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2016年3月30日 (水)

不当表示の課徴金と社内調査

景表法の課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)では、

「課徴金対象行為をした事業者が、

当該課徴金対象行為を始めた日から当該課徴金対象行為に係る表示が本法第8条第1項第1号又は第2号〔優良・有利誤認表示の客観面〕に該当することを知るまでの期間を通じて当該事実を知らないことにつき相当の注意を怠った者でない場合であって、

当該事実を知った後に速やかに課徴金対象行為をやめたときは、

当該事業者が当該『課徴金対象行為をした期間を通じて』当該課徴金対象行為に係る表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと『認められる』と考えられる。」

とされています(第5-2(2)・18頁)。

4月1日から施行される改正景表法では、事業者が善意無過失のときには課徴金がかかりませんが、いったん悪意になると、過去にその表示をしていた期間の売上にもさかのぼって課徴金がかかることになっています(景表法8条1項柱書)。

でもそうすると、知った瞬間にやめないと課徴金がかかる(しかも全期間)ことになるので、知ってから「速やかに」不当表示をやめれば善意無過失と「認められる」ということにして、課徴金はかからない、としているのが上記ガイドラインの引用部分です。

この点に関連して、公正取引785号の、

「課徴金導入後の景品表示法に関する企業実務のポイント」

という論文に、では消費者から不当表示の疑義を示されたからといって表示を直ちにやめないと課徴金がかかるのか、という問題が論じられていて、結論として、直ちに当該表示を必ず取りやめなければならないというわけではない、とされています(p16)。

結論は私もそれでいいと思うのですが、その理由として同論文では、

「・・・パブリックコメントへの回答においても、表示を継続した場合であっても主観的要件を欠き、課徴金が課されない場合がありうることが示唆されている(番号52番)」

というのをあげています。

しかし私には52番の回答がなぜそのように読めるのか、分かりませんでした。

パブコメ52番は、

「『相当の注意を怠つた者でないと認められる』か否かについて、

当該表示を自主的に取り止めることが必要とされているが、

『正常な商慣習に照らして必要な注意』をして表示を行い、当該表示が不当表示であると気付かずに、自主的に取り止めることもなく、販売を終了したような場合にも

『相当の注意を怠つた者でないと認められる』と考える。

この点を本考え方案に明記していただきたい。(団体)」

というもので、消費者庁の回答は、

「原案〔第5の2〕を維持します。

本法第8条第1項ただし書は、事業者が課徴金対象行為をした場合であっても、当該事業者が、

『課徴金対象行為をした期間を通じて』、自らが行った表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを

『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき』は、

消費者庁長官は、課徴金の納付を命ずることができない旨を規定しています。

したがって、御指摘の、事業者が、『正常な商慣習に照らして必要な注意』をして表示を行い、

当該表示が不当表示であると気付かずに、課徴金対象行為をやめることなく(継続したまま)販売を終了した事案についても、

当該課徴金対象行為をした期間を通じて『知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』のであれば、消費者庁長官は、課徴金の納付を命ずることができません(本法第8条第1項ただし書及び本考え方第5の冒頭参照)。」

というものです。

このように、52番は、不当表示に気付かないまま販売終了した場合の話なので、上記論文の、消費者から疑義を示されたときに表示をやめないといけないかどうかという問題ではありません。

むしろ関係しそうなのは次の53番と54番で、重要なので長いですが全部引用すると、53番のコメントは、

「『速やかに』とは、自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものであることを確認したい。

すなわち、事業者が何らかの契機をもって表示に疑いを抱いた場合、通常、社内での確認作業はもちろん、場合によっては、第三者検査機関、原料の仕入先、弁護士等の外部専門家等に依頼して当該表示が不当表示に該当するか否かを検討するものと思われる。

このような検討の結果、問題の表示が不当表示に該当すると結論付けた時点が『当該事実を知った』時であり、

その後『速やかに』課徴金対象行為を取り止めれば足りるのであって、

このような措置をとる限り、最初に表示に疑いを抱いた時点で速やかに当該表示を停止しなくとも、当該表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められるものと理解してよいか。(弁護士)」

というもので、これに対する消費者庁の回答は、

「(1) 事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号〔注、優良・有利誤認表示の客観面〕に該当する表示であることを知った結果、

課徴金対象行為をやめる際、現実的には、知ったのと同時に課徴金対象行為をやめることは極めて困難であり、

事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号に該当する表示であることを知ってから課徴金対象行為をやめるまでの過程においては、

当該事実を知った上で当該課徴金対象行為を継続することもあると考えられます。

このため、本法第8条第1項ただし書は、『…と認められるとき』と規定し、当該要件の該当性を実質的な評価により判断することとしています。

具体的には、事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号に該当する表示であることを知ってから課徴金対象行為をやめるまでの間は『知らず』ではないものの、『速やかに』課徴金対象行為をやめたときは、『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でない』と『認められる』こととなります。

本考え方第5の2における『速やかに』の意義は上記の点にあり、御指摘の『自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものである』というものではありません。

(2) なお、御指摘の、事業者が『自社製品の表示に疑いを抱いた』という場合における当該事業者の認識は明らかではありませんが、例えば、優良・有利誤認表示をした事業者が、当該表示が実際のものと異なること(事実に相違すること)を認識したとき、

『当該表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知った』こととなる点は、前記番号51 のとおりです。」

というものです。

この回答の、

「・・・御指摘の『自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものである』というものではありません。」

というところだけ読むと、調査のための合理的期間の猶予すら認められないかのような印象を受けてぎょっとしますが、次の54番をみると実際にはそこまで厳しいことは言われてません。

54番のコメントは、

「『知った後に速やかに課徴金対象行為を取り止めなかったとき』の記載の意味として、

『例えば事業者の内部関係者による報告や公益通報、あるいは外部者からの指摘等により不当表示に該当するような疑いが生じた場合に、これら指摘を無視して必要な調査を行わなかったような場合(調査・確認義務の懈怠)には、相当な注意を怠った者でないと認められない。』

という具体例を追記すべきである。(弁護士)」

というものであり、消費者庁はこれを受け入れて、ガイドラインに、

「・・・課徴金対象行為を始めた日には『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』場合であったとしても、

課徴金対象行為をした期間中のいずれかの時点で『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められ』ないときは、

課徴金の納付を命ずることとなる。

例えば、事業者が、課徴金対象行為を始めた日には『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』ものであったものの、

当該課徴金対象行為をしている期間中に、

同事業者の従業員の報告や第三者からの指摘を受けるなどしたにもかかわらず、

何ら必要かつ適切な調査・確認等を行わなかったときには、

『課徴金対象行為をした期間を通じて』『「知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められ』ず、課徴金の納付を命ずることとなる。」

という一節が入りました。

つまり、通報があったりして疑いが生じたときには、

必要かつ適切な調査・確認等

を行えば課徴金はかからない、ということが読み取れます。

そして、いつ社内調査を開始して、いつまでに結論を出すべきか、という問題にしても、

「必要かつ適切な」

調査と言えるかどうか、という基準で判断されるのだと思われます。

上記論文も、どうせあげるなら53番と54番をあげるか、明示的にガイドラインが修正されていることに触れた方がよかったんではないかと思います。

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