流通取引慣行ガイドライン改正に関する3月6日日経朝刊記事について
3月6日(月)日経朝刊法務面に、流通取引慣行ガイドライン改正に関する記事が載っていました。
でもこの記事にはいろいろと問題があります。
まず、
「独禁法は・・・正当な理由なく供給先を選別することなどを公正な競争を阻害する『不公正な取引方法』として禁じている。」
というのは、控えめにいって誤解を招きます。
正当な理由がなければ供給先を選別できないなんてことを言い出したら、取引相手の選択の自由と真っ向から衝突してしまいます。
そんなことはありえません。
記事の「図」では、取引先による横流しを
「原則として禁止できない」
とされていますが、これもかなり誤解を招きます。
実際には、横流しの禁止は問題ない場合のほうが多いです。(たとえば市場シェア25%のセーフハーバーにみたない場合)
それどころか、横流しを一切禁止する(つまり消費者にしか売ってはいけないとする)ことすら、問題ない場合の方が多いくらいです。
というわけで、
「実は例外的に、販路を制限できる場合もある。」
として資生堂事件最高裁判決にふれるのも、かなり誤解を招きます。
というのは、同事件は同記事ものべるように対面販売の義務付けが問題になった事例であり、これが(唯一とはいわないまでも)「例外的」に販路を制限できる場合だとすると、対面販売の義務付けのような販売方法の制限ではない制限の場合(たとえば卸売販売を一切禁じるとか、再販売先を指定する一店一帳合制)には、「原則」にもどって原則として禁止されることになってしまいます。
資生堂事件で突如「それなりの合理的な理由」という基準が出てきたようにみえるのは、他の態様の制限とのバランスからも、価格への影響など何らかの反競争的効果があることを前提にした基準であるとみるか、当事者が販売方法の制限の妥当性だけを争ったからそういう判示になったとみるべきです。
なので、資生堂事件の基準をあたかも販路制限一般に適用がある例外であるかのようにいうのは、とても誤解を招きます。
選択的流通制について、
「現行の指針でも『選択的流通』という例外規定があり、①品質の保守(ママ)②適切な使用の確保③消費者利益の確保---の観点から合理的理由があれば、一定基準を満たした流通業者だけに自社商品の取り扱いを認め、他の業者への転売を禁止することが認められている。」
と紹介しているのも問題です。
というのは、もちろん①②③の要件を満たせば転売禁止できるのですが、仮に満たさなくても、取引先制限一般の基準(価格が維持されるおそれ)をクリアすれば問題ないからです。
つまり、選択的流通と取引先制限は二重のスクリーニングになっています。
このように、この記事にはいろいろ問題があるのですが、それがまさに独禁法のわかりにくさであり、流通取引慣行ガイドラインのわかりにくさ、ということなのだと思います。
このような誤解を解くために私はこのブログやいろいろな講演で情報発信をしているのですが、私ごときの情報発信ではいかんともしがたいものがあります。
独禁法が門外漢にわかりにくいのは法律の性質上あるていど仕方がない(文言が抽象的で肝心の考え方はどこにも書いていない)のかもしれませんが、ガイドラインがわかりにくいというのはそれ自体問題だと思います。
だって法律解釈をわかりやすく示すのがガイドラインというものでしょう。
ひとつこの記事をフォローすると、なにもガイドラインをこのように解釈するのは日経だけの話ではなくて、きっと世の中の多くのところでそのように考えられていることの反映ではないか、と思います。
もしそういう間違いを犯すのが弁護士に相談しないためである場合には、「弁護士に相談してくださいね」ということなのですが、困ったことに、独禁法に関しては弁護士のなかにも間違ったアドバイスをする人が多いと思われるのです(セカンドオピニオンをする経験上そう思います)。
というわけで、新しいガイドラインは、
独禁法の体系を理解している人には誤解なく理解できる
というようなものではなくて、
独禁法の門外漢がガイドラインだけをみても、まずは大きな誤解をしない
というものを目指してほしいです。
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