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2017年4月 4日 (火)

トンネル会社規制の「相当部分」は何の相当部分か

トンネル会社規制に関する下請法2条9項では、

A社(本来の親事業者)→B社(トンネル会社)→C社(下請事業者)

という想定で補足しながら引用すると、

「〔①〕事業者〔=A社〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、

かつ、

〔②〕その事業者〔=A社〕から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=B社〕が、

〔③〕その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合・・・において、

再委託を受ける事業者〔=C社〕が、・・・当該事業者〔=A社〕から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号〔=下請事業者の定義規定〕のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、

この法律の適用については、再委託をする事業者〔=B社〕は親事業者と、再委託を受ける事業者〔=C社〕は下請事業者とみなす。」

と規定されています。

さて、ここで問題は、③の

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分

というのが、何の「全部又は相当部分」なのか、つまり、

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為」

とは何なのか、さらに突きつめて言えば、「その製造委託等」の

「そ」

とは何を指すのか、という問題です。

考え方としては、

①A社がB社に委託する製造委託等を、全部まとめて考える

②A社がB社に委託する製造委託等を、商品ごとにまとめて考える

③A社がB社に委託する製造委託等を、個別の発注ごとに考える

というものが考えられそうです。

(①と②は何を基準に「まとめ」るのかが問題となりますが、あとで説明します。)

この問題については下請法講習テキストをみても、

「(イ) 親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合(例えば,親会社から受けた委託の額又は量の50%以上を再委託」

と説明してあるくらいで(平成28年11月版15頁)、「なんとなく①(全部まとめる)かなあ」と思えるくらいで、決定打に欠けます。

しかも、条文を文字通りに読むと、③(個別の発注ごとに見る)も、ありえなくはないようにもみえます。

ですが、わたしは①(全部まとめる)が正しいと考えています。

というのは、それが、トンネル会社規制の趣旨(脱法行為の禁止)からすれば、いちばん素直だからです。

(というか、当たり前すぎて論点となりうることすら、誰も気づいていないかもしれない、というレベルの問題かもしれません。)

条文の文言上も、そんなに無理はないと思われます。

なのでこの説(①.全部まとめて考える)では、

「そ」=A社がB社に委託したすべて(の製造委託等)

とよむわけです。

たとえば粕渕他編著『下請法の実務(第3版)』p73でも、

「例えば、介在する事業者が、一定期間に部品100個の製造委託を10件受け、そのうち6件について再委託するような場合や、

同一部品1000個の製造委託を受け、そのうち600個を再委託するような場合は、

介在する事業者が受けた製造委託等の6割を再委託しているのであるから、

『相当部分』を再委託したものと評価されることとなる」

というように、「一定期間」でまとめることを想定した説明がなされているので、少なくとも③(個別発注ごとに考える)はありえないことになりそうです。

ちょっと悩ましいのは、それに続けて、

「また、介在する事業者が単価の異なる複数の種類の部品1000個の製造委託を一の発注で受けたような場合は、個数で判断することは困難であるから、金額に見積もって50%に達するか否かを判断することになろう。」

と、「一の発注」ごと、つまり個別の発注ごとに過半数かどうかをみるような説明がされている点です。

しかしこれは、A社とB社の間にその1件の発注しかなかったような場合を想定して説明しているとみるべきで、複数の発注をまとめるべきかどうかというここでの問題とは無関係である、と読むべきでしょう。

なお当たり前ですが、粕渕編ではB社が1000個を受注してそのうち600個を再委託する、というような例で説明されていますが、もちろん、B社が受注した製造委託の工程の一部を再委託するような場合も、トンネル会社規制が及びます。

たとえば、A社がB社に完成品1000個の製造を発注し、B社がC社に、その完成品のためユニット1000個を発注し(完成品1個に1ユニットを使う)、そのユニットの下請代金が完成品の下請代金の過半数であれば、トンネル会社規制にひっかかります。

