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2016年9月

2016年9月22日 (木)

ブランド内競争と小売サービスの関係

ブランド内競争が小売サービスに及ぼす影響について

Tirole, "The Theory of Industrial Organization" p 182 

のモデルに従って、整理しておきます。

前提として、小売レベルは完全競争(ブランド内競争が活発)であり、

需要関数: q=D(p,s) 〔pは価格、sはサービス量〕

消費者余剰: S(p,s)

サービス1単位あたりのコスト: Φ(s)

とすると、メーカーと小売店が統合された垂直統合企業が得る利益は、

[p-c-Φ(s)]D(p,s) ・・・①

となります。

そこで、垂直統合企業が利益を最大化するサービス量の条件は、①をsで偏微分して0とすると、

-Φ’(s)D(p,s)+[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=0

であり、整理すると、

[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=Φ’(s)D(p,s)・・・②

となります。

次に、メーカーと小売店が別々の企業である場合(垂直分離企業)に、どれだけサービスが提供されるかについて考えてみます。

消費者は、完全競争の下では最適な価格とサービス量のミックスを提供する小売から購入する(できる)ので、前述のように小売レベルでの完全競争を前提とすると、小売レベルでの完全競争は、「消費者厚生を最大化する価格とサービス量のミックス」と置き換えることが可能です。

(ただし、小売に損が出てはいけませんので、

p=pw+Φ(s) [ただし、pwは卸売価格]

という条件がつきます。)

小売レベルの完全競争は、消費者余剰、すなわち、

S(p,s)[⇔S(pw+Φ(s),s)]・・・③

を最大化します。

(つまり、p=pw+Φ(s)という制約条件のもとでの消費者余剰の最大化問題です。)

次に、消費者余剰Sを最大化するサービス量(s)の条件を求めます。

ここで、S(p,s)をsで偏微分したくなりますが、

p=pw+Φ(s)

という制約条件があるためにpとsは相互に独立ではないので、sで単純に偏微分することはできません。

そこで、ラグランジュ乗数法を用いて、

Z=S(p,s)+λ(pw-p+Φ(s))

と置き、λとpとsで偏微分して、

∂Z/∂λ=pw-p+Φ(s)=0・・・④

∂Z/∂p=∂S/∂p-λ=0・・・⑤

∂Z/∂s=∂S/∂s+λΦ’(s)=0・・・⑥

が、消費者余剰Sを最大化するためのサービス量(s)の条件となります。

これを解くと、

∂S/∂s=-λΦ’(s) 〔⑥より〕

=-∂S/∂p・Φ’(s) 〔⑤より、λ=∂S/∂p〕

=D・Φ’(s) 〔∂S/∂p=-D(総需要を価格で(偏)微分すると需要関数となる)より〕

となり、結局、

∂S/∂s=D・Φ’(s)・・・⑦

が、メーカーと小売店が別々の企業で、かつ、小売レベルで十分な競争がある場合の、サービス提供量となります。

整理すると、垂直統合企業のサービス提供量は、

[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=Φ’(s)D・・・②

となり、垂直分離企業(かつブランド内競争あり)のサービス提供量は、

∂S/∂s=Φ’(s)D・・・⑦

となります。

ここで、②も⑦も、右辺は、需要量に限界サービスコストを乗じたもの、つまり、全需要者に対して追加で1単位サービスを提供した場合の費用であることがわかります。

これに対して、②(ブランド内競争なし)と⑦(ブランド内競争あり)の左辺を比べると、②(ブランド内競争なし)の場合には、サービスを一単位増やした場合の需要量の増加(∂D/∂s)に、マージン([p-c-Φ(s)])を乗じたものであることがわかります。

つまり、②(ブランド内競争なし)の場合には、垂直統合企業は、サービスを1単位増やした場合の費用増(Φ’(s)D)が、サービスを1単位増やした場合の増加利益に等しくなるように、サービス量を決定します(独占企業の行動の特徴です)。

これに対して、⑦(ブランド内競争あり)の左辺は、サービスを1単位増やした場合の消費者余剰の増加分(∂S/∂s)であることがわかります。

つまり、⑦(ブランド内競争あり)の垂直分離企業は、サービスを1単位増やした場合の費用増(Φ’(s)D)が、サービスを1単位増やした場合の消費者余剰の増加分(∂S/∂s)に等しくなるように、サービス量を決定します(ソーシャルプランナーの行動の特徴です)。

別の言い方をすれば、

垂直統合企業(≒独占企業)は、限界的需要者に対する影響だけをみてサービス量を決定し、

垂直分離企業(≒ソーシャルプランナー)は、限界的需要者のみならず、それ以外の需要者(inframarginal consumers)への影響をもみて(つまり、平均的需要者への影響をみて)サービス量を決定する、

