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2017年1月18日 (水)

ウィンターモデルの均衡条件の導出

柳川・川濱編『競争の戦略と政策』にも紹介されている垂直制限の経済モデルに、「ウィンターモデル」というものがあります。

このモデルは、同一ブランド内の小売店で買いまわる需要者に対してはサービス競争よりも価格競争のほうが有効なため、ブランド間競争が存在するとサービスが過小に提供されてしまうことを示すモデルです。

そしてこのモデルでは、再販拘束がサービスの過小供給への対策として有効であるとされます。

この結論だけでも独禁法弁護士にとってはとても魅力的なのですが、柳川・川濱p247では、モデルのキーポイントである、

「卸価格の操作だけでサービス水準を最適化するには、製造業者と小売業者の価格弾力性の比がサービス弾力性の比に等しいという特殊な条件がある場合に限られる。」

という部分について、

「この条件とその導出の詳細に関してはWinter [1993]を参照されたい。」(注2)

とされていて、やっぱり納得感をもって理解するためにはきちんとモデルを理解する必要があると思いましたので、

Winter, R. A. [1993], "Vertical Control and Price versus Nonprice Competition," Quartely Journal of Economics, 108, p.p. 61-76

にしたがって、この条件を導出しておきます。(この論文はネットで購入可能です。)

一見複雑に見えますが、ほとんどは四則計算で理解可能(ほんの一部、高校レベルのかんたんな微分が必要)です。

前提として、メーカーと、小売店1、小売店2がいる単純な状況を想定し、

c:メーカーの限界費用

w:卸売価格

S1:小売店1のサービス提供費用

S2:小売店2のサービス提供費用

P1:小売店1の小売価格

P2:小売店2の小売価格

s:ある消費者の小売店1からの距離

1-s:ある消費者の小売店2からの距離(小売店1と2の距離は1)

T(S1):小売店1内での探索時間

T(S2):小売店2内での探索時間

R:需要者の留保価格

θ:需要者の時間の機会費用

と置き、需要者は小売店1と2の間およびθの最大値と最小値の間の空間に均等に分散していると仮定します。

すると、当該商品を買うか買わないかぎりぎりの需要者が位置する境界線は、

P1+sθ+T(S1)θ=R

で表され、小売店1と2の境界にいる需要者が位置する境界線は、

P1+sθ+T(S1)θ=P2+(1-s)θ+T(S2)θ

と表されます。

(sθはその需要者の小売店1までの移動コスト、T(S1)θは小売店1内での探索コスト、です。右辺も同様に考えれば理解できます。)

さらに、小売店1の利潤は、

π1(P1,S1;P2,S2)=(P1-w)・q(P1,S1;P2,S2)-S1

と表されます。

((P1-w)は小売店1のマージン、qは小売店1の販売数、S1は、小売店のサービス支出です。)

またメーカーと小売店1,2の結合利潤は、

Π(P1,S1;P2,S2)

=(P1-c)・q(P1,S1;P2,S2)+(P2-c)・q(P2,S2;P1,S1)-S1-S2

と表されます。

以上を前提に、小売価格の小売店利潤への影響を小売店1についてみると(小売店2についても対称)、

∂π1/∂P1

=∂Π/∂P1-(w-c)∂q1/∂P1-(P2-c)∂q2/∂P1

(-(w-c)∂q1/∂P1は、価格の垂直的外部性、-(P2-c)∂q2/∂P1は、価格の水平的外部性であることがわかります。)

