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2017年7月12日 (水)

東京ガスへの措置命令について

昨日(2017年7月11日)東京ガスとその販売会社2社に対して、不当な二重価格表示(有利誤認表示)で措置命令がでました

ガスコンロなどを販売するにあたり、メーカー(リンナイ、パロマ、ノーリツ)がメーカー希望小売価格を設定していないのに、東京ガスにおいて勝手に「メーカー希望小売価格」を設定し、そこから比べて安くなっているという、不当な二重価格表示をおこなったものです。

この事件、一見するとよくありがちな二重価格表示の事件ですが、課徴金を視野にいれると、なかなか興味深いものがあります。

まず、不当表示の記載がされた媒体が、「東京ガスのガス展2016」というイベントにおける販売のためのチラシだ、ということです。

イベントのチラシだと、CMや新聞広告よりもチェックが甘くなってしまうこともあるかもしれません。こういう表示にも課徴金がかかってくるので、要注意です。

次に、本件では、チラシは直接的には前記イベント(開催期間は平成28年11月3日から6日までの4日間)での販売のためのチラシですが、課徴金の対象になるのはそのイベントで売上に限られるのか、という問題があります。

この問題については、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」

の第4の2(10頁)では、

「課徴金対象行為は優良・有利誤認表示をする行為であるから、

「課徴金対象行為に係る商品又は役務」は、優良・有利誤認表示をする行為の対象となった商品又は役務である。

その「商品又は役務」は、課徴金対象行為に係る表示内容や当該行為態様等に応じて個別事案ごとに異なるものであるから、全ての場合を想定して論じることはできないが、

以下、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」に関する考え方の例を記載することとする。」

としたうえで、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

との基準をあきらかにし、<想定例>として、

「① 事業者Aが、自ら全国において運営する複数の店舗においてうなぎ加工食品a を一般消費者に販売しているところ、

平成30 年4月1日から同年11 月30 日までの間、

北海道内で配布した「北海道版」と明記したチラシにおいて、

当該うなぎ加工食品について「国産うなぎ」等と記載することにより、

あたかも、当該うなぎ加工食品に国産うなぎを使用しているかのように示す表示をしていたものの、

実際には、同期間を通じ、外国産のうなぎを使用していた事案」

「事業者Aの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Aが北海道内の店舗において販売する当該うなぎ加工食品となる。」

という例があげられています。

ここではあきらかに、チラシに「北海道版」と明記されていたことが重視されています。

上の(1)の一般論で、「具体的な表示の内容」を具体化したものです。

次の具体例では、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、

東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について「○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

という例があげられています。

ここでは、

○○店、××店、△△店限定セール実施!」

と限定されていたことが重視されています。

これは、20万円で買えるという取引条件が適用されるのがこの3店舗だけだったので、課徴金対象売上もその3店舗での売り上げとなるのは、わかりやすいですね。

そこで、本件での東京ガスのチラシをみると、

「ガス展特価」

と明記されているので、ガス展で販売された売上にだけ、課徴金がかかる、ということになりそうです。

もし「ガス展特価」と書いていなかったら、全国での売上に課徴金がかかった可能性もあるので、結果オーライというか、わずかな違いで大きな差になった可能性があります。

(ただ、報道によれば、本件では、対象商品は東京ガスのプライベートブランドで、ふだんはメーカー名も出していなかった、ということのようなので、そのような場合に、メーカー名を出して売っている商品(ナショナルブランド的な売り方をしている商品)と、プライベートブランドで売っている商品が、物理的には同じ商品だけれど景表法法上は同じ商品なのかどうか、という論点も出てきそうです。(本件では前述のように課徴金の対象はガス展での売上に限られそうなので、この論点は顕在化しませんが。))

二重価格表示の問題については、当該チラシで、

「ノーリツ プログレ メーカー希望小売価格320,220円(税込)のところ、195,800円(税込・工事費別)」

と書いてあれば、当該イベントで195,800円で買えるということもさりながら、メーカー希望小売価格は32万円以上もするんだ、という誤認も生じうるので、別の機会に25万円で販売している場合ですら、7万円も得した、という誤認を生じる可能性があるわけですが、このような点をガイドラインが事前に明らかにしていたことは、卓見というほかありません。

というわけで、本件では仮に課徴金がかかるといても当該イベントでの売り上げに限られるということになりそうですが、それでもあえて指摘すれば、比較的短期間の不当表示でも課徴金がかかりうるという点には注意が必要です。

つまり本件では、チラシの配布期間(不当表示行為期間)が、新聞折り込みで1日だけとか、手配りでも約20日間くらいとか、比較的短期間です。

しかしながら、課徴金の対象となる売上の期間は、不当表示の期間だけではなく、原則として(誤認解消措置をとらないかぎり)その後6か月間継続するので、たとえば1日だけの広告でも、最大6か月の売上には課徴金がかかることを覚悟しないといけません。

というわけで、課徴金が導入されると、いかに細かい表示にまで気を配らなければならないか、ということを実感させてくれる事件だったと思います。

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