラシにイギリスなどの国旗や国名を表示していたけれど、実は中国製だった、というものです。
この事件でボーネルンドは、
「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。深く反省している」
とコメントしたそうです(6月23日付日経新聞ウェブ版)。
また、
「消費者庁によると、同社は2016年12⽉7〜9⽇に配布した新聞折り込みチラシに、玩具の写真と共に⽶国や英国、⽇本などの国旗を掲載。
裏⾯に⼩さく「国旗の表記はメーカー所在国です」と記していたが、同庁は『消費者が⽣産国と誤認する恐れがある』と判断した。」
と伝えられています(同日付時事ドットコム)。
これらをあわせて読むと、消費者が国旗の表示を生産国と誤認しないようにしておけば(たとえば「国旗の表記はメーカー所在国です」という記載を同一視野に大きく記載していれば)不当表示にならなかったかのような印象を与えますが、実はそうではありません。
原産国告示上は、国旗を記載するときには、本当の原産地(本件では中国)がわかるように明示しないと違反になるのであって、国旗が原産国でないと明示するだけでは足りないからです。
原産国告示の該当箇所をみてみましょう。
同告示2項(外国産品の不当表示)では、次の表示が不当表示だとさだめられています。
「2 外国〔中国〕で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、
その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの
一 その商品の原産国〔中国〕以外の国〔イギリス〕の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示
(2号以下略)」
まず本件では、原産国(中国)以外の国(イギリス)の国旗を表示しているので、そのイギリス国旗の表示は1号に該当します。
そして、1号に該当する以上は、
「その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難」
でないかぎり(つまり容易に中国産と判別できないかぎり)、柱書の要件をみたしてしまい、不当表示になるのです。
仮に
「国旗の表記はメーカー所在国です」
と、イギリス国旗の表示と同一視野に大きく記載していたとしても、イギリス産ではないということはわかっても(※)、中国産と容易に判別できることにはならないわけです。
(※実は、この表示でも、メーカー所在国がイギリスだといっているだけで、ほんとうに製造地がイギリスではないということまで明示していることになるのか、疑問がないわけではありません。)
そういうわけで、ボーネルンドの
「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。」
というコメントは、原産国告示に照らすとやや的はずれで、問題の本質は、イギリス国旗によりイギリスが生産国と誤認されるかどうかではなくて、イギリス国旗を表示する以上、中国産であることを明示しないといけなかった、ということなのです。
ちなみにボーネルンドの社告では、
「・・・これらの〔原産国である中国以外の国の国旗や国名の〕表示は、当該16商品の原産国が中華人民共和国であることを一般消費者が判別することが困難なものであって、景品表示法に違反するものでした。」
と、原産国告示2項柱書に沿った表現になっていて、イギリス国旗がイギリス製と誤認させるものであったとは一言も述べられていません。
(ちなみに社告の案は通常消費者庁から示されるので、本件もそうだと思われます。)
というわけで、もしボーネルンドが「国旗の表記はメーカー所在国であることを同一視野に大きく書いておけば違反にならなかった」と思っているとしたら、それは原産国告示の解釈を誤っていますし、自らの社告とも食い違ってきます。
もし大きく同一視野に「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載していたら、消費者には実害がないということで、消費者庁は事件として取り上げなかったかもしれません。
そういう意味で、「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載することは無意味ではないのですが、景表法違反かどうかといえば、やはりそれでも景表法違反だといわざるをえないでしょう。
この事件をみてもわかるように、原産国告示は実はけっこうやっかいで誤解されがちな告示です。
個人的には、これだけ企業の国際分業化が進んだ現代において、おもちゃのチラシにイギリス国旗が表示されているだけでそのおもちゃがイギリス国内で製造されたものと誤認する消費者がどれだけいるのか疑問だと思っており、ちょっと原産国告示は割り切りすぎのような気がします。
イギリス国旗がついていても、私なんかは、「イギリス人がデザインしたんだろうなぁ」とか「イギリスの会社が作ったんだろうなぁ」というくらいの期待しかしないと思うし、それで十分です。
おもちゃの工場がどこかなんて、どうでもいいわけで、イギリスの伝統とか、おもちゃに対する哲学とか、設計思想とか、そういったものがあれば十分で、別にだまされた気にもなりません。
もちろん「イギリス製」と書いたらあきらかにウソですが、イギリス国旗は漠然とイギリスのおもちゃであることをイメージさせるにはよい表現手段であり、もうちょっと融通がきかないのかなぁと思います。
しかも問題になるのは国旗だけでなく、国の地図なんかもアウトです(原産国告示運用基準1項)。
と、いろいろ言っても、現に原産国告示が今のような形で存在する以上、これを守らないといけません。
思わぬところで誤解しないよう、原産国告示は注意深く読む必要がありそうです。
それから、原産国告示は優良誤認と違って、いちいち優良性を認定する必要がないのが、消費者庁による迅速かつ画一的な運用ができるポイントです。
たとえばドイツ製のワインをイタリア製と偽った場合に、一般消費者にとってイタリア製ワインのほうがいいものだと認識されていることの立証は不要です。
このような優良性の立証が不要であることにくわえて、誤認を生じさせるかどうかという点についても原産国告示はかなり割り切った考え方をしているんだなぁということを感じさせたことも、今回の事件の特徴であったように思います。
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