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2017年7月

2017年7月28日 (金)

期間限定商品の売れ残りと不当表示

だいぶ前のことですが、あるメーカーのクライアントから、

「期間限定販売」(たとえば2015年3月まで)

と銘打って、通常商品とはちがうパッケージでおまけもつけて販売した商品が、予想外に小売店で売れ残ってしまって(想定では発売と同時にすぐ売り切れるはずだった)、期限を過ぎても店頭に並んでいる状況だけれどどうしたらいいか、という相談を受けました。

このときは、やっぱり期間限定と表示しながらそれを過ぎていつまでも販売されているというのは有利誤認表示のおそれがあるので回収すべきでしょうね、というアドバイスをしました。

でも課徴金制度が施行されのにあわせて公表された課徴金のガイドラインの考え方によると、このケースが不当表示にあたるのかはなかなか微妙です。

というのは、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)では、そもそも事業者(メーカー)のどの行為が表示行為に該当するのかについて、商品パッケージでの表示の場合には商品を取引相手方に引き渡す行為が表示行為であり、そのあと店頭に陳列されているのは小売店の行為であって、メーカーとは関係ない、と整理されているからです。

つまり、ガイドライン8頁の第41(5)想定例①では、

「商品a を製造する事業者Aが、

小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、

商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、

その包装がされた商品a を、平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、

事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる

小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない

なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)。

事業者Aは、課徴金対象行為をやめた日の翌日である平成30 年10月1日以降は商品a の取引をしていないため、課徴金対象期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる。」

とされており、包装の不当表示では商品の引渡しが不当表示行為であり、その後の小売業者の販売行為は関係ない、とされています。

不当表示行為が措置命令と課徴金納付命令とでちがう内容を持つとは考えられないですから、これは措置命令の場合にもあてはまるのでしょう。

そうすると、少なくとも景表法との関係では(企業の道義的責任を無視すれば)、販売したあとの行為は関係ないんだから回収する必要はない、ということになりそうにもみえます。

(なお個人的には、不当表示行為の考え方をこのガイドラインのように割り切ってしまっていいものか、疑問がないではないと思っていますが、ここまではっきり書いてあるわけですし、ひとまずガイドラインにしたがっておきます。)

しかし、話はそう単純ではありません。

期間限定販売の場合、何が有利誤認なのかを考えると、限定期間中にその表示に接して、今しか手に入らないんだと思った消費者が、「今買わなきゃ」と思う点に問題があります。

限定期間後に店頭に並んでいる商品をみて、「あれ、期限過ぎてるのにおかしいなぁ」と思いながら買う消費者は、別に誤認していません。(期限が過ぎていることは明らかなので。)

つまり、限定期間中に、「今しか買えないと思ったから買ったのに、実はいつでも買えた」というのが有利誤認なわけです。

そうすると、メーカーとしては、「今しか買えない」という表示をするなら、今しか買えないようにしておく必要があります(そうしないと、有利誤認表示になります)。

では具体的にどうすればいいかというと、やはり、小売業者が期限後は販売しない(返品してもらう)ようにする必要があります。

上記ガイドラインとの関係では、あくまで不当表示行為は商品の引渡しだけれど、期限後は販売されないように契約なりで手当てをしておかなければ、すでに引渡しの時点で有利誤認表示をしていることになるのだ、ということです。

厳しい(そしておそらく論理的には正しい)見方をすれば、期限後には販売されないような手当をしておかないと、仮に期限内に完売しても、やはり有利誤認表示にあたる、ということなのではないかと思います。

もし期限内に売り切れても、それは結果オーライだっただけで、さかのぼって不当表示でなかったことになるわけではないように思われます。

さらに厳しいことを言えば、表示行為(商品の引渡し)時点で返品などのとりきめを小売業者としておかないかぎり、事後的に回収しても、やっぱり、引渡し時点での不当表示行為が適正な表示行為になるわけではないのではないかと思います。広い意味でいえば、事後的な回収も結果オーライの一種に過ぎないわけです。

事前にそういう取り決めをしていたにもかかわらず、小売業者が取り決めに違反して返品せず、期限後も販売を続けてしまった、という場合はどうでしょう。

過失がなくても措置命令は出る、という景表法の建前に忠実にしたがうなら、小売業者が契約違反をしても(=メーカーに過失がなくても)結果的に不当表示になってしまったなら、それはメーカーの責任である(措置命令が出る)、ということになりそうです。

