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2017年3月31日 (金)

先着順が総付景品である理由

景品を先着順であげるのは、消費者庁の運用基準では、総付景品であるとされています。

このことは懸賞運用基準3項で、

「来店又は申込みの先着順によって定めることは、「懸賞」に該当しない(「一般消費
者に対する景品類の提供に関する事項の制限」その他の告示の規制を受けることがある。)。」

というように明記されています。

明記されてしまっているので結論は動かしようがないのですが、その理由については消費者庁のQ&Aで、

「Q46

商品の購入者や来店者に対し、先着で景品類を提供することは、懸賞に当たるのでしょうか。それとも総付景品の提供に当たるのでしょうか。」

という質問に対して、

「A

来店又は申し込みの先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらないことから、懸賞には該当しません。したがって、原則として、商品の購入者や来店者に対し、先着で景品類を提供することは、総付景品の提供に該当します。」

というように説明されています。

しかし、先着順は偶然性や優劣ではないというこの説明はおかしいと思います。

(なおここでの「偶然性や優劣」というのは、懸賞告示の1項の、

「一 くじその他偶然性を利用して定める方法

二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法」

を受けています。)

なぜなら、

「先着10名様に賞品を差し上げます」

というのと、

「100m走のタイムで上位10名に賞品を差し上げます」(→明らかに「優劣」)

というのと、本質的には何の違いもないからです。

まるで消費者庁は、

「かけっこが速いのは身体的能力の問題なので『優劣』だが、お店に来るのが早いかどうかは能力の問題ではないので『優劣』ではない」

あるいは、

「かけっこが速いかどうかは個人の能力に左右されるが、来店順位は客観的な条件なので『優劣』ではない」

と考えているみたいですが、お店に来るのが早いかどうかだって、立派な「優劣」だと思います。

「優劣」というのは、何か社会通念上の積極または消極的な価値評価を受けるものであることを前提にしているような響きもありますが、そんなところで「優劣」と、価値評価を伴わないたんなる序列(?)を区別できるはずがありません。

もし、価値評価を伴わないたんなる序列を「優劣」に含まないとすると、逆に懸賞に該当すべきものまで大幅に総付になってしまいます。

もともと懸賞告示1項2号の「優劣又は正誤」というのは、以前は偶然性だけだったのが、それだと、「作文を送って優秀なものに賞品を差し上げます」というようないわゆる優等懸賞が脱法的に行われるようになったので、それを規制するために追加されたものです。

なのでもともと「優劣」なんて、社会的に優れているかどうかなんてどうでもよくて、たんなる偶然性にひと手間加えただけのものでよかったわけです。

さらにQ&Aでは続けて、

「しかしながら、例えば、ウェブサイト、電話、ファクシミリ、郵便等による商品等の購入の申込順に商品を提供する場合等に、商品等の購入者が、申込時点において景品類の提供を受けることができるかどうかを知ることができないのであれば、偶然性によって景品類の提供の相手方が決定されることに等しいと考えられますので、この提供の方法は懸賞とみなされることがあります。」

と回答していますが、これも前段の回答と矛盾します。

というのは、前段では、

「来店又は申し込みの先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらない」

と、先着順が定義上、偶然性や優劣には該当しないといっているのですから、それが購入申し込み時点で順位がわからないというだけで「偶然性や優劣」に該当することになるというのは論理が破たんしています。

まあここは善意に解釈して、前段と後段は併せて読むんだと、つまり、

「先着順は、

購入申し込み時に順位がわかる場合(通常はこちらでしょう)には『偶然性や優劣』ではないので総付

だけれど、

購入申し込み時に順位がわからない場合には『偶然性』によるので懸賞だ」

と読むのかもしれません。

しかしこれも問題です。

なぜなら、これだと来店者に景品をあげる場合など、取引を条件としない景品提供の場合をうまく説明できないからです。

(ちなみにQ&Aの設問では、「来店者」に対して先着順(つまり来店順)で景品をあげる場合も想定しています。)

