ショッピングモールが提供する景品
ショッピングモール運営者が、モールへの来訪者に景品を提供する場合、景品規制の適用はあるでしょうか。
なんとなく、適用がないとするのは据わりが悪いような気がしますが、条文をみるとなかなか微妙です。
定義告示で景品類は、
「顧客を誘引するための手段として・・・
事業者が
自己の供給する商品又は役務の
取引に附随して
相手方に
提供する物品、金銭その他の経済上の利益」
と定義されています。
(そのあとにある「次に掲げるもの」は、ほとんど限定になっていないので省略します。)
ここで、モールはテナントに場所を貸しているだけで、商品の仕入れなどには一切タッチしておらず、モールで買い物をするためにモールの会員になる必要もない、とします。
もちろん、モールとテナント(店舗)との間には資本関係もないとします。
とすると、モールはモール来訪者に対して供給する
「自己の供給する商品又は役務」
というものがないんではないか、ということが問題になることが分かります。
ちなみに、小売店が来店者に景品をつける場合には取引付随性あり(定義告示運用基準4(2)ウ)とされれていますが、これはあくまで小売店自身が商品を販売していることが前提です。
つまり、「自己の供給する商品」の要件は難なく満たします。
よって、みずからは商品の販売をしないモール運営者の場合には、やはり「自己の供給する商品」の要件を正面から考えないといけません。
ところで、懸賞の場合には、地域の商店街なんかが行ういわゆる共同懸賞というものがありますが(懸賞告示4項)、これは参加者自体が小売業者であるか、(一般消費者に役務を提供する)サービス業者であることが前提になっており、いずれでもないモール運営者の場合には適用されません。
(ちなみに、インターネット上の電子モールについては、地域的に結びついた商店の集合とはいえないので共同懸賞は実施できない、というのが当局担当者の見解です(澤田明朗 公正取引委員会事務総局経済取引局取引部消費者取引課長補佐「景品表示法相談コーナー」公正取引610号(2001年8月号)76頁)。)
このモール運営者による景品提供の問題を考えるのに参考になる記述として、真渕編著『景品表示法〔第4版〕』(通称、緑本)p187では、
「(2)景品提供の相手方の問題」
として、
「取引の相手方ではない第三者に対して経済上の利益を提供することにより、
取引の相手方にいかなる形であれ経済上の利益がもたらされると客観的に認められるならば、
当該取引の相手方に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」
と説明されています。
これをモールのケースにあてはめると、
「取引の相手方ではない第三者〔=テナントへの来店者〕に対して経済上の利益〔=景品〕を提供することにより、
取引の相手方〔=テナント〕にいかなる形であれ経済上の利益〔=来店者の増加など?〕がもたらされると客観的に認められるならば、
当該取引の相手方〔=テナント〕に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」
ということになりそうです。
(モール運営者とテナントとの間の出店契約を「取引」と解しています。)
そうすると、すくなくともこの記述の枠内で考えるかぎり、テナントは事業者なので、総付景品の適用はないことになります。
(懸賞の場合には、相手方が事業者でも景品規制が適用されます。ただし消費者庁の管轄外である可能性が高いです)。
たしかに、モールがこういう企画を随時行うことによりテナントを誘引するという側面もないことはないので、論理的にはこういう理解もありえますが、こういう企画はやっぱりお客さんに来てもらいたいからやっているのであって、ちょっと実態とかけはなれた切り口になっていることは否めません。
そこで、緑本の続ぎをみると、
「例えば、学校の生徒(取引の相手方)がある商品を買うと、学校(第三者)にピアノが提供されるような場合である。
この場合、第三者に提供された経済上の利益(ピアノという物)と、生徒が受け取る経済上の利益(ピアノが使えるという利益)との形態が異なっていても、景品類を間接的に提供したと認める妨げにはならない。」
と説明されています。
つまり、ピアノを生徒に間接的に提供している、という整理ですね。
しかし、これをモールのケースに置き換えると、
「例えば、テナント(取引の相手方)が出店契約をすると、来店者(第三者)におまけが提供されるような場合である。
この場合、第三者〔=来店者〕に提供された経済上の利益(おまけという物)と、テナントが受け取る経済上の利益(来店者の増加?)との形態が異なっていても、景品類を間接的に提供したと認める妨げにはならない。」
となります。
これはかなり変ですね。
ピアノとピアノを利用できる利益なら、「モノ」と「モノを使用できる利益」なので、かなり近い感じはしますが、おまけと来店者増の利益というのは、因果関係はあるのでしょうけれど、かなり遠い気がします。(この程度の因果関係なら、新聞広告と来店者増との間にも認められ、およそ景品とは関係のなさそうな場合まで景品といわざるをえない場合が出てきそうです。)
それに、繰り返しますが、この整理だとテナントが事業者のため総付の対象外とならざるをえません。
やはり緑本の記述は、モールのような場面を想定していないといわざるをえないでしょう。
なので、緑本の、
「取引の相手方ではない第三者に対して経済上の利益を提供することにより、
取引の相手方にいかなる形であれ経済上の利益がもたらされると客観的に認められるならば、
