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2017年8月

2017年8月10日 (木)

刑事告発の基準

どのようなカルテル・談合事件が刑事訴追(犯則調査)の対象になるのかについては、公正取引委員会の、

「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(告発指針)

という文書に、

「公正取引委員会は、

ア 一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案

イ 違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案

について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針である。」

と、一応書いてはあるのですが、これだけでは正直、よくわかりません。

(しかも、私的独占の刑事告発なんてありえないのが誰の目にもあきらかなのに入っていたりして、いかにもうそっぽいです。)

そこで、過去に価格カルテル事件(つまり、入札談合ではないもの)で刑事告発されたもののカルテル対象売上額を、課徴金額から推計してみます。

カルテル対象売上が大きいと刑事告発になりやすいのではないか、反対に、あまり売上の小さいカルテルは刑事告発にはならないのではないか、と予想されるからです。

(入札談合についてはずすのは、緑資源機構のケースのような、対象売上が小さくても「大人の事情」で刑事訴追される外れ値的なものがあるので、参考にならないからです。)

まず、刑事告発された事件をみてみましょう。

■ベアリング事件(平成25年3月29日課徴金納付命令)

この事件では、課徴金の額は、

NTN・・・72億円

日本精工・・・56億円

不二越・・・5億円

(3社合計・・・134億円)

です(数字は1億円以下四捨五入。以下同じ)。

審決集に載っているNTNの納付命令によると、同社のカルテル実行期間とその間の売上は、

産業機械用軸受

平成22年9月10日~平成23年7月25日まで(約11か月)

387億円

自動車用軸受

平成22年7月30日~平成23年7月25日まで(約12か月)

337億円

です。

つまり、おおよそカルテルの期間は1年間、売上は724億円(課徴金の10倍)となります。

これから他の2社の日本精工と不二越の売上を推測すると、

日本精工・・・560億円(課徴金56億円の10倍)

不二越・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

となりそうですが、この2社は減免申請をして30%の減額を受けているので、0.7で割り戻して、

日本精工・・・800億円

不二越・・・86億円

となり、3社の売上合計は1610億円と推測されます(期間は1年)。

■溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件(平成21年8月27日課徴金納付命令)

この事件で排除措置命令をうけた3社の課徴金額は、

日鉄住金鋼板・・・63億円

日新製鋼・・・55億円

淀川製鋼所・・・37億円

(3社合計・・・155億円)

です。

本件では、「GL鋼板の店売り取引」(以下「GL鋼板」)、「軽天メーカー向けGI鋼板のひも付き取引」(以下「GI鋼板」)と、「建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引」(以下「カラー鋼板」)の3つについて課徴金が課されています。

審決集に載っている日鉄住金鋼板のGL鋼板の納付命令によると、同社の違反期間は平成15年9月6日から平成18年9月7日まで(上限の3年)です。

売上は、平成18年1月4日(課徴金算定率を6%から10%に引き上げる平成17年改正の施行日)よりも前の売上が577億円、施行日後の売上が191億円、合計768億円です(対応するGI鋼板の課徴金額は38億円)。

これをもとに審決集には載っていないのこりの2社のGL鋼板の売上を推測すると、

日新製鋼・・・640億円(課徴金32億円の20倍≒768億÷38億)

淀川製鋼所・・・320億円(課徴金額16億円の20倍)

となり、GL鋼板の3社の売上は1728億円となります。

GI鋼板については淀川製鋼所の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は平成15年10月1日から平成18年9月6日(約2年11カ月)で、課徴金引き上げ前の売上が215億円、引き上げ後の売上が54億円、合計269億円です(対応する課徴金額は13億円)。

これから他の2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・240億円(課徴金12億円の20倍(≒269億÷13億))

日新製鋼・・・160億円(課徴金8億円の20倍)

となり、結局、GI鋼板の3社合計売上は、669億円です。

カラー鋼板については日新製鋼の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は、平成16年4月1日から平成18年9月6日まで(約2年5か月)です。

