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2016年2月

2016年2月27日 (土)

「課徴金対象行為をした期間」に関する課徴金ガイドラインの想定例①

改正景表法の「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」(課徴金ガイドライン)の、「課徴金対象行為をした期間」に関する想定例①(p8)が、なかなか興味深いので、検討してみましょう。

想定例①は、

「商品a を製造する事業者Aが、小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、その包装がされた商品a を、平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、

事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる

小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない。なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)。

事業者Aは、課徴金対象行為をやめた日の翌日である平成30 年10月1日以降は商品a の取引をしていないため、課徴金対象期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる。」

というものです。

ここで興味深いのは、小売業者の販売行為はメーカーの行為ではないので、メーカーの「課徴金対象行為」ではない、と明言していることです。

景表法8条1項では、「課徴金対象行為」は、

「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」

つまり、

優良誤認表示の禁止の規定〔5条1号〕に違反する行為

と、

有利誤認表示の禁止の規定〔5条2号〕に違反する行為、

少し端折ると、

優良誤認表示行為

と、

有利誤認表示行為

という意味で使われていいます。

なので、ガイドラインの想定例①では、優良誤認表示行為も有利誤認表示も、あくまで違反事業者自身の「行為」であることが前提であるので、小売業者の行為をとらまえて違反事業者の「行為」とみなすことはしない、と言っていると読めます。

これは課徴金制度の中だけの話かというと、論理的にはそうではありません。

というのは、景表法8条1項では、

「課徴金対象行為」

=「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」

となっており、ガイドラインの想定例①ではさらに、

「課徴金対象行為」

=「商品の小売業者への販売・引渡し」

と説明されているので、結局、

「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。・・・)」

=「商品の小売業者への販売・引渡し」

ということになり、左辺を詳しく書き出すと、

「第5条1号に該当する表示に係る、第5条の規定に違反する行為

「第5条2号に該当する表示に係る、第5条の規定に違反する行為

=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・①

となります。

ここで、5条柱書は、

「・・・表示をしてはならない。」

としているので、

「5条の規定に違反する行為」

とは、

「『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」

を意味することになります。

つまり、

「5条の規定に違反する行為」

=「『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」・・・②

と表せます。

そこで①式左辺の「5条の規定に違反する行為」に、②式の右辺を代入すると、

「第5条1号に該当する表示に係る、『表示をしてはならない』という規定に違反する行為」

「第5条2号に該当する表示に係る、『表示をしてはならない』という規定に違反する行為

=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・③

となるでしょう。これの左辺の表現を整理すると、

「第5条1号に該当する表示をしてはならないという規定に違反する行為」

「第5条2号に該当する表示表示をしてはならないという規定に違反する行為

=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・④

となり、もっと整理すると、

「優良誤認表示をする行為」+「有利誤認表示をする行為」

=「商品の小売業者への販売・引渡し」・・・⑤

となるでしょう。

そうすると結局、5条で禁止されている表示をする行為というのは、商品の小売業者への販売・引渡しである、ということになります。

さらに、7条では措置命令の要件として、

「5条の規定に違反する行為があるとき」

というふうに、8条の

「5条の規定に違反する行為・・・をしたとき」

というのと同じ表現を使っているので(7条は「がある」という現在形、8条は「した」という過去形である、という違いはありますが、7条1項第2文に既往の行為に対する措置命令もできるとあるので、実質同じと考えてかまいません)、この、

「表示をする行為というのは、商品の小売業者への販売・引渡しである」

という命題は、課徴金納付命令の場合だけでなく、措置命令の場合にもあてはまる、ということになります。

つまり、措置命令の場合も、商品の小売業者への引渡しが終わっている以上は、事業者自身による「表示をする行為」は終わっており、これに対して措置命令を行うには7条1項柱書第2文の、既往の行為に対する措置命令の条文によらなければならない、ということになります。

