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2016年3月

2016年3月31日 (木)

景表法セミナー終了

昨日、公正取引協会さんで、

「景品表示法課徴金制度の下での広告・販促活動留意点ほか」

というタイトルで講演させていただきました。

消費者庁の担当の方との2部構成の、後半でした。

たくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございました。

先日、消費者庁主催の景表法説明会に参加してきましたが、大きな会場が満員でした。

(ちなみに港区三田の三井倶楽部という、とても立派な洋風の古風な建物で、昔近所に住んでいたときには前をよく通りながら、「いつか中に入ってみたいもんだなぁ」と思っていたので、そういう意味でも、とてもお得な気分でしたhappy01

景表法というのはもともとが独禁法の特別法という出自なので、法律の世界ではどちらかというと独禁法の脇役、みたいな位置づけだでした。

ですが、考えてみると、世の中では、独禁法を気にしないといけない企業は日本の中でほんの一握りでしょうが、景表法は、消費者向けの商品役務を販売するすべての企業がまじめに気にしないといけない法律なので、実務のすそ野はずっと広いのだろうと思います。

公取から消費者庁に移って、景表法は競争法ではなく消費者保護法になったので、競争に影響がなくても消費者に誤解をあたえる表示が取り締まりやすくなった、ということもあると思います。

といいますか、公取と消費者庁で、メンタリティがぜんぜん違うと感じます。

私は景表法が消費者庁に移ってよかったと思っています。

いまは消費者庁の職員数は公取の半分にも満たないはずですが、10年はむりでも、20年後くらいには消費者庁の方が大きくなっているのではないでしょうか。

だいぶ脱線してしまいましたが、組織が変わると法律の運用も変わるもんだなぁ、と感じている次第です。

2016年3月30日 (水)

不当表示の課徴金と社内調査

景表法の課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)では、

「課徴金対象行為をした事業者が、

当該課徴金対象行為を始めた日から当該課徴金対象行為に係る表示が本法第8条第1項第1号又は第2号〔優良・有利誤認表示の客観面〕に該当することを知るまでの期間を通じて当該事実を知らないことにつき相当の注意を怠った者でない場合であって、

当該事実を知った後に速やかに課徴金対象行為をやめたときは、

当該事業者が当該『課徴金対象行為をした期間を通じて』当該課徴金対象行為に係る表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと『認められる』と考えられる。」

とされています(第5-2(2)・18頁)。

4月1日から施行される改正景表法では、事業者が善意無過失のときには課徴金がかかりませんが、いったん悪意になると、過去にその表示をしていた期間の売上にもさかのぼって課徴金がかかることになっています(景表法8条1項柱書)。

でもそうすると、知った瞬間にやめないと課徴金がかかる(しかも全期間)ことになるので、知ってから「速やかに」不当表示をやめれば善意無過失と「認められる」ということにして、課徴金はかからない、としているのが上記ガイドラインの引用部分です。

この点に関連して、公正取引785号の、

「課徴金導入後の景品表示法に関する企業実務のポイント」

という論文に、では消費者から不当表示の疑義を示されたからといって表示を直ちにやめないと課徴金がかかるのか、という問題が論じられていて、結論として、直ちに当該表示を必ず取りやめなければならないというわけではない、とされています(p16)。

