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2016年11月

2016年11月28日 (月)

こまったときの取引妨害(その2)

先日、ある欧州競争法の弁護士さんと話をしたときに、

「日本にはトリヒキボウガイというのがあって、競争者の取引を妨害すると独禁法違反になるんだよ」

といったら、

「それって、競争そのものじゃないの?」

という、至極まっとうな反応があって、おかしかったです。

加えて、

「トリヒキボウガイの成立には市場支配力は必要なのか?」

と聞くので、不要だと答えたら、さらに驚いていました。

外国の弁護士と話していると、何の先入観もなくストレートな反応があるので、とても新鮮で楽しいです。

だいぶ前のことですが、消費税転嫁法の買いたたきの説明をアメリカの競争法の弁護士にしたら、

「それって、法律がカルテルを強制しているってこと?」

という、これも何の反論もできないコメントがあっておもしろかったです。

転嫁カルテルは消費税の転嫁だけを合意するもので本体価格については合意できないんだと説明しても、

「消費税分のカルテルと本体価格のカルテルを、どうやって区別するの?」

という、まったく反論の余地のない、鋭い質問をされてしまいました。

こういう反応を受けるにつれ、日本の独禁法はガラパゴス化してるんじゃないか、という懸念をひしひしと感じます。

最近日本国内では優越的地位の濫用を再評価(?)する動きもあるようですが、少なくともEUとアメリカの弁護士と話したときの感じとしては、彼らにとっては日本特殊の規制だという感覚のようです。

トランプ大統領のおかげでTPPは流れてしまいそうですが、確約制度なんかを入れるよりも、優越的地位の濫用規制と下請法を廃止するほうが、ずっと統一市場の形成に役立つのにな、と思います。

2016年11月24日 (木)

こまったときの取引妨害

公取委の実務には、

「こまったときの取引妨害」

という言葉があるそうです。

これは、排他条件付取引や再販売価格拘束など、典型的な違反行為類型にあたりそうなんだけれどもあたるかどうか確信がもてないときに、なんでも違法にできる競争者に対する取引妨害(一般指定14項)を使って違法にしてしまう、という実務をさしています。

つまり一般指定14項では、

「自己・・・と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、・・・いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」

が不公正な取引方法だとされており、「不当に妨害」という以外に何のしばりもないのです。

「妨害」という言葉自体に否定的ニュアンスがあるので、「不当に妨害」というのは意味が重複している気さえします(「正当な妨害」なんてあるのでしょうか?)。

たとえば、メーカーが、卸に対して、安売りをしている小売店への出荷の停止を命じたりすると、再販売価格拘束でいくのが筋だと思いますが、取引妨害が使われたりします。

ほかには、ディーエヌエーがゲームメーカーに、「モバゲーと取引するな」と圧力をかけた事件も、排他条件付取引ではなく、取引妨害となりました。

ただ、取引妨害は、競争への影響を考慮することなく、とにかく行為自体が(公取委の目からみて)悪質であれば違法とできる(と少なくとも公取委は信じている)ため、限界がきわめてあいまいであり、慎重に運用されることが要求されます。

(なんでも取引妨害としてしまうことの危険性については、白石忠志先生が以前から指摘されています。)

そのような隠語を思い出させるのが、最近公表された、

(平成28年11月18日)ワン・ブルー・エルエルシーに対する独占禁止法違反事件の処理について

です。

この事件では、ブルーレイディスクの必須特許を有するパテントプールであるワン・ブルー・エルエルシーが、ブルーレイの製造販売業者であるイメーションの取引先に対して、ワン・ブルーの特許権者が当該取引先の特許権侵害行為について差止請求権を有していること等を内容とする通知書を送付したことが取引妨害に該当する(ただし、違反行為はすでに行われていないので措置はとらない)、とされています。

プレスリリースを読むと、この事件の処理では、上記通知書の送付だけが具体的な違反行為と認定されているようです。

ですが、必須特許のライセンスを拒絶していたら、知財ガイドライン上は、私的独占にあたるのであり、そのような処理をすべきだったのではないでしょうか。

プレスリリースでもわざわざ、ワン・ブルーの特許権者であるブルーレイのメーカーが日本で過半の市場シェアを有していることが認定されており、50%以上のシェアの場合に優先的に執行するという排除型私的独占ガイドラインの条件もみたしていたように思われます。