表示をする行為が商品の引渡しだというのはなんとなく違和感がありますが、不当表示が記載された容器入りの商品を小売店に引渡すのは、不当表示が記載されたパンフレットを小売店に配布するのと異ならない、という整理なのでしょう。

今までも消費者庁の実務は引渡しが違反行為なのだという運用だったのでしょうけれど、あらためてこの点を明示されると、「へえ~、そうだったんだ」という感じです。

商品パッケージは商品そのものとともに流通するので、チラシとかとは違った配慮が必要なのではないかという気もしますが、そういう配慮はしないということですね。

2016年2月10日 (水)

【お知らせ】Chambers Asia 2016 にランクインしました。

昨年と一昨年に引き続き、Chambers Asia 2016の競争法部門でランクインさせていただきました。

なにはともあれ、おめでたいことです。

これからも引き続き精進していきたいと思います。

2016年2月 6日 (土)

返金措置の認定要件の「不当に差別的でない」の意味

今年4月から施行される改正景表法(課徴金制度の導入)では、消費者に自主的に返金した額を課徴金から差し引く制度(返金制度)が導入されています。

ただ、どんな返金の仕方をしてもいいわけではなくて、

「特定の者について不当に差別的でないものであること」

が必要であるとされています(改正法10条5項2号)。

では「不当に差別的でない」とは具体的にどういう意味でしょうか。

立案担当者解説である黒田他編著『逐条解説平成26年11月改正景品表示法 課徴金制度の解説」p73では、

「例えば、1個の課徴金対象行為の対象となった商品または役務に係る最終需要者の購入額が、販売者、販売時期、地域等によって異なる事案において、事業者が、当該『商品又は役務の購入額×課徴金算定率』以上となり得る一律の金額を定めることにより、各最終需要者の購入額に占める返金額の割合が異なるという場合はあり得ると考えられる。」

という例があげられています。

つまり、一定額の返金は(各購入者の購入額が異なると一定率ではなくなるものの)認められる、ということです。

ただこの説明は、基本的に同じ(同量の)商品役務を購入している場合を想定していると思われます。

たとえば、必ずやせると謳った健康食品について返金する場合、「30錠入り」、「70条入り」、「150状入り」では価格は異なるでしょうが、このような場合、どれを購入しても一律の金額というのはさすがにまずいのではないかと思います。

やはり、「30錠入り」、「70錠入り」、「150錠入り」、それぞれについて一定金額を定めるべきでしょう。

もちろん、各購入者に対して購入額全額を返金する(そのため具体的な返金額は各購入者ごとにことなりうる)、というのは問題ないでしょう。

またたとえば、天然温泉と称して入浴剤を使っていた旅館が返金する場合には、宿泊プランによって価格は大いに異なりえますが、この場合は一律(一定額)の返金でかまわないと思います。

というのは、温泉旅館の宿泊には、宿泊そのものの対価(部屋の広さで異なる)や、食事の対価、温泉の対価、布団の上げ下げなどのサービスの対価、などさまざまなものが含まれますが、返金対象は温泉の部分だけと考えられるからです。

つまり、同じ旅館の宿泊プランで、1泊5万円、3万円、2万円、というのがあっても、温泉が温泉でなかった分の埋め合わせとしては一律1000円として、1000円を返金する、というのでもかまわないと思います。

(同様の問題は、商品役務の一部について不当表示があった場合には常に生じるのでしょう。)

これに対して、1泊した人と3泊した人で返金額が同じ1000円でも不当に差別的でないといえるかというと、やや微妙ですが、私は不当に差別的だと思います。

というのは、3泊する人は1泊する人の3倍お風呂に入るだろうからです。なのに同じ額の返金というのは、やはり不公平だと思います。

でも、3泊した人には1泊した人の3倍返金しないといけないか、というとそこまで厳密に考える必要もなくて、消費者が被った損害におおむね見合うような定め方(たとえば、宿泊代金合計が3万円以下なら1000円返金、5万円以下なら2000円返金、10万円以下なら3000円返金、10万円以上なら一律5000円返金)というのでも、まあいいのかな、と思います。