結論は私もそれでいいと思うのですが、その理由として同論文では、

「・・・パブリックコメントへの回答においても、表示を継続した場合であっても主観的要件を欠き、課徴金が課されない場合がありうることが示唆されている(番号52番)」

というのをあげています。

しかし私には52番の回答がなぜそのように読めるのか、分かりませんでした。

パブコメ52番は、

「『相当の注意を怠つた者でないと認められる』か否かについて、

当該表示を自主的に取り止めることが必要とされているが、

『正常な商慣習に照らして必要な注意』をして表示を行い、当該表示が不当表示であると気付かずに、自主的に取り止めることもなく、販売を終了したような場合にも

『相当の注意を怠つた者でないと認められる』と考える。

この点を本考え方案に明記していただきたい。(団体)」

というもので、消費者庁の回答は、

「原案〔第5の2〕を維持します。

本法第8条第1項ただし書は、事業者が課徴金対象行為をした場合であっても、当該事業者が、

『課徴金対象行為をした期間を通じて』、自らが行った表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを

『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき』は、

消費者庁長官は、課徴金の納付を命ずることができない旨を規定しています。

したがって、御指摘の、事業者が、『正常な商慣習に照らして必要な注意』をして表示を行い、

当該表示が不当表示であると気付かずに、課徴金対象行為をやめることなく(継続したまま)販売を終了した事案についても、

当該課徴金対象行為をした期間を通じて『知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』のであれば、消費者庁長官は、課徴金の納付を命ずることができません(本法第8条第1項ただし書及び本考え方第5の冒頭参照)。」

というものです。

このように、52番は、不当表示に気付かないまま販売終了した場合の話なので、上記論文の、消費者から疑義を示されたときに表示をやめないといけないかどうかという問題ではありません。

むしろ関係しそうなのは次の53番と54番で、重要なので長いですが全部引用すると、53番のコメントは、

「『速やかに』とは、自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものであることを確認したい。

すなわち、事業者が何らかの契機をもって表示に疑いを抱いた場合、通常、社内での確認作業はもちろん、場合によっては、第三者検査機関、原料の仕入先、弁護士等の外部専門家等に依頼して当該表示が不当表示に該当するか否かを検討するものと思われる。

このような検討の結果、問題の表示が不当表示に該当すると結論付けた時点が『当該事実を知った』時であり、

その後『速やかに』課徴金対象行為を取り止めれば足りるのであって、

このような措置をとる限り、最初に表示に疑いを抱いた時点で速やかに当該表示を停止しなくとも、当該表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められるものと理解してよいか。(弁護士)」

というもので、これに対する消費者庁の回答は、

「(1) 事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号〔注、優良・有利誤認表示の客観面〕に該当する表示であることを知った結果、

課徴金対象行為をやめる際、現実的には、知ったのと同時に課徴金対象行為をやめることは極めて困難であり、

事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号に該当する表示であることを知ってから課徴金対象行為をやめるまでの過程においては、

当該事実を知った上で当該課徴金対象行為を継続することもあると考えられます。

このため、本法第8条第1項ただし書は、『…と認められるとき』と規定し、当該要件の該当性を実質的な評価により判断することとしています。

具体的には、事業者が、本法第8条第1項第1号又は第2号に該当する表示であることを知ってから課徴金対象行為をやめるまでの間は『知らず』ではないものの、『速やかに』課徴金対象行為をやめたときは、『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でない』と『認められる』こととなります。

本考え方第5の2における『速やかに』の意義は上記の点にあり、御指摘の『自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものである』というものではありません。

(2) なお、御指摘の、事業者が『自社製品の表示に疑いを抱いた』という場合における当該事業者の認識は明らかではありませんが、例えば、優良・有利誤認表示をした事業者が、当該表示が実際のものと異なること(事実に相違すること)を認識したとき、

『当該表示が本法第8条第1項第1号又は第2号に該当することを知った』こととなる点は、前記番号51 のとおりです。」

というものです。

この回答の、

「・・・御指摘の『自社製品の表示に疑いを抱いた事業者が、当該表示の不当表示該当性を確認するのに必要な作業を行う上で、合理的な期間を猶予するものである』というものではありません。」

というところだけ読むと、調査のための合理的期間の猶予すら認められないかのような印象を受けてぎょっとしますが、次の54番をみると実際にはそこまで厳しいことは言われてません。

54番のコメントは、

「『知った後に速やかに課徴金対象行為を取り止めなかったとき』の記載の意味として、

『例えば事業者の内部関係者による報告や公益通報、あるいは外部者からの指摘等により不当表示に該当するような疑いが生じた場合に、これら指摘を無視して必要な調査を行わなかったような場合(調査・確認義務の懈怠)には、相当な注意を怠った者でないと認められない。』

という具体例を追記すべきである。(弁護士)」

というものであり、消費者庁はこれを受け入れて、ガイドラインに、

「・・・課徴金対象行為を始めた日には『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』場合であったとしても、

課徴金対象行為をした期間中のいずれかの時点で『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められ』ないときは、

