DCMダイキに対する転嫁法の勧告について
2015(平成27)年6月9日、DCMダイキが消費税転嫁法上の買いたたきをしたということで勧告を受けています。
私は、この勧告は間違っているのではないかと思います。
事案は、こちらのポンチ絵を見ていただくのが分かりやすいですが、要は、免税業者である(と申告した)仕入先と、それ以外の仕入先とで、仕入れ価格に差をつけたのが買いたたきであるとされているようです。
条文とガイドラインを確認しましょう。
転嫁法3条で、買いたたきは、
「特定事業者は、平成二十六年四月一日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して、次に掲げる行為をしてはならない。
一 ・・・商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
と規定されています。
そして、ガイドラインでは、
「(2) 『同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価』とは,
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
とされています。
つまり、増税後は増税前の税込み価格に3%上乗せしなさいよ、ということです。
でもダイキの件は、増税前と増税後を比較して買いたたきだといっているのではありません。
免税業者である(と申告した)仕入先からの仕入れ価格が、それ以外の仕入先からの仕入れ価格よりも、8%安いのが買いたたきだ、といっているのです。
でもガイドラインは同じ特定供給事業者について増税前後を比べるという考え方ですから、どうひねってもダイキへの勧告のような考え方は出てきません。
たしかに、転嫁法3条の、
「通常支払われる対価」
という文言に照らせば、課税事業者に対して支払う仕入れ価格(ポンチ絵では8640円)が「通常支払われる対価」であり、それよりも安く定めれば買いたたきだ、という解釈も、文言解釈としてはあり得ないではありません。
(ただ逆に、免税事業者に対して支払う仕入れ価格のほうこそが通常支払われる対価なのだ、という議論も論理的には同じくらい成り立つのが、この解釈の難点といえば難点です。)
しかし、そもそも転嫁法の買いたたきは下請法の買いたたきをコピペしたために、規制趣旨からかけはなれた文言になってしまったので、そのすき間を埋めるために、文言からかけ離れたガイドラインができたのではないでしょうか?
そうなら、いくら文言からかけ離れていても、公取は、ガイドラインに忠実に解釈・運用すべきでしょう。
ずーっと文言上無理のあるガイドラインにしたがった解釈をとりながら、ガイドラインでは都合の悪い事案が出てきたらガイドラインは見て見ぬふりをする、というのでは、何のためのガイドラインかと言いたくなります。
たぶん公取に聞けば、「通常は」といっているので例外はありうる、という見解なのでしょう。
けれど、ダイキのケースは「通常」ではない例外としてすませられるようなレア・ケースではありません。
免税業者と非免税業者とを平等に扱わなければならないのか、という、きわめて根本的な問題です。
そして、それは増税にともなう円滑な消費税の転嫁という消費税転嫁法の目的とはまったくことなるものであり、とうていとりえない解釈です。
もし免税業者と非免税業者を平等に扱わないといけないとすると、それは、増税の有無にかかわらない、ということでしか論理的にはありえません。
つまり、免税事業者とそうでない事業者を、増税前は増税前で平等に、増税後は増税後で平等に、さらに、増税があってもなくても平等に、扱わなければならない、ということです。
そのような解釈は、くりかえしますが、消費税転嫁法の目的からは出てきません。
別の切り口からいえば、転嫁拒否行為は優越的地位の濫用の特則と位置付けられていますが、もし免税業者と非免税業者を平等に扱わないといけないとすると、それは、差別対価(独禁法2条9項2号・一般指定3項)や、不当な差別的取扱い(一般指定4項)の特則、ということになって、法的な位置づけもまったくことなってしまいます。
ちゃんとガイドラインどおりに運用するなら、ダイキのケースでも、それぞれの免税事業者について、2014年3月31日の仕入れ価格と4月1日の価格を比べて、3%上がっているかどうかを認定すべきでしょう。
そして、もしポンチ絵の想定例のような仕入れ価格の定め方をしていたのであれば、2014年3月31日から4月1日で、仕入れ価格は3%上げていなかったんだろうな、と想像されます。