ふつうであれば期限後まで売れ残ることはとうていありえないというような商品ないしは期限の設定なのであれば、小売業者との明示的な取り決めがなくても、全体的・規範的に評価して、不当表示ではない、ということも可能かもしれません。

そういう意味で、小売業者との取り決めが不当表示を避けるために必須の要件だということはないのかもしれません。

しかし、現に売れ残ってしまったという事実がある場合にはとりわけ、売れ残りの可能性が表示行為(商品引渡し行為)のときからあった、と認定される可能性が高いのではないかと思われます。

表示が事実と異なることになるのかどうかが将来の事実にかかっているようにみえる場合でも表示の時点で不当表示性を判断すべきことをうかがわせるものとして、価格表示ガイドラインの将来価格を比較対照価格にする二重価格表示に関する記述があります。

すなわち、同ガイドライン第4の2(1)イでは、

「販売当初の段階における需要喚起等を目的に、将来の時点における販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。

このような二重価格表示については、表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」

とされており、表示の時点で「十分な根拠」があるかどうかが問題にされており、結果的に比較対照価格とされた価格で販売すれば表示の時点でどうであれ問題ないという立場はとられていないように思われます。

以上のケースと似ているけれど違う例として、表示が事後的に事実と異なってしまうことがあります。

たとえば「業界唯一の〇〇」と謳っていたのに、同じ性能の商品が事後的に出てきたような場合です。

この場合は、表示行為(商品の引渡し)の時点では「業界唯一」だったことは事実であり、その後もずっと業界唯一であることを保証した表示とはみられないでしょうから、事後的に事実と異なってしまっても、さかのぼって不当表示だといわれることはないのだろうと思います。

これに対して、「期間限定」の例は、事後的に事実と異なってしまったのではなく、(返品の取り決めをしてくなどしないかぎり)表示の時点で事実と異なる(ただ、事実と異なる事態が顕在化するのは期限経過後にすぎない)ということなのだろうと思います。

ほかに似たような例としては、客寄せの目玉商品を販売したら、思いのほか反響が大きくてぜんぜん在庫がまにあわず、結果的におとり販売になってしまった、という場合もあります。

この場合に、結果的に反響が小さくて在庫が足りても、やはりそれは結果オーライに過ぎないのであって、厳密には(論理的には)おとり販売になりうるのではないかという気がします。

このように、いろいろと複雑な問題が生じることからすると、「期間限定」という商品を販売するときにはくれぐれも注意してやることが必要だということがわかります。

以前相談を受けたそのケースでも、

「『期間限定』のところに、『2015年3月末メーカー出荷分まで』とか記載しておくべきでしたね」

というのが、将来への反省点でした。

2017年7月12日 (水)

東京ガスへの措置命令について

昨日(2017年7月11日)東京ガスとその販売会社2社に対して、不当な二重価格表示(有利誤認表示)で措置命令がでました

ガスコンロなどを販売するにあたり、メーカー(リンナイ、パロマ、ノーリツ)がメーカー希望小売価格を設定していないのに、東京ガスにおいて勝手に「メーカー希望小売価格」を設定し、そこから比べて安くなっているという、不当な二重価格表示をおこなったものです。

この事件、一見するとよくありがちな二重価格表示の事件ですが、課徴金を視野にいれると、なかなか興味深いものがあります。

まず、不当表示の記載がされた媒体が、「東京ガスのガス展2016」というイベントにおける販売のためのチラシだ、ということです。

イベントのチラシだと、CMや新聞広告よりもチェックが甘くなってしまうこともあるかもしれません。こういう表示にも課徴金がかかってくるので、要注意です。

次に、本件では、チラシは直接的には前記イベント(開催期間は平成28年11月3日から6日までの4日間)での販売のためのチラシですが、課徴金の対象になるのはそのイベントで売上に限られるのか、という問題があります。

