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2017年4月21日 (金)

セット販売(バンドルディスカウント)について

昨日の競争法フォーラムの勉強会でセット販売がテーマだったので、前から読みたいと思っていた、ハーバード大学のEiner Elhauge教授の

TYING, BUNDLED DISCOUNTS, AND THE DEATH OF THE SINGLE MONOPOLY PROFIT THEORY (2009)

という論文を読んで予習してみました。

Elhauge教授らしい、相変わらず切れ味鋭い論説で、私もバンドルディスカウントに対する考え方を改めたい、と思いました(宗旨替え)。

要点をまとめると、抱き合わせおよびバンドルディスカウントの効果には、

①商品内価格差別(Intra-Product Price Discrimination)

②商品間価格差別(Inter-Product Price Discrimination)

③個別消費者余剰の搾取(Extracting Individual Consumer Surplus)

(①~③は、いくらかの市場支配力があれば生じるので「支配力効果」(power effects)と総称)

④従たる商品市場の市場支配力増加(Increased Tied Market Power)

⑤主たる商品市場の市場支配力増加(Increased Tying Market Power)

(④、⑤は、従たる商品市場の相当程度のシェアの排除を要するので「シェア排除効果」(foreclosure share effects)と総称)

があるとされます。

そして、シカゴ学派の抱き合わせに関する「独占の梃子の否定論」(single monopoly profit theory)は、

①需要者は主たる商品に対する従たる商品の使用量を変えないこと、

②主たる商品と従たる商品の需要に強い正の相関性があること、

③主たる商品の使用量が変わらないこと、

④従たる商品市場の競争の程度が固定されていること、

⑤主たる商品市場の競争力の程度が固定されていること、

の5つすべてを前提にしてはじめて成り立つが、実際には、これらの条件がすべて成り立つことはまれであり(というより、そのうち1つでも成り立つ場合も多くない)、しかも前記5つの効果は重畳的に生じるので、バンドルディスカウントはきわめて強い排除効果を持ちうる(なので、抱き合わせを当然違法ないし当然違法類似の法理で処理する米国判例法は正しい)、とされます。

すなわち、

①需要者が主たる商品に対する従たる商品の使用量を変えると、商品内価格差別が生じる、

②主たる商品と従たる商品の需要に強い正の相関性がないと、商品間価格差別が生じる

③需要者が主たる商品の使用量を変える場合(たとえば、2台目、3台目のプリンターを会う場合)には、個別消費者余剰が搾取される、

④従たる商品市場の競争の程度が変わる前提だと、従たる商品市場の市場支配力が強化される、

⑤主たる商品市場の競争力の程度が変わる前提だと、主たる商品市場の市場支配力が強化される、

とされます。

この論文のすごいところの一つは、これまでの経済学の議論を、難しい数式を一切使わずに、単純な数値例を使うことで、きわめてわかりやすく説明しているところです。

たとえば、②の商品間価格差別については、

201人の需要者がいて、

その支払意思額が、商品A(コストはゼロ)について、0ドル、1ドル・・・200ドルと1ドルきざみであり、

逆に商品B(コストはゼロ)については、200ドル、199ドル・・・0ドルだとすると、

抱き合わせがないと商品AとBをそれぞれ100ドルにするのが利益最大化になる(それぞれ101人の需要者が購入して利益は20,200ドル)が、

抱き合わせをするとバンドルで200ドルにするのが利益最大化になる(201人全員がバンドルを購入し、利益は40200ドル)、

ということが示されます。

つまり、商品Aと商品Bへの支払意欲に相関関係がないと(上の例では、商品Aを高く評価する需要者ほど商品Bは低く評価するという負の相関関係があると)、バンドルによって消費者余剰を搾取できる、ということです。

いわば、セット(バンドル)の購入者について、セットでは定額としながら、商品Aと商品Bを個別に(実質的に)みれば、実質的には、個々の需要者ごとに異なる価格を設定している(だけどバンドルでは同じ額)、という理屈です(なので、商品間価格差別)。