そして、カラー鋼板の日新製鋼の売上は、改正前が135億円、改正後が43億円、合計178億円です(対応する課徴金は15億円)。

これから残りの2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・156億円(課徴金13億円の12倍(≒178億÷15億))

淀川製鋼所・・・96億円(課徴金8億の12倍)

となります。

よってカラー鋼板の3社合計売上は、430億円です(実行期間は2年5か月)。

以上より、溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件の全売上は、1728+669+430=2827億円、となります。

■ダクタイル鋳鉄管カルテル事件(平成11年12月22日課徴金納付命令)

この事件では、クボタ、栗本鐵工所、日本鋳鉄管の3社が課徴金を受けていますが、審決集に載っているクボタに対する納付命令によると、同社の実行期間は平成8年8月20日から平成9年3月31日まで(約7か月)です。

そして、クボタの売上は、554億円です(対応する課徴金は33億円)。

これをもとにほかの2社の売上を推測すると、

栗本鐵工所・・・238億円(課徴金14億円の554÷33≒17倍)

日本鋳鉄管・・・85億円(課徴金5億円の17倍)

となり、3社合計売上は、554+238+85=877億円となります。

・・・・・・・

では次に、比較的売上が大きいのに刑事告発にならなかったカルテル事件として、段ボールカルテル事件と自動車運搬船カルテル事件をみてみましょう。

■段ボールカルテル(平成26年6月19日課徴金納付命令)

この事件では、商品が、段ボールシート(シート)、段ボールケース(ケース)、大口ユーザー向け段ボールケース(大口ケース)、の3種類あります。

まずシートからみてみましょう。

審決集に載っているレンゴーの納付命令によると、同社のシートの実行期間は平成23年10月25日から平成24年6月4日(約7か月)で、その間の売上は62億円です(対応する課徴金は6億円)。

この事件は違反者が多いのでぜんぶまとめると、課徴金対象事業者48社に対する課徴金額は32億円なので、合計売上は32×62÷6≒320億円と推計できます。

次に、ケースについては、審決集のレンゴーの納付命令によると、同社のケースの実行期間は平成23年10月17日から平成24年6月4日まで(約7か月)で、この間の売上は223億円です(対応する課徴金額は22億円)。

ここから全課徴金対象事業者60社のケースの売上を推計すると、820億円となります(対応する売上は82億円)。

次に、大口ケースについては、審決集に載っているレンゴーの納付命令によれば、同社の大口ケースの実行期間は平成23年11月1日から平成24年6月4日までです(約7か月)。

そしてこの期間のレンゴーの売上は134億円です。

なので課徴金は13.4億円になりそうですが、大口ケースについてはレンゴーが立入検査(平成24年9月19日)の1か月前に違反行為をやめており、実行期間が2年未満なので、独禁法7条の2第6項の適用をうけ、課徴金算定率が8%になって、課徴金が11億円になています。

ともあれ、すなおにレンゴーの売上から他の2社の売上を推計すると、

トーモク・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

日本トーカンパッケージ・・・43億円(課徴金3億円の10倍、減免申請で3割減額されているので、0.7で割戻し)

となり、3社合計の大口ケースの売上は、134+60+43=237億円となります。

以上より、シート、ケース、大口ケースを合わせた全社総売上は、320+820+237=1377億円となります。

■自動車運搬船カルテル(平成26年3月18日課徴金納付命令)

この事件は、北米航路、欧州航路、中近東航路、大洋州航路、の4つのルートでのカルテルが問題になっています。

(なお商船三井がすべての航路で全額免除を受けています。)

まず北米航路については、審決集に載っている日本郵船の納付命令では、カルテル実行期間は平成21年9月6日から平成24年9月5日までの3年間とされています。

そしてこの間の日本郵船の北米航路の売上は575億円です。

課徴金額は40億円ですが、これはリニエンシーの申請をして3割の減額を受けた結果です。

つまりほんらいの(リニエンシーがなかったときの)課徴金は0.7で割り戻して57億円となります。

これをもとに他の2社について売上を推計すると、

川崎汽船・・・271億円(課徴金19億円の10倍に、減免申請で0.7の割り戻し)