というのは、条文上、

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分」

とされていて、「行為」の相当部分かどうかが問題だからです。

さて、①(全部まとめる)と、②(商品ごとにまとめる)では、どちらを取るべきでしょうか。

この問題については、

池田毅「連載講座 下請法の実務に明るい弁護士による「ケーススタディ下請法」 第3回 下請法の適用範囲②」公正取引788号54頁

という論文が、論点を、

「(ⅰ)A〔=トンネル会社〕は複数の商品を発注しているところ、その全体に対する愛帷幄の割合をみるべきか、それとも個別の商品ごとに再委託の割合が50%以上となるかをみるべきか」(55頁)

という問題と位置づけたうえで、

「たとえばメーカーブランド品(NB品)とプライベートブランド品(PB品)を同一の事業者から購入している場合に、これらが同一発注で注文されることもあるが、

前者については下請法は適用されないが、後者については下請法が適用される。

このように下請法の適否が商品ごとに判断されることからすれば、・・・商品ごとに〔50%以上の再委託の〕基準の該当性を評価すべきように思われる。」

と論じられています。

しかし、この理屈はおかしいと思います。

NB品に下請法が適用されず、PB品に適用されない理由は、たんに、NB品は製造委託に該当せず(と言っていいかどうかも疑問ですが、それは措きます)、PB品は製造委託に該当するからでしょう。

それはいいのですが、このような、

「下請法の適否が商品ごとに判断される」(→あたりまえ)

ということから、

商品ごとに〔50%以上の再委託の〕基準の該当性を評価すべき」

という結論には、論理的にはつながらないと思います。

つまり、

「下請法の適否が商品ごとに判断される」(→あたりまえ)

ということからは、

「下請法の適用される取引であっても、個別に考える」

という結論も、

「下請法の適用される取引は、まとめて考える」

という結論も、まったく同様に導くことが可能です。

別の切り口からいうと、NB商品とPB商品を1つの発注書で発注してもPB商品にだけ下請法が適用されるのは、「下請法の適否が商品ごとに判断される」からであるというよりも、製造委託に該当するところのPB商品に下請法が適用されるから、に過ぎません(あたりまえすぎて、自分でも何を言っているのかわからなくなりそうですが)。

つまり、「下請法の適否が商品ごとに判断される」というルールからは、下請法対象取引はまとめるか、個別に考えるかという問題の答えは出ない(論理的な関係がない)わけです。

下請法上あたりまえ(当然の前提)のことから、特定の結論を導くのは無理があります。

(ちなみに、2条9項の条文も、

「・・・その事業者〔=A社〕から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=B社〕が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合」

とされているので、A社からB社への発注も、B社からC社への発注も、どちらも下請法の対象である製造委託等である必要があります。)

それに、たとえば10種類の商品を再委託しているうちの1種類でも過半数にいくとトンネル会社になるとすれば、1種類でも丸投げすると、(その種類についてだけではありますが)トンネル会社となってしまい、厳しすぎるでしょう。

公取の先例である東陶メンテナンスに対する勧告の担当者解説をみると、

「東陶メンテナンスは、東陶機器から委託を受けた東陶製品に係る無償修理を自社で行うほか、当該修理の約8割を全国各都道府県に所在するサービス代行店・・・に委託している。」(公正取引670号58頁)

ということで、「無償修理」は一種類だったから全体で8割だと判断したともいえますが(ぜんぶまとめて8割であればいいと当然のように考えていた可能性も高いですが)、仮に、修理の内容にいろいろあったとしても、きっとぜんぶまとめて1つと見たのだろうと思います。

というのは、ここでの「東陶機器」には、「温泉洗浄便座、水栓、衛生陶器等」(p57)と、いろいろなものがあったようであり、そうすると、それぞれ別の修理だと評価できた可能性もあったわけで(便座と水栓の修理は別物っぽい)、それを何の断りもなくひとまとめにしている以上、やはり、商品や役務の内容ごとに区々に区切っている考え方はとられていないと思われるのです。

もう一つ例をあげると、

辻吉彦『詳解下請代金支払遅延等防止法(改訂版)』

では、公取委発表資料(平成3年6月6日発表「平成2年度における下請法の運用状況及び下請代金の支払状況」)のなかに、「トンネル会社の支払遅延」として、

「・・・当該子会社〔トンネル会社〕は、・・・E社〔ほんらいの親事業者〕から受けた製造委託の約60パーセントを他の事業者に再委託していることから下請法2条5項〔現行9項〕の規定により親事業者とみなされる、いわゆるトンネル会社に該当する・・・」(p34)

