« トンネル会社規制の「相当部分」は何の相当部分か | トップページ | セット販売(バンドルディスカウント)について »

2017年4月17日 (月)

合理的根拠と統計学の利用についてのある書籍の記述

「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成25 年12 月24 日 消費者庁、一部改定 平成27 年1月13 日)の中に、

「体験者、体験談は存在するものの、一部の都合の良い体験談のみや体験者の都合の良いコメントのみを引用するなどして、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのような表示がされている」

という記述がありますが、この点に関連して、

林田学『景品表示法の新制度で課徴金を受けない3つの最新広告戦略』

という本のp56以下ではこの部分を評して、

「つまり、体験談が事実として存在するとしても、都合のよい体験談やコメントばかり引用しているような場合は違反とされる。

従来、『体験談は捏造さえしなければよい」というような考え方もあったが、それだけではなく、『それが例外ではない』ことの証明も必要というわけだ。」

「たとえば、ダイエットサプリで『Aさん、2ヵ月で-10キロ』というような広告をする場合、『Aさんが本当に2ヵ月で10キロ痩せた』ことの証明だけではなく、『それが例外でない』ということの証明も必要になるのである。」

と説明されています。

しかし、ちょっと考えてみるとわかりますが、「留意事項」の、

「誰でも容易に同様の効果が期待できる」(≒誰でも2か月で10キロやせられる)

というのと、同書の、

「2か月で10キロやせられるのが例外でない」

というのとでは、まったく意味が違います。

「留意事項」の、

誰でも容易に同様の効果が期待できる」(誰でも2か月で10キロやせられる)

という基準は、文字どおりに読めば一切の例外を認めないかのようでちょっと厳しすぎますので、そこは、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人がいてもよい)

と読むことにしましょう。

そして、これが事実なら、景表法上もまずは問題ないのでしょう。

しかしそれでも、同書の、

「2か月で10キロやせられるのが例外でない」

というのでOKだ、というのとはまったく違うと思います。

さらに同書の説明で問題なのは、同書は「例外ではない」というのを非常に緩やかに解している(100人中3人が10キロやせれば、10キロやせるのは「例外ではない」といえる)、と考えていることです。

つまり、同書では続けて、

「後者の『例外ではない』ことの証明は、統計学のロジックを用いることで説得力を増す。」

「たとえば、臨床試験を行い、その結果を統計的に処理したところ、図表3-3・・・のような正規分布図・・・が描け、

『-10キロはその中の95%ゾーンに入る』

という説明が可能なら、-10キロは例外とは言えないわけだ。

正規分布を前提とすると、値の95%は平均値±標準偏差×2のゾーンに入るからだ」

と説明されていることです。

ここで、「図表3-3」では、95%信頼区間の上限に-10キロが来ている、以下のような図が示されています。

Img_0939

しかし、このように-10キロが95%信頼区間の上限に来ているということは、(信頼区間から外れる5%は信頼区間の両側に2.5%ずつ存在しますから)、母集団(たとえば日本人の成人全員)のうち、このダイエット食品を食べて10キロやせる人は上位2.5%しかいない、ということです。

逆にいえば、97.5%の人は、10キロもやせない、ということです。

これでは、とうてい、「留意事項」(改)の、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人もいる)

という基準はみたさないでしょう。

同書の議論は正式な医療統計学に基づくものではありませんが、そこはダイエット食品なので大目に見るとしても、ここで統計学の考えを適用するなら、むしろ、-10キロが95%信頼区間の上限に位置するのではなくて、下限に位置する必要があると思います。

そうすれば、10キロ減量できない人は母集団全体の2.5%というきわめて例外的な人として無視することが許され(統計的誤差)、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人もいる)

という「留意事項」(改)の基準も満たし、統計学により説得力を増すことができるといえます。

同書の著者は、

「統計学の書物を読み漁ったり、ハーバード大学メディカルスクールのオンラインコースを受講したりして、統計学や医療統計の知識を得た」(p59)

のだそうですが、ちょっと頼りないですね。

事業者のみなさんは、このようなアドバイスを真に受けないよう、気をつけましょう。

ただ現実には、このようなアドバイスでも、ことダイエット食品に関しては、結論は正しい、ということはあるかもしれません。

というのは、ダイエット食品で10キロもやせることはそもそもありえないので、とてもゆるい同書の基準(-10キロが信頼区間の上限に来る基準)であっても満たさないため、

「統計学のロジックを用いることで説得力を増す」

ことに成功することはまずありえないからです。

でもだからといって、同書の理屈が正しいことになるわけではないことも、明らかでしょう。

« トンネル会社規制の「相当部分」は何の相当部分か | トップページ | セット販売(バンドルディスカウント)について »

景表法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1240660/70247776

この記事へのトラックバック一覧です: 合理的根拠と統計学の利用についてのある書籍の記述:

« トンネル会社規制の「相当部分」は何の相当部分か | トップページ | セット販売(バンドルディスカウント)について »