ワレニウス・・・5億円(課徴金5000万円の10倍)

となり、3社合計で575+271+5=851億円となります。

次に欧州航路については、審決集掲載の日本郵船の実行期間は同じく3年間、売上が554億円、課徴金額は3割の減額を受けた結果39億円です。

これをもとに他の3社の売上を推計すると、

ワレニウス・・・340億円(課徴金34億円の10倍)

川崎汽船・・・229億円(課徴金16億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

日産専用船・・・57億円(課徴金4億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

となり、欧州航路の4社合計売上は、554+340+229+57=1180億円となります。

次に中近東航路では、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、同じく実行期間は3年間、その間の売上は507億円で、課徴金は減免申請で3割減額されて35億円です。

これをもとにもう1社の川崎汽船の売上を推計すると、

川崎汽船・・・171億円(課徴金12億円の10倍に3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、中近東航路での2社合計売上は、507+171=678億円となります。

最後に大洋州航路については、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、実行期間は同じく3年間、その間の売上は236億円、課徴金は3割減額後で17億円です。

これをもとにもう片方の川崎汽船の売上を推計すると

川崎汽船・・・157億円(課徴金11億円の10倍に、3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、大洋州航路の2社の売上は236+157=393億円となります。

以上より、4航路全体の売上は、851+1180+678+393=3102億円となります。

なお本件では商船三井がリニエンシーで課徴金を免除されているので、この分を加えたいところです。

ウェブ上のある情報では、自動車船のキャパシティシェア(2016年1月1日現在)では、商船三井は世界シェア14%だそうです。

なのでざっくりと、商船三井の分を加えた総売上は、3102×1.14=3536億円と見積もられます。

・・・・・・

以上をまとめると、

刑事告訴されたもの

ベアリング・・・1610億円

溶融メッキ・・・2827億円

ダクタイル鋳鉄管・・・877億円

刑事告発されなかったもの

段ボール・・・1377億円

自動車船・・・3536億円

とうことになり、刑事告発されるものはやはり売り上げも大きいなあとわかるとともに、売上だけで刑事告発の有無が決まるわけではないことがうかがえます。

とはいえ、以上検討した過去の例をふまえれば、売上が2~300億円に足りないくらいであれば、(入札談合ではない)価格カルテルの刑事告発のリスクは低いのではないか、という感じがします。

なお、これはまったくの推測ですが、段ボールは売上は大きいものの実質的には加工賃部分だけが売上であったことと、自動車船については外国のワレニウスが違反者になっていたことが、刑事告発にいたらなかったことの一因ではないか、とニラんでいます。

なので、市場規模がが1000億円をこえても刑事告発にならない、というようなことはいえないと思います。

2017年8月 4日 (金)

ボーネルンドに対する措置命令について

おもちゃの輸入業などをおこなうボーネルンドに対して、原産国告示違反で6月23日に措置命令が出ました

おもちゃのチラシにイギリスなどの国旗や国名を表示していたけれど、実は中国製だった、というものです。

この事件でボーネルンドは、

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。深く反省している」

とコメントしたそうです(6月23日付日経新聞ウェブ版)。

また、

「消費者庁によると、同社は2016年12⽉7〜9⽇に配布した新聞折り込みチラシに、玩具の写真と共に⽶国や英国、⽇本などの国旗を掲載。

裏⾯に⼩さく「国旗の表記はメーカー所在国です」と記していたが、同庁は『消費者が⽣産国と誤認する恐れがある』と判断した。」

と伝えられています(同日付時事ドットコム)。

これらをあわせて読むと、消費者が国旗の表示を生産国と誤認しないようにしておけば(たとえば「国旗の表記はメーカー所在国です」という記載を同一視野に大きく記載していれば)不当表示にならなかったかのような印象を与えますが、実はそうではありません。

原産国告示上は、国旗を記載するときには、本当の原産地(本件では中国)がわかるように明示しないと違反になるのであって、国旗が原産国でないと明示するだけでは足りないからです。

原産国告示の該当箇所をみてみましょう。

同告示2項(外国産品の不当表示)では、次の表示が不当表示だとさだめられています。

「2  外国〔中国〕で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国〔中国〕以外の国〔イギリス〕の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