となり、サービスの小売店1への影響は、

∂π1/∂S1=∂Π/∂S1-(w-c)∂q1/∂S1-(P2-c)∂q2/∂S1

となります。

ここで、価格の水平的外部性と垂直的外部性が打ち消しあうときに卸売価格は最適(w*)となるので、

-(w-c)∂q1/∂P1-(P2-c)∂q2/∂P1=0

となり、ここから、

w*=c-(P*-c)(∂q2/∂P1)/(∂q1/∂P1)・・・①

が導かれます。

同様に、最適サービス量(S*)の条件は、サービスの垂直的外部性と水平的外部性が打ち消しあうことなので、

-(w-c)∂q1/∂S1-(P2-c)∂q2/∂S1=0

です。

そして、①より、

-(∂q1/∂P1)/(∂q2/∂P1)= (P2-c)/(w-c) ・・・①’

②より、

-(∂q1/∂S1)/(∂q2/∂P1)= (P2-c)/(w-c) ・・・②’

なので、最適価格と最適サービスが提供される条件は、

(∂q1/∂P1)/(∂q2/∂P1)= (∂q1/∂S1)/(∂q2/∂P1)・・・③

となります。

ここで、柳川・川濱の、

「卸価格の操作だけでサービス水準を最適化するには、製造業者と小売業者の価格弾力性の比がサービス弾力性の比に等しいという特殊な条件がある場合に限られる。」

といっているのは、メーカーが単純な従量制卸売価格(w)を設定するだけで(つまり二部料金制を用いずに)小売店の最適なサービス支出(S*)を誘導できるのは、

ξPr/ ξPM= ξSr/ξSM

の場合に限られる、ということです。

(ここでは、

ξPr:価格の小売店需要に対する弾力性

ξPM:価格の市場(メーカー)需要に対する弾力性

ξSr :サービスの小売店需要に対する弾力性

ξSM:サービスの市場(メーカー)需要に対する弾力性

です。)

しかし実際には、小売店間境界上の需要者が商品境界上の需要者よりも時間コストが低い(店舗間を探し回ることを厭わない)ため、

ξPr/ ξPM > ξSr/ξSM

となる、というのがウィンターの帰結です。

つまり、小売店は価格競争を重視し過ぎている(ブランド内競争における価格競争重視がブランド間競争におけるよりも著しい)、ということです。

さて、前述のとおり今回のテーマである、

ξPr/ ξPM= ξSr/ξSM

を、以下で導出しておきます。

まず定義より、

価格の小売店需要に対する弾力性( ξPr )=(P1/q1)(∂p1/∂P1)

価格の市場需要に対する弾力性(ξPM)=(P1/Q)(∂Q/∂P1)

サービスの小売店需要に対する弾力性(ξSr )= (S1/q1)(∂q1/∂S1)

サービスの市場需要に対する弾力性(ξSM)= (S1/Q)(∂Q/∂S1)

です。

ここで、あたりまえですが、

Q=q1+q2

であることがポイントです。

そこで、③がなりたつときにξPr/ ξPMを変形していくと、

ξPr/ ξPM

={(P1/q1)(∂q1/∂P1)}/{(P1/Q)(∂Q/∂P1)}

=(Q/q1){(∂q1/∂P1)/(∂Q/∂P1)}

=(Q/q1) [(∂q1/∂P1)/{(∂q1/∂P1)+(∂q2/∂P1)}] 

(∵ Q=q1+q2より、(∂Q/∂P1)=(∂q1/∂P1)+(∂q2/∂P1))

=(Q/q1)[1/{1+(∂q2/∂P1)/(∂q1/∂P1)}]

=(Q/q1) [1/{1+(∂q2/∂S1)/(∂q1/∂S1)}]  (③より)

=(Q/q1)[(∂q1/∂S1)/{(∂q1/∂S1)+(∂q2/∂S1)}]

=(Q/q1){(∂q1/∂S1)/(∂Q/∂S1)}

=ξSr/ξSM

となり、ξPr/ ξPM とξSr/ξSMが等しいことが導かれます。

これで、

「卸価格の操作だけでサービス水準を最適化するには、製造業者と小売業者の価格弾力性の比がサービス弾力性の比に等しいという特殊な条件がある場合に限られる。」

とうことが正しいことが分かります。

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