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2016年6月

2016年6月 7日 (火)

「平成27年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」について

5月25日に、公取委から、

平成27年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

が公表されています。

一言でいえば、目を覆いたくなるような、悲惨な数字です。

法的措置件数(対象事業者数)をみると、

平成23年度 22件(303名)

平成24年度 20件(126名)

平成25年度 18件(210名)

平成26年度 10件(132名)

平成27年度 9件(39名)

と、まさにウナギ下がり(?)です。

いや、「坂道を転げ落ちるよう」というのが正しい日本語でしょうか。

ちなみに、現在の杉本委員長が就任したのは 平成25年3月5日ですから、下線を引いた平成25、26、27年度が杉本委員長の下での数字です。

最初の25年度は竹島委員長時代に調査をしていた案件の継続でしょうから、実質、平成26、27年度が杉本委員長の実績ということでしょう。

ということは、ざっくりいって竹島前委員長時代にくらべて杉本委員長の時代には事件数が半減していることになります。

もうちょっとさかのぼると、

平成22年度 12件(109名)

平成21年度 26件(84名)

平成20年度 17件(49名)

平成19年度 24件(193名)

平成18年度 13件(73名)

平成17年度 19件(492名)

平成16年度 35件(472名)

です。

これをみると、27年度は件数も事業者数も、過去12年間で最低だったことがわかります。

竹島前委員長と杉本委員長の時代をくらべると、

竹島前委員長 平均20.6件(211.1人)

杉本委員長  平均9.5件(85.5人)

で、竹島前委員長にくらべると杉本委員長は、

法的措置件数で、マイナス53.9%

対象事業者数で、マイナス59.5%

となります。

(平成25年度は竹島時代にカウントしています。)

奇しくももこの少し前にこのブログで、

公取委は定員に見合った仕事をしているのか?

という記事を書いたところですが、こんなに仕事が減っているのに定員が増えている役所って、ほかにあるんでしょうか?

ちなみに、

公正取引委員会の平成28年度概算要求について」(平成27年8月31日)

では、

「独占禁止法違反行為に対する厳正な対処,下請法違反行為等の中小企業に不当に不利益を与える行為の取締り体制の強化等のため,34名の増員を要求することとした。」

と記されています。

今年の概算要求はどうなるのか、注目です。

「公取のみなさん、がんばってください!」、というとマッチポンプなので言いませんが、杉本委員長の去年の年頭所感にもありますように、

「厳正かつ実効性のある独占禁止法執行」

を、よろしくお願いいたします。

【6月8日追記】

あまり一方的になってもいけないので、この問題に関する5月25日事務総長会見の関連部分を貼り付けておきます。

「(問) 課徴金の昨年度の統計ですけども,金額でいうと85.1億円ということですが,多分,リニエンシーが導入されてから一番低い額と思うのですけども,この金額をどのようにみているか,その理由とかを教えてください。

また,リニエンシー導入以前に,多分これより低い金額があったと思うのですけども,今までで,これは別に最低ではないかどうかというのを確認したいのですが。

(事務総長) 課徴金額が平成27年度85億円強であったということについては,法的措置件数の9件も,平成26年度も10件でしたが,以前に比べると数自体は少ない,課徴金も少ないということは,数字としては事実だと思います。

しかし,先ほども,平成27年度の説明で申し上げましたとおり,2年ぶりに告発をしておりますし,それから警告も平成26年度,平成25年度は1件ずつでしたが,平成27年度は6件もしておりますし,それから不当廉売に関する注意の件数も3桁台で行っております。

私どもとして公正で自由な競争を確保するというための執行活動としては,先ほど申しましたいろんな事案について,社会ニーズを踏まえた上できちっと対応してきたと思います。また,この事件数の数え方というのは,ある程度形式的,技術的なこともありますので,どのような事案をやったかということで事件数が増えたり減ったりすることも皆さん御承知のとおりでございますし,課徴金の規模については不当な取引制限等,課徴金の対象となる事案についての取引分野の規模によってきます。規模が大きければそれなりのインパクトがあるのは事実でございますけれども,課徴金を取ることだけが我々の目標ではないということでございますので,このように件数や課徴金が少ないことは,私どもとしては特段問題とは考えておりません。

