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2017年8月22日 (火)

独禁法相談雑感

「こういうビジネス(あるいは契約)をしようと思うんですが、独禁法上問題ないでしょうか?」

という相談を受けることは多いですが、ふりかえってふと感じたのは、最初に話を聞いた時には「これはまずそうだなぁ」と思ったものが、いろいろ詳しく聞くと問題ない、ということが多いことです。

反対に、最初聞いた時には問題なさそうだったけれど、詳しく聞くと問題ありそうだ、という結論になったことは、ずっと少ない印象です。

たとえば、市場に2社しか競争者がいなくて(しかも代替品もない)、相互にクロスライセンスをして国際的市場分割をしたい、なんていう話を聞くといかにも問題がありそうですが、詳しく話を聞くと問題ない、という結論にいたったこともあります。

ほかには、エレベーターの補修部品の供給停止に似たような相談があって、これはだめだろうなぁという第一印象で詳しく話を聞いたら(実際、そのクライアントの方が最初に意見を聞いた弁護士さんは東芝エレベータ事件を根拠に違法だという意見でした)、エレベーターとはぜんぜん事情が違うことが分かり、問題ないという結論にいたったこともあります。

なぜこういうことが多いのかを考えてみると、現実の世界では、案外、市場支配力が生じることは少ないからなんじゃないか、と推測しています。

外形上、典型的な独禁法違反にみえる事実関係(たとえば競争者間で協調して生産調整する)であっても、よくよく話を聞いてみると、市場支配力の獲得・維持・行使とは関係ない、ちゃんとした(つまり、お客さんのためになる)ビジネス上の理由というのがあったりします。

また、市場支配力が生じることが実際にはそんなに多くないということの裏返しですが、企業がわざわざ市場支配力の獲得をめざして協調とか提携をすることってあんまりなくて、実際には、競争を生き残るために(競争するために)やっていることが多いのではないか、という印象をもっています。

もちろんビジネスですから、ある程度の市場支配力はみなめざします。

典型的なのは、先行者利益です。

でもたんなる先行者利益が独禁法上問題とされることはあまりありません。

そのような利益は独禁法がわざわざ介入しなくてもいずれ競争でなくなってしまいますし、ある程度の先行者利益がないと競争のインセンティブが湧かないからです。

そうではなくて、競争者で手を組んで独占利潤を得ようというのは、公共入札での談合のような一定の場合をのぞき、ビジネスの世界ではあまりないし、やろうとしてもうまくいかない(よって、やってみようとすらしない)のではないか、と思います。

またこのように、一見ダメそうだけど実はOKという事案が独禁法にはけっこう多いので、弁護士はよくよく選ばないといけません。

残念ですが、ビジネス弁護士に限ってみても、独禁法がほんとうにわかっている人って、ほんのわずかです。

「独禁法やってます」という看板を掲げている弁護士さんでも、基本的なものの考え方までわかっている人はどれだけいるのか、私は疑問だと思っています。

たとえば独禁法をちょっと勉強したことのある(あるいは相談を受けて勉強し始めた)だけの弁護士さんが、東芝エレベーターとそっくりな事実関係の相談を受ければ、きっと適法という意見は出せないと思います。

やはり、競争法の根本的な考え方がわかっていないと、独禁法は正しい答えが出せません。

たとえば東芝エレベータ事件の判決を読んでも、その業界での競争状況を所与の前提として議論が進んでいるので、別の業界にあてはめたらどうなのかということは、同判決の判例評釈を読んでもわかりません。

もっと根本的な理解が必要なのです。

脱線したので話を戻すと、ダメそうでも案外大丈夫なことが多い理由の1つめの仮説が、さきほど述べたとおり、市場支配力が生じることは案外少ないのではないか、ということです。

ですが、もう1つ思いあたる理由があります。

それは何かというと、弁護士に相談に来る時点ですでに事件が絞られているのではないか、つまり、相談に来ている時点で母集団に偏りがあるのではないか、ということです。

排他条件付取引とか拘束条件付取引とかは、教科書にも載っているので、いかにも法務担当者のアンテナにひっかかりそうですよね。

でもそういうのはOKであることが多いのです。

問題は、アンテナに引っかからない行為です。

以前、法律相談を受けるのとは全然関係なく、ある有力企業が、ベンチャーなんかが競合技術を開発していると知ると、その技術をどんどん買収していた、という話をたまたま聞いたことがあります。

で、その技術をどうするのかというと、そのまま塩漬けにするんですね。

お金を出して買ったものを塩漬けにするなんてありうるのか?と考える人もいるかもしれませんが、競合技術が市場に出てきて競争が活発化して困る既存企業は、よくこういうことをやります。

こういう行為は独禁法の教科書には載っていませんが、私はかなり危ないと思っています(企業結合規制違反)。

技術を塩漬けにしているので効率性はまったくないですから、そういうものにお金を出しているということは、まさに市場支配力の維持のために対価を払っているという強い推認がはたらくように思われます。

でもそういう行為は典型的な独禁法違反として教科書にも載っていないので、そもそも法務担当者のアンテナにも引っかからないのでしょうね。

まとめると、

外形上独禁法違反っぽくても、案外大丈夫なことが多い

外形上は独禁法違反にならなさそうでも、違反になることはある

ということです。

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