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2015年10月29日 (木)

事業者団体による概括的な需要見通しの作成・公表(事業者団体ガイドライン9-7)

事業者団体ガイドラインでは、「原則として違反とならない行為」として、

「概括的な需要見通しの作成・公表」

があげられており、具体的には、

「当該産業の全般的な需要の動向について、一般的な情報を収集・提供し、又は客観的な事象に基づく概括的な将来見通しを作成し、公表すること

(構成事業者に各自の将来の供給数量に係る具体的な目安を与えるようなことのないものに限る。)。」

と定められています。

これを適用したのが、平成17年度事例集の事例13です。

この相談事例は、

「A工業会は建設部品Xのメーカー13社が加盟しており,これら会員事業者で市場における建設部品Xの95%以上を製造しているとともに,このうち上位3社で70%のシェアを占めており,当該シェアは長期間に渡って固定的である。

なお,建設部品Xには一定の規格があり,メーカー間で品質等に差はない。」

という事実関係の下で、

「A工業会では,官公庁や経済研究所等の公表資料を参考に,建設部品Xの用途別に,次年度以降5年間の需要予測数量を作成し,A工業会のホームページで公表することを検討しているが,独占禁止法上問題ないか。」

という質問に対して、公取委が独禁法上問題となりうると回答した事例です。

理由は、

「建設部品Xは規格化され,メーカー間で製品に差は認められない。

また,メーカーのシェアは長期間固定的で,A工業会の会員事業者のシェアは95%以上と極めて高く,このうち上位3社で70%のシェアを占める寡占的な市場である。

さらに建設機械Xの用途によっては,2~3社しか製造していないものもある。」

というもので、

「このような状況において,用途別の需要予測を示すことは,概括的なものとは到底なり得ず,会員事業者にとって各自の将来の供給数量について事実上の目安として機能し,需給調整の手段として利用されるおそれは極めて強い。」

とされています。

用途によっては2社しか作っていないということで、確かに微妙な事案ではありますが、しかしそれでも、回答がいっていること(とくに、「需給調整の手段として利用されるおそれは極めて強い。」)は、ちょっと言い過ぎで、やりようによってはこういう情報交換も可能なのではないかと私は思います。

理由はいくつかありますが、まず、本件では(ガイドライン9-7も)、需要見通しの元データは公開情報です。なので、需要者との間に情報の非対称性があるわけではありません。この点で、9-5の、「価格に関する情報の需要者等のための収集・提供」とはだいぶ事情が異なります。

次に、需要予測を公表することでどれだけ協調に寄与するのか、というのも実はよくわかりません。

たとえば需要予測を、第三者のシンクタンクが公表しても、それを公取委がやめろというはずはないです。

また、ある供給者が単独で需要予測を公表しても、違反にはならないでしょう。

そうすると、同じことを事業者団体がやるとなぜだめなのか?ということです。

可能性としては、第三者がやるのでも、供給者が単独でやるのでもない、なにか競争制限的な要素が事業者団体の場合にはある、という理屈でしょう。

具体的には、

①事業者団体がやると、業界共通の指針またはお墨付きのような形になり、各社の目安になりやすい

②供給者側だけでやると、供給者に有利にバイアスがかかった統計になりやすい

というのが考えられそうです。

①(「お墨付き論」あるいは「手続論」)は、第三者がやるのと同じ予測結果であっても問題だ、という理屈になり、②(「バイアス論」あるいは「実質論」)は、予測結果が異なるから問題だ、という理屈です。

このうちまず、バイアス論(②)は、かなり難しいと思います。共通価格表などの場合には、バイアス論はかなり説得力がありますが、需要予測の場合には、同じ理屈は当てはまりません。

もし供給者が共同で市場支配力を行使しようとするなら、価格は高めにはじくことの裏返しで、需要予測は少なめにはじく、ということになるのが理屈ですが、供給者も需要は多い方がハッピーでしょうから、共同で市場支配力を行使するために需要予測を少なめにはじくというのは、ちょっと考えられません。

それにもし少なめに需要を予測しても、もし需要が旺盛になれば、供給者は(カルテルがない限り)増産で応じるでしょうから、やはり需要予測だけで協調的になるというのは、考えにくいと思います。

(これに対して、共通価格表ないしは価格予測の場合には、その価格が価格交渉の攻防ラインになって、価格が協調的になる、というこはありうるような気がします。事業者団体の構成員から予想価格をアンケートして算定したりしたら、なおさらです。)

これに対してお墨付き論(①)は、確かにいわれてみればそのようなこともあるかもなあ、という感じはします。

でも、これもどれくらい協調に寄与するのかは商品しだいでしょう。

というか、もし協調に寄与するとすれば、それは生産量(設備投資額)をまず決めて、それから市場で決まった価格で販売する生産量競争(クールノー競争)をする商品の場合くらいではないでしょうか。

もしそういう生産量競争をする商品なら、共通の目安に従って各社が設備投資を行い、もし需要が予想より旺盛でも各社増産できないので、価格が協調的になる、ということはありそうです。

でも、本件のような建設部品では、設備投資の額が競争変数になっているということは考えにくいように思います。

では、本件でどうしてこのような情報活動をしようと思ったのか、といえば、きっと、純粋に将来の見とおしを立てたかった、というだけなのではないでしょうか。

別に各社がやってもいいわけですが、13社がばらばらにやるよりも団体でやった方がコスト節約になりますし。

それに、どうせ多数の種類の製品について需要予測を出すなら、まとめてやった方が安上がり(範囲の経済)ということもあるかもしれません。

少なくとも、競争制限のリスクがあるかもしれない、2社しか作っていない商品というのが、それだけの需要予測をするために調査をしているのではなく、数多くの品種の一部にたまたま入っているに過ぎないということは、そのような2社しか作っていない商品についても競争制限的な意図はなかった、という根拠になるのではないかと思います。

このように、かなり微妙な案件だと私は思うのですが、そういう目で見ると、相談事例の

「需給調整の手段として利用されるおそれは極めて強い」

というのはいくらなんでも言い過ぎだと映るわけです。

もう1つ、興味深い問題として、もしこの需要予測を事業者団体自身がやるのではなくて、事業者団体が調査会社に委託してさせる、というのだと、どうだったのでしょうね。(前述のシンクタンクは、シンクタンクが勝手に予想する、という場合です。)

公取の立場だと、さすがに相談事例のパターンと調査会社に委託するパターンで結論が異なるというのは説明がつかないでしょうから、そういう協調に役立つような行為に事業者団体がお金を出すのもダメだ、ということになりそうですが(あるいは、「実質的には事業者団体自身が行っている」という無茶な事実認定をするのでしょうか)、それって、普通の独禁法の感覚からはかなりはずれるような気がします。

8条のどれにあたるのか、という、些細だけれど難しい問題もありそうです。

あるいは、公取委の立場でも、調査会社に委託すればOKなのでしょうか。もしそうなら、ある意味、とても明快なルールといえます。

と、いろいろ考えてみましあが、やはり本件情報活動は、たんにリスクを下げるための取り組みであった可能性が高いと思います。

そして、リスクを減らすことは一般的には効率的であると考えられるので、相談事例は効率的な取り組みを禁じてしまった(回答は「問題となる」ではなく、「問題となり得る」ですが)可能性があるように思います。

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