「課徴金対象行為をした期間」に関する課徴金ガイドラインの想定例①
改正景表法の「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」(課徴金ガイドライン)の、「課徴金対象行為をした期間」に関する想定例①(p8)が、なかなか興味深いので、検討してみましょう。
想定例①は、
「商品a を製造する事業者Aが、小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、その包装がされた商品a を、平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、
事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる
(小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない。なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)。
事業者Aは、課徴金対象行為をやめた日の翌日である平成30 年10月1日以降は商品a の取引をしていないため、課徴金対象期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる。」
というものです。
ここで興味深いのは、小売業者の販売行為はメーカーの行為ではないので、メーカーの「課徴金対象行為」ではない、と明言していることです。
景表法8条1項では、「課徴金対象行為」は、
「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」
つまり、
優良誤認表示の禁止の規定〔5条1号〕に違反する行為
と、
有利誤認表示の禁止の規定〔5条2号〕に違反する行為、
少し端折ると、
優良誤認表示行為
と、
有利誤認表示行為
という意味で使われていいます。
なので、ガイドラインの想定例①では、優良誤認表示行為も有利誤認表示も、あくまで違反事業者自身の「行為」であることが前提であるので、小売業者の行為をとらまえて違反事業者の「行為」とみなすことはしない、と言っていると読めます。
これは課徴金制度の中だけの話かというと、論理的にはそうではありません。
というのは、景表法8条1項では、
「課徴金対象行為」
=「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」
となっており、ガイドラインの想定例①ではさらに、
「課徴金対象行為」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」
と説明されているので、結局、
「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」
ということになり、左辺を詳しく書き出すと、
「第5条1号に該当する表示に係る、第5条の規定に違反する行為」
+
「第5条2号に該当する表示に係る、第5条の規定に違反する行為」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・①
となります。
ここで、5条柱書は、
「・・・表示をしてはならない。」
としているので、
「5条の規定に違反する行為」
とは、
「『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」
を意味することになります。
つまり、
「5条の規定に違反する行為」
=「『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」・・・②
と表せます。
そこで①式左辺の「5条の規定に違反する行為」に、②式の右辺を代入すると、
「第5条1号に該当する表示に係る、『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」
+
「第5条2号に該当する表示に係る、『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・③
となるでしょう。これの左辺の表現を整理すると、
「第5条1号に該当する表示をしてはならないという規定に違反する行為」
+
「第5条2号に該当する表示表示をしてはならないという規定に違反する行為」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・④
となり、もっと整理すると、
「優良誤認表示をする行為」+「有利誤認表示をする行為」
=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・⑤
となるでしょう。
そうすると結局、5条で禁止されている表示をする行為というのは、商品の小売業者への販売・引渡しである、ということになります。
さらに、7条では措置命令の要件として、
「5条の規定に違反する行為があるとき」
というふうに、8条の
「5条の規定に違反する行為・・・をしたとき」
というのと同じ表現を使っているので(7条は「がある」という現在形、8条は「した」という過去形である、という違いはありますが、7条1項第2文に既往の行為に対する措置命令もできるとあるので、実質同じと考えてかまいません)、この、
「表示をする行為というのは、商品の小売業者への販売・引渡しである」
という命題は、課徴金納付命令の場合だけでなく、措置命令の場合にもあてはまる、ということになります。
つまり、措置命令の場合も、商品の小売業者への引渡しが終わっている以上は、事業者自身による「表示をする行為」は終わっており、これに対して措置命令を行うには7条1項柱書第2文の、既往の行為に対する措置命令の条文によらなければならない、ということになります。
表示をする行為が商品の引渡しだというのはなんとなく違和感がありますが、不当表示が記載された容器入りの商品を小売店に引渡すのは、不当表示が記載されたパンフレットを小売店に配布するのと異ならない、という整理なのでしょう。
今までも消費者庁の実務は引渡しが違反行為なのだという運用だったのでしょうけれど、あらためてこの点を明示されると、「へえ~、そうだったんだ」という感じです。
商品パッケージは商品そのものとともに流通するので、チラシとかとは違った配慮が必要なのではないかという気もしますが、そういう配慮はしないということですね。