この問題については、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」

の第4の2(10頁)では、

「課徴金対象行為は優良・有利誤認表示をする行為であるから、

「課徴金対象行為に係る商品又は役務」は、優良・有利誤認表示をする行為の対象となった商品又は役務である。

その「商品又は役務」は、課徴金対象行為に係る表示内容や当該行為態様等に応じて個別事案ごとに異なるものであるから、全ての場合を想定して論じることはできないが、

以下、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」に関する考え方の例を記載することとする。」

としたうえで、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

との基準をあきらかにし、<想定例>として、

「① 事業者Aが、自ら全国において運営する複数の店舗においてうなぎ加工食品a を一般消費者に販売しているところ、

平成30 年4月1日から同年11 月30 日までの間、

北海道内で配布した「北海道版」と明記したチラシにおいて、

当該うなぎ加工食品について「国産うなぎ」等と記載することにより、

あたかも、当該うなぎ加工食品に国産うなぎを使用しているかのように示す表示をしていたものの、

実際には、同期間を通じ、外国産のうなぎを使用していた事案」

「事業者Aの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Aが北海道内の店舗において販売する当該うなぎ加工食品となる。」

という例があげられています。

ここではあきらかに、チラシに「北海道版」と明記されていたことが重視されています。

上の(1)の一般論で、「具体的な表示の内容」を具体化したものです。

次の具体例では、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、

東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について「○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

という例があげられています。

ここでは、

○○店、××店、△△店限定セール実施!」

と限定されていたことが重視されています。

これは、20万円で買えるという取引条件が適用されるのがこの3店舗だけだったので、課徴金対象売上もその3店舗での売り上げとなるのは、わかりやすいですね。

そこで、本件での東京ガスのチラシをみると、

「ガス展特価」

と明記されているので、ガス展で販売された売上にだけ、課徴金がかかる、ということになりそうです。

もし「ガス展特価」と書いていなかったら、全国での売上に課徴金がかかった可能性もあるので、結果オーライというか、わずかな違いで大きな差になった可能性があります。

(ただ、報道によれば、本件では、対象商品は東京ガスのプライベートブランドで、ふだんはメーカー名も出していなかった、ということのようなので、そのような場合に、メーカー名を出して売っている商品(ナショナルブランド的な売り方をしている商品)と、プライベートブランドで売っている商品が、物理的には同じ商品だけれど景表法法上は同じ商品なのかどうか、という論点も出てきそうです。(本件では前述のように課徴金の対象はガス展での売上に限られそうなので、この論点は顕在化しませんが。))

二重価格表示の問題については、当該チラシで、

「ノーリツ プログレ メーカー希望小売価格320,220円(税込)のところ、195,800円(税込・工事費別)」

と書いてあれば、当該イベントで195,800円で買えるということもさりながら、メーカー希望小売価格は32万円以上もするんだ、という誤認も生じうるので、別の機会に25万円で販売している場合ですら、7万円も得した、という誤認を生じる可能性があるわけですが、このような点をガイドラインが事前に明らかにしていたことは、卓見というほかありません。

というわけで、本件では仮に課徴金がかかるといても当該イベントでの売り上げに限られるということになりそうですが、それでもあえて指摘すれば、比較的短期間の不当表示でも課徴金がかかりうるという点には注意が必要です。

つまり本件では、チラシの配布期間(不当表示行為期間)が、新聞折り込みで1日だけとか、手配りでも約20日間くらいとか、比較的短期間です。

しかしながら、課徴金の対象となる売上の期間は、不当表示の期間だけではなく、原則として(誤認解消措置をとらないかぎり)その後6か月間継続するので、たとえば1日だけの広告でも、最大6か月の売上には課徴金がかかることを覚悟しないといけません。

というわけで、課徴金が導入されると、いかに細かい表示にまで気を配らなければならないか、ということを実感させてくれる事件だったと思います。

2017年7月11日 (火)

三菱と日産の軽自動車への課徴金について

三菱自動車の燃費偽装事件については、今年(2017年)の1月27日に、

普通車・軽自動車を対象に、三菱に措置命令

軽自動車を対象に、日産に措置命令

普通車を対象に、三菱に課徴金納付命令

がなされましたが、残っていた、軽自動車についての両社への課徴金納付命令が6月14日に出ました

そこで、同命令について気が付いたことを書き留めておきます。

■誤認解消措置について

命令では、両社とも、平成28(2016)年7月1日に誤認解消措置をとったと認定されています。

ただ両社とも、課徴金対象行為をやめたあと誤認解消措置までの間に違反対象商品を販売していないので、結果的に、誤認解消措置は課徴金額には影響していません。

■自主申告について

今回は、両社とも、違反を消費者庁に自主申告し、それが調査開始の通知前であったことから、課徴金の額が半額になっています。

ただ今回の命令では、三菱について、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

日産について、

「日産自動車は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

とだけ認定されているだけで、具体的な申告日や調査開始の通知日は明らかにされていません。

前回の三菱の普通車についての課徴金納付命令(平成29(2017)年1月27日)では、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、不当景品類及び不当表示防止法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告した。