課徴金の納付を命ずることとなる。

例えば、事業者が、課徴金対象行為を始めた日には『知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められる』ものであったものの、

当該課徴金対象行為をしている期間中に、

同事業者の従業員の報告や第三者からの指摘を受けるなどしたにもかかわらず、

何ら必要かつ適切な調査・確認等を行わなかったときには、

『課徴金対象行為をした期間を通じて』『「知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められ』ず、課徴金の納付を命ずることとなる。」

という一節が入りました。

つまり、通報があったりして疑いが生じたときには、

必要かつ適切な調査・確認等

を行えば課徴金はかからない、ということが読み取れます。

そして、いつ社内調査を開始して、いつまでに結論を出すべきか、という問題にしても、

「必要かつ適切な」

調査と言えるかどうか、という基準で判断されるのだと思われます。

上記論文も、どうせあげるなら53番と54番をあげるか、明示的にガイドラインが修正されていることに触れた方がよかったんではないかと思います。

2016年3月28日 (月)

公的支援と独禁法

一時期、破たんしそうな企業を税金を使って再生することが競争をゆがめるのではないか、ということで、公的支援が独禁法に違反するのではないか話題になったことがありました。

欧州で国家補助(state aids)といわれているものです。

それが、

「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」(案)

の公表につながり、パブコメも先月終了したところです。

経済法をどちらかというと経済学的な方向からみている私などは、競争法で通常議論されているような反競争的行為が頭の中に染みついていることもあってか、公的支援が独禁法に反するというのは今一つしっくりこない、というのが正直な感想です。(経済法を「経済的な力の獲得」という側から見ている人にとっては、「公的支援が競争をゆがめるのは当たり前じゃないか」という感想を持たれるのかもしれませんが。)

というのは、経済学の単純なモデルに基づけば、資金が供給されたからといって市場での競争がゆがむはずがないからです。

(なお、大前提として、経済学の単純なモデルでは、国家が支援する場合も銀行が支援する場合も区別しません。お金に色は着いてないので当然です。)

というのは、競争がゆがむというのは、究極的には、価格が限界費用より引き上げられたり、ライバルの費用を引き上げたり、とういうことをイメージするわけです。

少しテクニカルな表現で説明すれば、各プレイヤーの費用関数を所与として、市場での限界費用(限界的プレイヤーの限界費用)と需要者の支払意欲が一致するところで生産数量が決まるのが最も効率的なはずで、人為的な行為によってそのような効率的な状態から乖離させるのが、反競争的な行為であるわです。

カルテルもそうですし、排他条件付取引も、不当廉売も、おおむねこの理屈で説明できます。

ところが、公的補助の場合には、このような考え方で説明しようとすると、違法になりようがないのです。

まず、破たんしようとしている企業に資金をつぎ込んだからといって、通常は、その企業の効率性が上がるわけでも下がるわけでもありません。

もちろん、実社会の実感としては、「そんなこといったって資金援助を受けた企業が積極的に設備投資したら太刀打ちできないじゃないか」ということでしょう。

しかし別の見方をすれば、資金があるだけでそのような収益性の高い投資機会を見つけられる企業はもともと効率的な企業であったはずなわけで、一時的に流動性が欠如していても、銀行が将来のリターンを見越して融資するはずだったわけです。

もしそのような融資が起こらなかったとすれば、それは情報の非対称性(銀行は融資対象企業の将来の収益性を十分に知ることができない)のためであって、もし公的支援がその情報の非対称性を埋めるものだとしたら、むしろ効率的なわけで、それを独禁法が禁止する理由がなくなってしまいます。

逆に、もし非効率的な企業に融資することによって効率的な(=より限界費用の低い)企業に生まれ変わるとしたら、たしかに競争者にとってはいい迷惑ですが、まず、企業の効率性はお金を入れただけで向上したりはしません。

つまり、企業の費用関数は、資金の供給を受けただけでは上がりもしないし下がりもしない、ということです。

企業の費用関数がシフトするのはどういう場合かといえば、たとえば画期的な発明をするとか、優秀な経営者が経営するようになるとか、そういったことです。

そして、もし資金供給を受けてもその企業の効率性(=費用関数)が何ら変化しないとしたら、価格設定も、生産量の決定も変わらないことになるはずです。

というのは、企業の価格と生産量の決定は、自らの費用関数とその企業が直面する需要関数(残余需要関数)から一義的に、その企業の利益を最大化するところで決まるはずだからです。

