« ウィンターモデルの均衡条件の導出 | トップページ | お年玉年賀はがきに関する緑本の記述の疑問 »

2017年1月19日 (木)

景表法の課徴金の経過措置に関する立案担当者解説の疑問

課徴金の1号案件が待たれる改正景表法ですが、課徴金に関する規定は平成26(2014)年11月改正の施行日である2016年4月1日以後に行われた課徴金対象行為(優良・有利誤認表示行為)について適用されることになっています。

したがって、施行日前に行われた課徴金対象行為については、課徴金は課せられません。

そこで、施行日前に行われた優良・有利誤認表示行為によって一般消費者の誤認が残存していたとしても、かかる誤認が残存していた期間の事業者の売上額に対して課徴金が課されるのか、ということが問題となります。

ここで、立案担当者解説である、

黒田他編著『逐条解説平成26年11月改正景品表示法 課徴金制度の解説』

では、施行日の前後にまたがって継続的に優良・有利誤認表示行為が行われていた場合には、

「施行日(または、施行日から課徴金対象行為が開始することを前提とした課徴金対象期間の終期から3年間遡った日のいずれか遅い日)が課徴金対象期間の始期となる。」

と説明されています(125頁)。

つまり、施行日前後をまたぐ不当表示の場合には施行日が課徴金の起算日だ、ということです。

この解説は、毎日不当表示行為が行われている場合にはいいのかもしれませんが、一般論としては、疑問があります。

つまり、改正法附則2条(経過措置)の規定に照らすと、優良・有利誤認表示行為が毎日ではなく、たとえば1か月に1回ずつなど断続的に行われていたような場合には、施行日後最初に優良・有利誤認表示行為がなされた日が課徴金算定期間の始期であると考えざるをえないと思います。

改正法附則2条(経過措置)では、

「この法律による改正後の不当景品類及び不当表示防止法(以下「新法」という。)第2章第3節〔注・課徴金〕の規定は、

この法律の施行の日(附則第7条において「施行日」という。)以後に行われた新法第8条第1項に規定する課徴金対象行為について適用する。」

というように、施行日以後に行われた優良・有利誤認表示行為についてのみ課徴金の規定が適用されると明記されています。

まず前提として、

「課徴金対象期間」

の始期は、

「課徴金対象行為をした期間」

の始期であり(3年の上限は単純化のため無視します)、

「課徴金対象行為をした期間」

とは、

「事業者が課徴金対象行為(優良・有利誤認表示をする行為)を始めた日からやめた日までの期間」(課徴金ガイドライン第4-1(2))

なのですから、

「課徴金対象期間」

の始期は優良・有利誤認表示行為を始めた日です。

以上の理解を前提に、改正附則2条を論理的に読めば、同条における

課徴金対象行為

とは、

「施行日以後に行われた課徴金対象行為」

という意味であると解さざるをえないと思われます。

立案担当者解説のように、施行日前の優良・有利誤認表示行為と施行日後の優良・有利誤認表示行為との間に連続性が認められるかぎり全体を一つの違反行為とみて、施行日後最初に優良・有利誤認表示行為が行われた日よりも前に施行日までさかのぼって課徴金対象期間とするのであれば、その旨の明文の規定が必要でしょう。

ところが前述のとおり、改正附則2条ではむしろ、課徴金の規定は施行日以後に行われた課徴金対象行為のみに適用される、という正反対のことが明示されてしまっています。

経過措置とはまさにこのような「針の穴に糸を通すような」問題に対処するためのものであるはずで、立案担当者解説のような、文言上の根拠がない常識的感覚にもとづく解釈はすべきでない思います。

(経過措置に関する管轄官庁の解釈が裁判所でくつがえされた有名な事例として、映画の著作物に関する著作権の延長の有無が問題となったシェーン事件判決(最高裁平成19年12月18日判決)があります。

同判決は、立法者には1953年作品を保護しようとする意思があったとのパラマウント側の主張を、

「そのような立法者意思が、国会審議や附帯決議等によって明らかにされたということはできず、法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者において、映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していたというにすぎない」

として退けました。当然のことでしょう。)

ちなみに、排除型私的独占に対して課徴金が導入された2009(平成21)年改正独占禁止法(2010年1月1日から施行)の課徴金に関する経過措置である同改正附則5条は、同改正により課徴金が導入された排除型私的独占等について、

「課徴金の納付を命ずる場合において、当該違反行為が施行日前に開始され、施行日以後になくなったものであるときは、当該違反行為のうち施行日前に係るものについては、課徴金の納付を命ずることができない。」

という定め方をしています。

この定め方であれば、

「当該違反行為」

という形で、連続した違反行為は1つの違反行為と認めることが明らかにされているので、施行日から課徴金を課すことができることに何の問題もありません。

景品表示法の改正附則でも同様の定め方をしておけば施行日の売上額から調金の対象とすることは何ら問題なくできたはずです。

なお、課徴金ガイドラインでは、課徴金対象期間に関する各想定例の説明において、

「『課徴金対象行為をした期間』は、各事業者が課徴金対象行為を毎日行っていない場合(例えば、週に1回行っていた場合、月に1回行っていた場合)であっても、異なるものではない。」(第4-1(5)・8頁)

としており、これ自体は妥当な解釈だと思いますが、だからといって、施行日以後いまだ優良・有利誤認表示行為が行われていない期間について、施行日前の優良・有利誤認表示行為に基づく誤認を根拠に課徴金を課すことは、改正附則2条の明文の規定に反すると言わざるをえないと思います。

« ウィンターモデルの均衡条件の導出 | トップページ | お年玉年賀はがきに関する緑本の記述の疑問 »

景表法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 景表法の課徴金の経過措置に関する立案担当者解説の疑問:

« ウィンターモデルの均衡条件の導出 | トップページ | お年玉年賀はがきに関する緑本の記述の疑問 »

フォト
無料ブログはココログ