三菱自動車工業が当該報告をしたのは、消費者庁が三菱自動車工業に対して前記1の課徴金対象行為についての調査の開始を通知したときである平成28年5月27日又は同年8月31日午前より後である同日午後であった

よって、当該報告は、当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものである。」

と、調査開始の通知日と自主申告の日を具体的にあきらかにしていたのとは対照的です。

これはきっと、前回は自主申告による減額を認めないという不利益をあたえるので具体的な日付まで明らかにいていたところ、今回は減額をみとめるという利益をあたえるのだから細かい日付までは書かなくてよい、という判断なのでしょう。

■日産の過失について

日産の過失について、命令では、

「日産自動車は、三菱自動車工業株式会社と共同して実施した燃料消費率に係る検証において本件6商品の各商品の燃費性能の根拠となる情報を十分に確認することなく前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

と認定されています。

報じられているところによると、

2015年11月には日産が届出値と実測値に大きな差があることに気づき、

2016年2月から両社で調査を開始した、

ということのようなので、ここでの「共同して実施した」検証というのは、おそらく2016年2月以降に共同で実施した調査のことではないかとうかがわれます。

今回の件は、基本的には三菱の開発や試験に問題があり、日産はだまされたというのが大方の見立てだと思いますが、 日経電子版6月14日の記事では、

「不正をもっと早く知り得たのではないかという消費者庁の見解は不当。必要な対抗措置を講じる」

という日産のコメントが出ています。

課徴金納付命令によれば対象商品は2016年4月20日まで販売されているので、消費者庁は、「日産はもっと早くわかっていて、もっと早く課徴金対象行為をやめられただろう」、という認定であることがわかります。

これに対して日産のコメントは、「わかってから速やかにやめて4月20日になったんだ」ということなのでしょう。

ちなみに三菱の過失についは、

「三菱自動車工業は、本件8商品の各商品の燃費性能について改ざん等の行為を行い、また、当該行為の防止等を図るための管理監督を十分に行っていない。

三菱自動車工業は、かかる状況の下、前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

というように、自らが改ざん等を行った、という、よりストレートな認定になっています。

2017年7月10日 (月)

プライベートブランドの「製造元」は不当表示の主体になるか?

最近よくコンビニのプライベートブランドというのを見かけます。

各コンビニの名前を冠した、

「〇〇コレクション」

「〇〇セレクト」

「〇〇プレミアム」

といったお菓子やパンのシリーズの、あれです。

そういうプライベートブランド商品のラベルをみると、だいたい「製造元」として、世の中でいわゆるメーカーとして名前の通っている有名企業が表示されていたりします。

こういう、「製造元」が不当表示について景表法上の責任を負うことがあるのか、というのは、なかなか難しい問題です。

条文上は、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)

とは何か、という解釈論であり、少し形を変えてやわらかくいうと、

自己の商品役務として供給していたのは誰か、

という問題であり(たとえば、白石忠志「景品表示法の構造と要点」NBL1059号(2015年10月1日)58頁)、思いっきりやわらかくいうと、

誰のフンドシで相撲を取っていたのか、

という問題だ、と整理できます。(以下、便宜的に、「フンドシ問題」といいます。)

この問題について、参考になりそうな文献として、大元編著『景品表示法(第5版)』(緑本)p63では、

「イ メーカー、製造元、卸売業者の表示主体性」

というタイトルのもとに、

「小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

と説明されています。

一瞬、主語がはしょられているようでわかりにくいかもしれませんが、重複をいとわず主語を補うと、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

ということです。

そして同書ではさらに続けて、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していた輸入卸売業者〔八木通商〕も

表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

とされています。

これも、主語の重複をいとわず主語を頭にもってくると、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

八木通商は、小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していたが、

八木通商も、表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

ということになります。

この具体例からわかるように、上記で引用した、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

という記述が念頭においているのは、通常の、

メーカー→卸→小売

というルートでの不当表示の話なんだなあ、ということが理解できます。

つまり、今回のテーマである、「誰のフンドシで相撲を取っているのか」という問題意識は、どうも、緑本のこの部分では希薄なようです。

とすると、同書でそのあとに続く、

「このほか、製造元と販売元がともに表示主体とされて措置命令・・・の名あて人となっている事例は多数存在する。」

という記述も、「製造元」も、「販売元」も、それぞれ自分のフンドシで相撲を取っていることは当然の前提になっていて、ラベルの欄に「製造元」とか「販売元」と記載されている(場合によっては、記載されているだけの)事業者については、あまり想定していないように思われます。

