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2016年4月 1日 (金)

流取ガイドラインのセーフハーバーパブコメについて

流通取引慣行ガイドラインのセーフハーバーを20%とする案が公表されてパブリックコメントにかけられています

順位の基準については、予想通り廃止されました。

市場シェアの基準については、

「欧州なみの30%になるんじゃないか」

とか、

「それだと芸がないから25%じゃないか」

とか、いろいろ憶測を呼んでいたところですが、想定される中では最も上げ幅の小さい改定となりました。

私はこの改正にはとても不満です。

だいたい公取は、独禁法が始まって以来、再販と取引妨害以外は垂直制限をまったく取り締まっていません。(再販とセットでついでに取り締まったものはあります。)

しかも再販は(ほぼ)当然違法ですし(今回のセーフハーバーも対象外)、取引妨害には市場シェアを考慮するという発想自体が希薄です。

つまり、市場シェアが気になるような排他条件付取引やテリトリー制は、実務ではまったく野放しになっているわけです。

また、それで多くの場合は問題もないわけで、だからこそセーフハーバーを上げろという議論が出てくるわけです。

それにもかかわらず、建前(ガイドライン)だけは厳しめにしておく、というのは、行政の裁量を少しでも残しておきたいという役人根性のあらわれだというほかありません。

排除行為の被害者を代理して公取に処分を求めたりしたこともありますが、めったに公取は動いてくれないし、同じような怨嗟の声はほかの弁護士からもしばしば聞くところです。

こんな厳しいガイドラインを置くのなら、本気で取り締まれよといいたいです。

独禁法をきちんと運用するつもりなら、セーフハーバーは30%にして、もし40%の事業者が排除行為を行ったら取り締まる、というようにすべきでしょう。

セーフハーバーを20%にして、80%でも取り締まらない(せいぜい注意ですます)、なんていうのでは、本当にルールとして機能しているのか疑わしくなります。

公取委に20%の根拠を聞いても、

「鉛筆舐め舐め決めました」

とは口が裂けてもいわないでしょうけれど(笑)、執行例もないので、きちんと根拠(立法事実的なもの)を説明できないのではないでしょうか。

日本の公正競争阻害性は世界の競争の実質的制限よりも厳しい基準だから欧州の30%に対して20%なのだ、ということかもしれませんが、実態としては日本の方がはるかにゆるい運用がなされていることは前述のとおりです。

実務的な感覚としては、セーフハーバーは実際には40%くらいのところにあるといっても過言ではないと思います。(30%台で取り締まられたらびっくり、ということです。)

欧州のように、競争者も排他条件付取引を行っている場合にはそれも考慮するとか、きちんと工夫をすればセーフハーバーをもっと上げられたはずなのに、そういう工夫の跡も見られません。

また、20%の意味合いとして、

「この目安を超えたのみで,その事業者の行為が違法とされるものではな(い)」

というのを引き継いでいるのも工夫がありません。

20%を超えただけで違法になるなんて、独禁法をわかった人は誰も思っていないわけで、そんなことをいうだけではルールとして無意味です。

たとえば、

「この目安を超えたのみで,その事業者の行為が違法とされるものではな(い)」

という目的語句にどのあたりの数字まで主語として入れて違和感無いかを考えると、たぶん、50%でも、60%でも、それほど違和感なく意味はとおってしまうし、論理的には100%でもおかしくないとおもいます。それくらい、

「この目安を超えたのみで,その事業者の行為が違法とされるものではな(い)」

という目的語句には、行為規範として意味が乏しいということです。

ここはもっと踏み込んで、

「この目安を超えたからといって違法と推定されるわけではない

とでもすべきでしょう。(もっといい表現があるかもしれません。)

実際、現行ガイドラインでは、とくに独禁法に詳しくない人たちには、

「これをこえたからって違法でないといわれても、ガイドラインに書いてあるんだから、実際には、これがルールなんでしょう?」

という誤解が現にあるわけです。

あくまで20%というのは、片面的な意味しかない(これを下回れば合法だが、上回ることには意味がない)ということを、明記すべきです。

いっそ、違法性を推定する数値(たとえば50%)を入れたらどうでしょう。

正式事件にならない個人的に経験したことも含めて公取委の最近の運用をみていると、本当に、前例があってパターン化されたイージーなケースしか公取は取り上げないのだなぁと感じます。

それで、たまにJASRACのような、正式事件として取り上げたら着地点が見いだせないことが見えている事件を取り上げて、大失敗するわけです。

クアルコムの審判も、2010年からもう6年も続いています(いつ終わるんでしょうね。。。)。

排除行為は型にはまりにくいので、それぞれの事案で頭を使わないといけないわけです。

実質的には排他条件付取引なのに取引妨害や優越的地位の濫用でお茶を濁すというようなことを続けていると、本当に、組織としての力がどんどん落ちていくと思います。

(取引妨害や優越的地位の濫用は、「こいつは悪い奴だ」という感覚論で運用しても、まあまあ妥当な結論がでますが、排他条件付取引ではそれは無理です。)

それに加えて、今回のやる気のないガイドラインの改正です。

ほんとうに残念です

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