(ただ、必須特許のプールであれば市場シェアにかかあわらず市場支配力があることが明らかなので、過半の市場シェアを有するメーカーが参加していないパテントプールであっても排除型私的独占は成立すると思われます。)

公取委が本件で排除型私的独占を使わなかった理由としては、

「我が国で販売されている記録型BDのほとんど全ての製造販売業者は,ワン・ブルーと記録型BDに係るBD標準規格必須特許のライセンス契約を締結していること」

といった事情があったために(プレスリリース)、競争の実質的制限が認められないと判断されたのかもしれませんが、もしそうだとしたらいたずらに私的独占のハードルを上げているように思います。

そもそも標準必須特許のライセンス拒絶は単独の直接取引拒絶あるいは、(プール参加者の共同行為とみて)共同の直接取引拒絶として処理するのが筋だと思います。

ただこれも公取委の立場にたてば、ワン・ブルーはライセンス拒絶していたわけではなくて、交渉中だったので、「拒絶」とまで認定できなかったのかもしれません。

ですがそれを考慮しても、なんでもかんでも取引妨害で処理してしまうのはいかがなものかと思います。

たしかに民事訴訟では類似の行為が取引妨害に該当するとされることがあります(ドライアイスの事件など)。

しかしそれは、取引妨害が、不正競争防止法2条1項15号(営業上の信用棄損行為)のような、不法行為に毛の生えたような存在なので独禁法の素人である裁判官にもわかりやすいために、当事者が好んで主張するからです。

これに対して一国の競争政策をになう専門家集団である公取委が取引妨害に頼るのでは、話が違います。

また、このような処理をしていると、FRANDでのライセンスを拒絶していても差止請求やライセンシーの取引先への告知さえしていなければ独禁法には違反しない(少なくとも摘発されることはない)という誤ったメッセージを送ることになってしまわないか心配です。

それに、告知書の送付だけをとらえて違反行為とすると、それ以外の事実の違法性がうまく取り込めないおそれがあります。

たとえば本件では、

「〔ライセンス料の〕交渉において,イメーション及び米イメーションは,ワン・ブルーに対し,公正で妥当なライセンス料を支払う意思があることの表明,公正で妥当と考えるライセンス料の提案,ワン・ブルーが提示するライセンス料の設定根拠の説明の要請等を行っていたが,ワン・ブルーは,非差別的な条件を提供するためにライセンス料について交渉はできないとして,当該設定根拠の説明も行わなかった。」

という部分がけっこう重要な意味を持つのではないかと思うのですが(結果的に同率のライセンス率でないと差別的とみなされるというのはわからないではないですが、根拠すら説明しないというのはやや行き過ぎでしょう)、通知書の送付を違反行為ととらえると、このような説明しなかったという事実と最終的な通知行為の妨害行為該当性とのつながりがみえてきません。

ライセンシーの取引先への通知は不競法2条1項15号では典型的な不正競争行為とされていますが、そちらが念頭に置いているのは世の中で普通にある(市場支配力を伴わない)特許侵害の警告書(のライセンシーの取引先への送付)なので、おなじ行為を一般指定14項で処理してしまうことの不都合もあると思います。

何が不都合なのかというと、一般指定14項では、少なくとも、行為者に市場支配力があるかないか(あるいは市場における有力な事業者であるかどうか)で違法かどうかが分かれるという仕組みになっていないので、まったく市場支配力はないけれどたまたま当該特許を侵害していたという、世の中にいくらでもある、およそ競争に無関係なケースにまで一般指定14項が適用されてしまうのではないか、と思うのです。(不正手段型なんだから、警告の内容が虚偽である限りそれでもかまわない、という割り切りもあるかもしれませんが。)

