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2016年1月28日 (木)

景表法8条(課徴金)ガイドライン案の課徴金対象商品

昨年11月25日に公表された、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方(案)」

のなかに、

「事業者が、自己の供給する商品又は役務を構成する一部分の内容や取引条件について問題となる表示をした場合において、

(当該商品又は役務の一部分が別の商品又は役務として独立の選択〔取引〕対象となるか否かにかかわらず)

その問題となる表示が、商品又は役務の一部分ではなく商品又は役務そのものの選択に影響を与えるときには、

(当該商品又は役務の一部分でなく)当該商品又は役務が『課徴金対象行為に係る商品又は役務』となる。」

という部分があります。(第4-2)

これは課徴金の改正法案が公表されたときからいろいろなところで話題になっていた論点に消費者庁が指針を示したもので、重要です。

たとえば、中華料理のコースの一品にだけ、「『芝エビ』と表示したが、実はバナメイエビだった。」というようなケースで、

①その一品だけの価格を基に課徴金を算定するのか、それとも、

②コース全体の価格を基に課徴金を算定するのか、

という問題です。

ガイドライン案は、商品全体の選択に影響を及ぼす場合には、商品の一部についての表示であっても商品の全体が課徴金の対象になる、としています。

不当表示がなぜいけないのかというと、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するからなので、商品全体の選択がゆがめられたときには商品全体に課徴金がかかるのは当然です。そのような意味において、ガイドライン案の考え方は基本的に妥当だと思います。

ただいくつか疑問もわいてきます。

まずガイドライン案では、商品全体の選択に影響を与えたときのことは書いてありますが、逆に商品全体の選択に影響を与えなかった場合のことは書いてありません。

考え方としては、

①課徴金はゼロだという考え方と、

②商品の一部について課徴金がかかるという考え方

がありえます。

でも、商品の一部にかかる(②)という考え方には難があって、当該一部が独立の商品として提供されていないと(たとえば単品料理)、売上高が算定できません。

そうするともう一つの選択肢として、

③商品の一部が独立の商品として提供されている場合には当該一部に課徴金がかかるが、そうでない場合は課徴金はゼロ、

という考え方もありそうです。

でもコース料理の例では、お客さんは現にコースを選択している以上、コース全体の選択には影響しなかったけれども一部の選択には影響したということは論理的にありえない(一部を選択しているわけではないので)ように思われます。

つまり、お客さんの現実的な選択は、コース全体を選択するか、しないか、の二択しかないわけです。

そうすると結局、商品全体の選択に影響を及ぼさなかったときは、課徴金はゼロであるという①の考え方が正しいように思われます。

次の疑問は、やむをえないことですが、商品全体の選択への影響という抽象的基準を具体的にどう当てはめるのか、ということです。

たとえば温泉旅館で入浴剤を使っていたら、宿泊料金が課徴金の基礎でしょう。

でも、スポーツクラブで天然温泉とうたっていたのが入浴剤を入れたお風呂だったら、スポーツクラブの選択にはあまり関係がないような気がします。

「いや、関係ある。そうでなかったらそんな広告しないはずだ」

という意見もあるかもしれません。そこがまさに微妙なところです。

ほかには、結婚披露宴のプランの料理のコースで「シャンパン」と表示していたのがスパークリングワインだった、というケースではどうでしょう。

さすがにその式場の選択には影響しないでしょうから、結婚式代全部に課徴金がかかるということはなさそうです。

でも料理のコースの選択には影響があるかもしれません。

ただ、料理のコースは、一番高いコースには高級シャンパン、中くらいのコースにはほどほどのシャンパン、一番安いコースにはスパークリングワイン、というように、料理のランクにあわせて飲み物のランクも決めていることが多いことからすると、シャンパンがコースの選択に影響を与えたかどうかわかりません。(むしろメイン料理だけが影響した可能性があります。)

もしコースで一品ずつ選択できる式場なら、シャンパンだけが課徴金の対象になりそうです。

一品ずつ選択できるプランと「おまかせ」のプランと両方ある式場なら・・・なんて考えると夜も寝られなくなりそうです(笑)。

と、いろいろ考えると、

「商品又は役務そのものの選択に影響を与えるとき」

という基準で大事なのは、表示が商品全体の選択に影響を及ぼすほど誘引力が強いかどうかではなくて、その一部だけを選択する余地が消費者にあったのか(単品もメニューに載っていたのか)が重要なのではないか、と思われてきます。

