雑誌の懸賞の間引きと課徴金
以前、秋田書店の事件について、担当官解説はおかしいのではないか、ということを書きました。
要は、担当官解説は、
「本件のような雑誌の誌面上で案内される懸賞企画についてみれば、応募した懸賞企画の当選の有無を確認するために、当選者が発表される号を購入するという契機(取引の継続や再度の取引の誘引)になる。
そのため、一般消費者が購入前に目にすることができない懸賞企画の案内であっても、顧客を誘引するための手段であると考えられる。」
ということだったのですが、私は、特定の号ではなく、その雑誌一般の魅力を増して、その雑誌一般を買わせる効果があるのではないか、ということを申しました。
そこで、この4月1日から施行された課徴金は、このような場合、どの号の売上にかかってくるのか、という問題が思い浮かびます。
担当官解説では、当選発表号の売上だけが課徴金の対象になる、というのが素直な結論のような気がしますが(当選者発表号説)、やっぱりそれはおかしな気がします。
少なくとも、虚偽の懸賞を掲載した号には課徴金をかけないと変でしょう(懸賞掲載号説)。
さらに、私の説のように、当該雑誌全体の魅力を増しているのだという考えからすると、何号かを問わず当該雑誌のすべての売上に課徴金をかけるべきだ、ということになりそうです(全売上説)。
これはなかなかの難問です。
まず、課徴金ガイドラインでは、
「『課徴金対象行為に係る商品又は役務』は、
具体的に『著しく優良』と示された(『著しく有利』と誤認される)商品又は役務
に限られる。」
とされており(第4-2(3)・12頁)、たとえば、「全品半額セール」と表示したときには、半額になってなかった商品の売上のみに課徴金がかかると説明されています。
この考え方でいけば、秋田書店のケースでは、どの商品が
「具体的に『著しく有利』と誤認される」
商品なのでしょうか?
たぶん、虚偽の懸賞を掲載した号が、「著しく有利と誤認される商品」なのではないでしょうか。
極端な話、懸賞掲載号では「10名当選」と掲載しながら実際には3名しか当選させなかった場合を考えると、
当選者発表号に正直に「3名当選」と書いて当選者3名の名前を載せようが、
計画通りうそをついて「10名当選」と書いて当選者10名の名前(もちろん7名は仮名)を載せようが、
当選者発表号の売上には何の影響もないように思われます。
これが、私が担当官解説をおかしいという理由でもあるわけですが、ともかく、課徴金ガイドラインの
「具体的に『著しく有利』と誤認される商品」
という考え方でいくならば、全号に課徴金をかけるというのはやっぱりむずかしいでしょう(懸賞の載ってない号にまで課徴金がかかってしまう)。
さらに、当選者発表号説もおかしいとすると、ここは、懸賞掲載号だけが、
「具体的に『著しく有利』と誤認される商品」
であるといわざるをえないな気がします。
私は、
「具体的に『著しく有利』と誤認される商品」
という基準は、文字どおりに適用すると狭すぎることもあるのではないかと考えているので、まさにこういったケースにあてはめると、なんだか釈然としません。
少なくとも、懸賞掲載号説は担当官解説とは矛盾するような気がします。
ともあれ、雑誌の懸賞の間引きは今後もきっと起こるでしょうから、消費者庁がどのような課徴金のかけ方をするのか、注目です。
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