以上のように、企業の生産量と価格設定の関数に、「潤沢な資金」というパラメーターは出てきません。

たとえば、資金が潤沢になったからといって、その企業には安い価格設定をするインセンティブがありません。

安い価格設定をした方が利益がふえるのなら、そもそも資金援助を受ける前から安い価格設定をしていたはずです。

・・・と、どこをどうつついても、資金提供によって競争がゆがむという要素が出てこないのです。

もちろん、資金が潤沢にあれば、効率性の悪い(限界費用の高い)企業が安売りをしても持ちこたえられるので、不当廉売をしてライバルをけちらすインセンティブが生じることはあるかもしれません。

ただその問題は、公的支援の問題というより、不当廉売の問題そのものなので、不当廉売として処理すれば足ります。

一つ考えられるとしたら、のべつまくなしに公的支援をしていると、日本を代表するような大企業は、「いつかは親方日の丸が助けてくれる」と考えて、努力しなくなることでしょうか。

ガイドライン案がいうところの、モラルハザードですね。

ただ、モラルハザードは競争政策上望ましくないですが、かといって、モラルハザードを生じさせるような行為が即、独禁法違反になるわけでもありません。

そういえば、ガイドライン案の名前も、

「公的再生支援に関する競争政策上の考え方(案)」

ということで、あくまで「競争政策上の考え方」を示すものであり、タイトルからして、

「~の独占禁止法上の考え方」

とか、

「~の独占禁止法上の指針」

とかいうふうになっていません。

つまり、ガイドライン案はあくまで政策論に関するガイドラインなのであって、独禁法に違反するかどうかという実定法のガイドラインではそもそもない、ということです。

(というより、ガイドライン案は、公的支援それ自体は独禁法に違反しないことを前提にしている、ととらえるのが正しいのでしょう。)

実際、ガイドライン案の中身も、公的支援による出資も企業結合の対象になる、というところで独禁法にわずかに言及されるだけで、私的独占とか、不公正な取引方法とかいう言葉は出てきません(独禁法の考え方を示すガイドラインではないので、あたりまえといえばあたりまえです。)

もちろん、実際には公的支援が競争をゆがめるということはあるのでしょうけれど、少なくとも、独禁法の違法行為類型のなかでこれにぴったりと当てはまるものはありません。

そのあたり(ガイドライン案は独禁法違反かどうかの基準を示すものではないこと)を理解していないと、このガイドライン案の意味を誤解することになってしまうと思います。

なやましいのは、公的支援を競争政策的観点から評価するといっても、評価の物差しがはっきりしないことです。

通常の独禁法上の反競争的行為であれば、上述の、限界費用価格設定からの乖離という物差しで、いちおう一貫した答えは出せます。

でも、ガイドライン案がいう三原則の、

①補完性、

②必要最小限性、

③透明性、

というのは、つまり①②は公的支援は少なければすくないほどいいといっているに等しく、どのあたりまでOKなのかという程度問題を測れる基準になっていないし、③は、はたしてそれで効率性にどう影響するのか、よくわかりません。

それに、その企業を再生するのに、民間だけで不可能か(①補完性)とか、必要最小限か(②必要最小限性)というのは、公取委が判断するのに適した事項なのかも疑問が残ります。

このように、ガイドライン案を見ていると、はからずも、公的支援に公取委の出る幕はないのではないか(業界のことがわかっている事業所管大臣のほうがよっぽど適しているのではないか)、と思われてしまいます。

ともあれ、当局の考えをありのまま紙の形で(ガイドラインで)残しておくのは、意味のあることなのかもしれません。

2016年3月24日 (木)

【お知らせ】米国・EU等海外競争法講座

一昨年、昨年に引き続き、公益財団法人公正取引協会において、

「米国・EU等海外競争法講座」

の米国反トラスト法(応用編)を担当させていただくことになりました。

場所は港区赤坂の公正取引協会です。

5月からはじまる、全5回のシリーズです。

私の担当する米国応用編では、カルテルはもちろんなのですが、昨年も意外に企業結合に関するご質問が多く、みなさん、届出の要否(一度規則を読めばわかりますが、極めて複雑です)や、届出不要だけれども市場シェアが高くなる案件について、どうしようか悩まれているのだなあと実感しました。

