比較広告ガイドラインの具体例の疑問
「比較広告に関する景品表示法上の考え方」
では、比較広告で主張する内容は客観的に実証されていなければならないとされていますが、その中に、
「実証は、比較する商品等の特性について確立された方法(例えば、自動車の燃費効率については、10モード法)がある場合には当該確立された方法によって、
それがない場合には社会通念上及び経験則上妥当と考えられる方法(例えば、無作為抽出法で相当数のサンプルを選んで、作為が生じないように考慮して行う調査方法)によって、
主張しようとする事実が存在すると認識できる程度まで、行われている必要がある。」
という説明があります(3(2))。
この前半の一般論の、
「比較する商品等の特性について確立された方法・・・がある場合には当該確立された方法」
によらなければならないというのはよいのですが、その具体例で「10モード法」(今ならJC08モードでしょうか)をあげているのは、ちょっと問題ではないでしょうか。
というのは、10モード法(JC08モードも)は、実際の燃費とはかなりのずれがあるからです。
もしこのガイドラインのように、燃費の比較は10モード法で表示しなければならないとすると、より実態に近い測定方法による比較はできない、ということにならざるをえませんが、それはおかしいでしょう。
この10モードへの言及については、不実証広告規制ガイドラインでも、
「自動車の燃費効率試験の実施方法について、10・15モード法によって実施したもの。」
というのが、
「表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法」
(2(1)ア)の具体例としてあげられていますが、これも、同様の理由で、不適切だと思います。
比較広告の場合と不実証広告の場合で何か違いがあるのかと考えてみると、比較広告の場合には、同じ条件、同じ方法で測定して比較しなければならないという要請があるので、業界で確立した方法以外を使うのはよくない、ということがあるかもしれません。
そうしないと、みんなが自分に都合のいい基準で比較しはじめて、収拾がつかなくなるからです。
でも私は、だからといって1つの測定方法を比較広告において強制しなければならないということはないんじゃないでしょうか。
たしかに、「比較」であることを重視しして、正確性(実燃費に近いこと)よりも、公平性(測定方法が確立していること)を重視する、という考え方もあるかもしれません。
しかし、
「うちは、JC08モードではライバルに負けるけど、実用燃費ではむしろ勝っている」
という広告をしたいことはあるでしょうし、その場合に比較広告で数値を載せたいこともあるでしょう。
その場合に、比較広告でJC08モード以外を使ったらいけないというのは、むしろ消費者に正しい情報が伝わらないことになって問題だと思います。
ちなみに最近の三菱自動車の燃費偽装の措置命令(平成29年1月27日)では、違反事実は、
「三菱自動車工業は、eKワゴン11商品を一般消費者に販売するに当たり、これらの各商品について、・・・
燃料消費率を別表・・・中の「表示内容燃料消費率JC08モード(国土交通省審査値)(㎞/L)」欄記載のとおり記載すること・・・により、
あたかも、国が定める試験方法に基づく燃費性能は、同各表「表示内容 燃料消費率JC08モード(国土交通省審査値)(㎞/L)」欄及び「表示内容 燃費基準達成状況」欄記載のとおりであるかのように示す表示をしていた。」
というように認定されていて、JO08モードで測定されたように表示したけどそうじゃなかったということを問題にしています。
つまり、ずばり実際の燃費よりも優れていると表示していた、とは認定されていないんですね。
もしJC08モードが唯一ゆるされる燃費測定方法だとしたら、こんな認定にはならなくて、たんに、「燃費を実際より良く表示した」という認定になったはずです。
このことからも、消費者庁はJC08モードが唯一ゆるされる燃費測定方法だとは考えていないということがうかがえます。
そういうわけで、比較広告ガイドラインの10モードの言及はちょっと不用意というか、不適切だと思います。
ついでに指摘しておくと、このガイドラインにはちょっと面白いところがあって、同じく3(2)の「実証の方法および程度」のところに、
「例えば、一般に、自社製品と他社製品に対する消費者のし好の程度について、相当広い地域で比較広告を行う場合には、相当数のサンプルを選んで行った調査で実証されている必要がある。
これに対して、中小企業者が、味噲のような低額の商品について、一部の地域に限定して比較広告を行うような場合には、比較的少ない数のサンプルを選んで行った調査で足りる。」
という記載があります。
前半はよいのですが、後半は変じゃないでしょうか。
どうして中小企業の低額な商品ならサンプル数が少なくてもいいのでしょうか。まったく理解不要です。
あえて理由を考えれば、販売地域も販売数量・額も少ないので消費者への実質的な被害が少ないことが多い、ということかもしれません。
しかし、それは消費者庁が事件として取り上げるかどうかの判断をするときに考えればいいことで、実証方法が適切かどうかとは関係のない話だと思います。
ちなみに、このガイドラインの解説である
生駒賢治他「『比較広告に関する景品表示法上の考え方』について」(公正取引439号21頁・1987年)
では、比較対象商品を製造している者がパンフレット等の公表資料にのせている数値を使ってもよい(3(2))、としている理由について、
「なお、これは、特に中小企業に配慮して、比較広告が行いやすいように配慮したものである。」
と明言されています。
中小企業が味噌を売るという具体例についても、同じ発想ですね。
なにか政治的圧力でもあったんじゃないかと勘繰りたくなります。
ところで、よく考えてみると、比較広告ガイドライン3(2)の、
「比較対象商品等を供給する事業者がパンフレット等で公表し、かつ、客観的に信頼できると認められる数値や事実については、当該数値や事実を実証されているものとして取り扱うことができる。」
というのも、文字どおり受け取ると問題がおこりうると思います。
というのは、比較広告で用いる場合には、数字は同じ条件で測定する必要があります。
なので、ライバルのパンフレットに載っていた数字だからといってそのまま使う場合には、自社商品の数値も、ライバルと同じ方法で測る必要があるはずだからです。
でも一般的には、ライバルのパンフレットには細かい測定方法までは書いてないでしょう(せいぜい「自社調べ」くらいではないでしょうか)。
ここはガイドラインに良いと書いてあるから良いんだ、というのも一つの割り切りですが、私はそれはちょっと危ないと思います。
少なくともライバルから、「同じ測り方でないので不当だ」といわれたら反論できないと思います。
とくに、業界で確立された測定方法がないときに問題です。
ふつうの広告であれば、測定方法が2つあって、どちらもそれなりに正しく、だけどどちらが絶対に正しいということがいえない、という場合であれば、どちらの方法でも優良誤認にはならないのでしょう。
けれど、比較広告の場合には、やっぱり基本的には、同じ測定方法でないといけないと思います。
(異なる測定方法でも結果としてウソにはなっていないという場合もあるでしょうから、異なる方法だと絶対にダメということもないのでしょうけれど。)
あるいは少なくとも、比較広告をする以上は同じ測定方法をめざすべきでしょう。
たとえば、ある会社のパソコンは、「1メートルの高さから落としても壊れない」と表示していたとします。
別の会社のパソコンは「2メートルでも大丈夫」と表示していたとします。
でも、このような別々の広告がある場合に、この2つのメーカーのテストの仕方がおなじだという保証はありません。
それでも、パソコンの落下テストについて業界で確立された唯一の方法がない以上は、いずれのやり方も景表法上許される可能性は大いにあります。
そして、それぞれの会社が、それぞれ合理的なやり方でテストして、自社の広告を打つかぎりは、いずれも不当表示とはいえないのでしょう。
けれど、それを比較広告でやる場合には、消費者は同じ条件でテストしたのだと思うでしょうから(それが比較広告の特徴でしょう)、やっぱり同じテスト方法でないとまずいんじゃないかと思います。
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