(ただし公取委も、取引妨害でも競争への影響には運用上配慮しているようで、

「座談会 最近の独占禁止法違反事件をめぐって」公正取引790号(2016年8月)790号

のp3~4では、排除措置命令ではなく「注意」をしているケースについて、

「例えば・・・取引妨害などでも競争への影響まで認められないようなケース」

は注意にとどめている、という山本佐和子審査局長の発言があります。

「競争への影響」という言葉の具体的意味が問題ですが、少なくともこれは、競争上の影響がない場合には取引妨害は違法ではないという考え方を示したものといえます。)

公取委としては知財分野での成果をアピールしたくてこのプレスリリースをしたことがみえみえですが、かえって独禁法解釈の稚拙さだけが印象付けられる結果となってしまいました。

ちなみに私は、排除型私的独占が適用されることは、未来永劫ないと予想しています。

なぜなら、どうしても課徴金を課したいという事情が公取委にない限り、ほとんどの場合、私的独占よりもはるかにハードルの低い取引妨害で事足りてしまうからです。

パラマウントベッド事件も、NTT東日本事件も、JASRAC事件も、もし今同じことが行われたら、きっと全部取引妨害で処理されるでしょう。

今回のプレスリリースは、そのような予想が正しいであろうことをますます確信させてくれます。

2016年11月22日 (火)

平成28年下請法講習テキストの変更点

平成28年の下請法講習テキストに、買いたたきの例として、

「自動車部品の製造を下請事業者に委託しているB社は、当該部品の量産が終了し、補修用としてわずかに発注するだけで発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価により下請代金の額を定めていた。」

というのが追加されました(p57)。

しかし私は、これは行き過ぎというか、少なくとも買いたたきの典型例としてテキストに載せるのはいかがなものかと思います。

(なお似たような例が、現在パブコメ中の運用基準改正案にもあります。)

テキストのその前の従前からある例で、

「産業用機械の部品の製造を下請事業者に委託しているA社は、下請事業者に2,000個発注することを前提として下請代金の単価について交渉し合意したところ、実際には300個しか発注しなかったのに2000個発注することを前提とした単価を適用した。」

というのがありますが、これならわかります。

というのは、部品を作るには金型の作成やら何やら固定費がかかるわけで、2000個で固定費を回収するつもりだったのに300個しか発注しないとなったら、それは下請が怒るのは当然です。

でも今回追加された設例では、そのようなことが一般的にいえるのでしょうか?

「量産が終了」しているわけですから、いちおう固定費は回収されているはずです。

もし最低生産ロット数にも大幅に満たないような個数を発注する(たとえば一度工場のラインを動かしたら最低でも1000個できてしまうのに10個しか発注しない)、というような場合ならわかりますが、世の中、そのような場合ばかりではないのではないでしょうか。

少なくとも、上記の「2000個発注の予定が300個発注」の例に比べれば、新たに加えられた例は非常に限界があいまいというか、そもそもどのような場合が買いたたきになるのかがきわめてわかりにくくなってしまったといわざるをえません。

それは結局、新たな設例に確固とした理論的裏付けがないためです。

少なくとも新しい設例は、前述のような、最低生産ロット数にもみたない発注の場合を想定していることを明記するなりすべきでしょう。

設例では、たんに従来から「大幅に」発注数量が減っているだけで違法になる、としか読み取れません。

でも大量生産が終わってるならふつうは金型など生産設備の減価償却も終わっているはずで、最低生産ロットの問題さえなければむしろ原価は安くなっている可能性すらあります。

親事業者は下請テキストの場当たり的な修正に振り回されることなく、実質的な違法性がどこにあるのかをよく考えて、最終的には、

「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い」

かどうかが買いたたきの要件であることを心にとどめて、事案に応じた適切な判断をしてくことが必要だと思います。

運用基準改正案をみても買いたたきの例が大幅に追加されていますし、どうも、安倍政権のデフレ対策を下請法を通じておこなうというにおいがプンプンします。

下請法はほんらい独禁法の優越的地位の濫用を簡易迅速に処理するための法律で、だからこそ適用対象も資本金額などで割り切っているわけですが、買いたたきにこのような極めて実質的な(ケースバイケースの)判断を要する行為類型にこのような設例が加えられると、同じことを下請事業者以外に対してやったら優越的地位の濫用にもなるのではないかということが当然に問題になるわけです。