ただ,一方で件数が9件ということでは,件数が少ないなということでありますし,この背景としては,やはり1件1件の私どもの審査職員のリソースが,増やしてはいただいておりますが,それほど大きな変化はないという観点からすれば,当然,件数は少ないということは,1件1件にかかる時間が増えているということになります。

ただ,これも平均でございますので,昔でも事案によって,審査処理に時間がかかる案件もありましたし,そうじゃない案件もありました。そういう意味では,事案の内容いかんという上でお話を申し上げることですけれども,平成27年度の一つの特殊な要因としては,あるいは今後の特殊な要因としては,審判制度が廃止されて,併せて意見聴取手続が導入されたということは一つあると思います。

例えば,意見聴取手続一つ取りましても,これまでの事前手続を拡充したものでありますし,証拠を相手事業者に閲覧,謄写をしていただくということの準備も必要でございますので,意見聴取手続を導入したことによって,これはやはり数か月単位で処理期間が延びているということは背景にあると思います。

それから,昨今,企業の事業活動というものが,IT化に伴いまして電子データでされると,私どもも審査に行って収集してくる資料というものが,非常に膨大な電子データになりますので,これをいかに効率的,効果的に分析して,それを審査に生かしていくということでも,私ども今後も努力は必要だと思います。

本文には書いてありますけれども,いわゆるデジタルフォレンジックチームを審査局内に数年前作って,そこでハード,ソフトを導入して大量の電子データを,一方で安全性を確保しつつ,効率的,効果的に審査に生かすという体制を徐々に整えてきているところでありますので,今後とも引き続き,この努力を続けることによって,先ほども申しましたが,事案によりますけれども,一層効率的,効果的な審査を目指していきたいと考えております。」

ここで、意見聴取手続の導入で処理に時間がかかったことが件数の少なかった原因としてあげられているのは興味深いところです。

確かに審判制度の時代はすべての案件について審判になるわけではなかったのに対して、意見聴取手続はすべての案件について準備しなければいけないので、手間はかかるのは事実かもしれません。

実際に意見聴取手続をやった経験からいっても、排除措置命令のこの部分を立証する調書はこれで、という具合に、他社調書も含め逐一コピーを手渡されるので(ただし、くれるわけではなく、期日が終わった時に回収されます)、それなりに準備に時間はかかるんだろうなぁ、という感じはしました。

でも、事前に証拠閲覧はしているのでそのとき見た証拠ですし、そんなことは言われなくても分かっているということばかりでした。

それに、もしその場で渡された調書を読むにしても、そんな時間はありません。

なので、本当に、たんなるセレモニーです。

それで延々排除措置命令の説明を30分もされて、こちらが質問と意見を述べようとすると時間制限されそうになったり、とってもちぐはぐな運用だと思いました。

公取委の目論見どおり期日は2回で終わるという運用が定着しつつあるようですが、これもあくまで運用なので、がんばる当事者がいればもっと伸びて手間暇がかかるようになるかもしれません。

(でも後述のとおり、ファイトがわかない手続なので、そこまでがんばる代理人はいないのではないか(本気で争うつもりなら意見聴取手続で手の内は見せずにさっさと取消訴訟にいったほうがいいのではないか)という気はしますが。)

要するに、意見聴取手続自体、非常に無駄な制度だということです。(準備をされた審査局、意見聴取手続室の方々には、心情的には申し訳ないのですが、率直な感想です。)

確かに理由はいろいろ説明してくれますが、それなら排除措置命令の理由にちゃんと書いてよといいたくなりますし、意見聴取官はしょせん判決を書くわけではないので、いくらこちらの主張に共感してくれてそうでも、

「どうせこの人には判断権はないもんなぁ」

と思うとファイトがわきません。

なので、意見聴取手続に手間がかかるから処理件数が減ったとかいわれると、ちょっと待てよと言いたくなります。

それと証拠閲覧の準備にも手間暇がかかると説明されていますが、たしかに膨大な資料のなかから、排除措置命令、課徴金納付命令各1冊ずつのキングジムファイル、内容はほぼ同じなので実質1事件で1冊のキングジムファイルに絞るのには手間暇はかかるかもしれませんが、それならいっそ全部証拠は開示したらどうでしょう?