少なくとも、他人のフンドシで相撲は取っていたけど表示の作成には関与していた、というような事業者が名あて人となった事例が「多数存在する」ということはありませんし、わたしの知るかぎり1つもありません。

実はこの「フンドシ問題」については、緑本p65に、

「エ その他の留意点」

というタイトルで、もう少し関係する記述があって、その中では、

「表示上、製造元、輸入元、発売元として名称が記載されているかどうか・・・は、

各事業者の関係を判断する材料を提供するものではあり得ても、

記載の有無・・・に従って表示者が誰であるかが判断されるわけではない。」

と説明されています。

(ところでこの部分、主語と述語がかみ合ってませんね・・・。)

ここから、

「製造元」と記載されているからといって、(表示に関与していても)違反者となるわけではないし、

「製造元」と記載されていなくても、(表示に関与していれば)違反者となることがある、

ということまでは読み取れます。

ですがこの部分もやはり、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)にあたるのか、

=自己の商品役務として供給していたのは誰か、

=自分のフンドシで相撲を取っていたのは誰か、

という問題に対する答えは出てきません。

なので、どのような場合に、「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取っていた)ことになるのかは、「自己の供給する」という文言の解釈をつうじてあきらかにするほかなさそうです。

ここで、先に引用した白石先生の論文では、

A→B→C

という商流を念頭に、

「一般化すれば、BがC〔消費者〕に供給する商品役務(5条各号で一般消費者による誤認が問題となる商品役務)と、AがBに供給する商品役務とが、同じものであることが必要となる。」

と論じられています。

(そのあとに、経済的にはまったく同じということはありえないけれど景表法ではあまり厳格には考えられていない、という説明が続きますが、ここでの議論には直接関係ないので割愛します。)

でもこれを杓子定規にコンビニのプライベートブランドにあてはめて、

メーカー(「製造元」)→コンビニ→消費者

(厳密には、間に卸が入るとか、消費者に売るのはフランチャイジーであって本部ではないとか、いろいろありますが、割愛します。)

と考えると、プライベートブランドは物理的にはメーカーが作った商品そのものなので、同じものということになってしまい、プライベートブランドのメーカー(製造元)も表示に関与していたら責任を負うことになるのではないか?という疑問が沸きそうです。

しかし私は、たんに商流に乗っている、あるいは、消費者に供給するのと物理的に同じ商品を供給している、というだけで「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取った)というのは広すぎて、もっと絞るべきなんじゃかいかと思います。

たとえばプライベートブランドの場合、誰のフンドシかといえばコンビニのフンドシなので、メーカー(製造元)は、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらない、と考えます。

ほかには、電化製品のOEMやODMの製造受託者も、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらないと思います。

少なくとも、白石先生の前記論文で整理されている公取や消費者庁の過去の事例をみるかぎり、プライベートブランドの製造元が責任を負いそうな気配を感じるものはないように、私の目にはみえます。

OEMなら、委託者(ブランド保有者)が仕様を指示して受託者に作らせるので、優良誤認表示があっても、(受託者が表示に関与していても)委託者だけに責任を負わせるのが筋がよいように思います。

プライベートブランドも、基本的には、コンビニ側が表示と商品に責任を持って売るべきなんであって、そうでなければナショナルブランドとかわらなくなってしまいます。

それなのに、プライベートブランドで製造元も企画会議で表示について意見を述べたとか、表示について最終了承したというだけで、製造元にも責任がおよぶとしたら、ちょっと広すぎると思います。

やや微妙なのは、製造受託者側が設計もするODMの場合ですね。

それでもやはり、ODMの場合も消費者に責任を負っているのは、不当表示の文脈では、販売者(製造委託者)ではないでしょうか。

最終的には個別の判断になるのでしょうけれど、「自己の商品」という文言は、重くとらえるべきだと思います。

・・・と、書いたところであるコンビニに入ったら、プライベートブランドでもメーカー名がかなり大きく堂々と書いてあって、ナショナルブランドなのかプライベートブランドなのかよくわからない、その中間くらいのがありました。

