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2016年9月 7日 (水)

懸賞の総額制限における取引予定総額の意味

懸賞により提供する景品類については、その総額について、

「当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を超えてはならない。」

という制限があります(懸賞制限告示3項)。

そして、懸賞運用基準7項では、

「告示3項・・・の『懸賞に係る取引の予定総額』について

懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とする。」

とされています。

つまり、景品類の総額は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額の2%を超えてはいけない、ということになります。

では、メーカーが懸賞により景品類を提供する場合、運用基準7項の、

「対象商品の売上」

というのは、メーカーの売上(卸売価格が基準)でしょうか、それとも、小売店の売上(小売価格が基準)でしょうか。

たとえば、缶コーヒーのメーカーが、メーカー→卸→小売→消費者、という商流で、小売価格1個120円(卸への販売価格1個50円)の缶コーヒーを販売している状況において、その購入者(消費者)に懸賞により景品類を提供する場合、基準になるのは小売価格の120円なのか、卸売価格の50円なのか、という問題です。

結論としては、小売価格の120円が基準になります。したがって、キャンペーン期間中に10万個の販売を見込んでいるのであれば、「懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額」は、120円×10万個=1200万円となり、景品類の総額は、1200万円×0.02=24万円、となります。

この点については消費者庁のホームページのQ&Aも小売価格を基準とすることを当然の前提にしている設問があり、Q16では、

「Q16

メーカーが実施する景品提供企画なのですが,取引先小売店における販売価格がまちまちである状況において,取引の価額をどのように算定すべきでしょうか。」

というように、小売店における販売価格(小売価格)を基準にすることを当然の前提にした質問がなされており、それに対して、

「A.景品類の提供者がメーカー又は卸売業者である場合の取引の価額は,景品類提供の実施地域における対象商品の通常の取引価格を基準とします。

したがって,本件については,例えば特売セールでの販売価格など通常の販売価格とはいえない価格を除き,景品提供企画を実施する地域における対象商品の通常の販売価格を取引の価額とすることになります。」

と回答されており、回答でも、小売価格を基準にすることを当然の前提に、それは通常の取引価格なのであって、特売セールでの販売価格ではないと、あくまで小売価格を基準にすることは当然の前提として回答されています。

つまり、懸賞制限告示3項の

「当該懸賞に係る取引の予定総額」

というのは、懸賞の対象になっている取引(くじを引くのは消費者なので、当然、消費者が当事者となっている取引)のことをさし、運用基準7項の、「・・・対象商品の売上予定総額」にいうところの、

「売上」

というのは、消費者に対する売上(裏から言えば、消費者の購入額)を意味することになります。

告示3項の「当該懸賞に係る取引」という文言からは、くじが付いてくる取引を指すことが比較的明らかですが、運用基準の「対象商品の売上」という文言だけをみると、メーカー自身の売上と読めなくもないので、やや注意が必要です。

実質的に考えても、2%という基準は消費者の射幸心をあおらないように定めているわけですから、消費者の購入額を基準にすることは自然なことであり、消費者庁のQ&Aの立場が妥当だと思います。

もう1つの問題として、景品類が当たる対象取引を取引額などを基準に制限した場合、「当該懸賞に係る取引」(告示3項)はどう考えればいいのか、という問題もあります。

たとえば、コンビニが700円以上の購入者に対してくじを引かせるような場合です。

これも当然のことですが、この場合、「当該懸賞に係る取引」は、700円以上の購入取引に限られます。

キャンペーン期間中の全売上ではありません。

懸賞の対象にならない取引(700円未満の取引)が「当該懸賞に係る取引」に含まれないことは、当然のことです。

なので、取引予定総額を見積もる際には、店舗の全売上ではなく、1回あたり700円以上購入するお客さんへの売上がいくらくらいになるのかを見積もる必要があります。

では、メーカーが、小売価格1個120円の缶コーヒーを2個購入した人を対象にくじを引かせるキャンペーンを行う場合はどうでしょうか。

これは場合によると思います。

まず、(あまりないと思いますが)1つ目のパターンとして、同時に(1回の買い物で)2個購入した人に対してだけくじを引かせる、というキャンペーンの場合は、同時に2個以上まとめ買いをする人への販売価格が基準になると考えられます。(前記コンビニの例と同じ考え方です。)

これに対して、別々の機会に購入するのでもよくて、ともかく2個購入した人に対してくじを引かせる(あるいはより一般的に、応募資格を与える)、というキャンペーンなのであれば(たとえば缶コーヒーに貼られたシール2枚をはがきに貼って応募するなど)、キャンペーン期間中の当該缶コーヒーの予定売上を基準にしてよいでしょう。

キャンペーン期間中に1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して、1個しか買わない人への売上は除外する、という考え方もありえますが、1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して見積もるのは不可能なので、そこまでの細かい議論は不可能を強いるもので妥当でないと思われます。

理屈で考えても、2個以上で応募できるキャンペーンに、

「2個で応募できるのか。いまは1個でいいけど、そのうち2個目を買ったら応募しよう」

と思っていながら結局2個目を買わなかった(たとえば、2個目を買うのを忘れてキャンペーン期間を過ぎてしまった)、というような消費者でも、1個目の取引ですでに誘引されているのは間違いないので、やはり、1個だけ買う人も取引予定総額に算入すべきでしょう。

ちなみに、実際にキャンペーンに応募する人の数は予想できるかもしれませんが、実際に応募しなくても2個以上購入した人には応募資格はあるので対象売上に含むべきことがあきらかであり、予想応募人数も正しい基準にはなりえません。

(1個で応募できる場合と2個で応募できる場合の違いは、景品類の最高額(取引価額の20倍)のところで出てきます。)

以上のように、景品規制というのは、細かく見ていくと、実にいろいろな隠れた論点に溢れているように思われます。

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コメント

突然のコメント失礼致します。
大学で独占禁止法を学んでいるのですが、今、トイザらス事件について勉強していて、植村さんのブログを拝見させて頂きました。
トイザらス事件の審決は優越的地位の濫用の判断において、優越的地位の認定に濫用行為を考慮した点を疑問に思うのですが、具体的にこの審決の中で植村さんが、このような判断をしなければこうはなっていなかっただろう、というようなことはありますか?

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