付き添い(見張り)の人がいるのも人が取られる理由かもしれませんが、私がやった件では、最初は自分たち1社だけだったのに、途中から他の違反者の方と相部屋で見張りが1人になったので、そんなに人手が取られるわけでもないのに、と思います(それに見張りの人は審査局の人ではなく、意見聴取手続室の人ですし。)。

(余談ですが、相部屋で証拠閲覧させる運用も、ちょっとどうかと思います。

「この調書、おかしいんじゃないですか?」とか見張りの人に抗議したら、共犯者の人たちにも筒抜けですし。

でも違反者が何十社もある談合で個別にやったら、会議室が足りなくなるのでしょうね。)

私は勝手に、事件が減っている理由は事件がないからかな、と想像していたのですが、そして、もしそうなら事件数が減ってることはむしろ良いことであり公取委が責められることでもないのでしょうけれど(※でも、事件が減ってるなら定員は減らすべきだと思います)、挙げられた理由の筆頭が意見聴取手続だということは、処理しきれない積み残しの事件がいっぱいあるということなのではないのでしょうか?

もしそうなら、これは非常に大きな問題です。

意見聴取手続は法律で決められたものなので公取が望んだものではないのでしょうけれど、そこは何とか工夫してほしいものです。

あと、事務総長会見の説明が事実だとすると、今後も意見聴取手続はあるわけですから、なにも工夫をしないと今年も同じくらいの件数しかないであろうということですね。

あくまで直感ですが、今年度は昨年度よりももっと執行が低調になるのではないかと、個人的には予想しています。

・・・何だか公平を期すつもりが、よけいに批判がきつくなってしまいました。

このブログは公取委の幹部の方にもよくご覧いただいているようであり、いつも苦々しい思いでご覧いただいているという噂も聞きますが、公取の内部事情が分からない者なりに、正しいことを申し上げているつもりですので、繰り返しになりますが、

「厳正かつ実効性のある独占禁止法執行」

を、お願いしたいと思います。

2016年6月 6日 (月)

預金取引と古本の買入れと質屋の違い(景品類定義告示運用基準)

景表法2条3項は、景品類を、

「この法律で『景品類』とは、

顧客を誘引するための手段として、

その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、

事業者が

自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。 」

と定義しています。

これに関して、

「景品類等の指定の告示の運用基準について」

では、

「3 『自己の供給する商品又は役務の取引』について」

の説明ところで、

「(3) 銀行と預金者との関係、クレジット会社とカードを利用する消費者との関係等も、『取引』に含まれる。」

とされていますが、同時に、

「(4) 自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、『取引』に含まれない。」

ともされています。

預金取引は「取引」に該当し、古本買入れは「取引」に該当しない、という整理です。

漫然と眺めるとさほど違和感がないようにも思われるのですが、よく考えてみると微妙な問題であるように思われます。

(なお、私は、運用基準のように購入取引は「取引」に該当しないと説明するよりも、購入取引に付随する経済的利益の提供は、「自己の供給する」に該当しないと考えたほうがすっきりすると考えていますが、ここはひとまず運用基準に従うことにします。)

というのは、預金取引というのは、銀行が貸し出し業務により利益を得るために資金調達をする手段なのであって、いわばメーカーの仕入れと同じです。

(そのほかに銀行にとっては預金の受け入れは、もっとほかの手数料が稼げる取引のための布石である、という意味もあるかもしれません。)

とすると、古本屋が古本を仕入れるのと同じではないか、という疑問がわいてきます。

この点はどう考えればよいのでしょうか。

おそらく、一般消費者の側からみた社会通念で分けているのだと思います。

つまり、古本の買い取りについては、買い取りサービスというサービスを受けているというふうに感じる一般消費者はあまりいなくって、むしろ自分が古本を売っている、と感じているのではないでしょうか。

