預金取引と古本の買入れと質屋の違い(景品類定義告示運用基準)
景表法2条3項は、景品類を、
「この法律で『景品類』とは、
顧客を誘引するための手段として、
その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、
事業者が
自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。 」
と定義しています。
これに関して、
「景品類等の指定の告示の運用基準について」
では、
「3 『自己の供給する商品又は役務の取引』について」
の説明ところで、
「(3) 銀行と預金者との関係、クレジット会社とカードを利用する消費者との関係等も、『取引』に含まれる。」
とされていますが、同時に、
「(4) 自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、『取引』に含まれない。」
ともされています。
預金取引は「取引」に該当し、古本買入れは「取引」に該当しない、という整理です。
漫然と眺めるとさほど違和感がないようにも思われるのですが、よく考えてみると微妙な問題であるように思われます。
(なお、私は、運用基準のように購入取引は「取引」に該当しないと説明するよりも、購入取引に付随する経済的利益の提供は、「自己の供給する」に該当しないと考えたほうがすっきりすると考えていますが、ここはひとまず運用基準に従うことにします。)
というのは、預金取引というのは、銀行が貸し出し業務により利益を得るために資金調達をする手段なのであって、いわばメーカーの仕入れと同じです。
(そのほかに銀行にとっては預金の受け入れは、もっとほかの手数料が稼げる取引のための布石である、という意味もあるかもしれません。)
とすると、古本屋が古本を仕入れるのと同じではないか、という疑問がわいてきます。
この点はどう考えればよいのでしょうか。
おそらく、一般消費者の側からみた社会通念で分けているのだと思います。
つまり、古本の買い取りについては、買い取りサービスというサービスを受けているというふうに感じる一般消費者はあまりいなくって、むしろ自分が古本を売っている、と感じているのではないでしょうか。
これに対して預金取引は、一般消費者から見ると、お金を預かってもらうというサービスを受けている、と感じているのではないでしょうか。
いわばお金の倉庫サービスのようなものです。
(むかし何かのジョークの本で、大金持ちが大金を預かってくれる人を探したけれどみんなけっこうな手数料をとるのに難儀していたところ、ある頭のいい人が、大金を預かってくれる上に逆に利子までくれるというので大喜びした、という話がありましたが、金融というのは何が取引されているのか、注意しないとよくわからなくなってしまうことがあります。)
でも古本の買い取りサービスを役務の提供と考える消費者もいてもおかしくない(というより、経済的にはそのように考えるほうが論理的に正しい)ので、古本の買い取りサービスにつけた経済的利益も景品類だという解釈もあっていいように思います。
ちょっと古い文献ですが、
利部脩二(かがべしゅうじ)「実務家のための景品表示法基礎講座-五-」(公正取引469号48頁・1989年)
では、
「銀行預金の場合は、預金者は銀行から利息をもらうが、銀行が預金受入れという役務を提供する取引であり、したがって、預金獲得のために景品を付ける行為は景品提供行為になる(現に、銀行業においても景品規制の公正競争規約が設定されている。)。」
と説明されています。
「預金受入れという役務」という説明も、わかったようなわからないようなところがありますが(「古本買い取りという役務」と、なぜ言ってはいけないのか?)、古い文献なので、そのへんはご愛嬌でしょう。
たとえば質屋を高価な毛皮のコートを預かってくれるサービスとして利用する人がいるらしいですが(一定の手数料を払うと質流れにならないで預かり続けてくれるため)、このような質屋のケースでは、
①事実上物品の買い取りサービスと考えている一般消費者(質流れが前提)
②法律のたてまえどおり、短期金融サービスと考えている一般消費者
③物品の保管サービスと考えている一般消費者
の3種類くらいが考えられそうです。
では、質屋さんが、「いまグッチのバッグを査定してくれた方にもれなく粗品プレゼント」みたいなことをすると、これは景品類でしょうか。
わたしは質屋を使ったことはありませんが、なんとなく質屋というのは質流れ前提で使っている人たち(①)が多いのではないでしょうか。
もしそうなら、一般消費者の理解としては、質屋は古本買い取りサービスと同じ、ということになります。
これに対してもし、短期金融サービスと考えるなら、まさに質屋さんは、
「自己の供給する・・・役務の取引〔=融資〕」
に付随して粗品を提供しているので、景品類にあたることになりそうです。
私は、たとえ①(質流れ前提)の人が多いとしても、法律の建前を無視して景表法の解釈をするのはとても据わりが悪いので、やっぱり質屋は②(短期融資)と考え、粗品は景品類に該当すると考えるべきではないかと思います。
しかし、そもそも論ですが、事業者の物品の購入取引には景品規制が適用されないという解釈も、ちょっと考え直す必要があるように思われます。
特定商取引法にも、押し売りの反対の押し買いが加わったわけですし、古本買い取りサービスだってそれ自体が一つのサービスだ、といえると思います。
通常は、買い取り価格のほうが手間賃より大きいので無償のサービスのように感じますが、とある買い取りサービスでは遠方まで買い取りに来させて買い取り商品が十分にないと手間賃だけ取ろうとすることもあるそうです。
さらに、最近は何でも「フリー経済」ということで、一見ただに見えるけれど実は個人データを渡していたり、という取引も増えています。
預金とか古本では、まだお金が動いているので「取引」が見えやすいですが、プラスとマイナスが規制されるなら、その中間のゼロも規制されるはずです。
と、いろいろ考えると、「取引」は物品の場合供給するものだけをさすというのでは、ちょっと柔軟性に欠けるような気がします。
こんなのは小手先の問題ですが、景品規制には、このような「よく考えてみるとよくわからない」という論点が非常に多いような気がします。
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