(2号以下略)」

まず本件では、原産国(中国)以外の国(イギリス)の国旗を表示しているので、そのイギリス国旗の表示は1号に該当します。

そして、1号に該当する以上は、

「その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難」

でないかぎり(つまり容易に中国産と判別できないかぎり)、柱書の要件をみたしてしまい、不当表示になるのです。

仮に

「国旗の表記はメーカー所在国です」

と、イギリス国旗の表示と同一視野に大きく記載していたとしても、イギリス産ではないということはわかっても(※)、中国産と容易に判別できることにはならないわけです。

(※実は、この表示でも、メーカー所在国がイギリスだといっているだけで、ほんとうに製造地がイギリスではないということまで明示していることになるのか、疑問がないわけではありません。)

そういうわけで、ボーネルンドの

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。」

というコメントは、原産国告示に照らすとやや的はずれで、問題の本質は、イギリス国旗によりイギリスが生産国と誤認されるかどうかではなくて、イギリス国旗を表示する以上、中国産であることを明示しないといけなかった、ということなのです。

ちなみにボーネルンドの社告では、

「・・・これらの〔原産国である中国以外の国の国旗や国名の〕表示は、当該16商品の原産国が中華人民共和国であることを一般消費者が判別することが困難なものであって、景品表示法に違反するものでした。」

と、原産国告示2項柱書に沿った表現になっていて、イギリス国旗がイギリス製と誤認させるものであったとは一言も述べられていません。

(ちなみに社告の案は通常消費者庁から示されるので、本件もそうだと思われます。)

というわけで、もしボーネルンドが「国旗の表記はメーカー所在国であることを同一視野に大きく書いておけば違反にならなかった」と思っているとしたら、それは原産国告示の解釈を誤っていますし、自らの社告とも食い違ってきます。

もし大きく同一視野に「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載していたら、消費者には実害がないということで、消費者庁は事件として取り上げなかったかもしれません。

そういう意味で、「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載することは無意味ではないのですが、景表法違反かどうかといえば、やはりそれでも景表法違反だといわざるをえないでしょう。

この事件をみてもわかるように、原産国告示は実はけっこうやっかいで誤解されがちな告示です。

個人的には、これだけ企業の国際分業化が進んだ現代において、おもちゃのチラシにイギリス国旗が表示されているだけでそのおもちゃがイギリス国内で製造されたものと誤認する消費者がどれだけいるのか疑問だと思っており、ちょっと原産国告示は割り切りすぎのような気がします。

イギリス国旗がついていても、私なんかは、「イギリス人がデザインしたんだろうなぁ」とか「イギリスの会社が作ったんだろうなぁ」というくらいの期待しかしないと思うし、それで十分です。

おもちゃの工場がどこかなんて、どうでもいいわけで、イギリスの伝統とか、おもちゃに対する哲学とか、設計思想とか、そういったものがあれば十分で、別にだまされた気にもなりません。

もちろん「イギリス製」と書いたらあきらかにウソですが、イギリス国旗は漠然とイギリスのおもちゃであることをイメージさせるにはよい表現手段であり、もうちょっと融通がきかないのかなぁと思います。

しかも問題になるのは国旗だけでなく、国の地図なんかもアウトです(原産国告示運用基準1項)。

と、いろいろ言っても、現に原産国告示が今のような形で存在する以上、これを守らないといけません。

思わぬところで誤解しないよう、原産国告示は注意深く読む必要がありそうです。

それから、原産国告示は優良誤認と違って、いちいち優良性を認定する必要がないのが、消費者庁による迅速かつ画一的な運用ができるポイントです。

たとえばドイツ製のワインをイタリア製と偽った場合に、一般消費者にとってイタリア製ワインのほうがいいものだと認識されていることの立証は不要です。

このような優良性の立証が不要であることにくわえて、誤認を生じさせるかどうかという点についても原産国告示はかなり割り切った考え方をしているんだなぁということを感じさせたことも、今回の事件の特徴であったように思います。

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