もし「購入申し込み時に順位がわかっているなら総付」というのを、来店者に対して景品をあげる場合にまで適用すると、明らかに不都合です。

なぜなら、来店者に景品をあげる場合は、お店に来てもらえばお店としては目的達成なわけですから、もし購入申し込み時(正確には申込前)に順位がわかっているかどうかを基準にすると、景品の目的を達成した時点(来店時)では順位がわかっていなくても、来店後、(未来永劫到来しない)申し込み時(正確には、申込前)に順位がわかっていれば、総付だということになってしまうからです。

(なお来店者に提供する経済的利益に取引付随性が認められるのは基本的には小売店が提供する場合に限られますので、小売店を想定してください)

ひょっとしたらQ&Aの「(購入の)申込時点」で順位がわかるかどうかを基準にするというのは、来店者に景品を提供する場合には、「来店時」(正確には、来店前)に順位がわかるかどうかを基準にすると読み替えるのかもしれません。

でもそうすると、来店時(正確には、来店前)に順位がわかることなんて普通ないでしょうから(事前に電話で順位を問い合わせてから来店する人がいるかもしれませんが、それでも、来店時には順位が変わってしまっているかもしれません)、来店者に景品をあげる場合には途端にほぼ100%懸賞となり、前段の、

「来店・・・の先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらない」

という原則論が適用される場合がほぼない、ということになってしまいます。

ちなみに真渕編著『景品表示法〔第4版〕』(緑本)p191では、

「購入者の一部に先着順で景品類を提供する場合において、購入者が自己の順位をあらかじめ(注・購入前に)知ることができないようなものについては、購入者にとっては『偶然性を利用して定める方法』となるのであり、懸賞に該当することになる。」

と説明されています。

つまり、消費者にわかるかわからないかだけを基準に懸賞か総付かを区別する、ということです。

これはこれで一つの割り切りで、私もこの結論は(理屈はさておき)正しいと思いますが、でもそうすると、Q&Aの、先着順は(定義上)偶然性や優劣にはあたらないという説明とは異なることになります。

それに、緑本の説明でもやはり、(購入者ではなく)来店者に先着順で景品をあげる場合には、どう考えるのかはっきりしません。

話を元に戻してQ&Aについてですが、もし後段のように、

消費者が購入申し込み時(前)に順位がわからないなら懸賞(わかると総付)だ

というルールを一般的に適用すると、たとえば、懸賞運用基準2(3)で懸賞(優劣又は正誤)の例としてあげられている、

「パズル、クイズ等の解答を募集し、その正誤によって定める方法」

の企画を商品パッケージに告知する場合、商品購入は景品提供の条件ではない(場合もある)ので、購入申し込み時が永久に到来しないことになり、永久の未来の先の時点までのどこかの時点では正解はわかるでしょうから、ほとんど常に総付だ、ということになりかねません。

けっきょく、「購入申し込み時に景品がもらえることがわかっていれば総付だ(わからなければ懸賞だ)」というルールは、

先着順を総付と説明するために無理やりひねり出されたルールに過ぎない

と割り切るか、もう少し広く、

購入を条件とする景品提供の場合に限って適用されるルールだ(購入を条件とせずに取引付随性が認められる、来店者に提供する場合やパッケージに告知される場合には適用されない)、

ととらえるほかないのではないか、という気がします。

実は先着順が総付である理由については、青林書院の法律相談シリーズの、

加藤他編『景品表示法の法律相談』

の29頁(内田清人執筆部分)で、(ちょっと長いですが引用すると)

「『先着順』が懸賞にならないのは、例えば、景品の数に限りがあり、商品を購入してくれた方に提供したいが全員には行き渡らない例をイメージすると分かりやすいと思います。

この例は、景品が100個なら100名までは順次提供可能、50個しかなければ50個で終わりになるというように、『景品のある限り購入者全員に提供する』方法、つまり景品数は少ないけれども、提供する方法は『懸賞によらない』ものであるとみることができます。