ということです。

別の見方をすれば、小売業者間の競争がメーカーに負の外部性を与える(垂直的外部性)、つまり、ブランド内競争があると、小売業者がメーカーの望むレベルの小売サービスを提供しない、ということです。

(なお、ここで言っているのは、あくまで垂直的外部性(小売が競争のために限界的需要者だけをみて小売サービスを提供してしまうことによるメーカーへの外部性)のことであって、水平的外部性(いわゆるフリーライダー問題)とはまったく別の問題です。)

小売レベルの競争がある場合に独占企業の目からみてサービス提供量が過小になるか過大になるかは場合によりますが、単純にいえば、

限界的需要者が平均的需要者よりも小売サービスを高く評価している場合には、小売レベルの競争があると独占に比べて小売サービスの提供が過大になり、

限界的需要者が平均的需要者よりも小売サービスを低く評価している場合には、小売レベルの競争があると独占に比べて小売サービスの提供が過小になる、

という関係があります。

しかし、総余剰の観点からは、競争がいいのか独占がいいのかは、一概にはいえません。

上の分析は、メーカーが設定する卸売価格(pw)を所与のものとして分析していますが、pwは、垂直統合企業(=独占企業)における仮想的卸売価格(fictitious wholesale price)を超えるかもしれないからです。

(ここで、垂直統合企業における仮想的卸売価格は、pm-Φ(sm)と定義されます。〔pmは独占価格、smは独占企業が提供するサービス量〕)

「一概にはいえません」というと、暗闇に放り出されたようでフラストレーションがたまるのでcoldsweats01

A. Michael Spence, "Monopoly, quality, and regulation" (1975)

に従って、結論だけ簡単に述べると、抽象的には、

①限界的消費者によるサービスに対する評価と平均的消費者によるサービスに対する評価と、

②独占企業が産出量を削減する程度

の2つの要素次第であり、より具体的には、

供給量が増えるにしたがってサービスへの評価が下がっていく場合(∂P/∂q・∂s<0)には、

独占による産出量削減が少ないと、サービスの供給が(社会的な最適量に比べて)過小となり、

独占による産出量削減が多いと、サービスの供給が過大となり、

供給量が増えるにしたがってサービスへの評価が上がっていく場合(∂P/∂q・∂s>0)には、

独占による産出量削減が少ないと、サービスの供給が過小となり、

独占による産出量削減が多いと、サービスの供給が過大となる、

というように整理されます。

これくらい複雑になるととても法執行の指針にはなりそうもありませんが、理屈の上では何が正しいのか答えが出てしまう、というのは経済学のすごいところだと思います。

法学の観点からいえるのは、メーカーがブランド内競争を制限することにより小売サービスをより最適に提供できるかもしれない、ということくらいでしょう。

2016年9月 7日 (水)

懸賞の総額制限における取引予定総額の意味

懸賞により提供する景品類については、その総額について、

「当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を超えてはならない。」

という制限があります(懸賞制限告示3項)。

そして、懸賞運用基準7項では、

「告示3項・・・の『懸賞に係る取引の予定総額』について

懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とする。」

とされています。

つまり、景品類の総額は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額の2%を超えてはいけない、ということになります。

では、メーカーが懸賞により景品類を提供する場合、運用基準7項の、

「対象商品の売上」

というのは、メーカーの売上(卸売価格が基準)でしょうか、それとも、小売店の売上(小売価格が基準)でしょうか。

たとえば、缶コーヒーのメーカーが、メーカー→卸→小売→消費者、という商流で、小売価格1個120円(卸への販売価格1個50円)の缶コーヒーを販売している状況において、その購入者(消費者)に懸賞により景品類を提供する場合、基準になるのは小売価格の120円なのか、卸売価格の50円なのか、という問題です。

結論としては、小売価格の120円が基準になります。したがって、キャンペーン期間中に10万個の販売を見込んでいるのであれば、「懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額」は、120円×10万個=1200万円となり、景品類の総額は、1200万円×0.02=24万円、となります。

この点については消費者庁のホームページのQ&Aも小売価格を基準とすることを当然の前提にしている設問があり、Q16では、

「Q16

メーカーが実施する景品提供企画なのですが,取引先小売店における販売価格がまちまちである状況において,取引の価額をどのように算定すべきでしょうか。」

というように、小売店における販売価格(小売価格)を基準にすることを当然の前提にした質問がなされており、それに対して、

「A.景品類の提供者がメーカー又は卸売業者である場合の取引の価額は,景品類提供の実施地域における対象商品の通常の取引価格を基準とします。

したがって,本件については,例えば特売セールでの販売価格など通常の販売価格とはいえない価格を除き,景品提供企画を実施する地域における対象商品の通常の販売価格を取引の価額とすることになります。」