では逆に、何泊したかにかかわらず、すべての宿泊者に宿泊料金全額を返金する、というのは不当に差別的でしょうか。

宿泊料金に占める温泉の対価はわずかだとすると、高額購入者ほど焼け太りになるような定め方は不公平な気がしますが、良心的な旅館であるほど、顧客の信頼を取り戻すために全額返金したいと考えるかもしれません。

それを法律が禁じることもないと思います。

条文も、「不当に」差別的といっており、「不当」でないなら「差別的」でもかまわない、と読めます。

なので、このような、信用を回復するための、経済的には過剰な返金は、認められるべきと考えます。

基本的な考え方としては、ともかく消費者が被った損害を填補していれば、それ以上の過剰な返金の部分は、あまり「不当に差別的」かどうかを気にするべきではない、と思います。

反対に、消費者が被った損害を填補するに足りない返金の場合は、平等かどうかを厳しくみるべきでしょう。

たとえば、痩せない健康食品の場合は、経済的には無価値なので全額返金するのが筋だと思いますが、それでも一部しか返金しない返金計画というものが考えられます(このような返金も、各購入者の購入額の3%以上を返金する限り、課徴金からの控除の対象にはなります)。

2016年2月 1日 (月)

TPP第16章(競争政策)について

甘利大臣の辞任で先行きに暗雲垂れこめてきた(ということもないようですが)TPPですが、競争法に関連するのは16章です。

いわゆる欧州型のコミットメントを義務付けているといわれるのが16.2条の5項で、原文では、

「Each Party shall authorise its national competition authorities to resolve alleged violations voluntarily by consent of the authority and the person subject to the enforcement action.

A Party may provide for such voluntary resolution to be subject to judicial or independent tribunal approval or a public comment period before becoming final.」

となっています。

政府仮訳はちょっと硬いので、私なりに訳すと、

「締約国は、調査対象者との合意により任意に違反被疑事件を解決する権限を自国競争当局に付与するものとする。

締約国は、かかる任意の解決が確定する前に、裁判所もしくは独立審判所による承認またはパブリックコメントの期間を要するものとすることもできる。」

ということです。

条約で決められている枠組みはこれだけですので、とくに欧州型にこだわる必要もないのでしょう。

(ちなみに、こんな条項がTPPに入っていたなんて、最終合意まで独禁法の専門家でもほとんど知らなかったのではないでしょうか。)

ところであらためて16章をみてみると、16.1条の2項に、

「Each Party shall endeavour to apply its national competition laws to all commercial activities in its territory.[note 2]

However, each Party may provide for certain exemptions from the application of its national competition laws provided that those exemptions are transparent and are based on public policy grounds or public interest grounds.」

という規定があります。

これも私なりに訳すと、

「締約国は、その領土内におけるすべての商業的な活動に自国の競争法を適用するよう努力するものとする(注2)。

しかし、締約国は、自国の競争法の一定の適用免除を定めることができる。ただし、その適用免除が透明で、かつ、公共の理由または公益の理由に基づく場合に限る。」

という感じでしょうか。

注2は原文では、

「For greater certainty, nothing in paragraph 2 shall be construed to preclude a Party from applying its competition laws to commercial activities outside its borders that have anticompetitive effects within its jurisdiction.」

となっており、訳すと、

「より明確にするために述べると、第2項は、締約国の法域内に反競争的な影響を及ぼす国外の商業的活動に対して自国の競争法を適用することを妨げるものと解されてはならない。」

ということです。

少なくともTPPでは、努力義務ではあるものの、基本的には属地主義がとられていることがわかります。

先週金曜日にブラウン管事件の判決が出て属地主義が基本であることが明らかにされましたが、そういった目でTPPをみると、「こんなことになっていたのかぁ」と、なかなか趣深いものがあります。

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