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2016年11月24日 (木)

こまったときの取引妨害

公取委の実務には、

「こまったときの取引妨害」

という言葉があるそうです。

これは、排他条件付取引や再販売価格拘束など、典型的な違反行為類型にあたりそうなんだけれどもあたるかどうか確信がもてないときに、なんでも違法にできる競争者に対する取引妨害(一般指定14項)を使って違法にしてしまう、という実務をさしています。

つまり一般指定14項では、

「自己・・・と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、・・・いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」

が不公正な取引方法だとされており、「不当に妨害」という以外に何のしばりもないのです。

「妨害」という言葉自体に否定的ニュアンスがあるので、「不当に妨害」というのは意味が重複している気さえします(「正当な妨害」なんてあるのでしょうか?)。

たとえば、メーカーが、卸に対して、安売りをしている小売店への出荷の停止を命じたりすると、再販売価格拘束でいくのが筋だと思いますが、取引妨害が使われたりします。

ほかには、ディーエヌエーがゲームメーカーに、「モバゲーと取引するな」と圧力をかけた事件も、排他条件付取引ではなく、取引妨害となりました。

ただ、取引妨害は、競争への影響を考慮することなく、とにかく行為自体が(公取委の目からみて)悪質であれば違法とできる(と少なくとも公取委は信じている)ため、限界がきわめてあいまいであり、慎重に運用されることが要求されます。

(なんでも取引妨害としてしまうことの危険性については、白石忠志先生が以前から指摘されています。)

そのような隠語を思い出させるのが、最近公表された、

(平成28年11月18日)ワン・ブルー・エルエルシーに対する独占禁止法違反事件の処理について

です。

この事件では、ブルーレイディスクの必須特許を有するパテントプールであるワン・ブルー・エルエルシーが、ブルーレイの製造販売業者であるイメーションの取引先に対して、ワン・ブルーの特許権者が当該取引先の特許権侵害行為について差止請求権を有していること等を内容とする通知書を送付したことが取引妨害に該当する(ただし、違反行為はすでに行われていないので措置はとらない)、とされています。

プレスリリースを読むと、この事件の処理では、上記通知書の送付だけが具体的な違反行為と認定されているようです。

ですが、必須特許のライセンスを拒絶していたら、知財ガイドライン上は、私的独占にあたるのであり、そのような処理をすべきだったのではないでしょうか。

プレスリリースでもわざわざ、ワン・ブルーの特許権者であるブルーレイのメーカーが日本で過半の市場シェアを有していることが認定されており、50%以上のシェアの場合に優先的に執行するという排除型私的独占ガイドラインの条件もみたしていたように思われます。

(ただ、必須特許のプールであれば市場シェアにかかあわらず市場支配力があることが明らかなので、過半の市場シェアを有するメーカーが参加していないパテントプールであっても排除型私的独占は成立すると思われます。)

公取委が本件で排除型私的独占を使わなかった理由としては、

「我が国で販売されている記録型BDのほとんど全ての製造販売業者は,ワン・ブルーと記録型BDに係るBD標準規格必須特許のライセンス契約を締結していること」

といった事情があったために(プレスリリース)、競争の実質的制限が認められないと判断されたのかもしれませんが、もしそうだとしたらいたずらに私的独占のハードルを上げているように思います。

そもそも標準必須特許のライセンス拒絶は単独の直接取引拒絶あるいは、(プール参加者の共同行為とみて)共同の直接取引拒絶として処理するのが筋だと思います。

ただこれも公取委の立場にたてば、ワン・ブルーはライセンス拒絶していたわけではなくて、交渉中だったので、「拒絶」とまで認定できなかったのかもしれません。

ですがそれを考慮しても、なんでもかんでも取引妨害で処理してしまうのはいかがなものかと思います。

たしかに民事訴訟では類似の行為が取引妨害に該当するとされることがあります(ドライアイスの事件など)。

しかしそれは、取引妨害が、不正競争防止法2条1項15号(営業上の信用棄損行為)のような、不法行為に毛の生えたような存在なので独禁法の素人である裁判官にもわかりやすいために、当事者が好んで主張するからです。

これに対して一国の競争政策をになう専門家集団である公取委が取引妨害に頼るのでは、話が違います。

また、このような処理をしていると、FRANDでのライセンスを拒絶していても差止請求やライセンシーの取引先への告知さえしていなければ独禁法には違反しない(少なくとも摘発されることはない)という誤ったメッセージを送ることになってしまわないか心配です。

それに、告知書の送付だけをとらえて違反行為とすると、それ以外の事実の違法性がうまく取り込めないおそれがあります。

たとえば本件では、

「〔ライセンス料の〕交渉において,イメーション及び米イメーションは,ワン・ブルーに対し,公正で妥当なライセンス料を支払う意思があることの表明,公正で妥当と考えるライセンス料の提案,ワン・ブルーが提示するライセンス料の設定根拠の説明の要請等を行っていたが,ワン・ブルーは,非差別的な条件を提供するためにライセンス料について交渉はできないとして,当該設定根拠の説明も行わなかった。」

という部分がけっこう重要な意味を持つのではないかと思うのですが(結果的に同率のライセンス率でないと差別的とみなされるというのはわからないではないですが、根拠すら説明しないというのはやや行き過ぎでしょう)、通知書の送付を違反行為ととらえると、このような説明しなかったという事実と最終的な通知行為の妨害行為該当性とのつながりがみえてきません。

ライセンシーの取引先への通知は不競法2条1項15号では典型的な不正競争行為とされていますが、そちらが念頭に置いているのは世の中で普通にある(市場支配力を伴わない)特許侵害の警告書(のライセンシーの取引先への送付)なので、おなじ行為を一般指定14項で処理してしまうことの不都合もあると思います。

何が不都合なのかというと、一般指定14項では、少なくとも、行為者に市場支配力があるかないか(あるいは市場における有力な事業者であるかどうか)で違法かどうかが分かれるという仕組みになっていないので、まったく市場支配力はないけれどたまたま当該特許を侵害していたという、世の中にいくらでもある、およそ競争に無関係なケースにまで一般指定14項が適用されてしまうのではないか、と思うのです。(不正手段型なんだから、警告の内容が虚偽である限りそれでもかまわない、という割り切りもあるかもしれませんが。)

(ただし公取委も、取引妨害でも競争への影響には運用上配慮しているようで、

「座談会 最近の独占禁止法違反事件をめぐって」公正取引790号(2016年8月)790号

のp3~4では、排除措置命令ではなく「注意」をしているケースについて、

「例えば・・・取引妨害などでも競争への影響まで認められないようなケース」

は注意にとどめている、という山本佐和子審査局長の発言があります。

「競争への影響」という言葉の具体的意味が問題ですが、少なくともこれは、競争上の影響がない場合には取引妨害は違法ではないという考え方を示したものといえます。)

公取委としては知財分野での成果をアピールしたくてこのプレスリリースをしたことがみえみえですが、かえって独禁法解釈の稚拙さだけが印象付けられる結果となってしまいました。

ちなみに私は、排除型私的独占が適用されることは、未来永劫ないと予想しています。

なぜなら、どうしても課徴金を課したいという事情が公取委にない限り、ほとんどの場合、私的独占よりもはるかにハードルの低い取引妨害で事足りてしまうからです。

パラマウントベッド事件も、NTT東日本事件も、JASRAC事件も、もし今同じことが行われたら、きっと全部取引妨害で処理されるでしょう。

今回のプレスリリースは、そのような予想が正しいであろうことをますます確信させてくれます。

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