と回答されており、回答でも、小売価格を基準にすることを当然の前提に、それは通常の取引価格なのであって、特売セールでの販売価格ではないと、あくまで小売価格を基準にすることは当然の前提として回答されています。

つまり、懸賞制限告示3項の

「当該懸賞に係る取引の予定総額」

というのは、懸賞の対象になっている取引(くじを引くのは消費者なので、当然、消費者が当事者となっている取引)のことをさし、運用基準7項の、「・・・対象商品の売上予定総額」にいうところの、

「売上」

というのは、消費者に対する売上(裏から言えば、消費者の購入額)を意味することになります。

告示3項の「当該懸賞に係る取引」という文言からは、くじが付いてくる取引を指すことが比較的明らかですが、運用基準の「対象商品の売上」という文言だけをみると、メーカー自身の売上と読めなくもないので、やや注意が必要です。

実質的に考えても、2%という基準は消費者の射幸心をあおらないように定めているわけですから、消費者の購入額を基準にすることは自然なことであり、消費者庁のQ&Aの立場が妥当だと思います。

もう1つの問題として、景品類が当たる対象取引を取引額などを基準に制限した場合、「当該懸賞に係る取引」(告示3項)はどう考えればいいのか、という問題もあります。

たとえば、コンビニが700円以上の購入者に対してくじを引かせるような場合です。

これも当然のことですが、この場合、「当該懸賞に係る取引」は、700円以上の購入取引に限られます。

キャンペーン期間中の全売上ではありません。

懸賞の対象にならない取引(700円未満の取引)が「当該懸賞に係る取引」に含まれないことは、当然のことです。

なので、取引予定総額を見積もる際には、店舗の全売上ではなく、1回あたり700円以上購入するお客さんへの売上がいくらくらいになるのかを見積もる必要があります。

では、メーカーが、小売価格1個120円の缶コーヒーを2個購入した人を対象にくじを引かせるキャンペーンを行う場合はどうでしょうか。

これは場合によると思います。

まず、(あまりないと思いますが)1つ目のパターンとして、同時に(1回の買い物で)2個購入した人に対してだけくじを引かせる、というキャンペーンの場合は、同時に2個以上まとめ買いをする人への販売価格が基準になると考えられます。(前記コンビニの例と同じ考え方です。)

これに対して、別々の機会に購入するのでもよくて、ともかく2個購入した人に対してくじを引かせる(あるいはより一般的に、応募資格を与える)、というキャンペーンなのであれば(たとえば缶コーヒーに貼られたシール2枚をはがきに貼って応募するなど)、キャンペーン期間中の当該缶コーヒーの予定売上を基準にしてよいでしょう。

キャンペーン期間中に1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して、1個しか買わない人への売上は除外する、という考え方もありえますが、1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して見積もるのは不可能なので、そこまでの細かい議論は不可能を強いるもので妥当でないと思われます。

理屈で考えても、2個以上で応募できるキャンペーンに、

「2個で応募できるのか。いまは1個でいいけど、そのうち2個目を買ったら応募しよう」

と思っていながら結局2個目を買わなかった(たとえば、2個目を買うのを忘れてキャンペーン期間を過ぎてしまった)、というような消費者でも、1個目の取引ですでに誘引されているのは間違いないので、やはり、1個だけ買う人も取引予定総額に算入すべきでしょう。

ちなみに、実際にキャンペーンに応募する人の数は予想できるかもしれませんが、実際に応募しなくても2個以上購入した人には応募資格はあるので対象売上に含むべきことがあきらかであり、予想応募人数も正しい基準にはなりえません。

(1個で応募できる場合と2個で応募できる場合の違いは、景品類の最高額(取引価額の20倍)のところで出てきます。)

以上のように、景品規制というのは、細かく見ていくと、実にいろいろな隠れた論点に溢れているように思われます。

2016年9月 2日 (金)

消費税増税前発注・増税後引渡しの工事と消費税転嫁法

8月31日に、株式会社松下サービスセンター及び株式会社APサービスセンターに対して、消費税転嫁法の勧告がなされました

この事件は、金沢のリフォーム業者が、取引先に代金を支払うにあたり、

①工事の下請業者に支払う代金の単価を消費税増税の際に改定せず、

②駐車場の賃借料を増税分引き上げず、

③税務会計指導業務等の代金を引き上げなかった、

といった行為が勧告の対象になっています。

これらの事実自体はオーソドックスな転嫁法違反なのですが、いくつか注目すべき点があります。

1つめは、消費税増税前に発注し増税後に引渡しを受けた工事について勧告がなされていることです。

勧告では、

「・・・平成25年10月1日から平成26年3月31日までの間に発注し,平成26年4月1日以後に引渡しを受けたサイディング工事の工事代金については,平成26年4月1日に引き上げられた消費税率が適用される・・・」