またこの論文は、反トラスト法では総余剰基準ではなく消費者余剰基準を採用すべきだと強く主張します。

私などは、基本的にシカゴ学派からスタートしていますから、完全価格差別は総余剰を増やすので効率的だという議論がしっくりくるのですが、この論文は、その考えが甘いことをよくわからせてくれます。

完全価格差別が効率的だと言ってのけられるのは、「しょせん完全価格差別なんてめったに起こるものではないんだから目くじら立てることはないでしょ」という甘えがきっとあるのだろうと思います。(私はありました。)

でも、セット割引というのは世の中にいくらでもあるので、そんな悠長なことは言ってられません。

やはり、ほんとうにシビアな問題が起こっているところで、「本当にそんな、木で鼻をくくったような議論をしていていいの?」ということを、真剣に考える必要があるんだなぁと、いまさらながら考えさせられました。

(ただこの点については逆に、シビアな問題が生じるからこそ、「総余剰基準が正しいんだ」という議論が強まる可能性もあります。)

同論文によると、バンドルディスカウントを不当廉売のようにコストベースで考えるのは間違いで、コスト割れでなくても反競争的な場合は、上記5つの効果を考慮すればいくらでもある、とされます。

また、「ディスカウント」という言葉が値引であるかのような誤解を生むのであって、実際には、バンドルディスカウントというのは、アンバンドル価格とバンドル価格との差額であるにすぎないんだ、ともいいます(しごくもっともです)。

そのうえで、問題にすべきはバンドルあるいは従たる商品の実質価格がコストを下回るかどうかではなく、アンバンドル価格が、抱き合わせがなければついたであろう価格(but-for price.「ナカリセバ価格」)を上回ることなのだ、といいます。

したがって、(公取のバンドルディスカウントに関する検討会報告書でも採用された)Distribution Attributionテストはまちがいだ、それだと、反競争的な行為が合法になって過小規制だ、とはっきりいいます。

公取委の報告書についてはまたの機会に検討するとして、ともあれ、この論文は非常に説得力があります。

同報告書で、

「※注13 本報告書はこのような排除効果に焦点を当てるものではあるが,あるバンドル・ディスカウントが排除効果までは生じない場合であっても,バンドル・ディスカウントを介した価格差別によって消費者厚生が低下する可能性がある点も問題として捉えるべきであるとの指摘も存在することに注意が必要ではある。」

というのが、上記①~③の支配力効果(排除を前提としない効果)のことと思われます。

でも実際にこの論文を読むと、こんな簡単に脚注で触れて済むような問題ではないことがとてもよく理解できます。

というわけで、公取委は排除効果を中心に考えて、しかもDistribution Attribution(DA)テストを採用しているので、この論文ほどセット販売に厳しい立場をとることは考えられませんが、この論文をよむと、セット販売が大きな反競争性をもちうるということがわかります。

しかも、電気とかガスはだれでも購入するので、その広がりがとても大きくなります。

ほかにも、

「同等に効率的な競争者テスト」(排除者と同等に効率的な競争者でも排除されてしまうときには違法とする考え)は、まさにその行為があるために競争者が同等に効率的になれないときには過少規制になる

とか、

「抱き合わせは支払意思額の高い需要者から低い需要者に取引を移転させるので消費者余剰が減少し非効率的だ」

とか、排除行為に関する議論が頭の中でとてもきれいに整理できる記述が盛りだくさんです。

もちろん、実際の市場の競争や需要曲線をみないと反競争効果が生じるかどうかはわからないし、効率性を促進することもありうるので、理屈だけですべてのが片付くわけではないのですが(この論文も、バンドルディスカウントが当然違法といっているわけではなく、あくまで合理の原則で判断すべきと言っているだけです)、価格差別(メーターリング)は総余剰を増やす、というシカゴ流の単純な発想ではいけないんだ、ということはよくわかります。