これらは結果において「先着100名様」「先着50名様」に景品提供するパターンと同じことです。

他方、景品の数が500個、1000個、さらには10億個と増えても、景品数に応じて枠が増えるだけで、『景品のある限り購入者全員に提供する』方法であることには変わりはありません。

つまり、どれだけ大量に景品を用意しても、なくなり次第終了となるのは等しく当てはまりますから、総付景品は、提供数の違いはあっても全てが『先着〇名様』に景品を提供する方法ということができるのです。

少し違和感はありますが、先着順を『懸賞』に当たると考えると、総付景品として規制する対象が存在しないことになってしまうという整理なのでしょう。」

と説明されています。

私は、これは非常に説得力のある説明だと思います。

とくに景品規制でわからなくなったときには、極端に振ってみる(先着10億人とか、1兆円相当の景品とか)、というのは私もよくやる手ですが、そうすると問題の本質がみえてくることが多いです。

たしかに、「先着3名様」と、「先着10億名様」が消費者の目からみて同じなのか(先着3名なら急ぐけれど10億名なら急ぐ必要はない、と感じるのではないか。そこにはやはり差があるのではないか)、という疑問はあるのですが、運用基準が先着順を総付だと言い切ってしまっているのをうまく説明するには、このように説明するのが最も説得力があると思います。

(ちなみにこの本については以前雑誌「公正取引」で書評を書かせていただいたののですが、とても論理的に書かれており、景表法がよく理解できます。)

それを、「先着順は優劣や偶然ではない」とか、「先着順は客観的な条件だ」とか説明しようとするから、いろいろなところで矛盾が出てくるわけです。

客観的な条件か優劣かで区別するのは無理です。区別できない場合がいくらでもあるからです。

たとえば、

①「100m走で上位10名にプレゼント」→懸賞

②「100m走で12秒切った人にもれなくプレゼント」→たぶん懸賞(?)

③「ダイエットで半年以内にマイナス5キロ達成した人にプレゼント」→たぶん懸賞(?)

④「女性に限って、プレゼント」→総付

⑤「浴衣を着てきた人にプレゼント」→たぶん総付

⑥「ピコ太郎の『ペンパイナッポーアッポーペン』の物まねをしてくれた人にプレゼント」→たぶん総付(ちょっと練習したら私でもできそうなので?)

⑦「自動車購入者にカーナビプレゼント」→総付(消費者庁Q&AのQ60。お金さえ出せばクルマは買えるので?)

⑧「ポケモンGOでラプラスをゲットした人にプレゼント」→たぶん懸賞

⑨「入場時にキスしてくれたカップルにプレゼント」→たぶん総付(?)

⑩「バク転してくれた人にプレゼント」→たぶん懸賞(私には一生できそうもないので)

などは、不確実かどうかで決めると上のように(微妙なケースはあるものの)決められますが、客観的な条件かどうかでは決まらないか、全部客観的な条件だと言おうと思えばいえてしまうのではないでしょうか。

たとえば、100mで12秒切るのは客観的な条件のようにみえます。だけど自分が12秒切れるかどうかは必ずしもわからないので、客観的条件ではない、とでも考えるのでしょうか。でもそれって、消費者の目から見て不確実かどうか、という基準そのものです。

あくまで、「消費者一般の目からみて不確実かどうか」で決めるべきでしょう。

そういう基準でいくと、来店順に景品をあげる場合には、来店前に順位がわかることは通常ないでしょうから、基本的には懸賞と考えるのが、ほんらいは正しいのでしょう。

それを運用基準が総付だと言ってしまったものですから、これを総付だと説明するのに苦慮するわけです。

そのなかで、前記書籍の説明は、無理な結論を何とか理屈で説明しようとする試みとして、たいへん優れていると思います。

なお、消費者にとって不確実かどうかできめるとして、次に、いつの時点で不確実性の有無を判断するのかという問題があります。

私は基本的に、消費者が企画を知ったときを基準にすべきだと考えているのですが、すでにとても長くなってきたので、またの機会に考えてみたいと思います。

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