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2016年8月29日 (月)

本日日経朝刊の下請法の記事について

8月29日日経朝刊法務面に、

「下請法違反監視強まる 公取委、指導最多『買いたたき』に的」

という記事があります。

その中で、

「発注企業が調達先を分散し、この部品メーカーの納入量は年々減ったのに、単価は据え置かれたままだった。

こうしたケースについて、下請法に詳しい村田恭介弁護士は、『大量発注を前提とした単価に据え置くことは、同法違反の買いたたきに該当しうる』と話す。」

という記述があります。

この村田弁護士のコメント自体は下請法テキストにも同じことが書いてあるので、それ自体は問題ないのですが、そのような考え方が、

「発注企業が調達先を分散し、この部品メーカーの納入量は年々減ったのに、単価は据え置かれたままだった」

という、世の中で普通にいくらでもありそうなケースに適用があるというのは、いくらなんでも厳しすぎると思います。

本当に村田弁護士は、このようなケースに該当するルールとしてこのようなコメントをされたのでしょうか?

(まあ、文末が「うる」なので、たんに可能性を言っているだけだととらえれば、間違いではないのですが、それを言い出すと、

「植村幸也は2020年東京オリンピックで金メダルを取りうる」

というのも間違いではないわけで、この記事をさらっと読んだ読者は大いに誤解するのではないかという気がします。)

この、大量発注を前提にした見積額をそのまま少量発注に適用するというのは、今まで想定されていたのは、たとえば1万個発注する前提で見積もりを出したのに1000個しか発注されなくて、でも同じ金額が適用された、というような極端な場合だったと思います。

(1万個→1000個、というのが、例として適切な割合かは議論のありうるところでしょうが、要するに、固定費が到底回収できないような少量発注だから買いたたきになる、ということです。)

それが、納入量が、「年々減った」、たとえば毎年10%ずつ減ったとして、5年目(1年目の1×0.9^4≒66%(もし毎年20%ずつ減ったら5年目で1年目の41%)になったくらいで買いたたきになるものでしょうか?

この設例では、「価格は据え置かれたままだった」ということになっていますが、同じような例で価格も毎年5%ずつくらい下げさせているものも、とくにこのデフレのご時世ですから、世の中ではいくらでもあるのではないでしょうか。

さらに設例では、「発注企業が調達先を分散」したのが納入量が減った原因ということになっていますが、もっと世の中で普通にありそうな、たんに発注企業の完成品の需要が年々減ったので下請への部品発注量も年々減った、という場合でも買いたたきになるのでしょうか?

親事業者側の事情(調達先を分散したか、完成品の売れ行きが悪いか、など)は、買いたたきの判断には影響しないはずなので(買いたたきの要件は、「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」ですが、この「不当に」に親事業者の完成品の売れ行きが悪いことを含めて読むのは、下請法のこれまでの解釈からして相当無理があります)、親事業者の完成品の需要が年々減った場合にも、買いたたきになると解さざるをえないのではないでしょうか?

というわけで、わたしはこの記事の設例はかなり問題だと思っています(ちょっと煽りすぎです)。

この記事によれば、

「平成14年度以降、『買いたたき』(で公取委が指導した件数)が急増。

15年度の指導は631件と2年前の7倍強となり、違反件数全体を押し上げている。」

ということなので、ここ最近で指導のレベルでは買いたたきの執行が強化されたのかもしれませんが、もし、「納入量が年々減った」というくらいで指導しているとしたら、市場経済への露骨な介入です。

もしそんなことを本気でやっているとしたら、当事務所の長澤弁護士が同記事で、

「特に製造業は調達のグローバル化が進んでいる。下請法の厳格な運用を嫌って外資系企業が発注を減らしたり、国内の大企業が海外調達を加速したりすれば元も子もない」

とコメントしているとおりの懸念が生じるでしょう。

これは予想ですが、納入量が「年々減った」場合に勧告までいくのは、ちょっと考えられなくて、今後もせいぜい指導どまりだと思います。

過去の事例でも買いたたきで勧告になったのは、かなり特殊な事例です。納入量(納入金額ではありません)が「年々減った」くらいで据え置きが買いたたきで勧告になるとはとうてい思えません。

そもそも買いたたきの指導の中には、明らかに違法となるようなものはほとんどないと想像されますが、そのような、明らかに違法とはいえないような指導に対してどのような対応をとるかは、それぞれの親事業者の考え方次第だと思います。

ただ、親事業者の側も、そういう指導もありうることを想定して、発注量が減っても据え置くことの正当性を裏付ける資料を準備しておいたほうがよいかもしれません。

それと、公取委も、独立行政委員会なのですから、あまり政府の意向で運用方針を大きく変えるのはいかがなものかと思います。

公取委が独立行政委員会であるのは、政府からの独立性を保つためなのではなかったのでしょうか。

べつに今の日本で競争政策が政府から独立していなければならないとは思いませんが、委員会方式は、

意思決定が遅くなるとか、

大臣庁の大臣にくらべて委員長がリーダーシップを取りにくいとか、

委員のポストが財務省の天下り先になるとか、

いろいろデメリットもあるわけで、政府べったりの組織なら独立行政委員会である必要はないのではないかという気がします。

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