私はかつて、川濱教授の再販の論文をよんで再販については宗旨替えした(シカゴ流の原則合法ないしは合理の原則から、ほぼ当然違法)のですが、それに匹敵するくらいの衝撃のある論文でした。

セット販売反対派も賛成派も、この論文を読めば何が問題か、よく理解できることでしょう。

そういった意味で、どちらの立場であっても、関係者は必読(という陳腐な決まり文句は好きではないですが、本当に)です。

たとえば、電気は最初の一単位と最後の一単位に対する支払意思額がかなり違いそう(電気がないとさすがに困るけど、最後の一単位を減らすのはたいして苦痛ではない)なので、③の個別消費者余剰の搾取効果はありそうだな、とかいった具合です。

ほかには、電気とガソリンのセット販売の場合、クルマにたくさん乗る人は家にあまりいない、など、個々の需要者ごとに支払意思額が異なりそうなので、②の商品間価格差別効果はけっこう生じそうだな、といったことが思いつきます(競争法フォーラムで出た質問をヒントに思いつきました)。

だけど、本当にそう言えるかどうかは、まさに事実認定の問題で、まったく逆の結論が正しいかもしれません。

それでも、どこに目をつけるべきか、ポイントは見えてきます。

ほかには、バンドル値引きの額(つまり、アンバンドル価格とバンドル価格の差)の大きさ自体は、反競争効果にとって決定的ではない(額が小さくても十分反競争的でありうる)といったこともこの論文では言われていて、けっこう衝撃的です。

(ざっくりいうと、バンドルがない場合の主たる商品の消費者余剰が従たる商品の消費者余剰に比べて十分大きければ、バンドル値引きの額が小さくても反競争効果が生じうる、とされます。)

さらに視点を変えると、公取委がDAテストのようなかなり甘い基準を採用しており、セット販売が事実上野放しの状態であることを前提にすれば、事業者としては、どの商品とどの商品をバンドルすれば利益が上がりそうかを予測してビジネスに生かすことができるかもしれません。

(さらに余談ですが、独禁法をやってると、こういう、ビジネスの目の付け所(=独占利潤の獲得方法)というのが見えてきたりします。最近では、アップルペイのビジネスモデルなんか、「そこに目を付けたかあ」と感心してしまいます。)

そういうわけで、この論文の立論に理屈で反論するのは非常に難しいのではないか、という気がします。

(この論文では、反対説に対する周到な反論も展開されていて、それがこれでもかというくらい説得力があります。)

ただこの論文も万全ではありません(この論文ですべての問題が解決できるわけではない)。

一番の問題は、アンバンドル価格が「ナカリセバ価格」を超えたらだめだといっても、では「ナカリセバ価格」をどうやって算定するのか、ということだと思います。

この論文では、会社の内部文書を調べたり、経済分析を使えばわかる、といっていますが、「本当にそうかなぁ」という気も正直します。

そういうわけで、ますます独禁法解釈に経済学が必須になってきそうです。

ついでにいうと、この論文のすごいところとして、見事に法学と経済学の橋渡しをしているところがあげられます。

たとえば、アンバンドル価格が「ナカリセバ価格」を超えたらだめだというなら、たんなる単品の高価格設定もだめだというのか、という批判に対しても、「バンドル規制は高価格設定を規制しているのではなくて、バンドルにともなう制限を問題にしているのだ」という、説得力のある反論がされています。

「判例はこの効果を問題視したんだ」、という経済理論に基づいた解説も見事です。

経済学の論文のような数式はいっさい使わず、数値例(とグラフ)だけで問題のエッセンスを伝える、という手法は、誰でもできそうで、実は経済学が心底わかっていないと怖くてできない手法なのでしょう。

こんな手法も、日本でまねをする法学研究者の方が出てこないかなぁと期待したりします。(私にはとうてい無理です。)

経済法学畑に経済モデルの数式を読んで理解できる人がとくに日本では少ないことを考えると、この、数式を使わずエッセンスを伝えるという手法はきわめて有効だと思います。

日本でも、セット販売に関する議論がさらに深まることを期待したいと思います。

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