もともと買いたたき規制は市場競争への露骨な介入であるわけですから、謙抑的に運用されるべきで、実際、これまではそのようにされていました。

最近の公取の動きを見ていると、ほんとうに、そのようなタガが外れてしまった感じがします。(しかも正式な勧告ではなく注意ですますところが、たちが悪いです。)

競争当局としての誇りはどこにいってしまったのでしょうか。

2016年11月21日 (月)

【お知らせ】不正競争防止法の講座を開きます。

昨年にひきつづき、公益財団法人公正取引協会で、

「不正競争防止法関係法令講座」

を開かせていただくことになりました。

12月5日と19日の2回シリーズです。

不正競争防止法は知的財産権法に関連付けて説明されることが多いですが、競争法的な発想もあり、さらには外国公務員に対する贈賄など、実にさまざまな規定が混在しています。

この不競法の実務のポイントを、コンパクトに2回で解説します。

ご興味のある方はぜひご参加ください。

申込方法については、こちらをご覧ください。

2016年11月 9日 (水)

経済法における法学と経済学の関係

ふと思いついたのですが、競争法における法学と経済学との関係は、饅頭における皮とあんこの関係に似ていると思います。

ここではもちろん、

法学=皮

経済学=あんこ

ということです。

どういうことかというと、経済学を知らずに経済法を語るのは、饅頭の皮だけ食べるようなものではないか、ということです。

もちろん、あんこだけでは売り物になりませんから(経済学だけでは現実の問題を解決できない)、皮も重要なのですが、やはり、饅頭のキモはあんこなのではないか、と思うのです。

少なくとも、あんことの相性を考えずに皮を作るのでは、おいしい饅頭はできないと思います。

皮を作るのにも熟練の職人技が必要でしょうから(ひょっとしたら、あんこ作りよりも高度な技術が必要かもしれません)、皮作りの職人があんこ作りの職人よりも格下だということは決してありませんが、優れた皮職人はあんことの相性を考えて皮を作るのでしょう。(本当の饅頭は1人の職人が作るのでしょうけれど、そこは物のたとえということで。)

実務のきわめて大きな部分を占めるカルテルでは経済学はほとんど関係ないので、皮だけ食べて生きている独禁法弁護士も世の中にはたくさんいることでしょう。

また日本の特殊事情として、優越的地位の濫用がきわめて大きな地位を占めており、優越的地位の濫用を経済学でまじめに分析したらそもそも違法とすべきではないのではないか(少なくともトイザらスのような事件を違反にするのは行き過ぎ)、といった立論につながるので、ここでも経済学は無視されているといえます。

そういった事情はあるのですが、それでも、カルテルと優越的地位の濫用をのぞいた分野(優越をのぞく不公正な取引方法が典型)では、経済学は饅頭におけるあんこと同じくらい重要だと思います。

もし基礎的な経済学の知見がないと、

けっきょく独禁法はケースバイケース

といったよくわからないアドバイスになったり、「おそれ」という文言だけにとらわれて、

不公正な取引方法では、違法にしようと思えば何でも違法にできる、

といった極端な議論にすらなりかねません。(実際、そうおっしゃっている独禁法弁護士の方もいらっしゃいます。)

あんこが嫌いな人は饅頭は食べないと思いますが、わたしが独禁法を仕事にしているのも、きっと経済学が好きだからなのだという気がしています(どうも独禁法をやっている人のなかには「自分は皮だけが好き」という人がけっこう多いような気がします)。

人によっては、

饅頭の皮というのは言い過ぎで、肉まんの皮くらいの価値はある、

とか、

(重量比ではわずかだけれど味にとっては決定的に重要な)ケンタッキーフライドチキンの衣くらいの価値がある、

という人もいるかもしれませんが、いずれにせよ、皮だけの肉まんや衣だけのケンタッキーフライドチキンが美味しくないことには変わりはないでしょう。

というわけで、独禁法を学ぶときには、あんこも好きになって、皮とあんこの両方を食べることをおすすめします。

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