これに対して預金取引は、一般消費者から見ると、お金を預かってもらうというサービスを受けている、と感じているのではないでしょうか。

いわばお金の倉庫サービスのようなものです。

(むかし何かのジョークの本で、大金持ちが大金を預かってくれる人を探したけれどみんなけっこうな手数料をとるのに難儀していたところ、ある頭のいい人が、大金を預かってくれる上に逆に利子までくれるというので大喜びした、という話がありましたが、金融というのは何が取引されているのか、注意しないとよくわからなくなってしまうことがあります。)

でも古本の買い取りサービスを役務の提供と考える消費者もいてもおかしくない(というより、経済的にはそのように考えるほうが論理的に正しい)ので、古本の買い取りサービスにつけた経済的利益も景品類だという解釈もあっていいように思います。

ちょっと古い文献ですが、

利部脩二(かがべしゅうじ)「実務家のための景品表示法基礎講座-五-」(公正取引469号48頁・1989年)

では、

「銀行預金の場合は、預金者は銀行から利息をもらうが、銀行が預金受入れという役務を提供する取引であり、したがって、預金獲得のために景品を付ける行為は景品提供行為になる(現に、銀行業においても景品規制の公正競争規約が設定されている。)。」

と説明されています。

「預金受入れという役務」という説明も、わかったようなわからないようなところがありますが(「古本買い取りという役務」と、なぜ言ってはいけないのか?)、古い文献なので、そのへんはご愛嬌でしょう。

たとえば質屋を高価な毛皮のコートを預かってくれるサービスとして利用する人がいるらしいですが(一定の手数料を払うと質流れにならないで預かり続けてくれるため)、このような質屋のケースでは、

①事実上物品の買い取りサービスと考えている一般消費者(質流れが前提)

②法律のたてまえどおり、短期金融サービスと考えている一般消費者

③物品の保管サービスと考えている一般消費者

の3種類くらいが考えられそうです。

では、質屋さんが、「いまグッチのバッグを査定してくれた方にもれなく粗品プレゼント」みたいなことをすると、これは景品類でしょうか。

わたしは質屋を使ったことはありませんが、なんとなく質屋というのは質流れ前提で使っている人たち(①)が多いのではないでしょうか。

もしそうなら、一般消費者の理解としては、質屋は古本買い取りサービスと同じ、ということになります。

これに対してもし、短期金融サービスと考えるなら、まさに質屋さんは、

「自己の供給する・・・役務の取引〔=融資〕」

に付随して粗品を提供しているので、景品類にあたることになりそうです。

私は、たとえ①(質流れ前提)の人が多いとしても、法律の建前を無視して景表法の解釈をするのはとても据わりが悪いので、やっぱり質屋は②(短期融資)と考え、粗品は景品類に該当すると考えるべきではないかと思います。

しかし、そもそも論ですが、事業者の物品の購入取引には景品規制が適用されないという解釈も、ちょっと考え直す必要があるように思われます。

特定商取引法にも、押し売りの反対の押し買いが加わったわけですし、古本買い取りサービスだってそれ自体が一つのサービスだ、といえると思います。

通常は、買い取り価格のほうが手間賃より大きいので無償のサービスのように感じますが、とある買い取りサービスでは遠方まで買い取りに来させて買い取り商品が十分にないと手間賃だけ取ろうとすることもあるそうです。

さらに、最近は何でも「フリー経済」ということで、一見ただに見えるけれど実は個人データを渡していたり、という取引も増えています。

預金とか古本では、まだお金が動いているので「取引」が見えやすいですが、プラスとマイナスが規制されるなら、その中間のゼロも規制されるはずです。

と、いろいろ考えると、「取引」は物品の場合供給するものだけをさすというのでは、ちょっと柔軟性に欠けるような気がします。

こんなのは小手先の問題ですが、景品規制には、このような「よく考えてみるとよくわからない」という論点が非常に多いような気がします。

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