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2017年1月23日 (月)

割引券は「値引」(定義告示1項柱書ただし書)か

割引券の提供については総付告示2項3号(価額の2割の制限が適用されない場合の1つ)で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

と言及されており(つまり、「割引券」には価額の2割という制限なし)、これを受けて総付運用基準4項では、

「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について

(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。

(2) 「証票」には、

金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と定められています。

さて、世の中で普通にある割引券は、そもそも景品類に該当するのでしょうか。

ここでの問題意識は、

割引券というのは要するに、それを持っていると値引きが受けられるということであり、たんなる値引と同じなのではないか、

それが、「券」(証票)が発行されるだけで、純粋な「値引」と違うものと評価されるのはおかしいのではないか、

ということです。

この点について、

公正取引委員会取引部長長谷川古編『新しい景品規制』(昭和52年国際商業出版)

のp95では、

「近年ミソも計り売りよりも容器包装入りで売られることが多くなりましたが、

顧客に対して計り増しにかえて、次にミソを購入する際の割引券を手渡しした場合、

この割引券は〔定義告示1項ただし書の〕値引ではなく、景品類として取り扱われます

と説明され、さらにp115では、

「前述のように、このようなサービス券〔注・次回購入時に使えるミソの割引券〕は景品類として扱われます(95頁参照)が、

これを他の物品や役務を景品にするのと同様に規制するのではなく、値引と同様に取り扱おうとするのが、この〔総付告示〕2項3号の考え方なのです。」

と説明されています。

つまり割引券は、定義告示上の「値引」には該当せず、景品類の定義上は景品類なんだけれど、値引と同様に景品規制の枠外に置こうというのが総付告示の趣旨なのだ、ということです。

ある意味で素朴な、また、ある意味で定義告示と総付告示の論理的な体系に忠実な解釈だといえます。

ところが、これに対して、

真渕『景品表示法〔第4版〕』(緑本)

のp207では、総付運用基準4の解説として、

「自己の供給する商品または役務の取引において用いられる割引券その他割引を証する証票については、

それが自己との取引に用いられ、

取引通念上妥当と認められる基準に従っているもの

である場合は、

『正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」となり、

そもそも景品類に該当しない(定義告示運用基準6(3)ア・・・)。」

と、オーソドックスな割引券については、定義上そもそも景品類に該当しない(値引なので)、と整理したうえで、

(なお定義告示運用基準6(3)アでは、

「原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる」

場合の具体例の1つとして、

「ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)

(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、

「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、

「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という例があげられています。)

さらに、自他共通割引券について、

「他方、自己だけでなく他の事業者との取引においても共通して用いることができる割引券等(自他共通割引券等)については、

景品類に該当し得る場合もあるものと考えられるが、

仮に該当する場合場合であっても

自己との取引について値引と同様の効果がもたらされる可能性があることから、それが正常な商慣習に照らして適当と認められるのであれば、総付景品の規制の適用除外とされている」

つまり、自他共通割引券については定義上は景品類に該当しうるけれど、特別に総付景品規制の適用除外にしているんだ、と説明しています。

まとめると、

①長谷川編では、割引券は「値引」に該当しない(「景品類」に該当する)

②緑本では、割引券は、

(ア)自社割引券→「値引」に該当する(「景品類」に該当しない)

(イ)自他共通割引券→

①「値引」に該当するもの(「景品類」に該当しないもの)

②{値引」に該当しないもの(「景品類」に該当するもの)

があるが、

①→「景品類」には該当しない

②→総付運用基準4の条件(=自他同額の値引き)をみたせば総付規制が適用されない、

というように整理できます。

さて、長谷川編と緑本と、どちらが妥当でしょうか。

わかりやすさという点では、券(証票)が発行されてれば景品っぽいので景品類だ、という長谷川編の考え方も魅力的です。

割引券が発行されると、事実上、譲渡されてしまうことは防げないので、その意味でも、独立した経済上の利益っぽい感じがして、景品類っぽくみえる、ともいえます。

他方、景品規制の趣旨にかんがみれば、「券」が発行されているだけで自店割引券まで「値引」ではない、というのは形式的すぎる(紙になっただけで一般消費者がウキウキして自由な選択が害されるというのは素朴すぎる)と思われ、その点では、少なくとも自店割引券については潔く「値引」だと言い切る緑本のほうに魅力を感じます。

ただ緑本の、自社割引券と自他共通割引券で理論上の位置づけまで変えるという考え方は複雑でわかりにくいのが難点です。

このようにいろいろ考えると、結局、長谷川編のように、ともかくも「券」が発行されている場合には定義上は景品類と扱い(「値引」とは扱わない)、その景表法上の制限をどうするかは総付告示と懸賞告示で処理する、というのがすっきりしていてよいと思います。

(結局どんな値引きであっても、くじで値引きが与えられるかどうか決まる場合には景品類とみなされるのですし。)

いずれにしてもどのような場合に景表法違反になるかという結論は変わらず、あくまで理論的な問題(説明の仕方の問題)に過ぎないのですから、緑本の説明はちょっと複雑すぎます。

なお総付告示2項3号は「証票」という言葉を使っていますが、今では、この言葉にはあまり意味はないというべきでしょう。

たしかに、たとえば内閣法制局法令用語研究会『法律用語辞典』では、「証票」は、

「一定の事項が記載、表示されている紙片」

と定義されていますが、まさか今の時代に総付告示2項3号の「証票」が紙に限るという人はいないでしょう。

さらに、ミソを計り売りしていた昭和50年代ならいざしらず、現在では電子的なものもあるわけですから、プラスチックの「ポイントカード」すら発行されないようなポイントサービス(純粋に電子的なもの)も、ここでいう「証票」に該当すると考えて差し支えないと思われます。

このように細かい論点をいろいろ考えるにつけ、景品規制の告示は細かいところまで書き過ぎではないか、細かいところまで書いてボロがでるくらいならいっそ全部運用基準のほうで処理したほうがすっきりしていいのではないか、という気がしてなりません。

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