村上『条解』の実体法部分の記述のスタイルについて
村上政博編集代表『条解独占禁止法』(弘文堂)の不公正な取引方法の記述は、おおむね、
1 条項の歴史・趣旨および他の条項との関係
2 各項の構成要件に関する解説
3 判審決例の展開
というスタイルになっていて、3の部分がほとんどを占めます。
たとえば取引妨害では、
1→1行(0%)
2→1.5頁(11%)
3→12.5頁(89%)
といった具合です。
他の実体規定も、だいたい似たようなスタイルになっています。
しかし、実務で使うには、これは少々不便です。
というのは、実務で意見書などを書いたりするときには、やはり条文の文言に一つ一つあてはめていかないと書けないわけです。
そうすると、村上『条解』の2の部分のような、文言の解釈の部分が薄いと、実務では使いづらい、ということになってしまいます。
たとえば取引妨害の要件である「競争関係」というのが、どういう場合に認められるのか、という問題があります。
違反者自身が競争関係にあればいいけれど、子会社を通じて競争している場合はどうなのか、提携先など密接な関係にある事業者が競争関係にあれば足りるのか、といった問題です。
独禁法の本質的な議論には全く関係のない、研究者の方にとってはどうでもいい論点かもしれませんが、実務家は条文重視なので、無視するわけにはいきません。
こういった、学問的には些細な、だけれど実務的には無視できない論点が、村上『条解』のスタイルだと、非常に見つけにくいか、場合によっては抜け落ちてしまったりするのではないかと思います。
実際、この競争関係の論点については、業務委託関係にある者との競争関係でもたりるとした日本テクノ事件(東京高裁平成17・1・27)というのがあり、根岸『注釈』や『論点体系独占禁止法』(たまたま私の執筆部分です
)では、きちんと紹介されています。
白石先生の『独占禁止法〔第2版〕』にも当然紹介されていますし、なんと400頁そこそこしかない菅久他編著『独占禁止法〔第2版〕』にも載っています(さすが実務のバイブル、ツボを心得ていらっしゃいます。)
ところが村上『条解』には、この裁判例自体載っていません。
これは正直、1000頁を超える実務家向けコンメンタールとしていかがなものかと思います。
逐語解釈をすると日本テクノ事件は取り上げざるを得ない裁判例なのですが、独禁法のコンメンタールには、根岸『注釈』という、1つの到達点があるので、それと差別化するために村上『条解』では逐語解釈を避けたのでしょうか。
あまり人さまの書いたものを悪くばかりいうのも何なので、
「村上『条解』のような体系的に判例を紹介するスタイルも、じっくり読むにはいいかもしれません。」
とフォローしようと思ったのですが、村上『条解』の取引妨害の3の部分をみると、
(1)概要
のあと、
(2)熊本魚事件
(3)東京重機工業事件
(4)ヤシロ事件
という比較的古い事件の紹介が続き、つづいて、
(5)並行輸入の不当妨害
(6)自由競争減殺型の競争者に対する取引妨害
の項目の中で、それぞれまた判例が紹介される、という項目建てで、わたしにはどういう体系なのか理解できませんでした(なぜ古い判例3つだけ独立した項目で紹介するのか、並行輸入の妨害も自由競争を減殺するのではないのか、など)。
コンメンタールは、
①条文をとっかかりにリサーチしてぱっと答えが出て、しかも
②体系書や論文では漏れてしまうような細かいことにも一言は触れる、
というのがよいと思います。
もし村上『条解』が改訂されてこのあたりまで大幅に手が加えられたらとても素晴らしいことだと思いますが、それは難しいとしても、新たにコンメンタールを企画されている出版社の方や研究者の方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
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コメント
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いつも参考になる記事をありがとうございます。
独禁法に興味があり、個人的に調べている者です。
あくまでも植村先生の個人的な意見としてお聞きしたいことがあるのですが、先日発表された東芝子会社をキヤノンに売却する件につき、スキームとしてペーパーカンパニー的なものを介することで独禁法上の届出規制に反しないようガンジャンピングしたと理解しております。
実際は17条による待ったがかかる可能性もあると思うのですが、あのスキームについての独禁法上の評価はいかがなのでしょうか。
このblogが質問可能なものなのか未だに知らずにいつも拝見しているのですが、もし可能であれば教えて頂ければ幸いです。
投稿: | 2016年3月22日 (火) 12時12分