こういうのだと、プライベートブランドの「製造元」だから責任を負わないとも言い切れないような気がします。

結局、この手の問題はケースバイケースで考えるほかないように思います。

2017年7月 7日 (金)

トイザらス事件の残したもの

横田直和「日本トイザらスによる優越的地位の濫用事件審決について-「正常な商慣習に照らして不当な行為」の認定を中心に-」関西大学法学論集66巻3号(2016・9)189頁

という論文に、この事件が関係者の取引におよぼした影響をうかがわせる興味深い記述があります。

ちょっと長いですが、p218の注38を以下に引用します。

「本件の審判において、王子ネピアの参考人は、公取委の調査開始後にトイザらスからの返品や減額の要請はなくなったものの、当初の取引価格の交渉が非常に厳しいものとなり、トイザらスから提示のあった低い価格を受け入れざるを得ないため、実際に売れ残り品が生じてから減額の交渉を行っていた従前のほうが、透明感があって好ましかった旨を述べている(公正取引情報2396号3頁)。

ちなみに、王子ネピアの納入商品は紙オムツ等であって、同社ではトイザらスの店頭における販売状況を踏まえ多頻度の配送を行っているはずであるが、減額が問題となるのは最後の配送商品のみであるので、従前の取扱いではそれ以前の配送商品に係る取引条件には関係がないものであった。

しかし、現在では、新規商品の取扱い時や毎年の取引交渉時において、すべての配送時の商品に係る取引条件が売れ残りリスクをトイザらスが負担する形で決定されているため、王子ネピアにとっては、公取委の調査開始により取引条件が悪化したことになっていると考えられる。」

(ちなみに上記引用部分で王子ネピアとされているのは公開版の審決書では「I」とされている企業です。

同論文は公正取引情報などから丹念に情報を収集して審決書では伏字にされている当事者名や商品名を明らかにしており、それだけでも非常に価値があります。

同論文によると、その他の当事者で具体名が判明しているのは、

G→ユニ・チャーム

K→ピジョン

J→テンヨー(玩具問屋)

B→NRS(エポック社の子会社)

A→カワダ

です。商品名についても、たとえばピジョンの哺乳瓶やユニ・チャームの「ムーニー」、王子ネピアの「GENKI」など、一部補充されています。

ついでに、ネット情報により推測できたものとしては、審決書p43の「新商品」というのは、その発売日(平成22年3月13日)から、「シルバニアファミリーあかりの灯る大きな家」というおもちゃではないか、と推測されます。)

上記引用部分は、本件審決の不当性を裏付ける、非常に重要な指摘だと思います。

つまり、取引当事者間でリスクに対する耐性に差がある場合には、リスク回避的な当事者(本件ではトイザらス)からリスク選好的な当事者(納入業者)にリスクを移転するのが効率的だという経済理論を、上記引用部分が裏付けているように思われるのです。

一般的に、小売店はメーカーに比べてリスク回避的です。

その理由は、小売マージンのほうがメーカーのマージンよりも小さい、ということもあるでしょうし、メーカーは多数の商品から1つでも大ヒットすれば他の損失は回収できるけど、小売店はそのような収益構造になっていない、ということもあるでしょう。

リスクを取りたがらない小売店に対して、とくに新規参入メーカーなどが売れ残りの買取りを約束するなどして、在庫リスクを引き受けることはよくあることかと思われます。

そういうリスクの移転ができないと、小売店は、確実に売れる商品以外は売りたがらないわけです。

本件での返品も、トイザらスから納入業者への合理的なリスクの移転であった可能性が理論的には従来から指摘できましたが、上記引用部分は、それを当事者の証言として裏付けている、といえそうです。

要するに、リスクをきらう小売店が事後的な返品によってリスクの移転をすることを禁じられると何が起こるかというと、小売店は少ない在庫しか置かない、あるいは、購入価格を下げる、という形によって、できるだけ事前のリスク移転(事前の手段による事後的な損失の回避)をしようとするわけです。

そのため、理論的には、小売店の在庫が過小になり、売れ行きがよかったケースにおいて欠品が生じることになります。

欠品は小売店にとって、(欠品がなければもっと利益をあげられたという意味で)不利益ですが、リスクを嫌う小売店にとっては、売れなかったときの在庫リスクのほうがこわいので、それでもかまわないわけです。