当該取引の相手方に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」
という記述は、一般論としてはやや疑問であり、かなり割り引いて読む(ピアノとピアノ利用権のように、かなり近い場合に限定して読む)必要がありそうです。
少なくとも、モール運営者が来店者におまけをあげることがテナントの売り上げ増につながるとして、それを、「いかなる形であれ」利益がもたらされてるのだからテナントにおまけを間接的に提供したというのは、相当無理があります。
というわけで、緑本の記述はモールが提供する景品のような場合を想定していない、というほかないでしょう。
ところで、モール運営者がテナントに企画を持ちかけ、テナントに費用の一部負担を求める場合のように、モール運営者とテナントが共同で企画を行っていると認められる場合には、テナントが景品類提供の主体になることは明らかですが、やはり、モール運営者のほうは、自己の供給する商品役務の要件がクリアできません。
(この共同企画の論点自体、たとえば、
その企画のために特にテナントに費用を出させた場合とか、
企画は特定せずに一般的な広告宣伝費として普段テナントから徴収していた資金から企画費用をねん出する場合とか、
そういう広告宣伝費名目でもテナントからは徴収せず普段の賃料から企画費用をねん出する場合とか、
さまざまなバリエーションがあり、なかなか難しい問題です。)
さて、どう考えればいいでしょうか。
やはり私は、現行景表法の解釈としては、一般消費者と取引関係のないショッピングモール運営者が単独で行う一般消費者への景品提供企画には、景品規制は適用されないと解するほかないと思います。
ショッピングモール運営者は、モールという「場」(サービス)を一般消費者に対して提供しているのだ、といってみても、入場料でも取るのでないかぎり、そのような無償のサービスは「取引」には該当しないので、やはり景品提供者とするのは無理でしょう。
あるいは、ショッピングモール運営者とテナントは一般消費者の目から見たら一体なので、テナントの販売する商品もモール運営者の「自己の供給する商品」だ、という理屈も考えられますが、かなり乱暴な理屈であるといわざるをえません。
(ちなみにまったくの別分野ですが、インターネットショッピングモールの運営者である楽天が同ショッピングモールの出店者が行った商品の販売のための展示や販売に関して、商標法2条3項2号や不競法2条1項1号および2号の「譲渡のために展示」や「譲渡」の主体には当たらない、とした事例として、東京地裁平成22年8月31日判決・判タ1396号312頁があります(チュッパチャップス事件)。
控訴審の知財高裁(平成24年2月14日判決・判例時報2163号179頁)は、一定の場合にはウェブページの運営者も責任を負うとしつつ、本件においては、被控訴人は、商標権侵害の事実を知り又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときから合理的期間内にこれを是正しているから、差止め・損害賠償責任を負うものではないとして、商標権者による控訴を棄却しました。)
緑本p171では、フランチャイズの場合には、
「フランチャイズチェーンの加盟店が供給する商品または役務の取引も、フランチャイズチェーンの本部にとって『自己の』供給する商品または役務の取引に該当する。」
と説明されていますが、フランチャイズくらいザーとジーの間に一体感がある(と一般消費者が認識する)場合だからこそこの解釈が成り立つのであって、ショッピングモールとテナントの場合は同列には論じられないでしょう。
以上のことは、リアルのショッピングモールのみならず、インターネットのショッピングモール運営者でも同様でしょう。
(ただしネットの世界には「来店者」という概念がなく、商品の購入を応募の条件としたり購入により応募が容易になったりするのでなければ取引付随性なしとされる、という違いがあります(「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」。)
とくにネットの世界では、一般消費者から直接売上を上げるのではなくて、とにかく集客して、その顧客基盤を活用して別の側面でもうける、という多面市場的なプラットフォームビジネスが、今後ますます盛んになることが予想されますが、そのようなビジネスに、現在の景品規制では対応できないのではないでしょうか。
しかも、景品提供主体の問題がクリアできても、次に、取引価額や売上予定額(懸賞の場合)が何なのか、という問題もあります。
ついでにいえば、不当表示規制については、自ら商品を供給しないショッピングモール運営者の責任は問えない(だから問題だ)、という指摘はいろんなところでなされており、反対に、現行法でも不当表示の責任を問えるという説は見たことがないので、そのこととのバランスからいっても、景品規制でだけ行為主体を広げるというのはかなりはばかられるように思います。
実に悩ましい問題だと思います。
まあ消費者庁は、景品規制を積極的に運用するつもりはさらさらないでしょうし(消費者庁になってから景品規制の正式事件はゼロです)、そういうことからすると、もし聞けば、このケースも何ら悩みなく、
「商品役務を一般消費者に提供していないモール運営者は、「取引」をしていないので、景品類の提供主体にはなりません。」
と、あっさり回答される可能性が高いと思います。
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