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2017年3月16日 (木)

ドイツ証券に対する警告について

3月15日、ドイツ証券に対して、欧州国債の取引に関する不当な取引制限(カルテル)の疑いで警告がなされました

気になったのは、本日(3月16日)の日経朝刊で、

「公取委は実際に受注を分け合ったのは数回だったことなどから明確な独禁法違反とは認定せず、行政指導の警告にとどめた。」

とされていることです。

しかし、ハードコアカルテルについて、数回だけだったから警告というのはいかがなものでしょうか。

アメリカだったら一発で刑務所行きの可能性もあるのに、なんとも甘いといわざるをえません。

ひょっとしたら、外部からはうかがい知れないけれど誰の目から見ても「これで排除措置命令はないんじゃない?」という事情があるのかもしれませんが、公取委の公表文だけみても、なぜ警告にとどまったのか、理由がまったくわかりませんし、報道からも、それはわかりません。

また日経記事によると、

「同じ顧客から複数銘柄の見積もり依頼があった場合、両社が分け合って受注できるように調整していた」

ところ、

「実際に受注を分け合ったのは数回だった」

ということで警告にとどまった、ということらしいのですが、これだとまるで実際に分け合った取引だけが違反のように見えてしまいます。

法的にはそうではなくて、

ドイツ証券:「お前のとこ、○○(クライアント名)から例の件、見積もり依頼あった?」

シティ:「ないよ。」

ドイツ証券:「あっそ。」

というのでも、立派なカルテルです。

きっと課徴金の対象にもなるでしょう。

そのあたり、誤解のないようにしたいものです。

万が一公取委が、ドイツ証券とシティの市場シェアが低いから競争の実質的制限の立証に不安を覚えていたために今回の警告になったのだとしたら、それも大きな問題です。

というのは、たとえ市場シェアが低くても、情報交換の結果両社で均等に割り振ることができたこと自体が、需要者がすべての証券会社に見積もりをとっているわけではないことをうかがわせ、市場シェアの低い会社でもそのような市場の不完全性を利用してカルテルを行うことは十分にありうるからです。

また、カルテルの課徴金は義務的であり公取委に裁量はないことが建前ですが、けっきょく、正式処分をしないことで課徴金も課さずに済んでしまうというのも、なんとなく釈然としないものがあります。

ここでの国債の取引がどれくらいの額だったのかわかりませんが、もし売上の10%の課徴金がかかったら(しかも前述のように、実際に分け合った案件だけでなく情報交換した案件も対象になるとしたら)、けっこうな額になったのではないでしょうか。

それに、警告ですませると、被害者が損害賠償請求をするのにも支障が出てきます。

きちんと調査をやっていれば当然被害者にも事情を聴いているでしょうから、被害者が被害者となっていることすら知らない、ということはきっとないのでしょうけれど、排除措置命令が出ていれば事実上違反の事実が推定されるので、それがないというのは被害者にはつらいものがあります。

日経によれば両社のコメントも、ドイツ証券が、

「警告を受ける以前から既に再発防止策を実施済みだ」

シティグループ証券が、

「警告を受けていないのでコメントする立場にない」

という、なんとも素っ気ないコメントです。

日本企業なら、

「警告を受けたのは遺憾」

とかなんとか、それなりの反省の色を示すのがお約束ですし、仮に「注意」どまりや、何もなしに調査が終わっても、調査を受けただけでまともな日本企業なら過剰反応ともいえるほどにコンプライアンス徹底に取り組むものですが、さすが外資系、そのあたりはとてもドライです。

別に注目を浴びるのが公取委の仕事ではないのでかまわないのですが、ドイツ証券とシティグループが日本の公取委から排除措置命令を受けたらそれなりに海外メディアでも取り上げられたでしょう。

注目されないだけならかまわないのですが、もし、

「日本ではちょっとくらいならカルテルをやっても警告どまり」

なんていう誤ったとらえ方を海外でされたら、よろしくないことだと思います。

それに今回はまだ「警告」なので公表されましたが、日経記事によると、

「シティグループ証券は再発防止策が十分だとして警告は見送った」

ということなので、これまでもハードコアカルテルで警告を逃れた、ひいてはまったく公表されることなく終わった、という案件もあるのではないか?ということが疑われます。

また弁護士的には、シティはどのような再発防止策だったので「十分」と認められたのか、また反対に、なぜドイツ証券は十分と認められなかったのか、というところも、今後のコンプライアンス促進の観点から、明らかにしてほしいところです。

ちなみに去年の5月25日から、リニエンシーの適用事業者は全件公表されることになりましたが、警告どまりだと課徴金納付命令も出ず、リニエンシーが「適用」されることもないので、誰が申請したかも公表されないことになるのですね。

このように、本件の処理にはいろいろと考えさせられるものがあります。

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