という記述があることが紹介されており、ここでも、委託を受けたすべての製造委託を基準にみている様子がうかがえます。

ところが、さらに悩ましいことをいっているのが、

小倉正夫(公取委事務局取引部下請課長)「わかりやすい下請法(2)-下請法の適用範囲-」公正取引393号15頁

で、そこでは、トンネル会社の判断基準は、

「イ 相当部分を他の事業者に再委託するについての相当部分とは、特定の製造委託又は修理委託の額又は量の50%以上であること」

と解説されていることです。

この、「特定の」というのがまさに商品ごとという意味ではないか?というようにも(見ようと思えば)みえてくるわけですが、この「特定の」には、深い意味はないと割り切るほかないでしょう。

この論文でも「特定の」の意味については何ら深掘りされておらず、言いっぱなしです。

きっと深い考えもなく、筆が滑ったのでしょう。

国会議事録も見てみましたが、あいにく条文の解釈のような細かい話はありませんでした。

トンネル会社規制は昭和40年改正で社会党の提案で入ったものなのですが、そこでの議論は、

昭和40年2月16日の中小企業政策審議会の下請小委員会の中間答申でトンネル会社の問題については、『今後、さらに実態把握につとめ、法改正の必要があるか否かについて検討すべき」とされているが、それでは生ぬるい!

といったものばかりが目立ちます。

唯一、条文の解釈論の参考になりそうなのは、昭和40年5月12日参議院商工委員会(議事録35号)の影山衛司中小企業庁次長の答弁です。

大半は社会党からの「生ぬるい」「実態解明してからとかいうのは勉強不足だ」という突き上げに対する釈明ですが、その中で、

「・・・また〔トンネル会社の〕規定のしかたがやはり非常にむずかしいわけでございます。

社会党のほうの改正案にございますような「資本的又は人的関係において支配を受けており、」というような規定をいたしても、それでは資本的に何%持っておればこれが支配関係にあるかというようなことになりますと、かりに五〇%ときめますと、これは四九%だということになりまして、なかなか脱法を防ぐこともむずかしいというようなことでございます。」

という発言があります。

まあこのくらいしか議論されていないわけですし、全体の議論のトーンとしては、脱法(下請法の資本金要件をかいくぐる)を防ぐという発想は国会の議論でも色濃く出ています。

そうすると、商品ごとにとらえて1個でも過半ならトンネル会社だというのは、やっぱり厳しすぎると思います。

当局もそこまで厳しいことは言っていないようですし、私はそれでいい(①の全部まとめる説が妥当)と思います。

では全部まとめるとして、どの範囲でまとめるか(具体的にはどの期間でまとめるか)という問題があります。

さすがに、トンネル会社ができてからの全部の取引をまとめるというのは、(それでも運用は回っていくのかもしれませんが)法解釈としてかなりためらわれます。

この点について前記池田論文では、

「ある一定の期間(たとえば毎月末締め)には、その当該支払対象期間についての再委託の割合によりトンネル会社規制の適否を判断するのが妥当」(p55)

という考え方が示され、なので、繁忙期だけ5割以上になる場合でも、その繁忙期についてはトンネル会社規制がおよぶ、とされています。

これはこれで一つの考え方ですが、私はこの点についても、そこまで厳しく言わなくてもいいんじゃないかと思います。

あえていえば、過去1年くらいさかのぼって50%以上でなければいいんじゃないでしょうか。

もしそれよりも近い時期に再委託が急に増えたりとか言った事情があるなら、ケースバイケースで柔軟に考えるというのでいいのでしょう。

いずれにせよ、はっきりした基準はありませんし、トンネル会社規制というのはそれくらいおおらかな解釈で回っていくんだと思います。

ともあれ、こういう細かい議論をあえて論文に書いてもらうのは、議論の蓄積のためにはとても貴重なことであり、その意味で池田論文は貴重だと思います。

当たり障りのないことだけ書いてたのでは、本当に知りたいことは何も書かれていない、ということになりかねません。

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