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2017年3月10日 (金)

ドイツ証券に対する警告に関する報道について

昨日(3月9日)の日経夕刊に、

「ドイツ証券に警告へ 公取委 欧州国債 利回り調整か」

という記事が出ていました。

驚いたのがその中での「警告」にする理由で、

「この2社の担当者はインターネット上のチャットで〔欧州国債の利回りなどを〕協議していたという。公取委は組織的な行為とは言えないことなども踏まえ、警告が妥当と判断したとみられる。」

とされていたことです。

組織的な行為とはいえないから警告、というのは、どういうことなんでしょうか。

独禁法(なかでも排除措置命令)の目的は公正かつ自由な競争の確保であり、組織的かどうかは本質的ではありません。

日本の独禁法は基本的に企業を名宛人にした行政措置なので、従業員が業務上行った違反行為は当然(あるいはほぼ当然)に企業の行為とみなさないと、排除措置命令が出せない場合が出てきてしまいます。

行政処分という制度を取る以上、従業員の行為は企業の行為とみなす、というのでないと、筋がとおりません。

おそらく、同じく行政処分だけである欧州でも、そういう考え方だろうと思います。

もし欧州の弁護士に、

「日本では、組織的な行為ではない場合には、ハードコアカルテルが警告どまりになる(ことがある)」

といったら、きっと、「なにそれ?」という顔をされると思います。

個人の刑事責任を追及する米国のような制度であれば、企業のまったく知らないところで従業員が違法行為をしていた場合には企業は訴追を免れる、ということはありえます。

反トラスト法ではそういう例は聞いたことがありませんが、米国の外国公務員贈賄(FCPA)では、従業員に対してコンプライアンス教育をしっかりやっていたのに従業員が無視して贈賄をしたというケースで、モルガンスタンレーが法人訴追を免れた、というケースがあります。

日本の刑法の一般論としても、両罰規定があれば必ず法人も起訴されるわけではなく、組織的な関与がなければ起訴されない、ということは普通にあります。

このように、個人や法人の責任を追及することに主眼がある刑事法の場合には、組織的関与がなければ法人は訴追しないというのは、非常に納得感があります。

これに対して排除措置命令は競争回復が目的なわけですから、組織的関与があるかどうかは本来問題とすべきではないのです。

もし組織的関与がない場合には法人には排除措置命令を出さない(出せない)という制度をとるのであれば、個人に対する排除措置命令を導入しないとつじつまが合いません。

ハードコアカルテルは発覚しにくいですから、ほんらい、一罰百戒的に正式処分を打つべきです。

もうすでになくなっている行為だから警告にとどめる(今回の警告の理由がそうかはわかりませんが)、というのも、ハードコアカルテルの場合には妥当ではありません。

今回の件が欧米で摘発されているLIBORやデリバティブなどの金融商品関連の事件とどういう関係にあるのかはよくわかりませんが、少なくとも、海外ではどんどん正式事件として摘発されている(競争法か、市場に対する詐欺罪かは、ともかく)のに、日本では警告どまりというのも、国際的な観点からは見劣りがします。

うがった見方をすれば、外資系企業だから甘い処分ですませたのではないか、とすら疑われてしまいます。

公取委にはあまり英語ができる職員がいませんから、外国企業に対して及び腰になるというのは想像ができます。

かつて知り合いの外国の弁護士が、日本の公取委の幹部の方が海外の会議で配布した資料というのをくれたことがあって、その中での犯則事件についての説明で、

「日本では外国企業を刑事訴追することはない」

と堂々と書いてあるのをみてひっくり返りそうになったことがあります。

「検察庁を巻き込むのは大変だし、ホンネはそうなんだろうけど、何も国際会議で言うことないのに」と思いました。

やっぱり、外国の会社に対して弱腰だとみられるのは、とてもよろしくないと思います。

日経の記事によれば警告に落ちた主な理由は組織的関与の欠如だったようですが(それ自体、妥当な理由でないことは前述のとおりです)、なぜ排除措置命令ではなく警告なのかという理由はふつう警告書には書かれませんし、報道発表でも、ふつうはそのような理由の説明はありません。

しかし、今回のようなケースは警告にとどめた理由の説明が強く求められると思います。

そうでないと、

組織的関与がないと警告どまりになるのでは?

とか、

公取委は外国企業に弱腰なのでは?

という、疑心暗鬼を招きます。

毎年恒例の雑誌「公正取引」の座談会で話題になりそうなテーマではありますが、あれも、建前上は公取委の方のコメントは個人的見解なので、やはりプレスリリースなりで正式に説明してほしいところです。

でもそれはきっと難しいでしょうから、事務総長定例会見でどなたか記者の方が質問していただけないでしょうか

最近の公取は、景表法では富山の家具屋さんの二重価格表示に措置命令を出すのに(3月8日布屋商店に対する措置命令)、ハードコアカルテルが警告というのは、いかにもバランスが悪い。

今年に入ってから、下請法(2月23日ニッド、3月2日プレナス、3月7日あらた)とか、消費税転嫁法(2月22日スーパーホテル、3月9日帝国データバンク)については正式処分が相次いでいますが、本丸の独禁法がこれではさみしいかぎりです。

ちょっと、リソースの振り分け方がおかしいんじゃないでしょうか。

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