今年も限られた時間ではありますが、実務のエッセンスをお伝えしたいと思います。

ご興味のある方は是非こちらの申し込み要領に従って、お申込みください。

2016年3月 1日 (火)

村上『条解』の実体法部分の記述のスタイルについて

村上政博編集代表『条解独占禁止法』(弘文堂)の不公正な取引方法の記述は、おおむね、

1 条項の歴史・趣旨および他の条項との関係

2 各項の構成要件に関する解説

3 判審決例の展開

というスタイルになっていて、3の部分がほとんどを占めます。

たとえば取引妨害では、

1→1行(0%)

2→1.5頁(11%)

3→12.5頁(89%) 

といった具合です。

他の実体規定も、だいたい似たようなスタイルになっています。

しかし、実務で使うには、これは少々不便です。

というのは、実務で意見書などを書いたりするときには、やはり条文の文言に一つ一つあてはめていかないと書けないわけです。

そうすると、村上『条解』の2の部分のような、文言の解釈の部分が薄いと、実務では使いづらい、ということになってしまいます。

たとえば取引妨害の要件である「競争関係」というのが、どういう場合に認められるのか、という問題があります。

違反者自身が競争関係にあればいいけれど、子会社を通じて競争している場合はどうなのか、提携先など密接な関係にある事業者が競争関係にあれば足りるのか、といった問題です。

独禁法の本質的な議論には全く関係のない、研究者の方にとってはどうでもいい論点かもしれませんが、実務家は条文重視なので、無視するわけにはいきません。

こういった、学問的には些細な、だけれど実務的には無視できない論点が、村上『条解』のスタイルだと、非常に見つけにくいか、場合によっては抜け落ちてしまったりするのではないかと思います。

実際、この競争関係の論点については、業務委託関係にある者との競争関係でもたりるとした日本テクノ事件(東京高裁平成17・1・27)というのがあり、根岸『注釈』や『論点体系独占禁止法』(たまたま私の執筆部分ですhappy01)では、きちんと紹介されています。

白石先生の『独占禁止法〔第2版〕』にも当然紹介されていますし、なんと400頁そこそこしかない菅久他編著『独占禁止法〔第2版〕』にも載っています(さすが実務のバイブル、ツボを心得ていらっしゃいます。)

ところが村上『条解』には、この裁判例自体載っていません。

これは正直、1000頁を超える実務家向けコンメンタールとしていかがなものかと思います。

逐語解釈をすると日本テクノ事件は取り上げざるを得ない裁判例なのですが、独禁法のコンメンタールには、根岸『注釈』という、1つの到達点があるので、それと差別化するために村上『条解』では逐語解釈を避けたのでしょうか。

あまり人さまの書いたものを悪くばかりいうのも何なので、

「村上『条解』のような体系的に判例を紹介するスタイルも、じっくり読むにはいいかもしれません。」

とフォローしようと思ったのですが、村上『条解』の取引妨害の3の部分をみると、

(1)概要

のあと、

(2)熊本魚事件

(3)東京重機工業事件

(4)ヤシロ事件

という比較的古い事件の紹介が続き、つづいて、

(5)並行輸入の不当妨害

(6)自由競争減殺型の競争者に対する取引妨害

の項目の中で、それぞれまた判例が紹介される、という項目建てで、わたしにはどういう体系なのか理解できませんでした(なぜ古い判例3つだけ独立した項目で紹介するのか、並行輸入の妨害も自由競争を減殺するのではないのか、など)。

コンメンタールは、

①条文をとっかかりにリサーチしてぱっと答えが出て、しかも

②体系書や論文では漏れてしまうような細かいことにも一言は触れる、

というのがよいと思います。

もし村上『条解』が改訂されてこのあたりまで大幅に手が加えられたらとても素晴らしいことだと思いますが、それは難しいとしても、新たにコンメンタールを企画されている出版社の方や研究者の方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

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