とされており、それはそのとおりなのですが、そんな過渡期の行為、しかも、2年も前の行為でも、勧告されてしまう、ということです。

消費税転嫁法は消費税増税の直後が執行のピークでその後は下火になるのではないかという観測もあったところですが、ぜんぜんそんなことはない、ということです。

また、下請法の場合は5条書類(取引記録)の保存期間が2年であるのに合わせて減額などで勧告されるのも過去2年分ですが、どうやら、転嫁法の場合には、「2年経ったら見逃す」という発想はないようです。

このことは、次の消費税増税(8%→10%)が平成31(2019)年10月に延期され、それに伴い転嫁法の期限もさらに平成33(2021年)3月末まで延長されることが見込まれる現在、結構重要な意味があります。

つまり、平成26年4月ころの代金支払い不足について、平成33年3月(予定)くらいまでは、さかのぼって支払うことが命じられることがありうる、ということです。

とくに、次の消費税引き上げ直後には公取委は集中的に転嫁法の調査をするでしょうから、その際、前の引き上げ時の転嫁拒否もついでに見つかる、ということは十分にありそうです。

この事件でも、

「2社は,それぞれ,本件工事業者のうち,一部のものに対し,平成26年4月1日以後に発注したサイディング工事の工事代金について,工事単価に消費税率の引上げ分を上乗せせず,同年3月31日までの工事単価と同額に定め,前記⑴イの方法で算出した額を支払った。」

とされており、発注時期が「平成26年4月1日以後」であるという点しか特定されておらず(終期の定めなし)、しかも、

「2社は,それぞれ,公正取引委員会が本件について調査を開始した後,前記⑵の代金について,松下サービスセンターは平成28年3月24日までに,APサービスセンターは同年7月12日までに消費税率の引上げ分に相当する額まで引き上げることを本件工事業者及び本件賃貸人等との間で合意し,平成26年4月1日に遡って当該引上げ分相当額を本件工事業者及び本件賃貸人等に対して支払った。」

ということなので、公取がいつ調査を開始したのかによりますが、たとえば半年前(平成28年2月)に調査開始したとすると、平成26年4月から約2年間の代金についてさかのぼって支払わされた、ということになります。

前述のように、転嫁法の失効期限が平成33年3月(予定)まで引き延ばされる状況にある現在、最大、7年分の代金支払い不足が勧告の対象になりうる、ということです。

そこまでいけばさすがに民事上の時効ではないかという気もしますが、代金請求権が時効にかかっていても行政法規である転嫁法違反がなくなるわけではないと思われることからすると、ありえない話ではありません(公取委の運用方針次第です)。

2つめの注目点は、対象会社が金沢の資本金わずか5000万円と1000万円の会社である、ということです。

(これは法律上仕方のないことですが、転嫁拒否で保護される事業者は資本金3億円以下の事業者なので、違反者が被害者よりもはるかに小企業であった可能性もあります。)

つまり、転嫁法については中小企業といえどもお目こぼしはない、ということです。

3つ目の注目点は、勧告対象(③)に、税務会計指導業務(相手方は税理士さんですかね)、広告業務、廃棄物処理業務、が含まれていることです。

単価が単価表できまっているような工事の場合には単価表を改定しないと消費税分上乗せしていないとみなされるのはやむをえないところですし、長期間固定金額になりがちなオフィスや駐車場の賃料も価格改定していないかぎり消費税を上乗せしていないとみなしやすい契約類型です。

これに対して、税務会計指導業務や広告業務や廃棄物処理業務といった業務は、それぞれの業務ごとに個性が強く(たとえば平成27年度の確定申告と平成28年度の確定申告が同じ業務量とは限らない)、転嫁拒否がそれほど簡単には認定できないのではないか(増税後、あらためて価格交渉をした、という抗弁も認められるのではないか)、と私などは思っておりました。

ところが今回こういう勧告が出たということは、各取引ごとに個性の強い業務でも転嫁法の摘発対象になりうる、ということです。

企業はいまいちど、転嫁法違反がないか、調べてみるべきではないでしょうか。

それにしても、消費税増税されてから2年も経った後の代金をいまさら3%上げろと命じられるのを目の当たりにすると、消費税転嫁法というのは、実は国家による物価引上げ策(デフレ対策)だったのだなと、改めて思わざるをえません。

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