お年玉年賀はがきに関する緑本の記述の疑問
真渕編著『景品表示法(第4版)』p188のコラムで、
「(2)景品提供の相手方の問題」
というテーマで、
「・・・日本郵便(株)がお年玉つき年賀はがきの当選者(通常、年賀はがきの差出人(購入者)ではなく、受取人である)に対する賞品は、これらの経済上の利益(・・・賞品)が取引の相手方(・・・差出人)にもたらされるとはいえず、景品類には該当しない。」
という説明がなされています。
しかしこれはおかしいんじゃないでしょうか。
確かに景表法2条3項は、「景品類」を、
「顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するもの」
と定義しているので、取引の「相手方」に提供しないかぎり景品類には該当しないというのは、形式的な文言解釈からいうと、いちおう正しいとはいえます。
しかし、通常の法律解釈の感覚では、利益の受け手を取引相手方が指定できる場合にも、「相手方」(はがきの購入者)に対する提供であると、合理的に解釈できるのではないでしょうか。
それに、緑本も「通常」という断り書きをしているように、お年玉年賀はがきは別に投函せずに(あるいは自分あてに投函して)自分で賞品と交換することもできますから、そういうことまで考えると、形式論としても緑本の説明はおかしく、形式論としてこの解釈が成り立つためには、購入者自身は賞品を受け取れないとしておかないといけないんじゃないかという気がします。
ちなみに、
利部(かがべ)修二「実務家のための景品表示法基礎講座-2-」公正取引466号(1989年8月号)p39
では、かつての郵便局が「事業者」に該当するかというまったく別の論点についての記述ではありますが、
「お年玉はがきについては、特別の法律により賞品の提供が認められているが、もしその法律がなければ、この賞品提供は景品表示法上の問題になるはずのものと考えられる。」
とされています。
私はこっちのほうが常識的な解釈じゃないかと思いますね。
ちなみにこの「特別の法律」というのは、
「お年玉付郵便葉書等に関する法律」
のことで、その1条2項には、
「前項の金品の単価は、同項の郵便葉書の料額印面又は同項の郵便切手に表された金額の五千倍に相当する額を超えてはならず、その総価額は、お年玉付郵便葉書等の発行総額の百分の五に相当する額を超えてはならない。」
と規定されています。
さらに3条1項では、
「第一条第一項の金品は、同項の郵便葉書若しくは同項の郵便切手を貼り付けて料金が支払われた郵便物の受取人又はその一般承継人(同項の郵便葉書又は同項の郵便切手を貼り付けて料金が支払われた郵便物が配達されなかつたときは、その郵便葉書若しくは郵便切手の購入者又はその一般承継人)に、最寄りの会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。)において支払い、又は交付する。 」
と規定されていて、配達されなかった年賀はがきの場合は購入者に賞品を交付することが明記されています。
まあ、社会的実態としては、自分で受け取るなんていうのは例外的なので無視していいというのが緑本の発想なのでしょうが、印刷した年賀はがきって、あまることもけっこうあるのであり、無視していいほどの例外だと割り切ってしまうのはかなり思い切った解釈だと思います。
なお細かいことをいえば、法解釈論としては、「お年玉付郵便葉書等に関する法律」には景表法を明示的に適用除外する規定はありません。
ただ、「お年玉付郵便葉書等に関する法律」は昭和24年の制定で、制定当時の1条2項は、
「前項の金品の単価は、2万円をこえてはならず、その総価額は、お年玉つき郵便葉書の発行総額の100分の5に相当する額をこえてはならない。」
とされており、その後、
昭和43年5月28日法律第71号〔第二次改正〕 で2万円が3万円になり、
昭和55年12月11日法律第109号〔郵便法等の一部を改正する法律二条による改正〕 で3万円が5万円になり、
昭和60年5月1日法律第32号〔第三次改正〕で5万円が、「お年玉等付郵便葉書の料額印面に表された金額の五千倍に相当する額」
という現在の形になっていますので、昭和60年改正が景表法に優先する(後法は前法を破る)、と説明してもいいですし、性質上、「お年玉付郵便葉書等に関する法律」2条は景表法の特別法である(特別法は一般法を破る)と説明してもいいと思います。
いずれにせよ緑本の解説は、この特別法の存在を無視して景表法をいきなり論じている点でも、やや難があるように思われます。
(おそらく緑本の立場からは、そもそもお年玉年賀はがきは景表法上の景品規制の対象外であり、景表法上はほんらいいくらの賞品をつけてもいいのだけれど、「お年玉付郵便葉書等に関する法律」でとくに制限をしているのであって、同法は景表法とは無関係、という整理になるのでしょうけれど。)
さらに緑本が、本来は特別法に任せておけば触れる必要がなかった論点について、こんな一般論をぶち上げてしまったために、はがきと同じようなお互いに送りあう商品に景品をつけるという類似の企画が民間で行われた場合に景表法で規制できない、という不都合があるように思われます。
(みなさん、世の中にそういうのがないか、探してみてください。)
まあ、しょせん景品規制の場合は、不当表示規制と異なり、文言を曲げてまで拡張解釈するインセンティブが消費者庁にないというのも十分に理解できますので(なお緑本の記述は初版から変わらないので、公取時代も同じ解釈です)、これはこれでいいのかもしれませんが、なんだか釈然としないですね。
ともあれ、緑本がこれだけはっきりといっている以上、実務的には、これに従っておけばいいと思います。
ただし、 緑本がいっているのはあくまで景品規制についてだけであって、刑法上の賭博罪や富くじ罪については別途考えておく必要があります。
景品規制のアドバイスをしていると、
違反でないと思っていたのが違反になる
ということはあんまりなくて、
違反だろうと思って調べたり消費者庁に聞いたら違反ではないということが分かる、
というパターンが多いような気がしています。
そういう、普段とは反対の方向に間違えがちなのが、景品規制です。
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