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2017年5月26日 (金)

返品による課徴金の減額

景表法の課徴金では(じつは独禁法でも同じなのですが)、返品により課徴金を減らすことができる可能性があります。

というのは、景表法施行令1条では、

「課徴金対象期間において商品が返品された場合」

には

「返品された商品の対価の額」

を課徴金対象の売上額から控除するとされているからです(2号)。

悩ましいのが、その返品が、

「課徴金対象期間において」

なされたものでなければならないとされていることです。

ここでいう、

「課徴金対象期間」

とは、景表法8条2項で、

「課徴金対象行為〔≒不当表示行為〕をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置〔誤認解消措置〕として内閣府令で定める措置をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、

当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義されています。

要するに、課徴金対象期間は、

①原則(不当表示をやめると同時に販売もやめたとき):不当表示行為をした期間

②例外その1(不当表示行為後も販売を継続したとき):不当表示行為をした期間+最後に販売した日(ただし不当表示終了後の追加期間は最長6か月)

③例外その2(不当表示行為後も販売を継続し、かつ、②の6か月の日よりも前に誤認解消措置をとったとき):不当表示行為をした期間+誤認解消措置の日まで

ということです(最長3年は、はしょりました)。

要約してもややこしいですね。

さて上で、返品を受け付けると課徴金が減る、と書きましたが、ここでジレンマが生じます。

典型的な場合として、メーカーが小売店を使って販売していた場合で、不当表示に気付いたと同時に販売もやめる場合を例に考えてみましょう。

この場合、不当表示をやめるのと同時に販売もやめているので、課徴金対象期間の最終日は不当表示行為をやめた日となります。(①)

(なお当然のことですが、この例でメーカーが不当表示行為をした場合、課徴金がかかるのはメーカーから小売店への売上であり、小売店から消費者への売上ではありません。

したがって、メーカーが不当表示行為をやめたあとでも小売店の棚に商品が残っていて消費者が1000円で買ってしまったとしても、その分に30円の課徴金がかかるわけではありません。

というより、正確には、当該商品がメーカーから当該小売店に課徴金対象期間中に売られたときの売上に課徴金がすでにかかっている、ということです。)

ということは、不当表示行為をやめた日のあとに返品を受け付けても、それは課徴金対象期間中の返品ではないので、課徴金の控除はされないことになります。

そうすると、返品により課徴金からの控除を受けようとすると、(さすがに不当表示を続けるわけにはいきませんので)不当表示をやめたあとに

「取引」(景表法8条2項)

をする必要があります(②)。

そうすると、返品による課徴金額の控除を認めてもらうために(課徴金対象期間を意図的に延長するために)、たとえばその商品を1個だけ(通常の販売を継続していたら課徴金が積みあがってしまうので、それはできません)、不当表示をやめたあとに小売店に販売する必要がある、という、おかしなことになります。

そうすれば、その1個には課徴金がかかっても、小売店から100個返品を受ければ、99個分については課徴金から控除されることになります。

でも、返品による控除をうけるために、1個だけ販売して課徴金対象期間を延ばさなければならないというのも、なんだか変な感じがします。

(ちなみに、「取引」は、あきらかに販売のことであり、返品は含まれないと思われます。)

ほんらいであれば、不当表示であることが分かったあとに受けた返品は控除対象にしない、としておくべきだったのでしょう。

この、課徴金対象売上額の算定方法に関する施行令1条の規定は、独禁法を参考にしたもので、独禁法施行令5条では、

「実行期間において商品が返品された場合」

には、

「返品された商品の対価の額」

を課徴金額の基礎となる売上額から控除するとされています(2号)。

ちなみに、ここでの「実行期間」とは、独禁法7条の2第1項で、

「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間

(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。」

と定義されています。

つまり独禁法も景表法も、基本的な発想は、返品されているのに課徴金の対象になるのはおかしい、という、素朴な会計的な発想でできているわけです。

両者が違うのは、独禁法(典型的にはカルテル)の場合は、対象商品の販売が継続されても課徴金対象期間が延長されることはないので、違反行為の終了後の返品額が課徴金対象売上から控除されるということが、法文上ありえない、という点です。

これに対して不当表示の場合には、不当表示行為をやめても通常その影響がすぐになくなることはないために、課徴金対象期間を最長6か月延長しました。

逆にいえば、カルテルの場合には、カルテルが終わったら価格への影響はなくなる、という前提で制度ができているのです。

というより、価格への影響が残っていたら、それはカルテルの実行期間が続いているのだと解釈するということが、当然あるいは暗黙の前提になっているのでしょう。

このように、不当表示の場合にはカルテルと違って違反行為のあとにも課徴金対象期間を延ばす必要があるという立法判断は正しかったと思うのですが、控除対象の返品まで(あまり深く考えずに?)独禁法に引きずられて課徴金対象期間(≒実行行為期間)内としてしまったために、おかしなジレンマが生じることになってしまいました。

以上のような問題点を、

松田知丈「景品表示法違反を指摘された場合の企業の争い方(上)」NBL1097号

では、

「不当表示をやめると同時に販売も終了した場合、その後の期間が『課徴金対象期間』に含まれるかがポイントとなる。

この要件との関係で、売上額(課徴金額)の減額が難しい場合も考えられる」

というふうな言い方で指摘されています(9頁)。

では「課徴金対象期間」という返品の要件をなくせばいいかといえば、そうもいきません。

そういうことをすると、いつまでも返品による控除を認めることになり、いつまでたっても課徴金額か確定しないということにもなりかねないからです。

そういう意味では、控除が認められるための返品は「課徴金対象期間」内ではなくて、「不当表示行為期間」でなければならない、としたほうが、おかしなジレンマも生じずすっきりしたのではないか、という気もします。

違反者には不利になりますが、独禁法と同様、景表法の場合も、この控除の規定は、前述のような、素朴な会計的発想でできているだけで、たぶんそれ以上の深い意味はないので、この返品に関する規定を使って違反行為終了後の控除までは認める必要はない気がします。

立法というのは、細かく見ていくといろいろ難しいものですね。

実務的には、どうせ不当表示のあった商品は小売店から回収しないといけないのであれば、不当表示行為終了日から6か月以内にできるだけたくさん回収して、6か月目の日に名目的に1個だけその商品を小売店に販売する、というのが課徴金額を減らすポイントになりそうです。

そして、6か月目の日の販売は有償でないと、やっぱり

「取引」(景表法8条2項)

とは認められない認められないのでしょう。

不当表示の判明したいわばキズモノを通常価格で買ってくれる小売業者もいないでしょうから、1円で売る、ということも考えられます。

でも、日用雑貨とか、単価の小さい商品なら細かいことはいわず、事情を説明して頭を下げて買い取ってもらうのでしょうか。

マンションとか不動産とか、単価の大きな商品の場合には、なかなかシビアな問題になりそうです。

あるいは、あとで買い戻す約束付きで売るということも考えられますが、それでは真正の、

「取引」(景表法8条2項)

とは認められないかもしれません。

あるいは、グループ会社に買わせる、ということが可能なら、それでもいいのでしょう。

いろいろと細かいことを考えると悩みは尽きません。

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