このように、公取委の調査(あるいは本件審決)が、当事者間の効率的な取引慣行をさまたげることになってしまった可能性が大いにあります。

だいたい、本件審決の認定は非常におおざっぱで、取引の実態に即した判断をまったくしていません。

取引依存度が0.5%でも優越的地位が肯定されるなど、取引依存度がほとんど意味を持たないので、実際には、どちらが減額・返品を申し出たかだけで濫用かどうかを判断している(納入業者が申し出たものは濫用ではない)ような様相を呈しています。

こういう、きわめておおざっぱな認定になったのも、課徴金納付命令に対する審判なのでたくさんの取引先についてのたくさんの証拠(参考人含む)を取り調べなければならなかったために、これくらいおおざっぱな認定にしないと審決を書けないと審判官が思ったためではないか、と想像されます。

もし一対一の民事訴訟で濫用行為や優越的地位が争われたら、裁判所はこれほど大雑把な認定はしないのではないかと思います。

しかも審決を読むと分かりますが、審決の認定は各取引相手方について、細かい事実関係は異なるものの、大筋では全く同じ認定をしており、悪く言えばコピペのオンパレードです。

それぞれの取引先の実情について具体的に認定しているのは、唯一、どちらが申し出たか、という一点についてのみです。

取引依存度も、なんだかんだ言って、結論先にありきのこじつけとしか思えないような、コピペ満載のおおざっぱな認定になっています。

いろんなところでいろんな人が言っていることですが、優越的地位の濫用は課徴金導入後の最初の5件の正式事件について課徴金納付命令がなされ、すべてについて審判で争われています。

公取はそれに懲りたのか、その後、優越的地位の濫用は正式事件がぱったりとなくなり、平成26年6月5日に課徴金納付命令がなされたダイレックス事件を最後に3年以上も正式事件がなく、代わりに、優越定期地位濫用事件タスクフォースによる注意が急増しています(このことは、拙稿「裁量型課徴金制度と確約制度に関する独禁法改正について」法律時報1107巻でも指摘しました)。

ともあれ、こんなおおざっぱな認定で優越的地位の濫用が認定されるルールが結果として残ってしまったことは、きわめて不幸なことです。

公取は、自分が取り上げる価値が思う事件だけを取り上げればいいので、結論としてはそんなに不当なことにはならないのかもしれませんが(それでも私は、トイザらス事件の結論の相当部分は不当だと思っていますし、立法論としては優越的地位の濫用なんて廃止すべきだと思っています)、実務では、この審決で示された公取の判断枠組みが公式なルールになる可能性があります。

これは非常に不幸なことです。

しかもそのルールというのが、きわめて単純化すれば、

そこそこ大きい小売業者(優越事業者)が自分から減額・返品を求めれば、(相手方の取引依存度にかかわらず)濫用になる

ということです。

これを文字どおり適用すると、いかにおそろしいことになるか、少し考えてみればわかることです。

(ということは、本件審決のルールをまに受けている事業者がそんなに多くはない、ということかもしれません。)

また、裏を返せば、

相手方から申し出させれば濫用にならない、

ということなので、これはこれで問題です。

濫用行為は取引の実態に即して認定しなければならないのは当然ですが、それを公取に、紋切型の、「正常な商慣習は現にある商慣習ではない」という理屈で、独断と偏見で濫用行為を認定されたのでは、たまったものではありません。

何が濫用にあたるのか(経済合理性がない行為か)は、そもそもビジネスを知らない公取が判断できるのかについてすら大いに疑問のありうるところであり、その点をゆずって仮に判断できるとしても、その判断のためには公取は一生懸命取引の実態を謙虚に学ばなければならないはずです。

そしてその際に、その行為に経済合理性があるのかどうかという理論的バックボーンは不可欠なはずです。

本件審決はとうていそのような要求水準を満たしているとはいえません。

そういった、モヤモヤした気持ちがずっとあったのですが、上記横田論文は、上記引用部分以外にも、取引の実態に即した評価をさまざまなリソース(日経新聞の「私の履歴書」も含め!)に基づいて丁寧に行っており、非常に説得力があるとともに、わたしなどは胸のつかえがとれて、とてもすっきりしました。

やはり、(経済学者だけでなく)法律家こそ、ガイドラインの重箱の隅をつつくような議論ばかりではなく、このような、地に足の着いた(具体的事実に基づいた)議論をしなければなりません。

※この論文は横田先生ご自身から抜き刷りを頂戴しました。ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。なお、インターネットでも手に入ります

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