しかし、ここで問題は、対象商品が日々値段の変わる野菜だった、ということです。
工業製品であれば、3月31日の価格に単純に3%足した価格が4月1日の適正価格といえるでしょう。
でも、野菜の場合はその議論はとても無理があります。
(むしろ、ガイドラインの「通常は」という文言は、日々値段の変わる商品では単純に3%上げればいいとはいえない、ということを意味しているように、私の目には見えます。)
なので、野菜のような商品で転嫁法が問題になることは、あまり考えられないはずなのです。
ですがダイキのケースでは、免税業者とそれ以外の差別的取扱い、という、別の切り口からおそらく事件が発覚したのでしょう。
そのため、増税前と増税後の差、という本来のポイントが素っ飛ばされてしまいました。
でも、そのような論理は本末転倒です。
日々値段の変わる野菜では買いたたきの認定は難しいのであれば、免税業者についても、課税業者についても、同様に、買いたたきの認定は難しいはずであり、両者の差をとらまえて買いたたきが認定できるはずがない(認定の難しさを素っ飛ばせるはずがない)はずなのです。
本件について別の見方をすると、
①課税事業者については、税込み小売価格の80%が仕入れ価格だった
のに対して、
②免税事業者については、税抜き小売価格の80%が仕入れ価格だった
ということであり、税込み価格を基準にして少し変形すると、
①課税事業者の仕入れ価格は、増税前も増税後も、税込み小売価格の80%だった、
のに対して、
②免税事業者の仕入れ価格は、
増税前は税込み小売価格の76.19%(=8000÷10500)
増税後は税込み小売価格の74.07%(=8000÷10800)
だった、
ということであり、これをダメだというのは、手数料率を据え置いたらダメだといっているのと同じ(本件では手数料率を下げていることになりますが、議論の本質は同じです)ことであり、それは取りえない論理です。
そのことは、「商社の口銭率と転嫁法」というタイトルで、以前もこのブログで書きました。
なぜなら、手数料率を据え置いても、(増税の余勢も借りて)販売価格を3%上げれば、手数料も3%上がるはずだからです。
公取委も、販売価格を上げられるのだから、手数料率を据え置くこと自体は買いたたきにならないと考えていることは、コカ・コーラウェストの件で、商品の販売価格に一定率を乗じて手数料単価を定める方法が違反とされていないことからも明らかです。
コカ・コーラウェストの担当者解説(公正取引781号56頁)でも、同事件での手数料には、
①販売価格に一定率を乗じて定める方法(類型①)
②販売価格に応じて異なる価格を定める方法(類型②)
③販売価格にかかわらず一定額に定める方法(類型③)
があったところ、
「これらの類型のうち、類型①及び類型②の方法により手数料単価を定めた設置場所提供事業者に対しては、
清涼飲料水等の販売価格を引き上げることによって手数料単価も引き上げられるものとなっているものの、
類型③の方法により手数料単価を定めた設置場所提供事業者の一部に対しては、販売価格を引き上げても消費税率の引上げ分が上乗せされないにもかかわらず、平成26年4月1日以後の手数料単価について、消費税率の引上げ分を上乗せせず、同年3月31日までの手数料単価と同額に定め、手数料単価に販売個数を乗じた額を販売手数料として支払っていた。」
とされており、類型①②は販売単価を上げることで手数料も上げられたのだから問題ない、という立場が明らかにされています。
ひょっとしたらダイキの件は、小売価格はダイキが一方的に決めていたのかもしれませんが(自販機の飲料価格は、けっこう設置者(オーナー)が決めています)、もしそうなら、それこそが問題の本質なのであって、課税業者と免税業者の差別を問題にするというのは、まったく議論の本筋から外れています。
しかも、ダイキのケースでは、免税業者について仕入れ料率が76.19%から74.07%に下がったことは、問題にするそぶりすら見られません。
このように、ダイキの勧告は論理的には矛盾に満ちたものと言わざるを得ないのです。
しょせん、転嫁法は、競争政策の本質とは無関係の「色モノ」ですから、あまり細かい解釈論をこねくり回しても詮無い気もしますが、転嫁法も法律なのですから、色モノは色モノなりに、きちんと論理的に説明できるような運用をすべきでしょう。
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