次の疑問は、商品全体の選択に影響があることはだれがどうやって立証するのか、ということです。

あるべき姿は都度消費者庁が立証するということなのでしょうけれど、では具体的に購入者にアンケートをとったりするのかといえば、そんなことはやらないでしょう。

たぶん感覚で、「選択に影響があった」、「なかった」と認定するだけなのでしょう。

それからそもそも根本的な問題ですが、「選択」に影響があったかなかったかは、商品の一部の表示に不当表示があった場合に限った問題ではなくて、商品そのものの表示が不当表示であった場合にも共通するべき要件なのではないか、という気がします。

というのは、一部に関する不当表示なら「選択への影響」という別の要件が必要だけれど、全体に対する不当表示ならその要件が不要、と考える理屈がないように思われるからです。

あるいはガイドライン案は、一部についての不当表示があった場合には当該一部の選択には当然に影響があることを前提に、それよりも広い全体について課徴金を課すには全体への影響が必要だ(一部の不当表示は当然に全体の選択への影響を意味するわけではない)、という立場なのかもしれません。

そうだとすると、全体について不当表示があったときには当該全体の選択には影響があることが当然だ(追加的要件は要らない)、ということで首尾一貫しているのかもしれません。

ただ、「一部についての不当表示があった場合には当該一部の選択には当然に影響がある」、あるいは、「全体について不当表示があったときには当該全体の選択には影響がある」という前提が本当に正しいのかといえば、そういう場合が多いとは言えても論理必然的にそうだとはいいにくいような気もします。

それに、選択への影響という基準だと、事実上、全体の選択への影響が認められない場合というのが極めて少なくなってしまうのではないか、という気もします。

前述のスポーツクラブの温泉の例でも、わたしは、あえて「全体の選択への影響」という基準を立てるなら、まさにこういった場合を全体(スポーツクラブへの入会)への影響なしとしないと意味がないような気がしますが、本当にないと言い切れるのか、といわれればよくわかりません。

ほかには、遊園地のアトラクションの1つに不当表示があった場合、当該アトラクションの料金に課徴金がかかるのはよいとして、遊園地への入場料にかかるのか、というと、そのアトラクションが(表示どおりで)あるからその遊園地へ行こうと考える人が多いのであれば入場料にも課徴金がかかる、ということになるのでしょう。

でも厳密には、入場料にはほかのアトラクションに乗れることの対価も実質的に含まれているはずなので、入場料全額に課徴金をかけるのが妥当なのかは、なかなか悩ましい問題ですし、「全体の選択への影響」という基準で、このようなケースに妥当な答えを出すことは難しいような気もします。

結局、

①商品の一部に関する不当表示で全体に課徴金がかからないことはなさそう

②商品の一部に関する不当表示で当該一部にだけ課徴金がかかることもなさそう

ということになると、

③商品の一部に関する不当表示では、商品全体に課徴金がかかる

というルールの方がシンプルで、問題は、どの範囲をもって同一の「商品」とみるか、という点に収れんするような気もします。

ともあれ、このガイドラインのように、規則の逐条解説的なことを、わかりやすい事例もふんだんに入れながら、事前にていねいにガイドラインで説明するというのは、それはそれですばらしいことだと思います。

行政としては、実際に問題が出てきたときにケースバイケースで判断できるようにしたほうが、裁量が大きくてやりやすいであろうからです。

いわば企業にとっての予見可能性にも配慮しているわけです。

きっと公取委だったら、こんなガイドラインは出さなかったでしょう(あるいは、流通取引慣行ガイドラインや知財ガイドラインみたいに、どんな行為でも違法になりそうな厳しいガイドラインを出しておいて実際には執行しない、ということになったでしょう)。

たとえば景表法の課徴金の売上額の算定は独禁法のコピーですが、独禁法にはこのようなガイドラインはありません。

ちょっと消費者庁をほめすぎ(公取委をけなしすぎ)かもしれませんが、率直な感想です。

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