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2016年9月 2日 (金)

消費税増税前発注・増税後引渡しの工事と消費税転嫁法

8月31日に、株式会社松下サービスセンター及び株式会社APサービスセンターに対して、消費税転嫁法の勧告がなされました

この事件は、金沢のリフォーム業者が、取引先に代金を支払うにあたり、

①工事の下請業者に支払う代金の単価を消費税増税の際に改定せず、

②駐車場の賃借料を増税分引き上げず、

③税務会計指導業務等の代金を引き上げなかった、

といった行為が勧告の対象になっています。

これらの事実自体はオーソドックスな転嫁法違反なのですが、いくつか注目すべき点があります。

1つめは、消費税増税前に発注し増税後に引渡しを受けた工事について勧告がなされていることです。

勧告では、

「・・・平成25年10月1日から平成26年3月31日までの間に発注し,平成26年4月1日以後に引渡しを受けたサイディング工事の工事代金については,平成26年4月1日に引き上げられた消費税率が適用される・・・」

とされており、それはそのとおりなのですが、そんな過渡期の行為、しかも、2年も前の行為でも、勧告されてしまう、ということです。

消費税転嫁法は消費税増税の直後が執行のピークでその後は下火になるのではないかという観測もあったところですが、ぜんぜんそんなことはない、ということです。

また、下請法の場合は5条書類(取引記録)の保存期間が2年であるのに合わせて減額などで勧告されるのも過去2年分ですが、どうやら、転嫁法の場合には、「2年経ったら見逃す」という発想はないようです。

このことは、次の消費税増税(8%→10%)が平成31(2019)年10月に延期され、それに伴い転嫁法の期限もさらに平成33(2021年)3月末まで延長されることが見込まれる現在、結構重要な意味があります。

つまり、平成26年4月ころの代金支払い不足について、平成33年3月(予定)くらいまでは、さかのぼって支払うことが命じられることがありうる、ということです。

とくに、次の消費税引き上げ直後には公取委は集中的に転嫁法の調査をするでしょうから、その際、前の引き上げ時の転嫁拒否もついでに見つかる、ということは十分にありそうです。

この事件でも、

「2社は,それぞれ,本件工事業者のうち,一部のものに対し,平成26年4月1日以後に発注したサイディング工事の工事代金について,工事単価に消費税率の引上げ分を上乗せせず,同年3月31日までの工事単価と同額に定め,前記⑴イの方法で算出した額を支払った。」

とされており、発注時期が「平成26年4月1日以後」であるという点しか特定されておらず(終期の定めなし)、しかも、

「2社は,それぞれ,公正取引委員会が本件について調査を開始した後,前記⑵の代金について,松下サービスセンターは平成28年3月24日までに,APサービスセンターは同年7月12日までに消費税率の引上げ分に相当する額まで引き上げることを本件工事業者及び本件賃貸人等との間で合意し,平成26年4月1日に遡って当該引上げ分相当額を本件工事業者及び本件賃貸人等に対して支払った。」

ということなので、公取がいつ調査を開始したのかによりますが、たとえば半年前(平成28年2月)に調査開始したとすると、平成26年4月から約2年間の代金についてさかのぼって支払わされた、ということになります。

前述のように、転嫁法の失効期限が平成33年3月(予定)まで引き延ばされる状況にある現在、最大、7年分の代金支払い不足が勧告の対象になりうる、ということです。

そこまでいけばさすがに民事上の時効ではないかという気もしますが、代金請求権が時効にかかっていても行政法規である転嫁法違反がなくなるわけではないと思われることからすると、ありえない話ではありません(公取委の運用方針次第です)。

2つめの注目点は、対象会社が金沢の資本金わずか5000万円と1000万円の会社である、ということです。

(これは法律上仕方のないことですが、転嫁拒否で保護される事業者は資本金3億円以下の事業者なので、違反者が被害者よりもはるかに小企業であった可能性もあります。)

つまり、転嫁法については中小企業といえどもお目こぼしはない、ということです。

3つ目の注目点は、勧告対象(③)に、税務会計指導業務(相手方は税理士さんですかね)、広告業務、廃棄物処理業務、が含まれていることです。

単価が単価表できまっているような工事の場合には単価表を改定しないと消費税分上乗せしていないとみなされるのはやむをえないところですし、長期間固定金額になりがちなオフィスや駐車場の賃料も価格改定していないかぎり消費税を上乗せしていないとみなしやすい契約類型です。

これに対して、税務会計指導業務や広告業務や廃棄物処理業務といった業務は、それぞれの業務ごとに個性が強く(たとえば平成27年度の確定申告と平成28年度の確定申告が同じ業務量とは限らない)、転嫁拒否がそれほど簡単には認定できないのではないか(増税後、あらためて価格交渉をした、という抗弁も認められるのではないか)、と私などは思っておりました。

ところが今回こういう勧告が出たということは、各取引ごとに個性の強い業務でも転嫁法の摘発対象になりうる、ということです。

企業はいまいちど、転嫁法違反がないか、調べてみるべきではないでしょうか。

それにしても、消費税増税されてから2年も経った後の代金をいまさら3%上げろと命じられるのを目の当たりにすると、消費税転嫁法というのは、実は国家による物価引上げ策(デフレ対策)だったのだなと、改めて思わざるをえません。

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